「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

水際での自殺防止活動
福井県福井市 特定非営利活動法人心に響く文集・編集局
自殺の現状

 今、日本の経済力は世界第2位と言われていますが、その経済繁栄の裏には自殺者が過去9年間連続して3万人を超えている異常さがあり、WHOからは先進国中で日本が一番自殺者が多いと指摘されています。
 日本国内には自殺の名所と謳われる場所が多くありますが、その代表的な場所として国立(定)公園内にある「東尋坊」や「青木が原樹海」があり、鉄道では「近畿日本鉄道や西日本旅客鉄道」を利用した自殺が指摘されています。


福井県・東尋坊の現伏

 東尋坊は、日本海に突き出た海抜25メートルほどある断崖絶壁の景勝地ですが、この地で産んだ高見順や高浜虚子などの著者により別名「自殺の名所」として不名誉な名前が付けられました。
 ここ東尋坊は、午後4時ごろになると観光客が引いてゴーストタウン化し、日没時を境に多くの自殺企図者が岩場に立って飛び込み自殺をするのです。
 この人たちは、北は北海道から南は九州・鹿児島まで、人生に疲れ、生きる望みを失い終焉の場所として岩場に立つのであり「お父さ~ん…!」「お母さ~ん…!」と叫んで飛び込んでいるため、別名「日本のバンザイクリフ」とも呼ばれています。
 この地を管轄する福井県坂井西警察署の調べによると、東尋坊での自殺者数は過去30年間で623人、ここ10年間で253人が亡くなり、自殺未遂者として保護される人は年間80人以上にのぼっていると発表されています。しかしこの数字からみると年間150人から200人の方が全国各地から自殺をしに来ているのに、そこでは何も自殺防止対策が講じられずに放置されていたのです。


活動開始の動機

 平成15年9月3日午後6時ころの薄暮時、東京から自殺しに来て保護された老夫婦が、数日後新潟県内で自殺した折、一通の遺書が届けられ「東尋坊での自殺者をなくして欲しい…」と切々とした訴えが綴られていました。私たちはこれに応えて自殺防止活動に取り組むことになったのです。
 人生の崖ヶ淵、いわゆる「死の淵」に立ち、この世に未練を残して強固な決意で東尋坊へ来た人は、たとえ観光客がいてもその目前で岩場から飛び込み自殺をするのですが、岩場に立った瞬間から死が怖くなり、またはこの世に対する未練が蘇った多くの人は片道切符で遣って来て無銭のため、他人に助けを求めることも出来ずに岩場をさ迷い、死の時間帯を待っているのです。
 この人たちは「救うことの出来る命」であり、「まだ、死にたくない…!」「誰か助けて欲しい…!」「出来るものなら、もう一度、人生をやり直したい…!」と叫んでいる人たちです。この実情を知った私たちは民間の手でも出来る対策はないかと考え、私費を投じてサポートセンターを設置する等して仲間を募り、車で約1時間かかる道のりを毎日のように通い詰める活動を開始したのです。


民間人による効果的な対策

 東尋坊の水際では、次の対策を採れば多くの尊い命が助かると考えました。
・「サポートセンターの設置」
・「常時パトロールの実施」
・「自殺企図者に対する各種支援活動」  etc


救助すべき対象者

 自殺を企図して東尋坊へ来た人の飛び込む寸前の姿は次のとおりです。
・岩場の最先端等に立ち、じーっと海面を見詰めている人
・うっそうと茂る松林の中にあるベンチで、独りで考え事をしている人
・土産屋さんの軒先でアルコールを苦々しく飲んで泣いている人  etc


活動内容

・主に、日没時の前後2時間に男女1組のペアによる常時パトロールの実施
・自殺企図者(遭遇者)や家出入の発見・保護活動
・遭遇者に対する悩み事解決のための各種支援活動


支援内容と成果(複数回答)

 過去3年間に106人の自殺企図者と遭遇して次の支援活動をしてきました。
①カウンセリングの実施(106人)
 悩み事・人生相談などに対応
②家族・会社等への送り込み(54人)
 問題解決のための仲裁に一役
③警察での保護依頼や犯罪被害者としての事件引継(21人)
 身体保護のための通報
④福祉関係機関へ付添い人となった引継(17人)
 生活保護申請等のための付添い人役
⑤生活ボランティア宅への送り込み(17人)
 当面の生活支援の仲介役
⑥法テラスなど財務処理団体へ付添い人となった引継(6人)
 借財処理に関する証拠書類の収集や付添い人役
⑦再就職のために付添い人となった紹介・斡旋(14人)
 ハローワークヘの同伴と就職時の保証人役
⑧その他(26人)
 東尋坊での自殺企図者の捜索願が寄せられておりその者の捜索  etc


われわれの活動に対する地元の反応

 私たちは、自主的に私費を投じて東尋坊での自殺者を1人でもなくしたいとの思いから自殺防止活動を始めてきましたが、地元自治体や観光協会からは
・観光地としてのイメージが悪くなるから自粛して欲しい
・全国から自殺志願者を呼び寄せることになるから自粛して欲しい
・自殺未遂者を保護することにより地元自治体の財政負担が多くなるから
 等と自粛を言われてきました。しかし、私たちの活動が徐々に理解されるようになり、活動開始時は地元民による清掃兼巡回が月1回行なわれていたものが昨年からは月4回の巡回になりました。また福井県からは「自殺ストレス―防止対策協議会」の一員に委嘱され、今後の県の施策にも反映される機会を得ており、更に、本年度の予定として9月10月の2か月間にわたり県下30数か所の自治会で行なわれる「命の大切さ」について巡回講演を受けています。


これまでの国内における活動

・昨年5月6月に県内外で署名活動を行ない、10月に「自殺対策基本法」が施行され、本年6月には同大綱が制定される運びとなりました。
・この大綱作りに、国の自殺予防総合対策センターからの要請を受けて数次にわたる研究会にも参加しました。
・平成16年4月「心に響く文集」、昨年10月「東尋坊~命の灯台」(太陽出版社)と題した図書を出版し、私たちの活動内容を全国に紹介しています。
・私たちが遭遇した106人との遭遇事例について、国や地元自治体・関係機関に「自殺防止対策速報」として逐一報告し理解を求めて来ています。
・昨年10月8日、「自殺対策シンポジューム福井県大会」をわれわれ民間の手で主催し、県民に命の大切さについての啓蒙活動を実施しました。
・福井県内をはじめ秋田県、宮城県、東京都、愛知県、岐阜県、三重県、奈良県、石川県、大阪府、京都府、兵庫県などの官・民関係機関からの要請を受けてこれまでに約60回の講演にも応じてきました。


国内外での広報活動

 私たちの活動について、NHK教育テレビや全国向けのテレビ放送も10数回取り上げられたほか、国外では、ドイツ、シンガポール、カナダ、英国、韓国などのマスコミでも報道されました。また、社会福祉関係機関や民間団体による視察研修に、国内外から多数の応募がありこれにも応じています。


評価

 私たちの活動が認められ、一昨年には国際ゾンタクラブ福井支部、昨年10月には財団法人毎日新聞社会事業団から「毎日社会福祉顕彰」が授与されました。


私たちの目標

 安倍内閣総理大臣が提唱している「美しい日本の創造」「再チャレンジができる日本」の実現に向け、
・東尋坊は、人生のスタートラインです…!
・東尋坊から、人生の再チャレンジを…!
・東尋坊では、もう自殺はできなくなったよ…!
等と提唱し、「美しい日本・東尋坊」として再生することです。