「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載
<食育推進活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣官房長官賞

食農教育で人づくり
千葉県四街道市 四街道食と緑の会
中上会長が1人で始めた農業体験学習支援活動

 四街道食と緑の会会長の中上昭喜が、四街道市立大日小学校で、「農業体験学習支援」を始めたのは、昭和60年(1985)のことでした。
 中上会長は、経済の高度成長で豊かになる一方で、「農業が衰退し、農業を軽視する風潮」や「家庭内での食生活の乱れ、食生活を軽視する傾向」に疑問を感じ、「次代を担う子どもたちに、農業体験学習を通じて、食べ物の大切さ・命の尊さとそれらを育む農業の果たす役割の大きさや自然の大切さを、苦労しながら身体で学習して欲しい」、同時に、「ものを大切にし、感謝する気持ちや思いやりの心も一緒に育ててもらいたい」と考え、近隣の大日小学校の理解を得て、昭和60年(1985)から、5年生を対象に、支援活動をスタートさせしました。学校傍の水田150平方メートルを借り受け、もち米を栽培し、田植えから収穫祭の餅つきまでの農業体験学習に取り組み、その結果は、天候にも恵まれ、子どもたちも大変熱心に学習し、この試みは大成功の内に終了しました。この時以来20年以上、大日小学校では5年生の総合学習の課題として「稲作り」が取り上げられ、続けられています。同校の子どもたちは、「市内で一番最初に稲作り学習に取り組んだ伝統校である」という自負心にあふれています。
 中上会長は、3年後の昭和63年に、四街道市内にある県立千葉盲学校でも稲作りの体験学習支援活動を始めました。目の不自由な子どもたちが、手と音を頼りに、プランターに稲を栽培し、お米の一生を学習しました。
 大日小学校や盲学校での支援活動が定着するにつれて、そしてその効果が高まるにつれて、同校から他の小学校へ異動した先生方や評判を聞き及んだ他校から「稲作り学習を取り入れたい」との要望が寄せられるようになりました。
 中上会長が稲作り学習支援を開始し、取り組んでいた頃、まだ「食育」という言葉はありませんでしたが、その活動は、今日いわれている「食育」そのものの先取りであり、「食育基本法」の理念を実践したものでした。


「四街道食と緑の会」結成

 中上会長は酪農経営者ですが、忙しい時間を割いて、学習支援活動をするのですから大変でした。周辺の仲間が手伝ってくれるようになりましたが、さらに市内の他の小学校からも要望が寄せられる状況となり、これら同志だけでの対応では限界がありました。
 そこで、同志の皆さんが中心となって、広く市民同好の士を求め、農家と都市住民が協力して充実した活動を展開し、四街道市が調和の取れた地域として、また、食と緑を健全な形で保全されるよう努力しようとして、平成11年(1999)4月、「四街道食と緑の会」を結成しました。
 この会は、次のような事業活動を行なうことを会則に定めました。
 @ 市内の小学校等における農業体験学習などに対する支援活動
 A 農家と都市住民との意見交換、農業体験等各種の交流活動
 B 地域の農村文化継承のための諸活動
 C 自然環境の維持・保全に関する学習
 D 会の人材育成および普及・啓発


四街道食と緑の会の主な活動と成果

(1)食農教育で人づくり
 四街道市内には12の小学校がありますが、平成11年から16年まで順次実施校が増え、平成17年の吉岡小学校をもって、全校の5年生に対し、体験学習「稲つくり」支援を行なっています。また二つの幼稚園でも、プランターからミニ水田での稲つくりを実施しています。また一般市民を対象に「田んぼの学校」を平成12年(2000)から休耕田を借り受けて実施し、親子で参加する市民と会員が一緒に苦労しながらお米作りと終了式(お餅つきと修了証書授与)を行なっています。
 こうして、幼稚園、小学校、千葉盲学校および市民の田んぼの学校を含めると、毎年1000名余の人々がお米つくりを学習しています。

(2)共生の輪を広げる環境学習「ケナフ・紙すき」学習支援
 自然や環境をイメージする「緑」への取り組みとして、ケナフを育てながら環境保全について考え・見直すきっかけとなるようにとの思いを込め、栽培し、パルプを作り、紙を漉くことによって省エネ・省資源に思いを致し、ものを大切にする心を育ててもらうための活動として、環境学習「ケナフから紙すきまで」への支援活動を行なっています。大日小学校や旭小学校では4年生の総合学習で、四和小学校やみそら小学校では6年生が、いずれも平成12年(2000)から始めています。毎年200名余の子どもたちが、この環境学習に取り組んでいます。また市民の「田んぼの学校」でも、平成12年から、ケナフの作付けから紙すきまで実施し、成果を上げています。今では、紙すきをしてハガキや修了証書の用紙作りにも挑戦しています。

(3)共生の輪を広げる体験農業「ふれあい牧場」の開設
 酪農業の生産現場で作業をして、命を育み、食べ物を生み出すことの大変さを体感するとともに、農家の生活の一端も体験してもらうために、平成11年(1999)から、中上乳牛牧場に開設しています。当初は小学校5・6年生を対象に、2人1組となって、1泊2日の体験でしたが、現在では、小学校5年生から中学生、時には親子での参加があり、夕方および朝方の2日間の通い体験となっています。牛舎内外の清掃から子牛への哺乳・ミルカーの装着など実際に牛に触る体験も行なっています。毎年2人1組で10組〜15組のカップルが体験しています。
 初めて牛舎に入った時、臭いのきつさに鼻をしかめたり、牛の大きさにおっかなビックリですが、どの子どもたちも、間もなくすっかり馴れてきて、ふん掃除や牛の身体をなでたり、ミルカーを乳房に装着したり、一生懸命作業を手伝います。哺乳の時に、子牛に自分の手指を吸わせてみると、子牛は手指を舌の上にのせて、チュウチュウと思い切り吸い込んできて、子どもたちはその力強さに驚きます。

(4)市民交流会「農業生産者と市民の集い」の開催
 市民に対し、市内の農業事情を学習してもらい、より良く農業を理解し、都市と農村・生産者と消費者が力を合わせて共生の輪を広げていくための活動として、「市内農業生産者と市民の集い」を随時開催しています。毎回50名前後の参加があり、四街道市における果樹・野菜や畜産生産などの農業現況を学習し、交流を深めています。
 また、市民に向けたピーアール活動の一端として、16年度まで市産業祭に参加しています。

(5)会員が労力奉仕で造成したミニ水田
 市内の全12小学校の内、休耕田を使用しているのは4校ですが、その他の8校は、校庭に造成したミニ水田で学習しています。これらは、会員が労力奉仕で設置したもので、面積は小さいですが水田機能発揮を意識した、本格的な水田となっています。当会では、体験学習に必要な面積を、1人当たり1平方メートル以上を確保することとして造成しています。子どもたちは、すぐ傍に水田があることから、稲の生長を観察・記録したり、水田に集まる虫や魚などについても観察・記録しています。

(6)ちば食育ボランティア活動促進事業受託
 千葉県が平成17年度に実施した「ちば食育ボランティア活動促進事業」を受託し、事業に参加しました。事業実施期間は、平成17年10月1日から平成18年3月31日までの半年間で、事業の内容は、当会が17年度で実施した、
 @ 体験学習「稲作り」支援の完成
 A ふれあい牧場体験報告の発行
 B 環境学習「ケナフ」支援の完成
 C 市民の「田んぼの学校」の完成
等に加えて、
 D 体験学習「稲作り」の18年度実施準備と体制整備
 E ちばの食育についての意見交換会「食育フォーラムin四街道」の開催
 F 「あるボランティア団体活動の記録」=20年の活動を振り返って=の発行
などでありました。
 一つのボランティア団体に過ぎない当会が、このような公共事業に参画したことは誠に有意義でありましたが、結果として非常に多忙な1年間ともなりました。
 この事業を次のように総括しました。
@活動企画書に計上した委託業務については、全て無事に終了できたことは幸いであった。
A昭和60年(1985)当会会長が個人的に開始した活動を含めると、平成17年度(2005)は満20年目に当たり、当会の活動にとって記念すべき節目の年であった。この時期に委託業務を実施できたことは、従来の歴史をまとめ・整理し、それらの記録を完成させる上で好都合であった。また次年度からの活動を推進する上で有意義であった。
B1人でも多くの児童や市民に、「食と農」、「自然と農業・環境」の大切なことを理解し、見直しを進め、豊かな心を取り戻してもらうために、是非活動を継
続して、積み重ねていきたいとの思いを強くした。
C「市民の田んぼの学校」では、70名を超える人数が集まり、その内家族全員で参加したファミリーも12家族と大勢であったが、田植えや稲刈りなどの行事を土・日と2日間の日程にしたにもかかわらず全員参加とはいかず、日常社会の多様さを実感した。こうした情勢の中でどのようにして、各作業日などに大勢の参加を促していくか、課題が残った。
 また、ファミリーの参加は歓迎すべきであるが、親たちが幼児の面倒見に追われ、農作業に集中できなかったことから、次年度以降は何らかの対応策が必要であると感じた。
D任意団体であり、ボランティア団体に過ぎない当会主催のフォーラムに、後援を引き受けて頂いた印旛農林振興センター、四街道市および四街道市教育委員会の助力により、各小学校および四街道市学校給食栄養士会の全面協力を得、千葉県食育ボランティアや保護者・一般市民など、130名余の参加を得ることができたことは誠にありがたかった。
Eしかしながら、当会の活動は、1年間を通じての活動なので、また、各小学校の年間カリキュラムに組み込まれている中での活動なので、ボランティア活動としては厳しいものであるが、その上今回の委託事業を実施したことの負担は想像以上に大変な事態であり、総合学習などでの支援に携わりながら、毎日が事務処理に追われた半年間であった。
F1年間を通じての当会の活動にとっては、今回の委託業務はその内の半年分についてしか評価されないことになり、その点に多少の不満と物足りなさを感じた。また、短期間での事業の取りまとめに苦労した。
G学校行事や都合を最優先に考えてボランティア活動を実施しているが、学校によっては、ともすれば学校の授業の一環であることを忘れ、学校施設の提供を拒否し、結果として天候に左右される農作業が遅延し、日程が狂い、学校にとっても、ボランティアにとっても、障害となった事例が見られたことは残念であった。