「あしたのまち・くらしづくり2010」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

ごみ減量と堆肥化したものの利用を―市民に技術と手法を広げる―
福岡県春日市 春日ダンボールコンポストの会
 これまで生ごみをあらゆる方法で土に返す作業をしてきた。単純に穴を掘って生ごみを埋める作業、カラスや猫から荒らされ、いやな思いも何度となく経験し、新しい方法に出会えば飛びつき試みてきた。設置型コンポスト・EM菌利用密閉型容器・藤井型コンポストなどなど。どれも一長一短である。そんなときに出会ったのがダンボールコンポストだった。
 微生物が都合よく分解をしてくれるのが気持ちよい。量が増えないのがまたよい。EM菌で分解してくれる密閉型容器で出来た堆肥も肥料性は高いものの臭いがきつい。それに比べてこの段ボールの中で処理したものはまったく臭いがないので、集合住宅が多い春日市にぴったりである。これにほれ込んで周りの人たちも巻き込んでいった。
 春日市がごみ減量を目的として公募して集まったごみ座談会のメンバーを中心に拡がっていった。
 段ボールの中に使う基材の種類も木材チップやグリーンチップ(選定ごみチップ)に変えてみたり籾殻燻炭を自分たちで作ってみたりした。
 1年~2年ほどしてダンボールコンポストを伝えてくれた福岡市で活動しているNPO法人循環生活研究所からアドバイザー養成講座(平成17年度事業)を受けないかとの推奨があり、春日市より3人が受講した。後にこの3人で「春日ダンボールコンポストの会」を立ち上げたのである。
 10回にわたり、講座28時間、実践講座8時間、見学研修8時間を受講した。その後はそれぞれ地域の中で活動を拡げていった。
 自治会にお知らせの回覧板をお願いし、地域公民館でダンボールコンポスト講習会を開催した。受講生に1ヵ月後には出来つつある堆肥を持参してもらい、相談会を行なった。
 ごみの内容で、温度の騰がり方や水分の加減も違う。分解度も変わってくる。段ボールの中の分解の程度は徹生物のご機嫌伺いで一喜一憂となるわけだ。うまくいけば自慢したくなる。うまくいかないときは再度聞きたくなる。そこで1ヵ月後の相談会が待ち遠しくなるというわけである。新しい人も誘い合って同行してもらった。
 このようにして講習会を地区を変えながら繰り返し行なっていった。
 春日市では18年度からごみ袋の有料化に踏み切ったことをきっかけに市主催のダンボールコンポストの講習会を開催することになった。そして、その講師に「春日ダンボールコンポストの会」に依頼があり、3人が交代で講師を務めている。
 行政との共働で生ごみの堆肥化の普及、及びごみ減量化をテーマに講習会を継続している。小学校の環境教育のゲストティーチャーとしても声がかかってきた。周辺自治体からも基材の注文と講師の依頼が来ている。
 九州大学の研究企画である18年度広域型循環モデル事業に、消費地である春日市と農産物生産地である大木町の交流事業として参加をすることになり、春日ダンボールコンポストの会もダンボールコンポストでできた堆肥を追肥として利用することをプログラム化し参加を決めた。ダンボールコンポストでごみ処理をしている市民に呼びかけ、最初は土つくりから始めた。苗代つくりから田植え、草取り、虫追い、追肥、稲刈り、脱穀そして収穫祭まで、初めて経験することばかりの子どもたちもよく頑張った。田植えの時は雨の中を植え進んだ。まったくの素人集団にゼロから指導をしてくださった大木町の方々にも感謝感謝だった。私自身初めての経験だったから、田の水が張られた中の泥の塊を馴らす作業を代掻きといい、草取りをする道具をがんづめということもこのときに学んだ。
 収穫祭では、とれたもち米で餅をつき、雑煮、ぜんざい、甘酒など春日ダンボールコンポストの会が調理部門を担当し、来賓として、大木町からは町長を始め指導に関わられた方々、春日市からは、市長、教育長そのほか、自治会長らにも参加していただき、稲つくりに参加したメンバーも子どもたちも舌鼓を打ちながら大変だった作業も楽しみに変っていった。また大木町からの技術提供で稲藁でのしめ縄つくりは、初めての経験に子どもたちも大喜びだった。
 翌19年度からは春日市と大木町の行政の交流事業に発展し、市の補助金で収穫祭まで行なうことが出来るようになった。収穫祭では4年生の児童がダンボールコンポストで給食の残飯や家から生ごみを持ち寄って堆肥つくりをした様子を発表。環境をきちんと捉えた発表はすばらしかった。環境授業にゲストティーチャーとして参加し、指導時に仲良しになった児童たちから御礼を言われ、こそばゆい感じである。しかしこの事業は市の財政難を理由に3年間で終わった。残念。
 春日ダンボールコンポストの会では16年度に燻燃器を購入し、本格的に籾殻燻炭を自分たちの手で作ることにし、その副産物である籾酢液の効用も皆に拡めている。
 ダンボールコンポストの基材を作り販売を行なうことにした。最初は周辺の公民館等を通しての販売だったが、現在市役所の窓口でも販売を行なっているため市民もよろこんでいる。
 以前より、春日ダンボールコンポストの会では自然の循環すなわち、生ごみの堆肥化は食につながる理念があった。収穫祭の調理や、春日市主催の環境フェスタそのほかイベントで大木町のお米ときのこを使っての“産直きのこ弁当”つくりをしたのもその理念に基づくものである。財政活動にもなった。
 そしてその理念が正式に実現したのが21年4月の食堂開設である。
 行政はごみ減量が少しずつ目に見えてきた感もあり、より一層ダンボールコンポストの受講生を増やすことに力が入った。そしてダンボールコンポストでできた堆肥を使っての菜園講座が開設された。そこで市民農園を始める市民も増え、ダンボールコンポストを肥料につかっての菜園グループが結成され、「ダンボの会」や「3R市民の会」が発足した。
 ダンボールコンポストで出来た堆肥を使ってできた作物は味と栄養分が違う。こんな野菜をたくさんの方に食べていただきたいとの思いが食堂の開設を実現させたのである。
 高齢社会では遠くに出かけていくよりご近所の方と語り合える場所が近くにあればと誰もが思う。そんな場所を提供できればという思いもあった。近くの公民館で一人暮らしのお年寄りの集まり「ふれあいサロン」が毎月第3火曜日に開催されている。そこでのお弁当も菜食を中心としたお弁当を届けて喜ばれている。サークル活動の小さなグループの集まりや、時にはダンボールコンポストの講習会をかねた若いお母さんたちの食事会が開かれている。使った野菜の説明から菜園講座に早変わりになるときもある。
 ダンボールコンポストの堆肥で出来た野菜を持ち寄って忘年会をしたり懇親会をしたり、菜園講座の弁当を作ったり、漬物講習会をしたりあらゆる世代の方々の交流の場にもなっている。
 市役所の窓口にはペットボトル菜園に植えられた小ねぎやパセリ、小松菜の苗などが並び、緑ゆたかなカウンターは菜園講座の相談まで出て来るそうだ。
 これからもまだまだたくさんの市民に生ごみを可燃ごみに出すのはもったいないということを理解してもらい、堆肥で安全な野菜をつくるチャンスを提供しつづける。そして安全な食生活を中心に地域のコミュニケーションつくりにも寄与していくだろう。