「あした通信」209号掲載
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自分たちの地域は自分たちで守る
和歌山県田辺市 天神自主防災会
 和歌山県田辺市の「天神自主防災会」(本部長・家根谷覚さん)は、近い将来発生すると予想されている東南海・南海地震に向け、津波から避難するために、高台に一時避難場所を開設したり、避難場所に誘導する案内板を設置したり、津波避難用マップを配布したり、自分たちの地域を安全で住みよい災害に強いまちにしようと、地域ぐるみで取り組んでいる。


地震による津波から守るために

 天神地区(350世帯、人口880人)は沿岸部に位置する住宅地。台風常襲地帯でもある田辺で、天神地区は海に面しているために、災害の中でも特に地震が起こった後の津波が心配される。昭和21年の南海地震でも地区の一部が津波による浸水被害を受けた。その南海地震から60年が経ち、近い将来、東南海・南海地震の発生する可能性が高いといわれていることもあって、地震発生に備え、自分たちの地域は自分たちで守ろうと、平成16年4月に天神自主防災会を立ち上げた。
 天神自主防災会本部のもとに、被害状況を把握する「情報収集班」、初期消火に当たる「消火班」、負傷者の救出・救護に当たる「救出救護班」、避難所の管理・運営に当たる「避難所班」、災害時の食糧の確保・配食をする「食糧班」を組織した。消火班と救出班は若い世代の男性が集まっている「天神町祭典委員会」と「地域づくりユースネットワーク」が担い、救護班には看護師の資格を持っている人たちにも加わってもらった。食糧班は、老人給食で活躍する町内の婦人たちにお願いした。


▲グラウンドを会場に、避難訓練から始まり、炊き出し訓練、消火訓練、避難所の設営、救出救護訓練を実施している


高台に避難場所を5か所開設

 同自主防災会では、東南海・南海地震が起きると、20〜25分後に、天神地区に7〜8mの津波が襲って来ることを想定している。津波から避難するために、海面からの高さが分かるように、地区内各所に「海抜表示板」を設置し、高台にあるグラウンド、公園(2か所)、団地集会所、霊園の5か所を一時避難場所にした。避難場所に誘導する案内板を約40か所設置し、一時避難場所の表示板と誘導案内板は反射材を使い、夜間でもよく見えるようにした。避難路の安全点検も行ない、道幅も広く、密集地帯もなく、特に問題のないことも確かめた。例えば、最寄りの避難場所への避難路が通行不能であっても、避難場所は5か所あるから、別の避難路を使ってほかの避難場所に避難できる。住民には避難場所、避難路を記した津波避難用マップも配布した。
 避難誘導は地区内を3ブロックに分け、ブロックごとに最寄りの避難場所に誘導する。海岸部に建つマンションの住民には3階以上に一時避難するように指示している。

▲海面からの高さが分かるように、「海抜表示板」を各所に設置するとともに、高台5箇所に一時避難所を設置した


災害時の生活水の確保が課題

 地区内各所に消火器を設置し、グラウンド近くにある団地集会所に、備蓄倉庫を設け、食糧品、ろ水器、鍋、炊飯装置、燃料等を備蓄しているほか、テント、トイレも用意している。災害時の炊き出しは海抜27.2mにある団地集会所が拠点となる。食糧班は、災害発生とともに団地集会所に集まり、備蓄している食糧品でおにぎりを作ることになっている。ただ備蓄、機材は充分だが、ライフラインが切断されたときの水の確保が課題として残っている。
 避難場所であるグラウンド(海抜24.1m)を会場に、災害に対する知識や災害から身を守るための術を身に付けてもらおうと、毎年1回以上、定期的に防災訓練を実施している。避難訓練から始まり、炊き出し訓練、消火訓練、避難所の設営、救出救護訓練などを行なう。毎年、150人からの参加がある。さらに住民に防災意識を持ってもらうために、行政の協力を得て「防災活動の手引き」を作り、住民に配布した。こうした取り組みは自主防災会推進委員会(委員長・前田重美さん)が中心になって企画、実施している。自主防災会の予算は約20万円、町内会から拠出している。


近隣の自主防災組織との連携も必要に

 平成16年9月に起きた紀伊半島沖地震では、近隣の地区からも大勢の人が避難してきた。中にはクルマで避難してくる人が多く、グラウンドへの道が渋滞を来たし、クルマ対策が浮き彫りになった。食糧品の備蓄は地区住民を対象に確保しているが、自分たちの町内会だけでなく、広域で対処する必要もあり、近隣の自主防災組織との連携も必要なことから、市内西部ブロックの11自主防災組織で連合会を作ることも考えている。
 その下地はある。西部地区11町内会の連合会があり、自主防災組織の連合会も検討事項に上っている。平成17年2月には、天神地区が中心となって、市内西部ブロックの11自主防災組織と合同で「防災講演会」を開催した。阪神淡路大震災では、死者の多くは倒壊した家の犠牲となり、閉じ込められた人の6〜7割が家族や近所の人に救出されたことを知り、コミュニティの大切さを学んだ。
 自主防災会では、家屋の耐震検査を進める一方で、家具の転倒防止による家の中の安全化を図っているが、家具に傷を付けることに躊躇する人が多く、徹底されていないのが現状で、今年の課題のひとつだ。家具を傷つけない方法を提供するなど、辛抱強く住民に働きかけていきたいという。


男の少ない昼間の対応策も課題

 ご多分にもれず、天神地区も65歳以上が170人と高齢化が進んでおり、災害が起こったとき、お年寄りや寝たきりの人、乳幼児などの災害時要援護者をどうやって助けるのか。地域のどこに要援護者が住んでいるのか、何人いるのかといった実態把握にも取り組んだ。この問題はプライバシーの問題もあり、慎重に手がけた。公表はしていないが、町内会の班長が中心となって把握している。身動きできない人のために担架も用意している。
 高齢化により昼間は高齢者が多く、動ける男性も限られることから、時間帯によって思うように対処できないことも想定できる。地区内に保育所があり、そこの子どもたちをどう避難させるかも課題のひとつだ。
 自ら防災資格をも取得した前田さんは「自分の身を守る一番の手段は、自分自身の日ごろからの防災意識だ。次に大きな力となってくれるのが地域の住民。自主防災会として取り組まなければならないことは、まだまだたくさんあるが、自分たちの地域を自分たちで守るため、皆さんと協力しながらひとつひとつ課題に取り組んでいきたい」と話している。