「アース・地球環境」23号掲載 |
特集事例 |
「都市型」生ごみリサイクルシステムを中小企業経営者グループが構築 |
NPO法人21世紀自然環境循環研究所(東京・八王子) |
東京の都心から西へ約40kmに位置する八王子市は、古くは甲州街道の宿場町、織物の町として栄え、今は都心に通勤するサラリーマンのベッドタウンとして、また都心から“疎開”してきた大学(21校)に集う学生の街としてにぎわう人口50万人都市となっている。ハイカーに人気の高尾山や八王子城趾をはじめとする緑豊かな自然環境にも恵まれたこのまちで、「都市型」といえる生ごみのリサイクルシステム構築に挑戦するグループを紹介す る。(新和風文化研究所 市橋 貴) 戸建て住宅団地からスタート 取り組みのスタートは約10年前。1994年に現理事長の近目吉雄さんが自宅のある戸建て住宅団地・グリーンタウン高尾(約500世帯)で生ごみの回収・堆肥化を始めた。約70世帯が参加。回収量は年に約20tだった。 取り組みの主体は「私たちのまちから生ゴミを100%出さない会」。代表は近岡さん。メンバーは10人ほどで、近岡さんはじめ、中小企業経営者が主体。 「事業者の社会的責任、経営者倫理を勉強する仲間たちに声をかけて始めました。何か社会貢献する事業をやろうと考えて、ごみ問題に取り組んだのです」(近岡さん) 家庭で生ごみの水をよく切り、会の名の入ったポリ袋に入れて玄関先に出しておく。メンバーが交代で回収し、近岡さんの自宅の一雨に設置した高速堆肥化装置で堆肥にする。「高速堆肥化装置は、レンタルです。レンタル料は、みんなでポケットマネーを出し合いました」(近岡さん) できた堆肥は、参加家庭に還元する。また、空地を借りて菜園をつくり、生ごみ堆肥を使った有機農業を始めた。 しかし、景気の低迷が続くなか、中小企業を取り巻く経営環境が厳しくなり、会員による各戸回収の負担が重荷になりはじめた。 また、生ごみの扱いはむずかしい面が多い。悪臭や堆肥化装置の騒音をめぐるトラブルも起きた。堆肥化装置の発する音はさほど大きくはないのだが、24時間運転するために、静かな住宅団地では問題になった。 だが、一度乗り出したごみ問題から目を背けるわけにはいかない。そうした課題を克服するために、近岡さんは「コミュニティビジネスづくり」という方向に進んだ。 NPO法人化 地域の病院・八王子保険生活協同組合城山病院(ベッド数的200床)は、1日約200kg、年間的70tの調理屑や食べ残しなどの給食残滓の処分に困っていた。 近岡さんの会のメンバーに、東八電工という会社の社長さんがいた。東京電力の協力会社で、電線の保守・管理を行う。電線の邪魔になる街路樹の剪定も大事な仕事で、年に300tにもなる枝の処分に困っていた。 このような地域の事業者のニーズに応えようと、近岡さんはシステムの拡大に乗り出す。城山病院には、1日の処理能力200kgの高遠堆肥化装置を設置してもらい、病院内で一次処理をしてもらう。東八電工には、剪定枝をチップ化する事業所を設置してもらう。 近岡さんも病院と同じ規模の装置を購入して、東八電工の敷地内に設置。病院で一次処理した生ごみと、チップ化した剪定枝をプレンドして、堆肥を生産する事業をスタートさせた。剪定枝チップは、堆肥の成分調整に役立つ。農業地帯なら籾殻を使うところを、都市ならではの廃棄物で置き換えたわけだ。 事業所から安定して排出される“原料”をベースにシステムを動かしながら、家庭から排出される生ごみも受け入れる。ただし、生ごみのままの運搬にはさまざまな問題が生じることが「100%出さない会」の経験で分かったので、病院と同様、家庭でも一次処理してもらう。生ごみ処理機で乾燥したものを受け入れるということだ。なお、処理機は相当の電力を消費するので、近岡さんは仲間と省エネタイプの装置の開発も検討している。 さて、高速堆肥化装置があれば、自動的に堆肥ができるわけではない。装置への生ごみなどの役人や、できた堆肥から異物を取り除くフルイ分け、袋詰めなどの作業がある。そして、大事なのが「熟成」だ。堆肥を数カ月寝かせて微生物による発酵を待つのだが、週に1、2回「切り返し」という作業を行う。堆肥を掘り返すような作業で、新鮮な空気を行き渡らせる。 時間に追われず行えるこの作業を、地域の高齢者や障害者にお願いすることにした。「地域における高齢者などの雇用創出です。生ごみの問題は全国どこにでもありますから、コミュニティビジネスとして成立するモデルをつくりたい」と近岡さんは抱負を語る。 「100%出さない会」を発展させて2002年に「21世紀自然環境循環研究所」を設立。2003年にNPO法人として認可を受けた。 堆肥の販売と農場の運営 できた堆肥の成分分析を東京都堆肥飼料検査センターに依頼。「良質な飼料」とのお墨付きを得た。生ごみを持ち込む市民などに還元するほか、「ビックスター」という商品名で地域のホームセンターで販売もはじめた。 “入り口”は病院や電工会社で、“出口”は家庭菜園やガーデニングに使う不特定の市民。「都市型」のシステムといえる。 近岡さんは、約1,000uの農地を購入して、「実証農場」も始めた。以前、みんなで耕す菜園のために借りていた土地が宅地化されたことが、直接のきっかけ。 「土づくりは永続しなければいけません。だから、思い切って購入しました」「実証農場」と呼ぶのは、肥料の効果を「実証」するためだからだ。この目的のため、常に30種類くらいの多様な作物を栽培している。 近岡さんは金属加工メーカーの経営者。「長くモノづくりをやってきましたが、野菜はいいねえ。手をかければかけるほど、元気に育ってくれるから」と話す。農場は季節々々の収穫祭など、地域交流の場ともなる。 八王子市は2004年10月、ごみ収集の有料化に踏み切った。すべり出しは好調で、10月1ヵ月のごみの量は前年同月比40%、4,000t以上減った。資源物回収量は72.4%、約1,000t増。 ごみの減った量とリサイクル量とに大きな差がある。「ごみになるものは買わない」リデュースのライフスタイルが急に広がったとも思えないから、スーパーの店頭回収など、行政以外のルートに回ったのだろう。 その意味でも、近岡さんの取り組みのような、市民によるリサイクル活動の重要性が、これからますます高まる。 |