| 「アース・地球環境」24号掲載 |
| 基調講演 |
| 地球環境を大切にする食生活を考える |
| 椙山女学園大学生活科学部教授 安本 教傅 |
| 発電の半分以上を化石燃料に依存 平成16年度版環境白書に、私たちの日常生活が環境に与える負荷について整理したものがあります。これを見ると、地球温暖化にもっとも大きな影響を与えている二酸化炭素(CO2)の排出量が増加していることが分かります。その原因の一つ目は、自動車燃料のガソリンなど、化石燃料からの二酸化炭素の排出量が非常に多いこと、二つ目は、発電所からの排出量が多くなっていることです。かつては二酸化炭素を放出しない水力発電が電力需要量の20%近くをまかなっていましたが、現在では僅か10%に縮小し、代わって化石燃料を使う火力発電が54%位に増えています。つまり電力の半分以上は化石燃料に依存しているのです。 20世紀の日本の温度上昇は異常に高い 大気中のCO2の濃度は、これまで0.03%、つまり300ppmであると習ってきました。しかし、この数値は1910年代の測定値に基づいたものでして、現在では0.036%、360ppmに増えています。大気中のCO2濃度は化石燃料の消費量と比例しています。石炭を主要なエネルギー資源として利用した産業革命が、1760年代に英国で始まり、1850〜60年代にヨーロッパ全体に広がりますが、それに伴ってCO2の排出量が急速に増加しています。このまま増え続けると、2100年頃までに1,000ppm近くになると予測されています。 1900年〜2000年までの間に、日本の平均気温は、大体摂氏1度上がりました。世界の平均気温は、その間0.6度上昇しただけですから、日本の気温上昇は異常です。現状のまま推移すると、2100年には1.6度〜5.4変位上昇するだろうと推測されています。 地球温暖化は食生活にも大きな影響 このような地球温暖化によって、どのような現象が起きるかというと、たとえばエベレストの標高が下がり、氷河が融解して海面が上昇しますが、それだけでは済みません。仮に、海面が1m上昇すると東京や大阪は3分の1くらいが水没します。もうすでに、世界のあちらこちらで、干ばつ、洪水、台風、ハリケーン、高潮、山火事、猛暑、冷夏など、異常気象による被害が多発、甚大化しています。いずれ、食料生産にも被害が出て、食生活も大きな影響を受けることになるだろうと懸念されます。 国別のC02排出割合をみますと、最大の温暖化ガス排出国であるアメリカが全世界の排出量の24.4%を放出しています。しかし、2001年ブッシュさんが大統領に就任した時に、「経済に対する影響が大きい」という理由で、アメリカは京都議定書から離脱しました。中国は京都議定書を批准していますが、発展途上国扱いで排出量削減の責任がありません。日本のC02排出量は5.2%を占めています。ドイツやイギリスは1990年代にCO2削減の努力をいたしました。たとえばドイツは、東西のドイツが統合した1990年代に、東ドイツの古い火力発電所をすべて閉鎖して、CO2排出量を3.4%に減らしました。イギリスも、サッチャーさんが電力事業の民営化、効率化をはかつてC02排出量を2.5%に減らしました。 京都議定書は本年2月16日発効 京都議定書は、本年2月16日に発効の条件を満たし、ようやく発効の運びとなりました。発効の条件は、批准した先進国からの温室効果ガスの排出量が、先進国全体の55%以上ではじめて発効するということでありましたが、このことをロシアは外交カードとして使い、たとえばWTOへの加盟を認めさせるなどを条件にして批准いたしました。 わが国は2008年から12年の間に1990年代の温室効果ガスの総排出量から、6%を削減することになっていますが、2003年の速報値によりますと、逆に8%上回っておりますので、結局14%削減する必要があります。私どもは1人当たり年間おおよそ10トンのC02を排出しています。部門別で見ますと家庭生活に直接関連したものは、総排出量の13%で、多いのは産業系の37%と運輸系の22%です。しかし、食料の加工や運搬などで間接的に排出されるものを加え合わせますと、全体の半分以上が家庭生活によっていることになります。 川や海の主な汚染源は生活排水 家庭生活で、直接、間接に排出するCO2量を計算するのに便利な、環境省の出している環境家計簿があります。具体的には、電気、ガス、ガソリン、水道などの使用量やゴミの量からC02排出量を計算することができます。たとえば電力1kw/hあたりで0.36sの換算係数があたえられていますので、家庭で使っている電力量にこの数字を掛けますとC02の排出量が計算できます。 家庭で使っている水の量は、上水道が1人当たり100リットル程ですが、それ以外の水を加えると200リットル程になります。汚染源となる洗剤の使用量も多いので、川や海の汚れの原因の60%は生活排水です。産業排水による汚染の割合は企業努力によって32%にまで低減しています。悪名高い畜産排水による汚染の割合は僅か3%にすぎません。 生活排水の中身は、し尿と生活雑排水です。生活排水の汚染程度をBOD(有機物を分解するのに必要な微生物が、分解するのに必要な酸素の量)で見ると、生活雑排水が全体の汚染の70%を占めています。その内訳は洗濯、台所、お風呂などの排水です。私どもは、し尿は非常に汚いものだと考えますが、BODから見るとその汚染程度は僅か30%です。実は生活排水の方が、その倍以上の汚れを持っているということをご理解いただきたいと思います。 食料の1/3を廃棄している 次は、食料から出されるゴミの問題です。 以前から指摘されていたことですが、農林水産省が作成する食料需給表から計算した食料供給量と、厚生労働省が行っている国民栄養調査で求められた食料摂取量には食い違いがあります。2000年度の数値でくらべると669カロリー/日の食い違いがあります。この差は、摂取量から見て1/3の差です。逆に供給量から見ると1/4位になります。食べている量の1/3相当量がどこかに消えてなくなっているのです。この消えてなくなった量のほとんどがゴミになっているのかということが問題です。 食料需給表の方から考えますと、国内消費仕向量と申しますのは、食料以外に向けられたもの、つまり飼料用とか、種子用とか、加工用とか、そういうふうに使われたものと、それから輸送中に失われたもの、それに皮とか骨など食べられない部分を捨てる量を含んでいます。消費性向量からこれらを差し引いた残りに歩留りを掛けたものが純食料供給量になります。ところが、国民栄養調査の結果によりますと、摂取量がこの純食料供給量よりも少ないのです。この差が本当に食べ残しや捨てたものに相当するのかということが問題なのです。 台所から出てくる食品ゴミの多くは、食べ残しと調理くずです。少し古いデータですが、平成4年に京都大学の環境保全センターが、京都市民について調査した結果によると、台所から出てくるゴミの40%は食べ残しで、37%が調理くずです。賞味期限切れ13%、その他10%だったとのことです。食べ物をなぜ捨てたのかと聞いてみますと、東京ガス都市生活研究所が平成8年に行った調査によると、古くて食べられないというのが一番多く(44%)、それから賞味期限が過ぎていた(37%)、次いで、腐敗していた、カビていた、少し余った、製造年月日が古い、食事をしない家族がいた、好みでないと続き、食事計画のずさんさが見えてきます。 家庭の食品廃棄物のリサイクルは低調 環境省と農林水産省の計算によると、残飯や手つかずのまま捨てられて、生ゴミになってしまった食品廃棄物量(平成13年度)は、日本全体でおおよそ2,200万トンにのぼります。そのうち、一般廃棄物として、家庭から排出されたものが1,200万トンを占めていますが、そのほとんどが再利用されることなく、そのまま焼却・埋め立てされています。事業系つまり食べ物屋さんなどから、一般廃棄物として排出されてくるものがありますが、こちらの方は10%強が再利用されています。製造業、食品産業から産業廃棄物として排出される食品廃棄物は、その半分弱が肥料や飼料として再生利用されています(食品リサイクル法でいう食品循環資源として)。このように家庭系からの食品廃棄物がほとんど再利用されていないのが問題になっています。 「冷蔵庫へ」はゴミ箱への近道 農水省近畿農政局の調査(平成13年)によると、捨てられている食品で多いのは、生鮮食料品、調理加工食品、果実類です。また、省エネセンターが行った食品群別の廃棄割合を調査した結果によると、野菜・果物類は「腐っていた」、主食類では「時間がたっているので食べる気がしなかった」、惣菜類では「賞味期限が切れていた」および「時間がたっているので食べる気がしなかった」と、長期保存によるのが主な理由になっています。つまり、買って帰ると冷蔵庫へ直行し、これで一安心と入れたことを忘れるのでしょうか。とりあえず「冷蔵庫へいれる」のは、ゴミ箱への近道になっています。 循環型社会を形成するために、食生活からゴミを減らそうという運動が、各地で活発に進められております。「ゴミを減らす4R運動」とは、断る(Refuse):不要なものは断り・持ち込まない、減らす(Reduce):ゴミになるものは買わない、再利用する(Reuse):ものは繰り返し使う、再資源化する(Recycle):自分で堆肥化、飼料化する、リサイクル運動にも協力する、という趣旨のものです。 この「4R運動」を支える道具として、いろいろな生ゴミ処理機が市販されています。電気仕掛けのものや、排水口に仕掛けたディスポーザーから、生ゴミを屋外の処理槽に排出して分解するものがあります。また、生ゴミはだいたい70%〜80%が水分ですので、それを乾燥する生ゴミ処理機もあります。1sの生ゴミを乾燥しますと、250g位に軽くなり、負荷が少なくなります。 温室加温のキュウリは露地栽培の5倍のエネルギー消費 次は、食料の生産や輸送に消費されるエネルギーの問題です。私たちの食生活はエネルギー過剰消費型になっています。主要な農・水・畜産物について、生産に投入されるエネルギー量と食品として回収されるエネルギー量の割合は、食品によってまちまちです。この割合が1以下の米麦類、イモ類の場合は、エネルギー効率が高い、つまり生産に役人されたエネルギー量よりも食品生産物として回収されたエネルギー量の方が多いということになります。この割合が1以上のものは、食品の熱量に比べ生産時のエネルギー負荷が大きい食料です。肉類では、ブロイラーだけが2倍のエネルギーを投入して生産されていますが、あとのものは3倍〜4倍のエネルギーを投入しています。キュウリの生産に、夏でも温室加湿をやっています。露地栽培ではなくて温室栽培の方が、形が良い、新鮮とか、やわらかいということで珍重されておりますが、投入エネルギーは露地栽培の5倍近くが必要です。 日本のフードマイレージはアメリカの8倍 国内を運ぶ食料の量も多くなり、その距離も長くなっています。深夜、高速道路を走っている長距離トラックの半分以上が食料を積んでいるといわれるくらいです。東京都中央卸売市場の野菜入荷(距離別シェアの推移)を見ると、301q以上の遠距離(沖縄、九州、北海道、近畿、中国地方)から運ばれたものは、昭和40〜42年には、全体の24%を占めていました。ところが平成10〜12年では、その量が50%近くに、つまり、北海道や沖縄からの長い距離を運んでくるものが多くなっています。 食料の調達法が環境に与える負荷を見積もる指標として、フードマイレージという概念が、最初イギリスで考案されました。これは品目別輸入量に距離を掛け、足し合わせたものです。 日本の食料自給率は、カロリーベースで40%位で、残り60%を輸入に頼っています。中田哲也という人が計算した、日本、韓国、米国のフードマイレージを比較してみますと、日本は、人口1人当たり平均でアメリカ人の8倍位のエネルギーを使っています。特に、穀類については、韓国の2倍位のエネルギーを消費して輸入しています。 輸入食料は、生産のために外国の土地を利用していることになるわけですが、食料を生産するために必要な水、仮想水も間接的に使っていることになります。日本は食料輸入に伴って、莫大な量の仮想水=間接水を輸入していることになるわけです。その量は合計で740億u/年にのぼります。日本国内で使われている農業用水の量は、年間、600億u弱です。国内の水使用量と間接的な水使用量の割合は、6対7.4位ですので、カロリーベースの自給40%、輸入60%の割合と平仄が合います。 有機JAS規格やエコファーマーの認定は低調 環境に配慮した製品を購入する消費者、グリーンコンシューマーの商品選択10原則というのがあります。この原則の中で、食品を選ぶに当たって目安となるのは、○化学物質による環境汚染と健康への影響の少ないもの、○自然と生物多様性を損なわないもの、○近くで生産、製造されたもの、○作る人に公正な分配が保証されるもの、の4原則です。この4原則には、それぞれ、有機農産物、エコファーマー、地産地消、地域支援型農業が対応します。 有機農産物は、化学物質による環境汚染と健康への影響の少ないものにあたります。有機農産物は多年生作物については最初の収穫前の3年以上、これ以外の作物については2年以上、特定の肥料や土壌改良剤、あるいは農薬を使用しない圃場で栽培したものです。この有機農産物や転換期間中有機農産物にはJAS規格やマークがあります。 環境保全型農業に取り組んでいる農家50万2千戸に対象とした農林水産省の調査では、有機JAS制度を知らない人が40%。知っている人で認定を受けたい、あるいはすでに受けているという人は6.5%にしかすぎません。問題なのは、条件が緻しいとか、特に利点がない、受ける予定がないという人たちが半分以上いることです。このように現状は、有機JAS規格の認定を受けている人がきわめて少ないのです。 それからエコファーマー、これは環境に優しい、持続性の高い農業生産方式を導入している農業者のことです。エコフアーマーの認定は都道府県が行っており、マークも定められています。平成16年6月現在、総農家数312万のうち、僅か5万5千弱がエコファーマーに認定されているにすぎません。持続性の高い農業生産方式というのは、堆肥などの有機資質材を使用するとか、あるいは緑肥作物を利用するとか、いろいろな技術を活用して、化学肥料は特定の場所に限定、量を減らして使う、あるいは機械的に除草する、生物農薬を活用する、などのやり方を指します。 メリットの多い地産地消の発展拡充を 次は、地産地消を進めようということでお話をいたします。地産地消は、生産物を運ぶ距離が短いわけですから、フードマイレージが短くなり、新鮮・高品質な農産物を提供します。その他、生産者と消費者の交流を促進、消費者の安全安心志向に対応、持続的農業を実施・支援することになり、それから地域経済を活性化させるのに貢献します。 地産地消の具体的な取り組みとしては、朝市とか直販所、あるい,は学校給食などが利用されておりますが、このような現状の社会的な仕組みはきわめて貧弱です。地産地消を発展拡充させるには、国・地方自治体などの組織的な取り組みが必要です。 地域支援型農業の振興を 講演のまとめとして、私の提案を申し上げます。 1点目は、地域支援型農業、あるいは地域支援農業ともいわれていますが、これを推進する必要があります。地域支援型農業はアメリカでスタートしたもので、地域の消費者が、地域の農業者から自家消費用の農産物を代金前払いで予約しておいて、直接定期購入するというシステムのことです。このシステムでは、消費者が生産者の負うべきリスクを共有することになります。生産者にとっては予め安定的な販売先を確保できるというメリットがあります。 2点目は、現在の食生活のスタイルを転換する必要があることです。つまり資源を大量消費する、今までのように、大きいことはいいことだ、多いことはいいことだ、たくさん採取・購入してたくさん捨てるという、高度経済成長期に身につけてしまった生活スタイルを改め、省資源、資源の循環利用を基本に据えた生活スタイルに転換する必要があります。 最後に、これは毎度申し上げていることですが、食の倫理をきちんと確立していただきたい。今日の社会システムのもとでは、個人がどのような生活スタイルをとるのかは、個人の尊厳に関わる、神聖にして犯すことのできないこととされてきました。しかし、好きな時に好きなだけ食べるという、自己決定する個人の権利、これは縮小していただきたい。そして環境保全に根ざして、Think Globally, and Act Locally,地球的規模で考え、身近なところから始めましょう。 ご清聴ありがとうございました。 (参加者との主な質疑応答) (問)わが国の食料の自給率がどうなっていくのか心配ですが、先生のご見解をうかがいたい。 (答)国民感情としては、自給率を上げたいというのが一般的な願望です。生活者の行動として、つまり自給率を上げるために多少高くても買いたい、あるいは環境保金型のものであれば買いたいという意欲を持った生活者が増えてくれば、自給率の向上は夢ではないと思います。ただし、生活者の意欲や行動にこのような変化がおこらなければ、自給率は下がるだろうと思います。政府関係者はとにかく少しでもいいから上げたいと、現状維持もしくはプラス数%を期待しております。私は、自給率は上がる、下がる、の両方がありうると考えていますが、その幅は小さいだろうと思います。 (問)食品ロスについて、外食より家庭の方が多い。その理由をうかがいたい。 (答)たとえば、うどん屋さんなどでは、食材を惜しみなく捨てていたのでは儲からないわけで、廃棄率を小さくする、いろいろな企業努力をしているのです。家庭においても、これに見習って、できるだけロスを減らす工夫、努力が必要です。食べずに捨てるなんて論外です。 (文責・事務局) |