「アース・地球環境」26号掲載 |
特集 環境にやさしい交通をめざして |
事例紹介 低公害貨物自動車普及の現状と展望 |
財団法人運輸低公害車普及機構調査研究部 部長 高田 寛 |
1.はじめに 自動車は、今やビジネスや生活等に欠くことのできないものになった。2003年における世界の自動車保有台数は約8億3,681万台であり、そのうち約7,400万台が日本に存在している。このような自動車交通の増加により、窒素酸化物(NOI)、粒子状物質(PM)等に起因する大気汚染および二酸化炭素(CO2等による地球温暖化問題への対応が求められており、その一つの対策として、国を始めとし低公害車の普及が鋭意進められている。 ここでは、国内における低公害自動車普及の現状について概括するとともに、(財)運輸低公害車普及機構が行っている低公害貨物自動車普及事業および今後の低公害自動車の普及の展望をまとめる。 2.わが国における低公害車の普及状況 国は、環境負荷の小さい自動車社会の構築に向け、環境負荷の著しい低減を実現した実用段階にある低公害自動車の普及を図るとともに、更なる技術開発により、次世代低公古市の普及に向けた諸施策を講じている。このような背景のもとに、国の施策として平成13年7月に「低公害車開発普及アクションプラン」が策定され、従来の低公害車4車種(電気自動車、天然ガス自動車、メタノール自動車及びハイブリッド車)に加え、低燃費かつ低排出ガス認定車を実用段階にある低公害車と位置づけ2010年度までの出来るだけ早い時期に1,000万台以上普及する目標が掲げられている。また、総合資源エネルギー調査会では、天然ガス自動車約100万台、電気自動車約11万台、ハイブリッド車約211万台、ディーゼル代替LPG自動車約26万台、計348万台を2010年のクリーンエネルギー車普及目標としている。 平成17年3月末時点におけるわが国の低公害車の普及台数を表1に示した。車種別低公害車普及台数では、低燃費かつ低排出ガス認定車の普及台数(累計)が圧倒的に多い。一方、天然ガス自動車等の低公害車4車種については、普及台数はまだ十分ではない。低公害車4車種のうち、全体で最も普及しているのはハイブリッド乗用車で、普及台数は約13万台である。次に、圧縮天然ガス自動車(CNG車)が約2万4千台で、大半が貨物自動車による普及である。 貨物自動車の分野では、低燃費かつ低排出ガス認定車以外で、これまでに普及してきた代表的な低公害車は、CNG車及びLPG車で、前者は約1万4千台、後者は約2万台となっており、昨今、これに続きハイブリッド貨物自動車の普及が拡大している。
出典: 1)メタノール車(稼働台数):(財)運輸低公害車普及機構調べ 2)天然ガス車(稼働台数):(社)日本ガス協会ホームページ 3)ハイブリッド車、電気自動車(稼働台数(推定)):(財)日本自動車研究所ホームページ 4)低燃費かつ低排出ガス車(出荷累計台数):(社)日本自動車工業会ホームページ 5)LPG車:(社)日本車検査登録協会「自動車保有車両数施31」(軽自動車含まず) (注)低燃費かつ低排出ガス認宝車 「エネルギーの使用の合理化に関する法律」に基づく燃費基準(トップランナー基準)早期達成車で、かつ「低排出ガス車認定実施要領」に基づく低排出ガス認定車。たとえば、「新☆☆☆☆(平成17年基準値、有害物質を75%以上低減させた低排出ガス車)」かつ「改正省エネ法に基づく燃費基準値+5%達成車」の車同等が該当する。詳細は、国土交通省ホームページ(http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha04/09/090326_2_.html)参照。 (注)ハイブリッド車、電気自動車およびLPG車の普及台数は、平成16年3月末現在である。 3.低公害貨物自動車普及状況と(財)運輸低公害車普及機構の活動 3.1 低公害貨物自動車普及状況 実用的な低公害貨物自動車として、これまでメタノール車、CNG車およびハイブリッド車の普及が行われてきた。以下に、(財)運輸低公害車普及機構が取り扱った各低公害貨物自動車の車種別普及経緯をまとめる。 メタノール車 営業用トラックにおける低公害車の普及の契機は、2度のオイルショックによる代替エネルギー問題、モータリゼーションの進展に伴う自動車からの排気ガスがもたらす大気汚染の環境問題等である。国はこれらに対応すべき低公害車の開発普及が必要であるとして、1980年初頭より、低公害・代替燃料自動車としてのメタノール車の研究開発を始めた。 1980年半ばより運送事業者を対象としたメタノール車の普及が始まり、平成12年3月まで累計576台が市場に投入され低公害・代替燃料自動車の普及促進に大きな役割を担ってきた。しかしながら、燃料インフラの整備が進まないこと等により平成11年度以降新規の普及台数がゼロとなっている。 CNG車 圧縮天然ガスを燃料としたCNG車は1994年営業用トラックに初めて16台が導入され、以降着々と普及促進が図られ2005年3月末まで累計8,807台導入され、営業用低公害貨物自動車の主流を占めるに至っている。 天然ガスは石油代替エネルギーであり、CO2排出が少なく地球温暖化防止に貢献できるとともにクリーンな燃焼が可能なため、PMやNOI等の有害排出ガスが非常に少ないという特徴を持つ。このためCNG車は地球温暖化防止および都市の大気汚染改善等に対応するための実用段階にある最も優れた低公害車として位置づけられている。昨今、車両の技術開発や改良が進み、性能は従来のディーゼル車と比べても遜色なくなっている。さらに、CNG車の排気臭はディーゼル車に比べ大幅に低いこと、騒音が低いことおよび車室内の振動が少ないことなども事業者に受け入れられている要因となっている。 CNG車は平成14年度まで、年々顕著な普及台数の伸び率を示した。低公害貨物自動車の主流としての位置づけは変わらないものの、平成15年度以降は普及台数が前年比を下回っている。その要因としては、低排出ガスディーゼル車の技術開発が進んでいること、さらに平成15年からのハイブリッドトラックの本格的な販売開始により、トラック事業者の低公害車導入の選択幅が拡大されてきたこと等によると思われる。 ハイブリッド車 ハイブリッドトラックは、平成5年に日野自動車が他社に先駆けレンジャーHIMRトラックを販売した。平成9〜10年に四国地区を主体に4トン車22台の導入が見られたが、バッテリー交換等実用上の課題も多く、その後導入されず平成14年に生産が終了した。その後、日産ディーゼルが平成14年6月にバッテリーに代わる蓄電システムであるキャパシタを搭載したコンドルハイブリッド4トン車を発売したが、車両価格が高額なため現在まで敷台の普及にとどまっている。 トヨタ、日野自動車は、平成15年11月に2トンクラス、平成16年6月に4トンクラスのハイブリッドトラックをそれぞれ販売し、平成16年度末現在、大手トラック事業者を中心に約1,100台強の導入が図られている。 なお、いすゞ自動車も平成17年度にハイブリッドトラックの販売を開始した。 3.2 (財)運輸低公害車普及機構の活動 営業用低公害貨物自動車を購入する場合は、国の購入補助に加え地方自治体または(社)全日本トラック協会より一定の条件のもと、協調的な補助か行われている。このため、購入者は、ベースの貨物自動車と比べほぼ同等の費用で低公害車の導入ができ、普及に大きな弾みとなっている。(財)運輸低公害車普及機構は、この補助システムを利用するとともに国内各地における低公害車セミナーの開催(写真1、2参照)、調査研究等を通して平成16年度末までにCNG自動車を中心に累計1万台以上の低公害貨物自動車の普及をはかってきた。(財)運輸低公害車普及機構が2005年3月までに取り扱った低公害貨物自動車の年度別普及台数および累計台数を表2に示した。 ![]()
4.今後の低公害自動車の普及の展望 ![]() 低公害車の環境性能は非常に高いが、コスト、利便性などが劣るため、既存車に対しまだまだ普及台数が少ないのが現状である。図1に、低公害車普及に関する悪循環の流れをまとめた。現状ではコストは高く、燃料供給ステーションの数が少ないなど利便性は劣るため、消費者の購入意欲は低い。そのため需要は少なく、自動車メーカー、インフラ業界の開発意欲も少ない。従ってコスト改善、利便性向上につながらないという悪循環に陥っている。 この悪循環を断ち切るためにこれまで種々の施策が実施され、昨今徐々に低公害車の普及台数は増加しているが、重量車クラスを中心にした低公害車4車種のさらなる普及促進が必要である。そのため、図2に示したような良循環のサイクルの実現に向け、技術開発支援およびインフラ導入支援、各種優遇措置、低公害車導入プランならびに低公害車の普及目的明確化等の方向付けが今後とも重要である。 ![]() |