「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載
<子育て支援活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣官房長官賞

「あったらいいな」の子育て支援を目指して
福井県小浜市 特定非営利活動法人わくわくくらぶ
はじめに

 わがまち小浜は、福井県の南西部若狭の中央に位置し、日本海を挟み、対岸諸国と古くから交易が開け、大陸との中継地として大陸文化や物産を鯖街道を経て京都や奈良に運んでいました。日本で最初に象がきたまちで、現在は北朝鮮に拉致され帰国した地村夫妻の故郷として有名です。


施設設立(悲痛な声に応えて)

 人口3万2000人余りの小浜市には、子育て支援の施設として、公立保育園15園、私立乳児保育園1園、幼稚園2園、無認可保育園1園あります。公立保育園保育士として33年間勤務していた私は、市民の保育ニーズはきめ細やかなサービスで公立保育園がきちんと対応していると自負していました。
 ところが、平成13年4月、思いもよらず行政職への異動となりました。そこで、現場ではわからなかった多様な保育ニーズを知りました。
「急に出かけなければならなくなりました。この子を預かって下さい」
「育児休暇が今週で終わりますが、予定していた施設に入れません。すぐにどこかに入園させて下さい」
 行政の窓口では、保護者の方々から、こうした要望を毎日のように受けますが、即対応できないことが多く「急に言われましても…」口ごもるばかりです。
「じゃーこの子をどうすればいいのですか?」
「すぐに預かってもらえなかったら、私に働くなと言うのですか?」と、訴える怒りの声、悲しそうな目。
 なんとかしてあげたい。誰か何とかしてあげて! そうした思いが募る中、一念発起。
 誰かじゃなく私がやろう。定年を待たずに市を退職し、施設探しを始めました。アパートや貸し家を探しましたが、どこも家賃は5万~6万円。子どもを預かっていても、いつも頭の中に「家賃はどうしよう」などあると、いい保育は出来ないと悩んだ末、家賃の要らない方法は自宅開放しかないと、退職金で一軒家を購入しました。そして、元同僚や後輩の先生など多くの方の力を借りて子育て支援施設「わくわくくらぶ」が誕生しました。「急に体の調子が悪くなりました。病院へ行く間預かって下さい」とその日の朝、こられるつらそうな顔のお母さん。「ずーっと子育てばかり……。週1日か2日働きたいので」「資格を取りに行きたくて」それぞれの事情を抱えたお母さんたち。様々なニーズに即対応出来るよう、年中無休で対応することにしました。土曜日や日曜日・祭日は、通常の保育園や学校へ行っている子どもたちの利用が多く、保護者が、福祉職、看護職、サービス業従事等のお子さんが多く来られます。
 スタッフのほとんどが、経験と資格を持ち、初めての場所、初めての人の中で、少しでも安らぎ、楽しいと思えるように、養護の心を大切に小さな声に耳を傾け、一人ひとりの心に沿うようにしています。


行政から委託を受けて

★すみずみ子育てサポート事業
 開設当初、日に1人や2人の預かりだったのが、次第に10人以上と利用者が多くなってきた平成16年11月、小浜市から「すみずみ子育てサポート事業」の委託を受けました。
 この事業は、市内在住の保護者の子どもを預かる場合、8時間以内は利用料の半額を市が負担する事業で、保護者にとってすごい負担の軽減になります。また、18年度より、第3子が3歳に達するまでは無料となり、1か月延べ400人以上の利用者数となっています。
★親子のつどいの広場事業
 この事業は、平成16年度10月から市より委託を受けました。これは、親子がいつでも自由に遊べる場の提供で、市内にある市民ボランティア活動センターの2階の一部を借り、月曜日~土曜日まで毎日開設しています。専任保育士が、絵本の読み聞かせや、育児相談、親子で楽しめる行事などを企画しています。月に、1~2回子どもたちのためのイベントや、保護者のための講習会等を開催しています。


連絡帳を通して親育ち応援

 毎日、たとえ1時間の預かりでも必ず体温、食事、おやつ、睡眠、排便、遊びの様子を細かく記入して保護者に渡しています。ここで、どのように過ごしていたかをお伝えすることで、安心と信頼が深まります。また、保育者自身も、細かに記入することで、一人一人を丁寧に見つめかかわることができます。
 しかし、保護者のニーズに沿うようにする中で、育児の全てを引き受けるのではなく、育てる喜びや感動をお母さん自身が味わえることを大切にしています。
 例えば、子どもが初めて歩いた時なども、「今日は歩きました」ではなく、「今日は歩く気配。もしかしたら今夜かな?」などと記入します。そのような心遣いをすることで、「アッ歩いた!」という、すごい感動を親が味わえ、子育てが楽しくなります。
 ある日、4か月の赤ちゃんを抱いたお母さんが来ました。「上の子と20歳も年が離れて生まれたため子育てがつらくてたまりません。最近髪が抜けてきて……」と、とてもつらそうです。「自分で育てられる気持ちになるまでお預かりしましょう」毎日連絡帳に“今日の朝はミルクを200㏄飲みました。あやすと声をあげて笑顔いっぱい…「ウックン」とお話も上手ですよ。もう寝返りもできます。すごいですね”。
 など、私たちが、“可愛い、すごい”と感じたことがお母さんの喜びにつながるようにこと細かに記録してお渡しすること1か月。「自分で育ててみます。いざというときここがあると思うと安心です。その笑顔がとても、素敵でした。
 毎日、年齢が異なる、人数が変る、発達が違う、そんな子どもたちにどうかかわり、どう援助していくか保育の原点がここにあるような気がします。経験と資格のあるスタッフの情熱とボランティア精神が日々の保育を支えています。


「あったらいいナ」の声を現実に

「急な残業の時、とても困っています。夜間も預かってくれるところがあったらいいナ」「ローテーションに入らないと正社員になれないので、夜間も預かって欲しいのですが」こんな利用者の声を聞き、小浜市の平成18年度「市民提案型まちづくり事業」に夜間延長保育を提案した結果、この提案が採用され予算がつき、18年4月より夜間9時30分までの保育が始まりました。19年度より委託事業となりました。
 毎日の昼食も「お弁当は大変」との声で、希望の方には給食を実施しています。(調理師資格有)年中無休で、夜間もあり大変ですが、「ありがとう」の保護者の声と子どもたちの笑顔に支えられて活動しています。


あしたのまちづくりに

 小さな民家の小さな子育て支援が、思いもよらぬ多くの方々の利用が広がる中、地域の方々の温かい支援が多く寄せられています。最近「今日預かって下さい」と依頼されても、施設が狭いため「今日は無理で…」と断らなければならないこともあり、もう少し広い施設があったらいいなと、願っていたところ、平成19年7月より小浜駅前の、若狭農業共済事務所が移転され、その空き事務所を厚意でお借りできるようになりました。より、多くのニーズに応えられると喜んでいます。
 また、今年度より毎週土曜日の学童保育が市内全域閉鎖されたため、学童保育の場として、駅前商店街の集会施設「はまかぜプラザ」を「使っていいよ」との声をいただき準備をすすめています。人通りの少なくなってきている駅前商店街に、子どもたちの賑やかな歓声が響くと嬉しいなと考えています。準備が整い次第、市のシルバー人材センターの保育サポータ養成講座に、係わらしていただいたので、受講されたサポーターの皆さんの力をお借りしたいな、と考えています。そして、若狭ソロプチミストの皆様からは、5年間の継続支援事業として尊い浄財の寄付を(今年で3回目)頂いています。
 このまちの子どもたちが、健やかに育っていくためにいろんな方々から、多くの心を頂いていることを感謝しています。そして、ここを利用されるお母さんの、声や、買い物される姿から、日々成長する子どもたちこそ、地域の経済の活性化を促す原動力と、感じています。子どもたちの成長にあわせ靴も、服も、本や三輪車も、毎年買い換える必要が生じてくるのですから。
   1年先を考えたら 種をまけ。
  10年先を考えたら 木を植えろ。
 100年先を考えたら 人を育てよ。
と聞きます。
 子育てこそ、まちづくりの根幹と信じ、年中無休で、夜間もあり大変ですが多くの「ありがとう」に支えられ、「はい、お預かりします」その瞬間から生じる命を預かる重みと、緊張の中、スタッフは明日に輝く生命の子どもたちと過ごせる幸せに喜びを感じて頑張っています。