「あしたのまち・くらしづくり2010」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

地域と学校の交流と協働により子どもを守り育てる
三重県いなべ市 石榑の里共育委員会
 三重県いなべ市立石榑小学校とその学区は、鈴鹿山脈の麓、田園風景が広がりお茶の産地として有名な地域です。現在、全校生徒278人が学び、学区には4946人(平成22年7月1日現在)が生活しています。石榑の里共育委員会(以下共育委員会)は2005年に発足しましたが、その大きなきっかけは旧校舎の建て替えでした。共育委員会の紹介はそこから始めたいと思います。


建設委員会で知恵を絞り、汗をかいた新校舎(現校舎)建設

①地域発意による校舎の建て替え
 共育委員会のルーツは2002年から始まった旧校舎の建替計画を検討した「建設委員会」です。1975年代に竣工した鉄筋コンクリート造の旧校舎は、1990年代に入ると老朽化がひどくなり、当時の教頭先生の雨の日の仕事は雨漏り対応という有様でした。見かねた有志が当時の町長に校舎建て替えを嘆願し、地域住民、学校、行政等からなる建設委員会が2002年に発足しました。明治40年に木造校舎を建設した時の多くの寄付、奉仕の出役、材料の持ち寄りといった「おらが学校」を造る石榑のDNAは今にも引き継がれ、この建設委員会も半数以上が地域住民でした。幸運にも文科省の「コミュニティ拠点としての学校施設整備に関するパイロットモデル研究」に採択され、地域主導の計画に弾みがつきました。
②どう使いこなし、管理運営するか
 最初は慣れないながらも「子どもたちの、また母校である石小の教育をどうしていく?」、また池田小学校の悲しい事件の翌年だったので「安全な学校を!」といった郷土愛と孫や子どもを通わせる家族の率直な思いを語りあいながら、教室の構成や地域住民も一緒に使用できる通称「地域ゾーン」の検討を行ないました。
 また、校舎の形が見えてきた頃から「新校舎を地域はどう使っていく?」「どう運営していくの?」という声が多数上がり、2002年の暮れから管理運営や活用方法の議論を始めました。
③地域主催による新校舎のお披露目会
 新校舎は2004年12月、体育館とプールは2006年3月、そして屋外環境は2006年10月に完成しました。この間、建設委員会は全53回開催されましたが、計画だけでなく新校舎のお披露目会も建設委員会主催でした。式典の日には真新しい家庭科室でお母さんたちが腕によりを振った石榑の味で、地域ゾーンから溢れんばかりの来場者をもてなしました。実は旧校舎の建設時も、有志が奔走して地域ゾーンを計画したのですが、実現には至りませんでした。この日は30年間温めてきた地域の思いが結実した日でもあったのです。


石榑の里共育委員会の発足と初期の活動(2005年度~2006年度)

 新校舎工事が2004年の暮れに完了することから、2004年9月から管理運営委員会が建設委員会の下に発足しました。「どんな活用ができる?」「だれがやる?」「石榑茶でどうもてなす?」「財源は?」等の課題について議論を重ねました。
 行政もこの協働体制を継続できるようにと知恵を絞り、石榑小学校は2005年度から2年間、文科省の「コミュニティスクールの推進事業」の委嘱校になることが決まり、この推進母体として地域住民と学校、行政などからなる「石榑の里共育委員会」が発足しました。メンバーは30代から70代までにわたり、多くは建設委員会からの継続参加です。2年間の試行期間を経て2007年度にいなべ市からコミュニティスクール(学校運営協議会を設置する学校)に指定されました。あわせて、共育委員会を地域の諸団体で構成される「石榑の里会議」が支援する体制もできました。
 学校田での田植えやお茶栽培など、地域の特色を取り入れた学校教育の支援とともに、この時期から地域ゾーンを使って実施されている活動をご紹介します。
①日曜日の地域ゾーン
 日曜日の子どもたちの居場所づくりのために地域ゾーンが開放され、その管理運営を共育委員会が担当しています。単なる施設の管理に止まらず、定期的に委員会のメンバーが講師となった「プチ教室」が開かれています。囲碁教室、パンづくり、古布藁草履づくりなど、日曜日だからこそできる地域住民と親子の交流が行なわれています。
②わくわくスクール
 平日には、水曜日の放課後に地域住民が講師になった講座「わくわくスクール」を実施しています。生け花や英会話、空間デザインなど、学校の授業ではなかなか学習できない講座ばかりです。最近では石榑でも塾通いで忙しい子どもたちがいますが、この講座を楽しみにしている子どもたちは多く、講座を通じて大人や大学生と交流を重ねています。
③子どもたちを見守る「いっけ石榑っ子安全ネットワーク」、子どもたちによる「お届け隊」
 「地域の中で子どもと大人がつながることこそ防犯への第一歩」という声から、「子どもを守る家へ行こう」「親子防犯教室」「子ども見守り隊」など、子どもと大人そして地域をつなげる取り組みを行なっています。「見守り隊」ではメンバーが子どもたちの登下校を日常的に見守りながら、子どもたちと挨拶を交わし、話をすることで安全確保のネットワークづくりを進めています。
 一方学校では、子どもたちが学校行事を地域に伝える「お届け隊」を実践しています。自宅付近の世帯にお知らせにいくことで、地域の方と子ども、保護者、学校のつながりを広め深める取り組みです。現在では900世帯への周知を実現しています。
④学校清掃
 校舎や敷地が広くなり、子どもたちによる毎日の掃除では不十分になってきました。そこで地域ゾーンを管理するボランティア部会とPTAが中心になって、毎月1回、担当学年児童とその家族が、また8月には全校児童とその家族が参加して一斉掃除を行なっています。家族にとっても、授業参観日とともに学校を知るよい機会になっています。
⑤石榑の里まつり
 毎年秋に子どもたちや地域住民の企画が学校の各所で開催され、子どもから高齢者までが一日楽しむ年に一度のお祭りです。お昼には石榑の秋の味が振る舞われ、地域ゾーンや中庭が大きなレストランになります。
 でも、最初から順調だったわけではありません。当初は子どもたちが任意参加だったために参加者数が少なく、地域住民からの理解も得られませんでした。そこで、子どもたちも学校行事として参加して日頃の学習成果を発表し、地域に伝わる様々な知恵や技術・思いに触れ、また回を重ねることで、地域の方々と交流する大切な機会として位置づくようになりました。


石榑小学校創立100周年記念事業

 2007年に石榑小学校は創立100周年を迎えました。式典では100年を振り返るスライドショーや世界各地で生活する卒業生とのインターネット中継など、この地域と学校の歴史と世界とのつながりを、子どもたちも大人たちも実感しました。また各時代の教科書や農機具、生活用品の展示で100年を振り返り、当時の記憶を高齢者から聞き取った成果が100周年記念誌として編纂されました。
 最後に、孫や子どもたち、そして自分へのメッセージを収めたタイムカプセルを校庭に埋めました。メッセージと引き換えに受け取ったのは2027年のカプセル開封式の招待券。20年後は今の子どもたちやその親がこの地域を支えていることを期待しています。


新しい協働活動への展開(2008年度~現在)

 近年取り組んでいる活動と成果を紹介します。一部は100周年記念事業の中で持ち上がった地域の要望が実現しました。
①学童保育所の開設
 石榑学区は都市部に比べると3世代同居の世帯も少なくなかったのですが、最近では転入世帯が増え、共稼ぎの核家族も多くなってきています。そこで2009年から町内のNPOと連携して、学校近くの武道場で2010年4月から学童保育所(いしぐれっこ)を開設しました。児童館がないことや周辺学区には学童保育所があることもその要望を後押ししているようでした。
②地域図書館の開設
 100周年事業で好評だった展示をヒントに、図書部会を設立して大人も楽しめる地域図書館づくりに着手しました。地域から提供された本2000冊の整理やラベル貼り、安らぎと魅力ある空間づくりなど手作りの地域図書館は2009年7月からの試行的運営を経て、11月に正式オープンしました。市の図書館からも500冊の本や雑誌の提供を受け、徐々に充実させています。日曜日には地域図書館を目当てに地域ゾーンを訪れる親子も多く、読み聞かせ会(おはなし会)も定期的に開かれ、気軽に立ち寄れる地域の図書館として活用され始めています。
③企業との協働による国際貢献
 近くに㈱デンソーの事業所があり、子どもたちの家族も通勤しています。地域と学校の交流事業を企画する企画部会の提案により、デンソーが毎年実施している古着を集めて途上国にプレゼントする事業に2010年から参加しています。6月には、児童会の呼びかけに多くの保護者や子どもたちが古着を持ち寄り、回収した769着とカンパ金1万3000円を送りました。
④みちづくりで資金づくり
 活動資金の殆どは市からのコミュニティスクール事業費であり、額も十分ではありません。そこで、学区を通る国道の除草を行なって活動資金をつくっています。この地域では道の草刈りを「みちづくり」と言います。道路もきれいになって一石二鳥です。


おわりに

 学校近くの大企業に働く方が石榑に多く引っ越してみえます。ともすると閉鎖的な地元住民と都会的な新しい住民を融合して新しい石榑を創る大きな柱として、共育委員会が果たす役割は益々重要になっています。小学校を活動とネットワークの拠点に、地域で子どもたちを守り育てながら、子どもたちも大人も誇れる学校づくり、まちづくりを継承していきます。