「アース・地球環境」25号掲載
ルポ

「食」と「暮らし」の改善を通して循環型地域社会の創造
静岡県掛川市 NPO法人エコロジーライフ研究会
 静岡県掛川市のエコロジーライフ研究会は、2004年のふるさとづくり賞で振興奨励賞を受賞された環境活動グループである。この度、同市を訪れ、同研究会の方々にお会いし、その活動現場を見させていただいた。(事務局 酒井)

(注)エコロジーライフ研究会の主な活動内容を当協会発行の「ふるさとづくり2004」から再掲すると、次のとおり。
(1)安全な農畜産物を生産する有機農業の推進と普及
(2)生産者・消費者の提携と安全な生産物の流通推進
(3)日本の食文化の推進と安全な健康加工食品の製造普及
(4)バイオ資源の有効利用と環境保全
(5)自然に親しみ、情操を育む体験学習の推進
(6)情報の伝達と会員相互の連帯感及び資質の向上


スローライフシティ宣言都市掛川市

 掛川市は、静岡県のほぼ県央に位置し、東海道新幹線掛川副と東名高速道路掛川T.Cによりアクセスできる交通至便な都市である。茶どころであり、来年のTV番組大河ドラマの主人公山内一豊か活躍した掛川城がある城下町でもある。
 掛川副を降りると、スローライフシティ宣言都市のプレートが目に入ってきた。エコロジーライフ研究会の会長米倉さんとの待合せ場所は掛川市役所と指定されていたので、天竜浜名湖鉄道で一駅目の掛川市役所に向かった。
 市役所について直ぐ合点がいった。庁舎の2階ロビー前が環境生活部環境保全課のオフィスで、カウンター前には、資源ゴミ、生ゴミの分別に関するパネルや環境関係の図書などが展示されている。ロビーの机や椅子は、リサイクル品が使用されている。後からご説明いただいたことであるが、市では、衛生施設や焼却施設等に生物循環パビリオンと称する学習施設を併設して児童生徒などが生物循環の姿を学ぶことができるようにしており、環境問題に総合的な取組みをされている姿勢がうかがえた。
 取材は、米倉さん、エコロジーライフ研究会の広報担当の岩下さん、後述する「まいど市」担当の山本さんと市の環境保全課の廣畑補佐の方々にロビーでお話を伺った後、米倉さん、岩下さんに現地をご案内していただいた。
 ちょうど取材日に発行された市の広報紙「広報かけがわ」が環境特集を掲載しており、その中に、エコロジーライフ研究会の紹介記事が載っていたことを附言しておく。


エコロジーライフ研究会の活動スタイル

 執筆者の事前の予想と外れたことは、エコロジーライフ研究会の活動の場が、まとまった地域内にはなかったということである。お住まいの場所、営農している場所、次の項で紹介する「まいど市」を行う場所、親子体験グループを行う竹炭焼を行う場所などは、それぞれ車でなければ移動できないかなり離れた距離にある。そうした点に不便を感じていないかお聞きしたところ、「エリアを決めず、できることをやっています。事務所も何もないから面白いんですよ。」と間遠なご返事が返ってきて、人と人のつながりが活動を支えている実態がわかった。
 エコロジーライフ研究会では、会員のコミュニケーションを図るため「エコライフ会報」という会報詰を発行している。会報誌には、米倉さんの「エコロジーライフ研究会の目指すもの」(バイオ資源の有効活用(生ゴミ、竹資源)と安全農産物の流通(生産者と消費者の提携)→有機農業の確立普及→安全な食と健康保持・環境の保全という農的循環型社会の創造を目指すもの)という連載や、前金長の清水さんの生活の工夫「ナメクジ退治の方法としてビールを瀬戸焼の灰皿にいれておく方法」の紹介、また、山本さんの「まいど市」の紹介記事、あるいは生産者のプロフィールなど、それぞれの立場で活動されている様子が掲載されていた。


無農薬・有機農業

 エコロジーライフ研究会は、掛川市地域に多くあるため他の水の酸性度が問題になった当時、その原因が周囲の茶畑の化学肥料の過剰が原因ではないかといわれたことから、もともとあった環境に関する諸団体のボランティアのメンバーが、減農薬↓無農薬・有機肥料農業を始めたことがきっかけでスタートしたとのことである。会員の皆さんの中には現地でお会いした石持さんのように家庭菜園から始めた方もいらっしゃって、単一作物を広い畑で耕作するという形でなく、一畝ごとに違う野菜を植えてそれぞれの収穫を楽しんでいる風であったが、今や農家の資格が得られるところまでに至ったそうで、頑張りのほどが伺えた。
 そうは言っても無農薬有機農業である故の苦労がいろいろあるそうで、石皆さんの話では「収穫できるまでにするには、土壌改良と肥料づくり、そして除草が大変なんです。」とのことである。日々努力と試行錯誤の積み重ねが今日の姿を作ったのである。


毎週土曜日は朝市

 エコロジーライフ研究会では、無農薬・有機栽培の野菜を作るだけでなく、市民に提供して食の安全の理解を深めていただこうとの考えから、毎週土曜日、交通至便な街中の広場をお寺からお借りして「まいど市」と名付けた朝市を開いている。「まいど市」は、無農薬野菜の生産者には市民との交流の場となって張合いを与え、また、購買者側、特に若いお母さんには、健康の大切さと無農薬・有機肥料の良さを知ってもらう場となっているという。購買者からは「有機肥料で作った野菜は同じ緑でも色が違う。」との感想が開かれるとのこと。山本さんによれば「売ってくれる人がいなければ消費者は無農薬野菜が欲しくても買えませんし、一方生産者にしても地元でとれた無農薬野菜を地元で販売できるから地産地商。」だそうで、言い得て妙である。今では開店を待ち切れなく集まる方がいて、短時間で売り切れてしまうそうだ。
 現地には、テント、販売台として利用するケース、無農薬と記したのぼり旗など、七つ道具を入れた収納庫が設置されており、活動が定着していることが伺えた。
 なお、エコロジーライフ研究会会員の中には、野菜の他に無農薬茶を製造・販売している方がおり、遠方からも手に入れることができるとのことである(詳しくは、松下園のHPを参照)。
 山本さんは「秋には生産者と消費者の交流を深めるためのコンサートを実現したい。」と楽しそうに話っていた。
 余談であるが、執筆者が当面している話題の1つとしてレジ袋有料化とマイバッグ持参の話をしたところ、山本さんから「「まいど市」ではレジ袋は使いません。マイバッグを持ってきて下さらない方には、広告をたたんだり、米出荷袋から作った袋に入れて差し上げているが、それが喜ばれています。」との披瀝があった。


親子農業教室と里山づくり

エコロジーライフ研究会では、春先に、消費者会員に向けた企画として、味噌作り教室を開いている。大豆はもちろん無農薬、麹は有機栽培米を原料として麹屋に作ってもらうという本格派で、これを食べたら他の味噌は食べられないという。「正に手前味噌です。」と笑っていた。
 また、年間を通じて親子農業教室を開いている。活動内容は、水稲(田植、稲刈り)、吉見、ジャガイモ、大根(種蒔き、収穫)といったものから、掛川市の特産物でもある葛を使っての葛づくり、酪農(乳搾り、バターづくり)、更には竹炭(窯入れ、窯出し)づくりなど多彩である。
 田植は、取材の直後の予定とのことで、圃場の整備をしていたが、無農薬の田がある地域には、ホタルやトンボが増えてきているとのことであった。収穫後には、餅つきが持っているし、ジャガイモ堀のあとには、ジャガバタが子供たちを楽しませるという。
 竹炭は、地域の茶畑が放置されたところが竹に占拠され、更に周囲の針葉樹林にまで広がっていたため、それを防ぐことから始まったそうで、伐採した竹やツル草などの仮払いの後にモミジ、コブシ、山桜等の苗木を植え付け、切った竹で箸と器を作って豚汁を食べたり、竹細工を作って遊ぶという「憩える里山づくり」という学習イベントを行っている。最近は竹炭と竹酢液を頒布して、僅かではあるがイベントの活動資金に当てているとのことである。
こうした活動の狙いは、米倉さんによれば、「農作物の生産から消費までの循環の過程を子供たちに体験させることに加え、健康な食事から健康な体をつくることが犬きくは医療費の削減につながるということを期待しての啓発ですよ。」「参加した。理解した。楽しい。」ということをモットーにしています。」とのことである。参加者の過半数は前回参加した親子で「親子農業教室に参加される家庭の子供は、親の対応を見ているからマナーも違います。」とのことである。
 なお、竹炭に関しては、市の公共施設(生涯学習センター)の公園他の浄化に竹炭を水質浄化材として使用している現場を案内していただいたが、今後、筏を追って浮かべ、それに竹炭を付け大々的に水質浄化機能を高めることに挑戦する計画があるそうで、竹炭の効用の実証試験の場となるとおっしゃっていた。


今後の活動に向けて

 エコロジーライフ研究会の活動は、市の助成等、外部機関の支援によって支えられている面があるとしても、基本はボランティアであり、急速に規模を拡張するということもない。
 今後に向けては、親子体験教室の内容充実を図りつつ、一歩一歩、会員それぞれが出来ることを自然体で進めて行けば、先々理解者が地道に増えていくであろうというスタンスであり、まさに市が提唱するスローライフを実践している姿であった。