「あしたのまち・くらしづくり2006」掲載
<食育推進活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

親子で素食!―赤ちゃんとママのための素材を味わう料理教室―
神奈川県川崎市多摩区 特定非営利活動法人ぐらす・かわさき
活動データ

活動場所…NPO法人ぐらす・かわさき内遊友ひろば
活動日時…毎月1回 第3木曜日午前10時30分〜午後1時
講師…鈴木順子
参加者…主に乳幼児とそのお母さん(時々お父さんも)、赤ちゃんは0〜3歳児の参加が多い
参加人数…活動開始当初は参加人数にばらつきがあったものの、現在は1回ごとの予約制で、親子10組で行なっている。
注:当活動の参加者は、お母さんに限らず、まれにお父さんが参加されることもあるが、以下文中では「お母さん(+お父さん)」と書くべきところ、煩雑になるのを避けるため「お母さん」と表記することとする。


野菜・豆・穀物中心のメニュー

 私たちは「親子で素食!」と題して、地域の子育て中のお母さんとその赤ちゃん(主に0〜3歳児)が一緒に参加できる、料理の会を月1回行なっている。
 メニューは野菜・豆・穀物を主に使ったシンプルな料理が中心。卵・肉・乳製品はほとんど登場せず、砂糖や油もごくごく控えめ。でも「素食」といっても、我慢して食べるのは楽しくない。“赤ちゃんも大人もおいしく楽しく”をモットーに、例えば「里芋の豆乳グラタン」「豆腐クリームのデザート」など、誰にも食べやすいメニューを取り入れるようにしている。


赤ちゃんとママ、一緒の料理教室

 「食青」というと小・中学生対象の活動が多いと思うが、当活動は小さい赤ちゃんとそのお母さんが主な対象。出産・育児を契機に、「手作りの大切さ」「食の安全」などを考えるようになったものの、具体的にどうしていいか分からない、という20〜30代のお母さん方が主な参加者である。
 そもそも「親子で素食!」はNPO法人「ぐらす・かわさき」の中の、子育て支援の活動の一環として行なわれている。
 「ぐらす・かわさき」は川崎市多摩区登戸の登戸東通り商店街に位置し、人間関係が希簿化しつつある商店街・住宅地というロケーションの中で、地域型NPOとして、地域の人々が気軽に集い、情報交換しあえる“地域の縁側”のような場となることを目指して活動している。
 定期的な活動としては高齢者の集える「健康麻雀(酒・たばこ・賭金なしの麻雀)」、あるいは高齢者から若い親子まで自由に参加できる「一緒に作って味わう昼食会」など。それ以外にも気功の会、映画会、フェアトレードのイベント、各種講座など様々な活動を行なっている。この場に集う人々が互いに人間関係を深めていく中で、地域の抱える問題を解決し、より暮らしやすい社会を作っていけるよう、多様なサポートをすることが、「ぐらす・かわさき」の活動主旨である。
 この「ぐらす・かわさき」の活動の重要な柱として、「親子ひろば」という子育て支援の活動もあり、毎週月曜日と木曜日の日中は、赤ちゃんとお母さん方が利用できるフリースペースとなっている。「親子ひろば」のうち、月曜日は自由に遊んだり、お喋りしたりできる開放日。そして木曜日が、今回応募する「親子で素食!」の他に「ベビーマッサージ」「手遊び歌」などの企画・講座が行なわれる日となっている。
 以上「ぐらす・かわさき」および「親子ひろば」の説明が長くなったが、「親子で素食!」は単独の料理教室ではなく、「親子ひろば」のスペースに普段から遊びに来ている赤ちゃんとお母さんが多く参加している料理のクラスである。
 したがって、料理教室といっても、広いフローリングのスペースの半分では赤ちゃんたちが遊んだり寝ころがったりしている。お母さん方は時に赤ちゃんにおっぱいをあげたり、おむつを換えたりしながら、調理に参加している。赤ちゃんは0〜3歳児が多いので、かなり賑やかで混沌とした雰囲気の中でやっているが、別室保育という形でなくこのような形をとっていることは、小さな赤ちゃんを持つお母さん方が、この活動に気軽に参加できる大きな理由となっているようだ。


おやつにおにぎり!おやつに豆腐!

 「親子で素食!」に参加されるお母さん方は、子育てを始めるようになってみて、例えばおやつに関して言えば、スナック菓子はよくないと改めて思っているのだが、ではどうしていいか分からない、といった悩みを持っている人が多い。体にいいおやつというと「ほうれん草のクッキー」とか「人参とおからのケーキ」といったものをイメージするようで、そんなものを毎日はとても作れない、と考えているようだ。
 「親子で素食!」では、「おやつにおにぎり!とか、おやつに豆腐!とか、もっと頭を柔らかくすると、簡単だよ」ということで、「きな粉おにぎり」とか「豆腐に黒蜜ときな粉をかけて食べる」といった、簡単なおやつを紹介するようにしている。そもそもこのようなおやつは、講師・執筆者である私自身がアレルギー体質で、市販のお菓子があまり食べられないことから工夫してきた食べ方なのだが、アトピーやぜん息のお子さんだけでなく、すべてのお子さん(そしてすべての大人)にとっても、このような素朴な材料で暮らしていくことは、体のためによいのではないかと考えている。


素材そのものの味を感じられるようになる

 「親子で素食!」の中で特に楽しく盛りあがるのが《味くらべ》のコーナーである。例えばいろんな塩(沖縄の塩、ゲランドの塩、ネパールの岩塩など)を集めて味くらべをしたり、玄米・古代米・七分搗き米などを炊いて食べくらべしたりする。「こっちはとがった味」とか「これは甘めかな?」とか、いつもわいわいと賑やかだ。
 「親子で素食!」では、“素材そのものの味を感じられるようになる”ことも大きな目標の一つで、このような《味くらべ》コーナーをやったり、また調理の途中でも、例えば茹であがった黒豆をそのまま食べてみて、「これだけでいけるね」といったことを感じられるよう、《つまみぐいコーナー?》もたくさん盛り込むようにしている。
 参加者の中には、接したことのない食材に囲まれて圧倒されている様子の人もいるが、周りの人につられて「自分の舌で感じる」ことを初めて意識しているような様子から、やはり生の人間が集まる場というのは、メディアやネットの情報とは違う、生きた体験が得られる場なのだと感じさせられる。
 また赤ちゃんにとっても、お母さんたちが楽しく料理をし、楽しく食べている様子をそばで一緒に体験できることは大切なことだと思うし、「うちの子○○嫌いなはずなのに、全部食べちゃいました」といった反応もよくあるので、お母さん方にとっても発見が多いのだと思う。このような母子一緒の空間ならではの体験を通じて、例えば有機野菜のおいしさ、国産大豆の豆腐のおいしさ、本物のだしのおいしさなどが分かる子どもさんが育ってくれればと思う。


「食」の知恵や技術を繋ぎとめる

 「親子で素食!」では、楽しい企画にするために、時々食材に関するクイズを行なっている。例えば《豆と野菜でクリスマス》というテーマの時には、いろいろな豆の名前を当てるクイズを行なった。黒豆、うずら豆、ヒヨコ豆など約12種の豆を揃えた中で、正解率は平均2〜3種くらい?「金時豆」を「小豆」と答えた人もいれば、「乾燥した大豆を見たのは初めて」という人もいた。
 これは「豆をゆでる」ということが、暮らしから遠ざかってしまったゆえのことと思うが、「大豆イソフラボン」とか「アントシアニン」といった情報には敏感でも、そもそもの“食”の体験が薄いということが、このクイズの結果一つからも感じられる。
 一昔前の人にとっては当たり前だった「だしをとる」「乾物をもどして使う」「すり鉢を使う」といったことを、毎日やるように言うことはもはや難しい時代なのかもしれない。
 「親子で素食!」の参加者は主に20〜30代。「かつお節を削ってだしをとる」といった光景を、見て知ってはいる世代である。(ちなみに講師・執筆者の私も37歳でこの世代)幸い「ぐらす・かわさき」では高齢者が主に集まる「一緒に作って味わう昼食会」という活動があり、昨年あたりからその参加者が「親子で素食!」に来て下さったり、その逆もあったりして、「食」を通じての異世代交流が少しずつ進んでいる。高齢の方のすりこぎを回す手つきを見てみんなで感心したり、いろいろな世代が一緒になってこんにゃく作りをしたり、といったことは私たち世代にとっても、どこか懐かしく心安らぐ体験である。そういった「食」の知恵や技術を繋ぎとめることは、もはや困難なこと、必要のないことかもしれない、と思いつつ、「この世代ならまだ間に合うかも」と願い、「親子で素食!」では、「豆をゆでる」「だしをとる」といったことを楽しく、繰り返し実践するようにしている。


「食」を通じて世界に思いを馳せる

 「豆をゆでる」「穀物中心の暮らしをする」「なるべく素材から手作りする」といったことは、日本の食文化を守る、家族の健康を守る、といったことに繋がるばかりでなく、日本の農業問題や、世界の食糧問題、地球環境問題とも繋がってくることである。「親子で素食!」の活動が目指す一番大きな目標は、“THINK GLOBALLY, ACT LOCALLY.”の“ACT LOCALLY”の部分を、「食」を通じて少しでも実践していくことである。
 といっても、家庭の食卓と、日本全体、世界全体との繋がりを想像できるようになることは簡単なことではない。「親子で素食!」でも「例えば100カロリーの牛肉を作るのに、700カロリー(あるいはもっと?)の穀物飼料が必要なんだって。だから私たちがお肉をいっぱい食べると、どこかの国の人が食べられるはずの穀物を奪ってしまうことになるんだよ」といった話をしているのだが、やはりそれだけでは言葉足らずのようで、これまでの活動ではこの点についてあまり充分なことができているとはいえない。
 おそらく料理の会だけでそれを伝えるには限界があり、南北問題のこと、多国籍企業のこと、有機農業のこと、生態系のこと、その他たくさんのことを学んでいく中で、全体像が初めてつかめるのだろうと思う。「ぐらす・かわさき」では、フェアトレードを行なったり、「世界がもし100人の村だったら」という子ども向けの企画をやったり、「みみずコンポスト」の学習会をやったりと、「世界との繋がり」を学べるような催しが数多く行なわれている。「親子で素食!」に参加されるお母さん方も、事務局スタッフとも次第に仲良くなり、「ぐらす・かわさき」の様々な活動に参加する人も増えている。「ぐらす・かわさき」全体の活動と連動しつつ、「食」と社会全体の繋がりが少しでも見えるよう「親子で素食!」でも地道な努力を続けていきたい。
 「親子で素食!」の今後の課題としては、食材を購入する際に農家の方と顔の見える関係を作る、調理後の生ごみを堆肥化して利用する、といったことにも取り組みたいし、お父さんを巻き込んでの豆腐作り、みそ作りなどもやってみたい。川崎という土地柄では難しい部分もあるが、他の郊外地域の活動に学びつつ、できることから少しずつ取り組んでいきたい。