「あした通信」199号掲載
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子どもを信頼し、メンバー同士が信頼し合う
東京都立川市 大山MSC(ママさんサポートセンター)
 東京・立川市の大山団地は1200世帯、3000人のマンモス団地。この団地を中心に小学校区を範囲に、育児相談や一時保育、講座・研修会の企画、お年寄りのサポートなどを行っているのが大山MSC。代表の佐藤良子さんは大山団地自治会の会長としても日夜奮闘している。


 団地の建て替えで棟数が増え、子どもの数も増えた。この子どもたちの支援をどうするか。認知症の人の数も増えてきた。自治会としての支援をどうするか、考えざるを得なくなった。
 そのようなとき、児童虐待が2件相次いだ。佐藤さんは問題解決のためにはネットワークが必要だと感じた。学校、行政とも連携を模索した。
 しかし、最大の悩みは非行少年への対応だった。佐藤さんの家には少年グループと言わずその親と言わず相談に訪れた。少年たちは学校では悩みを聞いてくれる大人も居場所もなく、腹立ち紛れに窃盗などをはたらいた。そして警察沙汰の繰り返し。そんな状況に対応すべく平成11年、大山MSCが発足した。


少年たちがたむろする場所

 佐藤さんの家には晩ご飯を食べに少年たちがやってくる。少年たちはゲームセンターに行くのではなく、佐藤さんの家で深夜まで話をしていく。これが毎週末のことだという。
 佐藤さんはどのように対応しているのか。少年たちが学校の先生の悪口を言えば、「それはそうだけど、あなたの態度はどうだったの?」と問い返す。相手を責めるばかりではなく、自分を省みるように仕向けるのだという。警察との連携もあるため佐藤さんは「実話」をたくさん知っている。例えば性交渉で問題になった少女。実話を話して開かせればおのずと自分を省みる。少年たちは自分の気持ちを打ち明けて、深夜ホッとして帰っていく。
 対応の秘訣はなにか聞いてみた。@レッテルを貼らない、A顔見知りになり、今の状況(家庭環境など)を的確に把握すること、だと言う。相談に来る親は「佐藤さんはものわかりがよくてすぐに理解してくれる。相談すると心に届く言葉が返ってくる」と言う。Bそして何より子どもたちを信頼すること。
 「自分たちのやっていることは、どこか間違っているんだと気づいてくれるのを待っている。こうしなさい、ああしなさいとは言わない」自分を省みることの大切さをわかってほしいと願っている。現在佐藤さんの家にやって来る少年たちは3代目にあたる。初代の少年たちはバスケットボールがやりたいという「目標」があった。教育委員会にもお願いして学校を借りてバスケットボールをやらせたという。2代目の「目標」はロックバンドだった。この子たちは大人になったが、いまだに遊びにも来るし母の日や誕生日にはプレゼントをくれる。「『時間はかかっても親の気持ちがわかった』と言ってくれる子もいるけど、人それぞれ。まだまだ時間をかけてやっていかないと」と佐藤さんは話している。


自治会の動き

 ここ大山団地では自治会も特徴的だ。そして、佐藤さんは自治会長でもある。若い人が入れる自治会への改革に力を注いできた。そのために役員選挙の方法を変えた。自治会事務所のあり方を変えた。
 この人に自治会の役員をやってほしいという人に投票する。こうして選ばれた役員には機動力も出る。
 事務所はよろず相談所に変身した。これまでは男性役員のたまり場のようになって気軽に入れる場所ではなかった。それを誰でも入れて、また苦情でもいいからなんでも言える場所にした。それから「昔は〜」「オレたちのときは〜」を禁句とした。誰しも新しい発想はしたいが、頭ごなしに過去のレールを敷かれてはやる気も起こらない、というわけだ。
 差し詰め自治会の構造改革を進めてきた。この改革の根底にあったのが、なんでも言えるなんでも受け止められる人をつくること。人づくりに重点を置いた。ところが、人づくりを標榜することに対しての自治会長としての佐藤さんには「手をかけすぎ」「甘やかせすぎ」との批判もあるという。しかし、自治組織は人づくりができなければ成り立たない。活動も継続していかない。いわゆる3役とは人と人とをつなげるパイプ役、そのパイプがあるからこそ次代の人がつくられていく。「今、多くの人ができあがってきたと感じる、それが自治会長としての一番のうれしさ」と佐藤さんは目を細める。佐藤さん自身初めて自治会長になったとき(しかも、佐藤さんは欠席、くじ引きで決まったという)に先輩のお年寄りから運営方法を細かく教えてもらった経験がある。そんなところからも人づくりの精神が培われたのかもしれない。


自分のためにやっていることが人のためになる喜び

 自治会活動では目を向けられない部分のサポートをしたいというのが大山MSCの取り組み分野となっている。母親が入院したので5年生の子どもを10日間ほど一時預かりしたりということもある。ときには学童保育から一時保育の助っ人やデイサービスセンターから食事を手伝ってほしいなどの依頼もくる。
 また、現在葬儀マニュアルを作成中とのこと。なぜ葬儀マニュアルなのか。お年寄りの心配は自分はどう見送られるのかだと佐藤さんは言うが、そのためにマニュアルを作ってあなたはこういう葬儀で見送られますと応えるためだ。「葬儀委員長をやって」と頼まれたり後事を託している人が何人かいるとのことだ。まさに「ゆりかごから墓場まで」面倒を見ている大山MSC。
 これらの活動はすべて無料。人のためよりも自分のため。一生この地で生きていくのなら、自分が磨かれなければ。自分のためなのに人のためにもなる、こんないいことはない、「それなのにお金はもらえない」(佐藤さん)というのが同会の考えだ。
 ただ、「お世話になったのでお金を払いたい」という人も中にはいる。そういう場合には夏祭りのバザーに出店するための物品を提供してもらうことにしている。


人間関係の信頼度

 メンバーは22名。遠くに引っ越していったり、体調を崩したというメンバー以外、顔ぶれは発足当初からずっと同じだ。平均年齢50代。子育て経験済みの“プロ”軍団。問題の性格上プライバシーに立ち入ることもあり秘密厳守が第一条件のため、メンバーになるには相当厳しい選考基準があった。「この人なら」という人を一人ひとり口説き、趣旨に賛同してくれたメンバーたちだ。そもそもはPTAやボランティア活動で知り合った人たち。佐藤さんは言う。「人間関係がいい。精神的なつながりがいい。100%信頼できるメンバー。言いたいことを本気で言い合える仲間」。人間が人間として隣近所と付き合っている。それが大山団地であり、それを実現してきたのが大山自治会であり、片翼を担ってきたのが大山MSCなのである。