「あしたのまち・くらしづくり2009」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

住みよい地域づくり―住民自治のまちづくり―
三重県伊賀市 柘植地域まちづくり協議会
三重県伊賀市柘植地域の概況

 伊賀市は、三重県の北西部に位置し、平成16年11月に1市3町2村が合併して誕生した10万都市である。柘植地域は、伊賀市の東北端に位置し、人口が約4100人、12の区で構成され、小学校と中学校がそれぞれ一つずつある。
 柘植は、俳聖松尾芭蕉の生誕地(上野説もある)、文豪横光利一が少年期を過ごした地であるほか、国定公園になっているつつじの名所余野公園、元伊勢神宮の都美恵神社など、歴史・文化・自然が豊かな地域でもある。


伊賀市における住民自治のしくみ

 伊賀市では、平成13年から始まった市町村合併協議の中で、公募で集まった市民により伊賀流住民自治の仕組みが提案され、その内容は平成16年12月に伊賀市自治基本条例として制度化されている。その内容の説明は省略するが、住民自治組織の設立はあくまで任意であるものの、条例に定める一定の要件(公益性や民主性、公開性、計画性など)を満たせば、市からは財政的な支援などを受けることができる。
 現在、伊賀市では37地区で住民自治組織が設立され、それぞれに特徴のある活動を行なっているが、この中でも早い段階から組織を立ち上げ、数多くの先導的な取り組みを活発に行なっている柘植地域まちづくり協議会の事例を紹介する。


柘植地域での組織・計画づくり

 柘植地域では、合併の1年以上前から、区長が中心となって組織づくりや計画づくりの準備を行ない、公募委員や各区長の推薦者など計69名により、平成16年2月に「柘植地域まちづくり協議会」を発足させた。構成員には9名の公募委員や23名の女性が入っているほか、各地区でまちづくりに熱心とされる人の参加を呼びかけたことなどが特徴である。
 協議会が最初に取り組んだまちづくり計画の策定では、全委員を対象にした研修会を実施し、6つの部会に分かれて地域の現状把握や課題抽出が行なわれた。この作業では、中学生以上の全住民を対象にしたアンケート調査や現地フィールドワークなどを行ない、ワークショップの手法などを用いて整理している。次に、部会毎に各分野の「まちづくりの目標」や「基本方針」、具体的な取り組みの内容を検討し、実施主体を「住民」「住民と行政」「行政」に分類整理して役割分担を明確にするとともに、実施時期を「短期」「中期」「長期」に分けて、取り組みの優先順位を明らかにしている。
 半年ほどの間に約60回の検討会を開催してまとめた「まちづくり計画(中間案)」を全戸配布するとともに、住民説明会やパブリックコメントを経て、平成16年10月に「柘植地域まちづくり計画」が伊賀市では最初に完成した。なお、パブリックコメントでは約50件の意見が寄せられ、住民のまちづくりに対する関心の高さがうかがえた。


まちづくりに関する情報の共有

 住民自治活動の基盤として、きめ細かな情報提供を行なうため、広報紙「柘植地域まちづくりだより」が毎月発行され、平成21年9月時点で第75号が発行されている。また、各区との連携により広報紙が全戸配布され、各区で毎月開催される常会を通じて、全世帯へまちづくりの情報が行き届いている。
 柘植地域には、青少年育成や福祉、スポーツ、教育、まちづくりなど、実に様々な団体が活動している。これらの団体と地域の課題を共有し、連携した活動をすることが大切であるとの観点から、各種団体の活動状況を調査・整理し、各区や各種団体とまちづくり協議会との役割分担や連携などに役立てている。


まちづくり協議会の組織

 図のとおり、協議会の構成員は、地域に居住・所在・活動しているあらゆる主体(個人、団体、事業所等)を位置づけているが、全員が参加して総会等を開催することは実質的に難しいため、協議会の運営や実行に関心を持つ者が自由に部会員となり、総会へも参加できるしくみを設けている。運営委員会には、各区の代表者がメンバーに入っており、地域との連携が図られているほか、個々の取組に個人や各種団体などが参加しやすいよう特定テーマごとに実行委員会を設けている。なお、総会の構成者は200余名である。
 協議会の事務局は、広報や経理などを行ない協議会活動に重要な役割を担っているものの、常駐職員はおらず、会員が週2日程度ボランティアで交代して対応している。


主な取組事例

 平成21年度の事業計画・予算は、五つの部会で17事業あり、運営費を含めた総予算額は約200万円である。これまでに取り組んできた活動の中から、主なものを紹介する。
@学童保育
 住民ニーズが高く早期の実現が課題となっていた学童保育について、まちづくり協議会のほか保護者や小学校、市行政、NPO、主任児童委員などが参画して「学童保育事業準備協議会」を設置し、検討を重ねた結果、平成17年4月から放課後児童クラブが設立された。地域で介護福祉サービスを行なっているNPO法人ふれあいステーション都美恵が、学校近くの民間の空き家を活用し、市の委託事業として同クラブを運営している。運営にあたっては、まちづくり協議会、民生児童委員、ふれあいステーション都美恵、小学校、PTA、保護者代表などで構成する運営委員会を設置している。指導員は平成21年4月現在で10名、利用登録者は20名である。同クラブに隣接し、学童保育の利用者が多い区からは、遊具なども寄贈されている。

A教育ボランティア
 住民による保育園や小中学校へのボランティア活動を行なうため、平成17年1月に「教育ボランティア」を設けた。無理のない範囲で気軽にボランティアに参加してもらおうと、「あなたの30分を子どもたちのために」をキャッチフレーズに参加者を募集し、現在約50名の登録者が活動している。
 活動内容は、学校や保育園側とも話し合いのうえ決められ、ボランティアの役員が登録された人の活動計画などを調整している。具体的には、学校での奉仕作業、図書整理、登下校時のあいさつと見守り、インターンシップの移送支援、育友会との懇談、小学校のフェスティバルへの参加などを行なっている。学校側もこうしたボランティア活動を支援するため、小学校の余裕教室を会合スペースとして提供している。

B災害弱者の見守りネットワーク
 地域住民による防災体制のしくみづくりの一つとして、要援護者の避難支援を中心に地域住民の避難も包括した「災害時安否確認マニュアル」が平成18年に完成した。これは、早期より住民自らが研修会や勉強会、視察調査などを通じて学習し、市社会福祉協議会や市民活動支援センターの専門的な支援も受けながらマニュアル作りに取り組んできたものである。
 そして、このマニュアルを使った柘植地域全体の研修会が平成18年12月に開催され、その後、各区で災害時要援護者への支援ネットワークづくりの具体化を進めた。こうした取り組みは、協議会の1部会や単独の自治会だけで担うのは困難で、市や市社会福祉協議会、自主防災組織、老人会、民生委員など様々な組織の協力により行なわれている。平成19年9月には、住民の見守りネットワークを実践するため、全12区で合同防災避難訓練が実施され、住民全員の安否確認を行なった。
 こうした活動には、ある程度の経費もかかるが、県の補助制度などをうまく活用し、市社会福祉協議会と事業連携するといった工夫をしている。
 なお、これらの活動が評価され、平成20年度に三重県の「みえ防災大賞」を受賞しているほか、この取り組みに対する視察や講演依頼も全国各地から多く来ている。

C観光絵地図・案内標識の作成
 これまでは、柘植地域のみを紹介する地図がなかったことから、約2年間かけて、各区の名所・旧跡、見所などを調査、検討し、観光マップを平成18年度に完成させた。作成にあたっては、住民自らが写真を撮影し、解説を書いたほか、コンピュータグラフィックの専門知識を有する住民の協力も得ている。なお、地元の商店や企業の名称を記載する代わりに協賛金2000円を徴収し、完成したマップの配置協力も得ている。
 また、柘植地域には東海自然歩道や国定公園などがあり、地域外からのハイカーが多く訪れることから、起点となる柘植駅やハイキングコースの要所に案内標識を平成19年度に設置した。整備に必要な費用は市の助成金を主に活用しているが、内容の検討にあたっては、生息系調査に詳しい人材や地域事情に明るい方の協力を得て行なわれた。

D柘植の斎王群行
 柘植には、平安時代初期に頓宮が置かれ、10代の斎王が京の都から伊勢へ行く途中に立ち寄ったという歴史があり、こうした地域資源を生かそうと平成14年に文化グループ「ランプの会」が細々と群行の再現に向けた取り組みを行なっていた。この活動を地域全体で盛り上げようと、平成20年に各種文化団体や各区、学校などと連携して実行委員会を組織し、約120人のスタッフが約半年かけて輿や衣装などを手作りで製作し、同年9月28日には約50人からなる時代行列が再現された。なお、こうした取り組みを進めていく中で、輿や衣装などの製作に必要な技術を有する人材が発掘されたり、群行行列の配役をきっかけにまちづくりへの参加意欲が向上するといった効果も生じている。また、事業の実施に必要な費用は、市や民間の助成制度を活用するほか、地域の事業所の協賛や住民の寄付も得ている。


活動面での特徴のまとめ

 協議会では、毎年度の事業計画を検討する際などに、各部会でこれまでの活動内容を検証し、常に改善が試みられている。また、各部会が活動する中で、テーマごとに関係する多様な主体が参画し、地域の課題や住民のニーズに対応した具体的な取り組みにつなげているものが多くある。さらに、地域の人のつながりの濃さを活かして、各事業にふさわしい人材の参加を得たり、新たなまちづくり活動への参加の機会を設けて、担い手の継承にも配慮している。