「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載
<子育て支援活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

つながって育ち合う「循環型子育て支援」
岐阜県多治見市 多胎児サークルみど・ふぁど
多胎育児の現状と問題

 生殖医療の発達等により、少子化の中にありながら多胎児の出生率は増え続けている。社会とつながりにくく、育児困難に陥りやすい多胎児家庭。研究者のデータによれば、多胎児家庭の虐待発生率は単体家庭のおよそ10倍だという。だが、多胎児家庭への特別な支援は十分にされているとは言えない。また多胎は、妊娠・出産の経過も単胎のそれとは大きく異なり、妊娠27週位から切迫早産で管理入院となる人が多い。つまり「安定期」がなく、やっとつわりが治まったと思うと入院。点滴につながれる生活となり多くの妊婦が「こんなはずじゃなかった」という気持ちになる。しかも、この管理入院により地域社会と隔絶してしまい、妊婦教室にも参加できなくなるため、妊婦友だちもいない。このまま体力も筋力も衰えた末の出産。その後に2人以上の育児が待っているわけだ。育児に入ると文字通り寝る暇もない。1日は24時間。その中で双子なら16回、三つ子なら24回の授乳。洗濯物も哺乳瓶などの洗い物も2倍3倍。育児不安を誰かに訴えたくてもその暇がなく、分かってくれる人もいない。多胎児の育児について聞きたくても誰に聞いたらいいのか分からない。こうした中で孤立感を深めていってしまうのである。


必要な支援

 こうした多胎児家庭に必要なのは「社会につなげる支援」である。多胎児に限らず人間は「群れの中で育つ」ものである。現代社会では、この「つながり」が弱められ、さまざまな弊害が生まれている。子どもの親も「つながる力」を獲得し、エンパワーメントさせることこそ、本当の子育て支援であると考え、この力を強化し、しかも伝承されていくようなシステムと活動を目指してやってきた。
 「伝承」にこだわったのは、子育てサークルの活動にとどまってしまうと、子どもが育って大きくなるとサークルをやめてしまい、それまでの育児経験の蓄積が個人のものだけで終わってしまい、社会共有の財産とならないからである。一人一人の経験を寄せ集めて共有すれば、それは立派な社会資源となるばかりか、次世代育成の力となり、社会づくりの力となる。私たちはこれを「循環型子育て支援」とし、支援されたものが次の支援者となる循環、また、支援しているものが同時に支援されている者から育てられているという循環の二つの循環をねらいとする支援を進め、こうした社会づくりのモデルを示してきた。


「多胎児サークルみど・ふぁど」の概要と組織

 設立は平成5年5月1日。現在51組226名の会員がいる。「みど・ふぁど」には、主に託児などで「みど・ふぁど」を支援するグループ「そらしど」、就園児以上の親子のグループ「ぽこ・あ・ぽこ」、未就園児の親子のグループ「ぷち・れ」、通信により情報交換しているグループ「通信会員」、子は退会したが母は参加しているグループ「ママの会」、小学生以上の多胎児が小さい多胎児を支援するグループ「子どもスタッフ」があり、子の成長によって変化するそれぞれの家庭の多様なニーズにきめ細かく対応できるように組織している。それぞれに責任者がおり、これによりニーズの把握や当事者性が保たれている。また、異世代交流が親も子もでき、その中で「育ち合い」が保障されるよう、交流行事の工夫や、大きくなった多胎児が小さい子の世話をするボランティア活動により次世代育成を図っている。役員はこの他、代表、副代表、広報、会計、情報管理がある。


主な活動内容

(1)自助的活動(育ち合い交流活動)
 「運動会、お泊まり会、クリスマス会、リサイクル会、新入学を祝う会」:0歳~14歳の多胎児の親子行事。企画運営は子どもスタッフ。大きい子が小さい子の世話をしながら異年齢で遊ぶ。
 「パパの会」:父親による育児情報交換会。
 「ママの会」:大きくなった多胎児の母の親睦会。ママ旅行や忘年会等をしている。(思春期の多胎児の問題、多胎児の受験の問題などの情報交換)

(2)育児支援活動
 「未就園児親子の集い」:親同士のピアミーティングの際の託児や親子遊びの会の補助。
 「病院訪問」:病院、産院との協働で入院中の多胎妊産婦を訪問し、相談活動。
 「マタニティ訪問、乳児訪問」:保健センターとの協働で多胎妊婦、育児家庭を訪問。
 「座談会」:年2回、講師を招き多胎特有の育ちについて等の話を聞く。育児不安解消となる。
 「各種講習会」:未就園児の親を対象に育児以外の体験を通して達成感を味わえるように工夫した託児付き講習会。仲間づくりやリーダー育成の場ともなる。
 「先輩ママと語る会」:多胎育児経験者による講演会。育児のノウハウが学べる。
 「子どもスタッフ」:小学生以上が運動会等のサークル行事の企画、準備。市主催の行事など、多胎以外の人を対象としたボランティア活動にもスタッフとして参加。
 「子どもお助け隊」:小学生以上の多胎児による未就園児の多胎児家庭への家事、育児援助。子ども同士に縦のつながりができる。訪問された家庭が精神的肉体的負担から解放され、他の子育て方法を学んだりできるという効果の他、小学生以上の多胎児が、自己評価や男児の家事、育児能力が高まる効果がある。
 「情報提供」:広報やHP、リーフレットによる発信。一部、公共機関にも掲示。
 「プレパパママスクール」:保健センターと協働。多胎妊婦家庭への妊娠、出産、育児講座。


循環型子育て支援が示すもの

 多胎妊婦は母子手帳をもらう時に先輩ママによる家庭訪問の案内をもらう。訪問を受けたり、プレママパパスクールに出席したりして不安を解消し、支えてくれる人の存在を感じながら出産したママは乳児訪問により大変な乳児期を何とか乗り越えてサークル会に参加。そこで大きくなった多胎児の姿に励まされ、また、子どもも大きな子に世話をしてもらったりして成長していくことを実感する。ママにも託児付きの集いなどでピアグループが形成され、悩みの共感、共有が図れる。同年代ピアと先輩ママという縦横のつながりの中で親も子も育っていく。そして、託児をされていた子の親は入園すると託児スタッフとなったり、小学生以上になった子は子どもスタッフとして託児に参加したりイベントで小さい子の世話をしたりする。「されたこと」は「できる」からだ。しかし、そこには支援されていた者が次の支援者となるという循環だけではない「循環」が存在する。
 託児スタッフのママは「こうして託児に入った日はまだまだ手がかかって叱ってばかりの自分の子が本当に大きくなったなあと感じるし、すごくかわいく思える。小さい頃を思い出す」と言う。また、パパの会で小さい子のパパのアドバイスをした先輩パパは「つくづく今までよくやってきたと思う。小さい子のパパの悩みは、あのころの自分の姿。女房がよくやってくれたから乗り越えてこれたんだと改めて思う」と話す。先輩ママと語る会を終えた先輩ママは「夫、家族の協力、そして仲間があったからやってこれた。この仲間は一生の宝」と涙ぐむ。そして「夏休みお助け隊」を体験した男児たちは「自分たちは3人で双子の世話をしたのに、すごく大変だった。母は1人で3人をどうやっていたんだろうと思った。おばさんが妊娠中で体が辛そうだった。お風呂洗いがしにくそうだったのでやってあげた」「はじめは小さい子って苦手だった。すぐ泣くし、うるさいし、よだれをたらしたり汚いから。でも世話をしていたらだんだんかわいいと思えてきた。うんちしたパンツも洗ってあげたしお風呂の後、服を着せていたら指を吸い始めたから、眠いのかなと思って抱っこしてあげたらねちゃった。肩によだれがついたけど不思議に汚いと思わなかった。おばさんが重いからおろしていいよと言ったけどもう少し抱っこしててあげようと思った。ぼくもこうやって育ててもらったんだなと思った」と書いている。親は自分が育てた日々を、子は育てられた日々を追体験し、自己肯定観を持ちながら成長するという「循環」が示されている。「支援」とは「する者」「される者」があるのではなく、互いの「育ち合い」の形であるといえる。


成果と今後の課題

 障害児のサマースクールの手伝い等、他のグループの支援も始めた子どもスタッフや昨年県内の10サークルと手を結び設立した「ぎふ多胎ネット」など新たな組織や動きをさらに拡げ、「循環型子育て支援社会」の拡大を目指したい。