「アース・地球環境」24号掲載
事例発表

滋賀県新旭町が取り組んできた食育活動
滋賀県高島市健康福祉部健康推進課・
新旭町食育と農のネットワーク会議事務局 保健師 白井 裕子
町民の健康状態改善が食育活動のきっかけ

 「食育」と言う言葉が、まだあまり話題にならなかった平成12年から新旭町では食育活動等を進めてきました。食育を取り組み始めた経緯は、新旭町に限ったことではないのですが、町民の健康診断結果では、肥満度やコレステロール値の高い人が増加してきました。食の欧米化やファーストフード、コンビニエンスストア、惣菜など中食の利用が増え、スピードや手軽さの追求とともに食文化の伝承が難しくなっています。その結果として、食事の脂肪から摂るエネルギーの割合が29.4%と多く、一目あたりの野菜の摂取量も、厚生労働省が提唱している350グラムに比べ、254.6グラムと少なくなっているという現状がありました。そして、このことは大人に限ったことではなく、子どもにもこの傾向が見られていました。


「食と健康を考える集い」を開催

 そこで、最初は、当時すでに食育活動をされていたNPO団体である「こどもの森」より講師を招き、講演会を開催したり、健康推進員(※)、ミボランティア団体、育児サークル、保育園、幼稚園、一般の関心のある人たち、そして学校や関係する行政担当者などで「食と健康を考える集い」を開催しました。この集いでは、「野菜嫌いの子が多い」「朝ごはんを抜いて登園する子どもが多い」「ふりかけをかけるなど味をつけたご飯でないと食べない」「ソースやマヨネーズなど味の濃いものを好む」「朝食として、菓子パンを食べてくる」「給食では和食の日は残飯が多い」など、子どもの食と健康に関する現状が報告されました。飽食の時代となり、いつでもどこでも食べ物が手に入るので、“お心腹が膨れればよい”という感覚があったり、食に関心がなくなっている子どもたちが多くなってきていることや、その一方で、お菓子などをいっぱい食べて、エネルギーを摂り過ぎて肥満傾向になる子どもが出てきています。そのような状況を何とか変えていけないかという意見が多く出されました。
 食を見直し本来の家庭の味を大事にしていきたいということで、「やさしい食べ方 家族で 地域で からだ 環境 人へ」をスローガンとして食育活動を始めました。
 最初の活動としては、農協が小学生を対象に農業や環境の体験学習の場として開催している「農業小学校」がありましたので、その中で、収穫した野菜や米を利用しての料理教室をしたり、食育の希望があった子育てサークルでも地域の栄養士の協力を得て、料理教室を行いました。その他にも、「字」単位で実施した「おやこ料理教室」や「妊婦教室」では、楽しく料理しながら食べることの大切さについて、母親が学べる機会として開催してきました。
 そのような教室開催とあわせて、年度末には、食育活動に携わった方や一般住民の参加を得て、報告会などを開き、活動の進め方などを話し合ってきましたが、行政だけではできないので、健康推進員や食に関するボランティアの人たちと一緒になって、平成14年度から順次、幼児から成人一般までを対象にした五つの料理教室を開催してきました。次ぎに各教室の内容を紹介します。


幼児に楽しい食の体験と天然のだし汁の味を知ってもらう

 最初に紹介するのは、平成15年4月から始めた「幼児料理教室」です。町内のすべての保育園や幼稚園の4、5歳児を対象としたものです。味覚が発達するのは、幼児期と言われていますので、この年齢の子どもたちに本物の味を伝えたいという趣旨から始めました。この教室では、4歳児、5歳児で就学までの2年間を一つのスパンとして捉え、9回のカリキュラムを組んでいます。
 とくに、米、汁物、野菜に親しんでもらいたいと、この三つを中心に園児たちが料理をしています。もちろん、調理とあわせて、食育ボランティアや地域の方たちの協力を得て、栽培体験も行なっています。
 園で栽培し、朝とってきたピーマンの種取りをして、自分たちで調理して味見をする。ピーマンが嫌いという子どもも多いのですが、自分たちで育てて、調理した大事なピーマンなので、苦手なピーマンもお代わりまでして食べてみようとします。そのような気持ちや自信を育てることも大切だと思います。
 また、米を洗ったことも、さわったこともない子どもが多いのですが、「苗から育てて、モミや玄米があって、それを精米すると白米になるのだ」というお米になるまでの過程を、現物をもってきて伝えています。そして中が見えるガラスなべでご飯を炊いて、ご飯が炊ける様子を観察しています。このように子供たちが食に興味を持てるように工夫しています。
 今では多くの家庭で粉末の即席の出し汁を使っていますが、天然の素材の味を知ってもらうということで、かつお節や昆布の出し汁を味見して、その味を舌で感じてもらっています。味覚を育てているわけです。
 ときには、保護者の参観日を設けたり、園の先生方がお便りを出して下さったり、幼児料理教室では、教室の目的やどのようなことをしているのかを保護者の方に知ってもらう機会も設けて、家庭への波及もねらっています。


田植えや収穫も体験する「子ども料理教室」

 2つ目の教室が小中学生を対象にした「子ども料理教室」です。平成14年から健康推進員協議会の協力を得て開催しています。やはり調理技術の習得だけではなく、料理の素材を知ることを大切にし、田植えや収穫の体験なども交え、さらに、こんにゃくの出来る過程などを、地元のこんにやく屋さんを講師に教えてもらったりもしています。このように地域の人との交流の中で、子供たちが食について幅広く学べる機会を創っています。
 3番目の教室は、「ヤングママクッキング教室」です。妊婦の方や子育て中のお母さんを対象にし、出し汁のとり方など料理の基本や食べることの大切さについて、学んでもらっています。


大人を対象に「新鮮野菜料理教室」

 4番目の教室は、「新鮮な野菜をたくさん食べましょう」といこうことで、大人を対象に「新鮮野菜料理教室」を年6回開いています。ここでは、地元で取れた玉ねぎに、かつお節をかけたサラダなどの旬の食材を使った野菜料理のレパートリーが増えるようにということで開催しています。


昔の知恵を学ぶ「郷土料理教室」

 5番目が「郷土料理教室」です。地域に伝わる郷土料理を、経験豊富な先輩の主婦から学ぶというものです。保健センターや地区の会館などを会場として、巡回しながら開催しています。地域の材料を使いからだにも良く、保存の工夫や廃棄するものを少なくするなど昔の知恵がたくさん見られます。
 このように、各世代に応じた教室を設けていますが、各教室の講師やスタッフは栄養士や保健師とともに、多数の食育ボランティアの方が協力して下さっています。


各教室の成果を披露し食育について知ってもらう食育展の開催

 このような教室とあわせて、これからの食育活動について地域の人たちみんなで考えていきたい。そのために、教育、健康、農業、産業の分野がしっかり結びついて連携を待ちながら、食育というものを進めていけないだろうかということで、関係団体や市民のボランティアの方たちが入り、昨年6月に「新旭町食育と農のネットワーク会議」を結成しました。
 ここでは、「食育の啓発推進」と「地産地消」を二つの柱に活動しています。地産地消ということでは、人のからだにやさしく、手間をかけて育てた人の顔の見える安全な野菜を普及していきたいと考えています。そして昨年秋に「食育展2004」を開きました。ここでは、農業小学校の子どもたちが、自分たちで育てた野菜を販売する八百屋さんコーナーや各教室での内容や成果を地域の人たちに知ってもらうということで、普段郷土料理を地域のエルダー女性の会の人たちに教わっている中学生が一緒になって黒米おはぎづくりもしていました。出し汁の味見、かつお節削りや石臼での粉ひき体験などさまざまな体験ができる参加体験型のイベントをしました。児童・生徒から大人までのスタッフ140人の力で開催でき、1,500人を超える来場者でにぎわいました。


「みんなで楽しく」を合言葉に地域に根付いた活動をしていこう

 新旭町は琵琶湖のほとりにあり、環境に関する取り組みにも力を入れています。例えば、菜の花プロジェクトということで、菜の花を栽培し菜種油を採取し、また廃食油を燃料に変えて子どもたちの保育園、幼稚園の送迎バスを走らせるなどの取り組みもしています。古代米である黒米の生産や滋賀県が推進する「環境こだわり農産物の推進」なども含め、農業産業振興のビジョンとして食育を含めこれらすべては、スロータウンという中での取り組みです。地域に今あるものを大切にし、手間ひまかかる生活も見直していこうということです。そのことは地域の農業や産業と深いところでつながり合っていますし、人の価値観、生活のあり方とかかわっているわけなのです。食育を通して食生活を含めた自分の生活を少し振り返ってみられる機会があって、そういうことを通して生活が少し変わって、地元の農業の繁栄にもつながっていくと感じています。これらはすべて将来を担っていく子どもたちのためになっていくという思いで、活動進めています。


行政・住民ボランティア・JAなどが協働作業で推進

 活動は行政だけで出来ることではありませんでした。市民活動の方々、ボランティアの方々とともに、そして行政も一つの課だけではなく、産業振興、教育関係の担当者が一緒になって取り組んできました。この一緒に情報を共有しながら楽しく活動していくということが大切で、いろんな活動の事例を教えてもらい学びながら、これまで進めてきたと思います。
 今年の一月に、新旭町は、周辺の五町一打とて合併し高島市になりました。新旭町で進めてきた食育活動が、高島市全体に広げていくことができるのかどうか、このような全国的集会に呼んでいただき、活動を紹介させていただくことができたのだということを励みに、決意も新たに、高島市でもたくさんの人たちと一緒に活動を広げていきたいと考えています。

※健康推進員=全国的には食生活改善推進員といわれて、ほとんどの市町村に協議会と して設置されている。滋賀県内では、食生活に限らず健康づくりに関する様々な活動を担っていることから、「健康推進員」という名称をつかっている。
(文責・事務局)