「あした通信」183号掲載
ル ポ

子どもと一緒に遊べる大人づくり
埼玉県北本市 あそびの学校
 埼玉県北本市で活動している「あそびの学校」(代表・平田正昭さん)では、子どもたちに自然体験を通じて生きる力を養う活動を10年以上にわたって続けている。そしてこの経験から「子どもと一緒に遊べる大人づくりを」と昨年度、親たちに遊び方を教える「遊びすと養成講座初級コース」を開設した。30代から40代のお父さん、お母さんたちが、和凧、竹笛の作り方やキャンプでのテント張りなどを学んだ。


自然体験を通じ子どもたちの生きる力を育む

 もっといろんな刃物をじょうずに使えるようになりたい――平成10年度あそびの学校に参加した小学3年生の女の子の感想文の一節である。この年の「あそびの学校」のテーマは「刃物を使いこなそう」。
 この年は、前年からの子どもたちのナイフによる殺傷事件が多発し、全国的にナイフを子どもたちから取り上げる動きが高まったとき。あそびの学校では、あえてその年のテーマに「刃物を使いこなそう」をあげた。危ないから使わせないのではなく、むしろ道具としての刃物の正しい使い方を教えることが肝心だと考えてのこと。8回のカリキュラムでは、竹を利用した笛や鉄砲づくり、ダンボールを使ってキャンプのテントづくりなどを組み入れ、のこぎり、なた、ナイフ、包丁、カッターといった刃物を使う作業を意識的に取り入れた。もちろん、刃物を初めて持つ子どもも多くいるので、廃物となった消防ホースを利用した膝あてを用意するなどの準備は怠らなかった。結果としては、子どもと一緒に参加した大人数名が軽い切り傷を負ったものの、子どもたちは大きなけがもなく無事に終わることができた。
 あそびの学校は、子どもたちに自然体験を通して「家庭で教えられないこと、学校ではできないこと」、そして「子どもたちがやって楽しいこと」を体験させるなかで、子どもたちの生きる力を育もうという目的で、平成2年度から始められた。あそびの学校の母体になっているのが、この事業が始まる前年に結成された北本市青少年育成市民会議。市民会議では、地域に子ども会など多くの子ども向けの団体があるなかで屋上屋を重ねるのではなく、コーディネートの役割を担うことを目的に発足した。市民会議の運営は、実際に活動できる人たち、昔のガキ大将だった人たちが中心となっている。そして、翌年から始めたのがあそびの学校。最初の年、資金は文部省(現、文部科学省)が募集していた「青少年ふるさと学習推進委託事業」に応募し、その助成を仰いだ。市民会議のメンバーを中心に約40名の人たちがふるさと学習実行委員会を設け、あそびの学校の毎年のテーマの設定、カリキュラムの編成や毎回の教材の準備、講師役を担っている。
 これまでのカリキュラムをみると、平成5年度のテーマは、「自給自足はサバイバルの原点だ」。ここでは、ソバの種蒔きから収穫、手打ちソバづくりを体験。平成13年度は、「自分の手で作る」をテーマに、紙飛行機づくり、竹炭づくりとパンづくり、ベーゴマなどの室内遊び、活性炭で電池をつくろう、ポンポン船をつくろう、さらに地元にある縄文遺跡での発掘調査までと多岐にわたっている。この年は小学生やその親たち40名が参加した。そして、わずか半年の期間だが開校式と閉校式では、子どもたちの様子が眼に見える形で変わってきたと平田さんはいう。
 また、実行委員会では、この体験学習のほかに、もう一つの活動を行っている。北本に新しい郷土文化を創ろうと「北本太鼓かばざくら」の創設である。音楽を通して新しい文化の創造をということで、子どもたちの太鼓を指導する活動だ。この太鼓はアメリカまで演奏に出かけたり、自主コンサートを開催したり、ジャズとの競演もおこなっている。


お父さん、お母さんを対象に遊びすと養成講座を開催

 あそびの学校や北本太鼓かばざくらとあわせて、昨年度初めての試みとしておこなったのがお父さん、お母さんを対象に、「こどもと遊べる大人になりませんか」のキャッチフレーズで募集した「遊びすと養成講座初級コース」の開設だ。平田さんはこの講座を開設したいきさつを次のように述べている。「あそびの学校10年の経験から、今の子どもをめぐる問題は親を含めた大人全体の問題と感じた。子どもは、無限の可能性を秘めている。それを引き出せない社会の責任は大きい。このような講座を開きたいと常々実行委員会でも議論されていた」と、満を持しての開設となった。
 参加者は、30代から40代のお父さんやお母さんたち約20名。11月から2月までの土曜日や日曜日を中心に8回の講座が開かれた。「ディキャンプを楽しむ」では、テントの設営方法に始まり、火の起こし方、炊飯などの作業のコツを学んだ。
 「室内遊びをしよう――昔の遊びに挑戦」では、べーゴマ、ケンダマなどを、その他に和紙づくり、和凧づくり、さらにはドッヂボールなどを体験した。
 最後の8回目の講座では、「子どもに遊びをおしえよう」ということで、実際に親子100人を相手に、竹鉄砲づくりの指導にあたった。修了後受講者には、それぞれの技能に応じてマイスターを筆頭に、1級から4級までの資格が授与された。
 お子さんが小学校からもらってきたチラシを見て参加したという川村和美さんは「参加して楽しかった。今年のあそびの学校には子どもと一緒に参加したい」と語っている。


総合的な学習でも大きな役割

 今年度から、子どもたちの「生きる力」を育てることを目的とした新しい学習指導要領にもとづく教育が始まった。このなかでは、「総合的な学習」がクローズアップされている。あそびの学校でも、モデル校となっている中学校の総合的な学習の時間100時間のうち20時間を担うことになり、メンバーたちは具体的なカリキュラムづくりに入っている。
 地域で子どもだけでなく、その親をも養成しようとするあそびの学校のこれからの取り組みに期待したい。