「あしたのまち・くらしづくり2009」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

ふれあい花壇づくりで地域づくり
岩手県一関市 一関市千厩町第13区自治会
古くて新しいふるさとらしさ

 私たちの第13区自治会ふれあい花壇は、岩手県南部、一関市千厩町清田の国道沿いの休耕田にあります。毎年多くの見物客で静かににぎわうお花畑です。見物客は、近郷近在はもとより遠くは首都圏からのリピーターも多く、シーズンだけで1万人以上を数えます。
 訪れる人々が自由気ままな時間を思い思いに過ごしていく、そんな花園です。
 この交流空間であるふれあい花壇で、花を見る人は花を育てる人の姿と接し、そして語らいを通じて生きるということを見つめ直し、忘れかけていた人の温もりや優しさをきっと感じることができると思います。きっとふれあい花壇には、人の和という日本古来の文化と創作花壇という新しい文化の融合という個性があり、それは、「古くて新しいふるさとらしさ」と言ってもよいのではないかと思っています。


千厩は花いっぱいのまち

 岩手県一関市千厩町は、古くは産金や源義経の愛馬・大夫黒の馬産地として名高く、養蚕や葉タバコの主要産地として、また宮城県気仙沼市の観光港と岩手県一関市のJR一ノ関駅や平泉・中尊寺との中間点、交通の要衝、東磐井地方の政治、経済、教育の中心として栄えてきた中山間の町です。
 ふれあい花壇は、一関市と気仙沼市を東西に結ぶ国道284号(旧気仙沼街道)沿いのJR大船渡線千厩駅と小梨駅のほぼ中間にあり、平成15年度(2003年)第40回全国花いっぱいコンクール(日本花いっぱい連盟など主催)で最高賞の内閣総理大臣賞を受賞しました。
 また、ふれあい花壇の近くには、沿道花壇など大臣表彰を受けた花壇や岩手県コンクール入賞の花壇がたくさんあるほか、多くの自治会、家庭で花づくりに取り組んでいることから、花いっぱいのまちとなっています。


ふれあい花壇は交通安全がはじまり

 私たちの地域の花壇づくりの歴史は古く、1970年(昭和45年)の岩手国体を契機に特に盛んになりました。当時は、地域の交通安全母の会が中心となって国道沿線に花壇を数㎞にわたってつくってきました。今日も、以前よりは距離は短くなったものの、国道沿いには花壇があります。この沿道花壇づくりは20年ほど続いてきましたが、地域の人口減少に伴う会員の不足や高齢化により交通安全母の会での継続が難しくなったため、1995年(平成7年)に第13区自治会で引き継ぎ「ふれあい花壇」として今日に至っています。
 花壇の名前は地域住民のふれあいを第一義として名づけ、花壇づくりは地域住民の全世帯で構成する「第13区自治会」が全員参加で行なっています。
 花壇づくりは、無償で借り受けた休耕田をキャンパスに、子どもから大人まで土と汗にまみれて、一人ひとりの特技を生かした労力奉仕で成り立っているのが特徴です。土づくりに必要な堆肥は会員の酪農家が提供、耕起などの機械作業も全て奉仕に支えられています。
 4月上旬の種まきから、育苗、仮植、定植とすべて自前で行ない、休耕田を利用した花壇約800平方メートルに42種類1万本以上の花を毎年咲かせ続けています。
 また、6月から10月までのシーズン中の花壇の管理は、隣組単位に交代で毎週日曜日に、草取り、花殻摘み、周辺の草刈りを実施しているほか、毎日の散水は、花壇近くの会員により行なっています。
 私たちは自ら日常管理に努めることで、花づくりを通したふれあいと共同の和と輪を広め、そして花壇に訪れる多くの人々との語らいなどの交流を何より大切に楽しみにしています。


千厩町第13区自治会・ふれあい花壇の概略

・花壇の位置 岩手県一関市千厩町清田字境
・自治会設立 1988年(昭和63年)1月31日 会員326世帯、90戸
・育苗規模 年間約4万本(うち受託販売苗約3万本)
 ※花苗の供給先は、市町村の自治会、学校など。・花の種類 40種類
・花壇開設期間等 毎年5月~10月(見ごろは7月中旬から10月上旬)
・原則無人管理、視察、団体見学等には随時、地域住民が対応している。
●最近の主な受賞歴
2006年 地域づくり総務大臣賞、岩手日日新聞社文化賞
2005年 岩手県地域づくり賞(県知事表彰)
2004年 第41回全国花いっぱいコンクール毎日新聞社賞
2004年 花の観光地づくり大賞奨励賞・花の賑わい賞
2003年 第40回全国花いっぱいコンクール内閣総理大臣賞


花壇のテーマは子どもたち

 花壇を設置したころは、テーマを決めるのに一番苦労しました。テレビ番組や漫画をヒントに作ってきましたが、もうひとつ物足りなさが残りました。そうした折、地元の市立清田小学校に新入生が1人もいない年があったことがきっかけで、少子高齢化社会を実感、地域で子育てする気運が大切と考えるようになり、花壇のテーマを子どもにすることになりました。
 こうして子どもたちをテーマにした花壇づくりがスタートし、2003年(平成15年)には、地域待望の10人の新1年生が入学しました。この子どもたちが仲良く手をつないでいる構図を花で表現しようと考えた花壇が花いっぱいコンクール日本一に輝きました。2004年(平成16年)は、5人の新入学児童が花壇に吹く心地よい風を心で感じ、元気に歌っている様子をデザイン。2005年(平成17年)には、入学した9名がふれあい花壇でかくれんぼをしている姿を表現。2006年(平成18年)には入学した8名のともだちが花壇で「かけっこ」をしている姿を表現しました。2007年(平成19年)は花壇でお母さんたちとつなひきをしている姿です。2008年(平成20年)は8名のともだちが「なわとび」の姿でお出でになった方々に喜んでいただきました。


みんなでつくる誇れる地域に

 花壇づくりに参加することで、幅広い年代の地域の人々との交流から、コミュニケーションが高まり、豊かな心が自然に育っているようです。花壇づくり以外の地域の行事にも子どもから高齢者まで多くの人々が参加する地域に生まれ変わりました。高齢者を対象とした「いきいきサロン」。公民館祭りでは創作劇での出演。
 学校行事の運動会や学習発表会などにも子どもがいない家庭も参加する地域となりました。
 今は普通のこうした取り組みも、以前は全くダメで、13区はお荷物だと言われ続けてきました。そうした中、花づくりの好きな人たちが立ち上がり、ふれあい花壇を始めてからは、地域は大きく変わりました。「地域のみんなが協力し合い、自らの地域をつくっていこう」今は、誰言わずとも理屈ぬきの機運があり、できる限り花壇づくりを続けたい、そして誇れる地域にしたいとみんなが思っています。


勝手に応援してくれる人々とのふれあい

 平成17年7月には、マスコミの方々への感謝の意味もこめて、NHKテレビBS1の人気番組「オーイニッポン!私の好きな岩手県」に自治会あげて協力しました。それは、盛岡市の御所湖畔(千厩から約120キロ離れている)に宮沢賢治に捧げる花壇をつくりあげるという一大イベントでした。私たちは、その花壇に植える花苗約1万本を無償で運搬提供、しかも定植とその後の草取りにも参加させていただきました。これも花を通じたふれいあいが大きな輪となり、すばらしい地域、私たちの好きな岩手になればとのみんなの願いが一つになってできたと思っています。
 そして、今は、市内の若者のグループが、花めぐり勝手に応援する会を結成して、ふれあい花壇や市内の有名花壇を全国に紹介する活動を始めてくれました。「花の縁めぐり」と言って、花と人の縁を大切にする取り組みで、花めぐりマップ作成や花だよりの発行などにより、応援してくれています。ふれあい花壇は、この事業の「千厩花と庭の路第三番縁処」として全国に発信されています。花壇で屋外コーラスなどのイベントも開かれますので、私たちの自治会もできるだけ協力しながら、こうした方々とのふれあいを大事にしていきたいと考えています。


何もないけど心がある

 ふれあい花壇を訪れる人々は、遠くは東京、神奈川など首都圏からも結構お出でいただいています。こうした人たちは、毎年、そして年に2、3度は来ると言います。そして、「何もないからいい。のんびりした時間がたまらない」と言います。花壇の周りは里山、国道を流れるように走る車も不思議に気になりません。青い空に緑の山々、気がつけばドラゴンレールと呼ばれるローカル線を走るディーゼルカーがトンネルあたりで汽笛を鳴らす所。こういうロケーションのふれあい花壇です。
 そして、地域をあげての取り組みに驚かれます。目新しいものなどに何もない田舎、あるのは「ふれあい花壇」と私たちの心だけなのですが。


夢は「静かなにぎわい心なごむ花の駅」

 第13区自治会では一つの夢の実現を目指しています。それは、花壇のすぐそばを通る国道が急カーブの交通の難所となっていることから、大掛かりな改良工事が進められています。
 私たちは、長年あたためていた花壇を中心とした休憩施設や農家レストランなど里山の風景をキャンパスにした花の駅の構想が具体化することになり、たいへん喜んでいます。この花の駅は、奥羽山系の温泉地と景勝の多い三陸の海への中継拠点として、また、花と人との交流拠点として位置づけることができ、きっと静かなにぎわいの心なごむふるさととして、多くの旅人によろこんでもらえるのではないかと期待しています。
 今年も、桜の咲く頃撤いた種は、とても立派な花に成長しました。そして多くの皆さんにふれあい花壇に来ていただいています。今年も頑張っているねと言ってもらえるのは、本当にうれいしものです。みんなでつくる「ふれあい花壇」、それは私たちの誇りです。