「あしたのまち・くらしづくり2009」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

園芸福祉で地域づくりを
三重県多気町 三重県立相可高等学校
 私たちは、園芸を通し、健全な心身を培い、豊かな心をはぐくみ、幸せになりたいと考える人たちに対して、園芸福祉に関する活動を行ない、もって地域社会への福祉の推進に寄与したいと考えました。時代は、お金で何不自由なく物を手に入れる社会から自然環境との共生ができる社会へ移行されています。つまり、お金で幸せを買う時代から豊かな自然や心から幸せが生まれる時代なのです。これらを可能にするひとつの手段が農業や園芸を通しての福祉活動だと私たちは考えます。
 園芸福祉の活動には子どもから大人まで、さらには障がいのある方や高齢者など様々な方が参加します。その方たちが安心して作業ができる環境づくりを最初に行ないました。車椅子でも園芸の作業が可能なレイズドベット、さらに、運動効果を高めるだけでなく、四季折々の花を植えることにより心が癒される効果を考え、空き地に花壇も造りました。また、車椅子用の作業テーブル、手が不自由な方に対しての園芸用の道具を作製し園芸福祉に取り組みました。また、相可高校総合農場ではユニバーサルデザイン化されたハウスや周辺整備に取り組み、すべての人が楽しめる農園づくりを目指しました。
 園芸福祉を行なうには作業プログラムにより作業を進める事が大切だと考えます。そこで私たちは作業プログラムづくりに向け取り組み始めました。高齢者施設では色々なハーブを使っての効果を調査しました。また、多気町内の保育園の協力により心理学的観点から色の使い方による調査・研究を行ないました。調査方法としては、町内の保育所の協力を得て、事前に画用紙に指定した色のクレヨンや絵の具で好きな絵をかいてもらいます。そして、色々な花苗を持って土や花や葉っぱにさわったりしながら植物に慣れ親しみプランターに植えます。そして作業の後、白いプランターへ絵を書いてもらい、色による心理状態を調査しました。
 例えば、黒と紫が目立つ子どもがいろいろな色を使ったとてもカラフルな作品を作ったり、父親への求愛を表す黄と黒を使う子が向上心を表す青色や緑色も多く使うようになりました。この調査から園芸の作業で不安から安心へと心理を変えることが可能なのだとわかりました。そして、高校生でも無理なく活動できる作業プログラムを完成させることができました。特徴としては効果の認められた、ハーブの作業、そして、カラフルな色の刺激を考えて花を用いた作業を中心にしたことです。この作業プログラムにより起き上がるにも介護が必要なおばあちゃんが花の管理が出来るまで回復したのです。
 これら活動が認められ、日本園芸福祉普及協会より現在初級園芸福祉士の資格取得に向けた講座が受講できるモデル校として認定され、私たちを含め多くの園芸福祉士が相可高校から誕生しています。
 しかし、高校生による活動には資金不足や活動範囲の制限など多くの問題点があり一部の活動において支障が出ることがありました。また、私たちの課題にもあるように経営や運営に関することもとても大切だと考えます。また、将来の農業経営や起業を目指したいと考える私たちは、現代の経営環境に対応する必要があります。そこでNPO法人の取得を目標に取り組みました。でも、NPO法人と言っても簡単に取得することはできません。NPO法人設立のための活動を行ない、活動の目的に関することや社員・役員に関することなど多くの要件を満たさなければいけないのです。また、法人格を取得すると色々な意義があります。しかし、反対に法人化に伴い様々な義務も生じてくるのです。私たちは設立メンバーを結成し、団体の目的、目的達成のために行なうべき活動などを明確にしました。そして、設立総会を開催し、定款の承認や役員の選出などの審議を行ない、特定非営利活動法人「植える美ing」の設立を満場一致で議決したのです。ちなみに「植える美ing」という名前の由来は福祉を英語で言うとWELL‐BEINGとなります。その言葉を園芸らしくあてはめ、花や野菜を植えそして育てることにより美しい環境を築きたいという思いを込め名づけました。
 設立総会後、法律に定められた申請書を県民局に提出しました。書類には第53条まで決めた定款をはじめ、役員の区別や就任承諾、誓約を記載した書類、社員10名以上の名簿、設立総会における確認書、この法人の趣旨と経過を記載した設立趣旨書、総会において意思の決定を証した総会議事録、当年及び翌年度の事業計画書と収支予算書など多くの書類を作成し提出します。申請後、三重県の公報に認証申請があった旨が公告され、NPO室、各県民局で公衆の縦覧期間がありその後、認定の決定があります。そして2週間以内に法務局で設立登記、さらに登記完了届けと閲覧用書類を三重県知事に提出し法人の成立となるのです。
 私たちが設立したNPO法人「植える美ing」は三重県下ではじめての高校生が主体となったNPO法人で、さらに、国内を見ても高校生が理事長や理事、監事などの役員を務めているNPO法人はとても珍しく多くの方から高い関心や評価を受けました。
 NPO法人申請後、本格的な活動を開始しました。私たちは円滑な運営が図れるように事業部、経理部、人材育成部、普及・啓発部の四つの部を作り、各理事が責任者として就任し活動をしました。もちろん全ての理事は相可高校生です。
 事業部ではこの法人が円滑に運営できる取り組みだけでなく、今まで通り高齢者施設や保育所などで園芸福祉の活動を行ない、さらに、新しい園芸福祉のプログラムも考えていきたいと思っています。
 経理部では、これら会計に関する管理だけでなく、会費以外の運営資金の調達も経理部で行なうことにしました。
 人材育成部では、園芸福祉士の養成だけでなく、園芸福祉コーディネーターという独自の資格制度を確立しました。その資格が園芸福祉を地域に根付かせ、大きな輪に育てていく役割を担える人材の養成となると考えています。
 普及・啓発部では、発表会の計画や参加だけでなく、機関紙の発行やキャンペーン活動等も行なっています。
 継続した活動を行ない、園芸福祉の普及を考えると、大切なことは安定した経営と支援を要する人の自立を考えた職域開拓も重要となります。そこで、コミュニティビジネスの実践に向け取り組むことにしました。
 保育園と高齢者施設での園芸作業で商品を完成させます。その商品を販売することにより利益を上げます。園芸福祉がボランティアの域を脱し、企業・福祉・農業が生み出す新たな仕組みが地域づくりに展開できると考えます。
 保育園での寄せ植え作業ではゴールドクレストや白妙菊などを使いクリスマスらしい作品を園児44名と制作しました。みかんの収穫では収穫だけでなく選果やネットへの袋詰めも行ないました。約2時間の作業で100袋の商品を完成させることができました。
 高齢者施設では、ベゴニアとストレプトカーパスを挿し木から鉢上げまでの作業を行ないました。はさみやカッターで葉を切ったり、細かく、とても危険な作業でしたが安全に作業を進め商品を完成させることができました。
 そして、いよいよ販売です。多気町、マックスバリュの支援の下、販売を行いほぼ完売となりました。この収益から保育園には花や野菜・動物に関する絵本を高齢者施設には管理医療機器、コミュニケーションアイテムを寄贈し大変喜んでいただきました。
 これらの取り組みから園芸福祉が地域づくりとして地域の皆様に幸せをもたらすことができると再認識するとともに、園芸福祉がコミュニティビジネスとしての可能性があることを確信しました。
 また、地域づくりには環境保全を通しての活動も大切だと考えます。私たちの活動の一つに植物を使った水質浄化に向けた活動があります。相可高校の隣町にある玉城町には田丸城跡という町民の憩いの場があります。しかし、そのお堀は生活排水などが流れ込むため、とても汚いお堀です。そこで私たちは、玉城町役場、玉城中学校、田丸保育所、地域住民と協働し昔のように泳げるようなお堀にしようと水質浄化に向けた取り組みを行なっています。具体的には、いかだで水質を浄化すると言われる空芯菜をみんなで育て、水質調査や生育調査をしています。水質改善の成果はまだありませんが、グラウンドワークとしてこれから広がることを期待しています。
 最後に、私は、法人格の取得は活動する上での手段であり、目的ではないと考えます。大切なのは活動内容だと思います。そのことから、今までの成果を基本にこれからも調査・研究を継続し、すべての人が幸せになれるような活動を展開したいと思っています。