「あしたのまち・くらしづくり2006」掲載
<子育て支援活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣総理大臣賞

「子どもが育つ環境とは何か」を見つめ続ける活動
岡山県備前市 特定非営利活動法人子ども達の環境を考えるひこうせん
発足のきっかけ・・・できることから動いてみる

 現在、日本の子どもたちを取りまく環境は悪化し、遊び場の欠如、人との関係性の欠如、ぬくもりの欠如などの影響で、子どもたちが本来持つ能力をフルに発揮させることができない状態が多いのではないかと感じています。それは、若者が引き起こす悲惨な事件の多発や様々な調査結果に見える子どもの学力や体力の低下、また社会に適応できにくい思春期以降の子どもたちの問題などの形で子どもたちからのSOSが発信されているからです。子どもたちは人間としての成長発達の真っ最中です。大きな可能性を秘めた宝物であり、それを守り大切に育てていくのが大人の役割ではないかと考え、子どもも大人もともに育ち合える環境作りをめざし、平成13年夏に「子どもたちの環境を考える ひこうせん」としてボランティア団体を発足しました。そして、平成16年1月にNPO法人となり、約100名の会員で知恵を出し合いながら子どもたちの未来作りを考え、現在の活動に至っています。


活動内容・・・子どもが育つ環境を見つめ続ける日々

 活動の中心は年間約150回以上開催される子どもと大人が交流できる様々な「広場」です。毎週月曜日の放課後の居場所づくりとして「わんぱく広場」、休日に様々な体験活動をする「にこにこ広場」、乳幼児の親子が公園で集い泥んこになって遊びこむ「あおぞら広場」、自然体験活動「田んぼの学校」でのお米作りなど。また、平成17年春からは地域の方、学生ボランティアの方々と一緒に実行委員会を立ち上げ「冒険遊び場・備前プレーパーク」作りに取り組み始めました。
 これらの活動を重ねていくうちに現在の子どもたちに欠けている要素や課題はより明確になっていきました。子ども時代には「遊び」の中から、作り出す喜び、自らのルール作り、不思議から好奇心への芽生え、発見、探求そして失敗を繰り返しながら成功へつなげ味わう達成感など多くのことを学びます。しかし、今の子どもたちは細切れの時間を過ごしがちであるため、じっくりと遊びこむ時間がなく、また子ども同士で群れになって遊べる場所も仲間も見つけにくい状況に追い込まれています。かつては当たり前だった子どもの世界が作り難くなっているのです。もうひとつは、メディアの急速な発達などの影響もあり、子どもも大人も人との関わりが希薄になり人間関係が作りにくくなっているということです。そのことは、人と協力しながらよりよい社会を作り出していこうとする力、すなわち「社会力」の低下につながっていることも分かってきました。普段の生活の中で、私たち大人が知らず知らずのうちに子どもたちから大切なものを奪ってしまっている事実があるということに気づいた以上、何とか子どもたちの本来の姿を取り戻さなければなりません。赤ちゃんから乳幼児、小中学生、高校生、大学生、障害の有無に関わらずどんな人でも交流しあえる場であり、子どもたちが思いっきり身体を動かし、じっくりと時間をかけて遊びこみ輝きにあふれる、まさに子どもの本来の姿に出会えることを期待して、「冒険遊び場 備前プレーパーク」作りにも重点を置き、子どもにとって「遊び」がいかに大切であるかを発信する基地になりたいと思っています。
 また、もうひとつの重要な部分として「親育ち」のサポートがあります。今の子どもの問題の多くは乳幼児期に原因の芽があることが多く、そこには親の関り方も大きく影響しているということ、またさらにいえることは、親自身に全ての責任があるのではなく、親を親として育てたり、親になるためのサポートができていない社会の仕祖みにも課題があります。つまり、親子や家族の状況は、時代の移り変わりによって変化しているにも関わらず、そこが見落とされ、かつて大家族であり地域に人がたくさんいた頃と同じように、子育ての力量を親に求められているため親にとってはそれが大きなストレスとなり、その結果が子どもの育ちの歪として現れてしまうこともあるのです。親の肩代わりをする預かり型支援策が重要視されがちですが、むしろ、親の力を信じ、親の子育て力をエンパワーメント促進させるための支援が重要であることに着目し、「完璧な親なんていない 〜ノーバディーズパーフェクトプログラム〜(カナダの親支援プログラム)」の実施や、子育て講座ワークショップなどの企画を積極的に行なっています。これらの事業に参加された若い親は、自分の子育てに自信を持ち、前向きな気持ちになり力をつけていきます。と同時に、支え合う関係をつくったり、後輩へのサポートをする側に成長していく姿も見られ始めています。


団体の成長・・・出会いをつながりにして「子育てネットワーク」をつむいでいこう

 発足以来、何もかも手探り、そして無我夢中で歩んでいた平成15年の夏、「子育てネットワークin九州〜分かち合う汗と涙…耕せ!子育てネットワーク 今こそ手をつなごう!九州交流集会2003〜」と書かれた1枚のチラシに、私の目は釘付けになりました。「つながりを持つことで子どもたちの環境づくりに可能性を見出したい。でも、どうすれば・・・?」ともがいていた心に明るい光が差し込み、「なんとしてもここへ参加して勉強したい」と思い参加し、予想通りの衝撃を受けたのです。
 その大会には、子育て中の親、行政関係者、研究者、NPO関係者など様々な立場の方が参加されていました。そしてそこで出会った方々は皆んな「手をつなごう!」というオーラが感じられ、分野や立場という壁を越えて一緒に考え育ち合おうとしていたのです。そこで過ごした2日間で、人と人がつながり合い、気持ちを共感しあうことの心地よさとエネルギーを実感し、そのことが私にとって大変大きな力づけになったのです。
 そして、その帰り道に募らせた「岡山の人たちにもこの心地よさを伝え、みんなで一緒に成長したい」という思いがきっかけとなり、翌年16年12月、独立行政法人国立女性教育会館(ヌエック)との協働事業の一環で「子育てネットワークin岡山2004」を開催できることになり、そこで岡山県内外の子育てに関心のある人たちを結ぶ「子育てネットワーク研究会・岡山」の小さな芽を出すことができたのです。その芽をまた、もう一回り大きく育てていくために、平成17年12月には岡山県パートナーシップ推進事業として「子育てネットワーク岡山in2005」を開催しました。
 この事業は県内の子育て関係団体、そして岡山県行政関係課とで実行委員会を作り、官民一体で企画を進めていきました。岡山県パートナーシップ推進事業ということもあり、事前に開いた学習会には岡山県子育て支援課、健康対策牒、生涯学習課、青少年課の四つの課からの出席があり、各課の取り組みを紹介しあう中で行政内でのネットワーク作りのきっかけができるという場面もあり、県内のネットワークの発展の兆しが見えました。また、今年の9月には厚生労働省、(財)子ども未来財団、児童健全育成財団との共催で、3年目の開催を行ないます。年を重ねていくことでつながりが広がり、また深まっていきます。ともに悩み考えていく中で、新たな解決策と希望が見出せ、互いに元気付けの場として機能できるよう、ネットワークをつむいでいきたいと思います。


これから・・・希望を持って歩みたい

 子どもたちを取り巻く大人が、見えない垣根を取り外し、お互いがおかれた立場を認め合い、知恵を出し合ってみんなで子育てを考えていくことができたら、きっと社会は変化すると信じています。
 子どもたちは時代を選んで生まれてくることはできません。今を生きている子どもたちが育つための環境にとって、よい情報はしっかりと発信しあいながら、多くの人とそれらを共有できるネットワークを今後も育て、根付かせていきたいと思います。今の時代は色々なことがスピードアップされ、状況の変化も大変速くなっているように思います。その力が、子どもたちにとって最善の環境づくりのために使われることを願わずにはいられません。
 子育て環境の向上は、日本の将来を変えるといっても過言ではありません。次世代に明るい社会を残していくために、今後も「子どもが育つ環境とは何か」を見つめ続け、多くの人と協力し合いながら様々な活動に取り組んでいきたいと思います。


●子育てネットワーク研究交流協議会のテーマ

◇平成16年12月開催「子育てネットワークin岡山2004」
 テーマ:今、本当に必要な子育て支援とは何か?〜お互いに育ち合っていくために、ネットワークの果たす役割とは?〜

◇平成17年12月開催「子育てネットワークin岡山2005」
 テーマ:子どもが育つ環境のために子育てネットワークの果たす役割を考える〜

◇平成18年9月開催「子育てネットワークin岡山2006」
 テーマ:人が育ち、まちが育ち、未来を創っていくために〜今、子育てネットワークでつながろう!〜