「あしたのまち・くらしづくり2008」掲載
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

「みんながよくなる」まちづくり
福井県若狭町 若狭熊川宿まちづくり特別委員会
若狭熊川宿について

 熊川は、福井県の西南、三方上中郡若狭町にあり、若狭湾と京の都を結ぶ鯖街道の中継地点の「宿場町」として江戸時代より大いに繁栄しました。街道に面して多様な形式の建物が建ち並び、連続した美しい町並みを形成しています。
 平成8年に文部省「重要伝統的建造物群保存地区(以下「重伝建」という)」に選定され、同時に建設省「歴史国道」、国土庁「水の郷」にも選ばれました。平成19年に国土交通省「日本風景街道」に登録されました。また平成20年、街道に沿って流れる『熊川宿前川』が環境省「平成の名水百選」に選定されました。


設立の経緯と目的

 昭和56年に町並みの調査が行なわれたことを契機に、「熊川宿町並みを守る会」が誕生し、昭和58年に「熊川宿町並み保存特別委員会」に改称。平成7年より、現在の「若狭熊川宿まちづくり特別委員会」になりました。
 「鯖街道の愛称をもち親しまれてきた街道の拠点、熊川宿の歴史的遺産である町並みを生かした住環境の整備を実現しながら、美しく住みよい独自のまちづくりを進めていくことと、今後熊川で実施されるまちづくり事業を検討していく。」ことを目的として活動を始めました。

1.「重伝建」選定に向けて、景観整備の全体的調整を開始
 「どんな町並みになるのだろう」「活気のある熊川になって欲しい」などの希望や期待とともに、「どのような修理修景をするのか」「建築制限が多く住みにくいのではないか」「観光地化により荒れないか」などの不安もありました。
 そこで、修理修景に関する住民への説明、関係機関との意見調整や支援要請などを行ないました。
 先進地や各界の先生を招いて住民向けの会議や講演会の開催、視察研修の実施、平成7年度から16年度まで「まちづくりフォーラム」を10回開催して、「町並みを活かしたまちづくり」をめざして、住民とともに学び、活動を開始しました。

2.歴史と文化の保存・継承
 平成8年度に文部省の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定され、民家の修理修景が開始されました。提灯行列を行ない区民みんなで選定を祝いました。
 平成9年度には、若狭鯖街道熊川宿資料館「宿場館」がオープン。また、公開交流施設として活用されている旧逸見勘兵衛家住宅の整備も完成しました。
 住民の理解と協力、関係機関のご支援により、着々と景観整備が進んでいきました。同時に、文化の保存継承、地域活性化への動きが出てきました。
 平成10年度に、京都の一乗寺郷土芸能保存会との交流、ご指導により80年ぶりに「てっせん踊り」が復活し、「熊川宿伝統芸能保存会」が結成されました。現在も毎月10日・20日にてっせん踊りや熊川音頭、祭り囃子の練習を行ない、盆踊りやイベントで披露し、伝統文化の継承に努めています。
 つる細工教室を開講し、手作り民芸品や木工細工の製作が始まり、「つるの会」を結成しました。
 また「語り部の会」を結成し、町内から募集して学習会を開催しました。現在、熊川の歴史と町並みの語り部として活躍しています。
 平成11年度に、熊川宿の東側入口に道の駅「若狭熊川宿」が完成し、中ノ町の前川石積み護岸や地道風舗装、電線地中化など、宿場町として美しい町並みがよみがえりました。
 秋には、「熊川いっぷく時代村」が開催され、以後毎年、実行委員会が主体となり、町並みを活かし工夫を凝らしたイベントが行なわれ、町内外や県内外からも多くのお客さんが訪れ、交流を図っています。
 このような住民の自主的な活動が認められ、平成10年度に福井新聞社文化賞奨励賞を受賞、平成12年度に建設省「手づくり郷土賞」の認定を受けました。

3.町並み通信『鯖街道熊川宿』の創刊。まちづくり活動を全国へ発信
 平成12年6月より毎年2~3回、熊川宿の様子や行事、区民の寄稿を中心に掲載して発行。区内全戸と、全国の関係機関とまちづくり団体へ送付し、好評を得ています。16年度に第10号記念号を発行。また、17年度と19年度に、あすの福井県を創る協会ふるさとづくり広報紙コンクールで優秀賞を受賞しました。
 平成13年度には、街道から周囲の山へ自然散策できる「一峯遊歩道」を手づくりで整備し、西口公園を整備完成させるなど、宿場周辺の整備も進めました。また、重伝建選定5周年を記念してイベントを開催しました。

4.山車と見送幕を復元。賑やかなお祭りがよみがえる
 平成13・14年の文化庁ふるさと文化再興事業により、永年の念願であった山車と見送幕が復元され、40年ぶりに山車巡行を復活できました。一時期途絶えかけていた白石神社の春の祭礼や囃子ですが、今では、区民や観光客みんなで山車を曳き、賑やかで華やかな祭りとなっています。
 平成15年度に、極めて貴重な歴史遺産である「熊川番所」が、全国の重伝建地区のなかでも唯一、復原されました。

5.まちづくりから自立へ向けて
 平成15年度に「熊川まちづくり憲章」「まちづくり申合せ事項」を制定。先人から受け継いだ大切な伝統的町並みを共有財産と考え、ここの自然・風土から生まれた木造民家の良さを体感しながら、自主的で継続可能な「みんながよくなる」まちづくりを進めていくことを確認し合いました。
 平成16年度にブータン王国との歴史的建造物保存文化交流を2回行ない、17年度に韓国の鯖街道にちなむ交流など、鯖街道沿線はじめ全国や海外の団体との交流を行ないました。
 平成17年度の下・上ノ町景観整備完了に伴い、宿場全域の景観整備が完了しました。まちづくり活動もソフト事業に力を入れていきました。
 宿場館にコインロッカー設置、宿場館前の井戸ポンプ整備など、歴史的町並みと周辺環境の保全に努めるとともに、住みやすい環境づくりをめざし、まちづくり連続講座を5回開催、あす県「みんなで創る住みよいコミュニティ」事業推進地区の指定を受けました。
 平成18年度には、日本風景街道モデルルート事業開始、全国都市再生モデル調査事業など、自立したまちづくりをめざした事業を行ないました。
 また、熊川宿ホームページを開設し、熊川宿のまちづくりを全国へ発信しています。

 平成18年度に、「第2次熊川まちづくりマスタープラン」を策定しました。町並みが美しくなるにつれ、観光客の増加や少子高齢化など、住民の生活に影響する問題も現れてきました。そのため策定委員会を結成し、議論を重ね、今後のまちづくりの目標として次の項目を挙げました。
1.熊川に住むすべての人が幸せで快適な生活を送れる環境づくり
2.熊川の資源を活用し、まちづくりを継続できるしくみづくり
3.熊川を訪れる人をもてなす魅力づくり
 これらの目標を達成するため、五つの基本方針を定めました。
①歴史的町並みと周辺環境の保全
②安全で住みやすい住居環境の創造
③資源の活用と産業の振興
④「みんながよくなる」まちづくり
⑤鯖街道ネットワークの構築
 現在、これらの方針に沿って、活動が進められています。

 平成19年度には、「鯖街道交流シンポジウム」を開催。鯖街道を舞台に活躍している福井・滋賀・京都の各住民団体代表の方に集まっていただき、交流を深めました。
 来訪者(観光客)おもてなしのために「熊川宿おもてなしの会」を発足。旧逸見勘兵衛家住宅で葛ようかんやコーヒーの店「勘兵衛茶屋」を開設しました。
 また、国土交通省の日本風景街道「若狭熊川・鯖街道」として正式登録され、活動団体パンフレット作成、風景街道ルート研修・意見交換会(丹後半島「古代ロマン街道」)、子ども語り部育成・テキスト作成、町並み防災研修(東近江市五個荘金堂地区)、おもてなしの会茶道研修・ギャラリー運営、案内看板の作成など、多彩な事業を実施しました。
 中でも、平成20年2月に開催された「まちづくり総集会」では、子ども語り部育成の一環として「熊川調べ」発表会を開催。元気な熊川小学校児童と多くの住民の参加をいただきました。3月には「子ども語り部」が実施され、かわいい語り部たちが大変好評でした。
 平成20年、「熊川宿前川」が環境省の「平成の名水百選」に選定されました。熊川宿の街道に沿って流れる前川は、町並みと実に良く調和して、熊川宿の歴史的景観に重要な役割を果たす環境資源となっています。日頃よりの住民による清掃・美化活動が認められたものと喜んでいます。今後も先人の作ったこの環境を大切に守っていきたいと心を新たにしています。


まとめと今後のまちづくり活動

 当委員会のまちづくり活動は、「重伝建」選定とともに、修理修景に関する住民への説明、関係機関との意見調整などで始まりました。
 住民の理解と協力、関係機関のご支援のお陰で景観整備も完了し、美しい町並みがよみがえり、伝統芸能や祭りの復活、いっぷく時代村の開催など、地域にも活気が出てきました。
 今後も、住民に、町並み保存やまちづくりに対する理解を求めていくとともに、駐車場や前川等の清掃、周辺の草刈りを続けて、熊川宿の歴史や文化、町並み・川・山など美しい自然の調和を守っていきたい。
 また、「町並み部会」「広報部会」「活性化部会」の活動を活発にして、鯖街道沿線はもちろん、全国のまちづくり団体とも交流を深めていきたい。
 まちづくりに終点はないと考えています。「みんながよくなる」まちづくりを、みんなで力を合せて進めていきたいと思っています。