「あしたのまち・くらしづくり2008」掲載
<子育て支援活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

子どもも大人もつながり育ち合おう!
千葉県袖ケ浦市 NPO法人子どもるーぷ袖ケ浦
 2004年4月、NPO法人として新しいスタートを切った「子どもるーぷ袖ケ浦」は1991年に発足した「袖ケ浦おやこ劇場」が前身です。“子どもたちに夢と感動を!”と願う母親たちの手により誕生し、以来17年、子どもたちが感性豊かに育っていけるよう地域に根ざした活動を続けてきました。90作品を超える生の舞台鑑賞、キャンプなどの自然体験・あそびや表現ワークショップなどを通して子どもも大人も異年齢の仲間と出会い、感動を共有しながら育ち合ってきました。設立から2年後の1993年には、幼児を持つ親の日常的なつながりの必要性から幼児サークルを立ち上げ、母親たちが安心して子どもと過ごす時間が持てるような居場所づくりに取り組み、これが現在に至る子育て支援活動の出発点にもなっています。
 NPO化を考え始めたのは1998年。NPO推進部を発足させ、任意団体という権利も責任もあいまいな立場から人格ある団体として信用される組織にしていこうと学習会を重ねました。子どもたちの心の成長につながる活動と子育て家庭への支援をきちんと継続させていきたいと考えたのです。並行して地域の他団体や行政、学校にも理解してもらおうと働きかけ、7年をかけてNPO法人化しました。名称は「子どもるーぷ袖ケ浦」。子どもを中心として地域がひとつの輪になるよう願いをこめました。そして、“子どもたちには遊び仲間を! 親には子育て仲間を! 地域には子どもと大人の育ち合いの場を!”をキャッチフレーズに、地域のすべての子どもと子どもに関わるすべての大人を視野に入れ、一般に広く開いた事業を展開できるよう組織の見直しをしました。
 地域の結びつきが希薄になり子育ての孤立化が進む中、私たちが大切にしたキーワードは“居場所づくり”です。乳幼児を持つ親たちが人と関わり合いながら子育ての楽しさを共有する場、人と人とのつながりの温かさを感じてほっとできる場、子どもたちが心をいっぱい動かしワクワクドキドキするような生の体験ができる場、子どもも大人も親子の枠を超えて異年齢のたくさんの人たちと出会える場、さらにはそれらを積み重ねることで、ありのままの自分でいられることを心地よく感じ安心して子どもが育ち、子育てができる地域社会作りに寄与したいという思いがありました。
 まず、私たちの子育て支援事業は、子育ての大変さを肩代わりするものではなく、在宅で子育てする親が孤独感や疎外感を抱え込まないようにサポートすることを目指しました。2003年に始まった「赤ちゃんとお母さんのためのコンサート」は、おやこ劇場の時代から培ってきた生の芸術との出会いを赤ちゃんとその親にも広げた取り組みです。子育ての先輩お母さんがスタッフとして関わる中で、乳幼児といっしょに安心して参加でき、生の音楽に触れることでやさしい気持ちになれるよう雰囲気作りにも気を配りました。コンサートのあとの茶話会が思いのほか好評だったことから、一杯の飲み物とそれをはさんでのおしゃべりも、新米ママたちにとって大切な時間なんだと改めて気づき、その年の11月には0〜2歳の赤ちゃんとお母さんのための「ほっとティーのおへや」を始めました。その後、市が子育て支援センターを2か所、福祉協議会が子育てサロンを1か所開設しましたので、私たちはこの7月から試みに「ファーストベビーの日」を設け、支援センターなどに行くにはまだ少し早いと思われる12か月までの初めての赤ちゃんを持つ家庭に対し、ゆったりとした場を提供できるよう考えています。
 2005年には、支援する人もされる人も共に母親である当事者が子育てしやすい街になるよう自ら発信していくことのが大切と考え「子育て応援マップ」と「子育て応援メッセ」に取り組みました。子育て応援マップは、近隣市の高校生たちが作った1枚の子育てマップに刺激を受け、子育て真っ最中の母親たちの目線で本当に必要な情報を盛り込んだマップを私たちも作りたいと、半年がかりでB4判1枚の第1弾を作成。その後スタッフを増やして地域別の公園調査や近隣市の子育て支援情報も集め、13ページの立派な冊子「ままっぷ」を完成させました。それが行政の目に留まり、次の年には児童家庭課からの助成で1000部を発行。今年はそれをベースに市が予算をつけて業者に発注し100ページのすばらしい「子育てガイドブック」につながっています。子育ての当事者である若い母親たちの努力の賜物であり、市との連携も大きく進みました。
 任意団体時代がとても長かった私たちが一番苦労したのが、他団体とのネットワーク事業でした。居場所づくりを色々な形で進めながらも、それは点でしかなくなかなか面にならないもどかしさがあったのです。地域に子育て支援の輪を広げたいと願いつつ、孤軍奮闘の感があった時に、「子育て応援メッセ」という取り組みを知りました。千葉県内で初めて手がけられた船橋市でのメッセを見学に行き、これだ!!と実感。そこでは子育て応援マップに載っているような情報を目で見て、手に取り、人と話して得られる。子育てを応援してくれる人たちの温かさを肌で感じることができる。食べたり、飲んだりしてほっと一息つけて、子どもたちを遊ばせる場所もある。親子で人形劇などの催しに参加でき、サポートしてくれるスタッフがたくさんいる。何よりも協力団体の多さに驚きました。児童家庭課長と共に見学し、イメージを共有できたことは、袖ケ浦版子育て応援メッセを創り上げていく上で大きな力となりました。NPO支援の一環として、市との共催の形がすぐに整い、協力団体への呼びかけも会議の設定もスムーズに進みました。「来て! 見て! あそぼ!」をテーマに、その日一日が子育て家庭にとってのおまつりや文化祭のように盛りたくさんになるように知恵を絞りました。ただ楽しいだけでなく、出会いがあったり、発見があったり、癒されたり、パワーをもらったり、明日からまた子育てがんばろうという気持ちになってくれることを大きな目的としたのです。
 今年7月6日には第4回目が開催され、今までに一番多い、445人の参加がありました。うちスタッフは97人。行政・地域の関係機関、他団体、そしてボランティア精神で各コーナーを盛り上げてくれたアーティストたち。エンディングは近隣市の子育て支援NPOのコミュニケーションゲームで支援する人も子育て真っ最中の人も、大人も子どもも共にひとところでつながり、気持ちを通い合わせた大団円。メッセは子どもるーぷという名にふさわしい、子どもを真ん中にした“子育ての輪”が感じられる素敵な事業に育っていると言えます。そして同時に、居場所づくりが点ではなく面になりつつあると感じさせてくれる大切な事業でもあるのです。
 仕事ではなく家庭育児を選んだ母親に接していて感じるのは、子どもと常に向かい合っているために、仕事と育児を切り替えられる親より、かえって悩んだりするのではないかということです。一日の中の気持ちにボーダーラインがなく、評価してくれる人もいないために、自己肯定感を持ちにくいということもあるでしょう。ただこれらは、煮詰まってしまう前にちょっとした手助けがあれば解決できると感じています。
 NPOの大事な役割が、地域の課題を見つけそれを周りに発信することで課題の解決につなげることにあるとすれば、メッセは確実にその一歩になっていると思います。しかし子育て応援メッセが一年の中のたった一日である限り、一歩のままです。この一日をいつ行っても子育て中の親や子どもの気持ちに寄り添えるスタッフがいて、安らげる場があって、地域のホットな情報があり、小さなSOSもちゃんと受け止めてくれてどこかにつないでくれる、そんな常設の空間にすることが今の私たちの夢です。それが実現して初めて居場所づくりが面として機能し、課題の解決に向けて大きく前に進み出せると考えるからです。子育てする親や子どもにとって、拠り所となるようなそんな子育ち応援・子育て支援の核となる場をこの袖ケ浦に創ることができたら・・・とそれを願って今後も活動していきたいと思っています。