「あしたのまち・くらしづくり2011」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

奇跡の商店街、ここにあり!―高齢化支え合い「共助」を実践―
埼玉県秩父市 みやのかわ商店街振興組合
 秩父市は、埼玉県北西部、秩父地方にある人口約7万人の市だ。面積は約578平方キロメートルで、埼玉県内で最も広い市町村である。周囲を秩父山地に囲まれた秩父盆地の中央部に、中心市街地が位置している。首都圏70キロ圏内にありながら、緑豊かな自然であふれ、市域のほとんどが秩父多摩甲斐国立公園や、武甲・西秩父といった埼玉県立の自然公園に指定されている。荒川が、南西から北東に流れ河岸段丘を形成する。「秩父札所巡礼」「秩父夜祭」等古い歴史・文化に満ちたところだ。
 江戸時代には木材、絹織物の産業が盛んになり、秩父銘仙や秩父つむぎが有名となった。20世紀に入ると武甲山の石灰岩の採掘が始まり、セメント産業が起こったが、いずれも時代の趨勢により斜陽化が進んでいる。
 住んでいる地域で日常の買い物をしたり、生活に必要なサービスを受けたりするのに困難を感じる「買い物弱者」は高齢の方を中心に、全国で約600万人もいると言われる。そして急速に増え続ける「一人暮らしの高齢者世帯」。秩父市は、そんなニッポン社会の高齢化最先端にある。そんな秩父市でちょっとしたアイデアで不便を便利に変えていく、高齢者を支える新たな取り組みを行ない、「空き店舗ゼロ」とテレビで紹介された奇跡の商店街が「みやのかわ商店街」(組合員111名)だ。
 秩父鉄道秩父駅の駅前に位置する「同商店街」は、秩父地方の総社である秩父神社の周辺に形成された商店街の一つとして発展してきた。しかし、食品スーパーや大型店が次々に郊外出店することに危機感を覚えた若手が、将来の商店街づくりを見据えた研究会を立ち上げた。そして自分たちの理想を描いた「みやのかわ商店街構想図」を作成した。明確な将来ビジョンができたのだ。その目的を達成させるため最初に取り組んだのが、ナイトバザールだ。日本三大曳山祭に数えられる秩父夜祭の時のように何とか商店街に人を集めたいという熱い想いで、昭和62年に第1回のナイトバザールを開始した。以来これまで250回以上続けられており、今まで天候を理由に中止したことは一度もない。全国で行なわれるようになったナイトバザールの発祥の地として知られている。特筆すべきは、「同商店街」のナイトバザールはマンネリ化を防ぐため、来街者を飽きさせないように毎回アイデアを絞り、違う企画で実施している。また、このナイトバザールによって商店街の団結と地元消費者とのコミュニティが育まれた。
 そんな「同商店街」で、先進的な活動で今一番注目されている事業が、有償ボランティア派遣事業「ボランティアバンクおたすけ隊」だ。同事業は埼玉県及び秩父市と連携しながら、平成19年から取り組んでいる。同事業は、団塊の世代など元気な高齢者を中心とするボランティアが、援助の必要な高齢者、障害者、子育て中の人などの買い物代行や掃除、庭の手入れなどを行ない、他人の支援をしたボランティア時間を貯蓄して、自分自身や家族のために利用することができる。また、秩父市共通商品券「和同開珎」(1時間500円相当)で受け取ることもできる。支援の受け手が利用する時の利用料金は、1時間単位800円のチケットを購入したうえで支払う仕組みだ(チケットは10枚まとめ買いをすると1枚サービス。事務局本部や商店街の店舗、または市役所でも購入でき、おたすけ隊員がお伺いする時に持参し、購入することもできる)。
 この取り組みは@援助の必要な高齢者の日常生活が支えられ、安心確保につながる、A援助する元気な高齢者の健康増進と社会とのつながりを保て生きがいを得られる、B商店街は地域商品券を使ってもらうことで活性化が図れるという“一石三鳥”の仕組みとなっている。高齢者も、商店街も、そして地元住民も「得をする」という“奇跡のシステム”だ。
 「ボランティアバンクおたすけ隊」のきっかけになった取り組みが、出張商店街「楽楽屋」である。「同商店街」が市内の買い物弱者である福祉施設に出張し、その場に商品を並べて、買い物を楽しんでもらうことを目的に始めた事業である。福祉施設の入居者には「商品を自分の目で見て選んで買えるのが嬉しい。買い物をする喜びを久しぶりに味わった」と大変好評だ。また、一人暮らしの高齢者などの買い物代行「御用聞き」も行なっている。困っているお客様に心から喜んでもらえる、その笑顔をヒントに“奇跡のシステム”は生まれた。
 「ボランティアバンクおたすけ隊」の「共助」の仕組みは、埼玉県内で広がりを見せ、現在32の市町で同様の取り組みを実施するまでに発展している。
 秩父商工会議所の副会頭で、同商店街の島田憲一理事長は、「東日本大震災で日本人は助け合う絆の大切さを改めて認識している。焦らずに地道に事業に取り組むことが大切。今こそ地域のみんなが助け合い、幸せに暮らす仕組みを作ることが求められている。コミュニティが希薄と言われる時代だが、商店街が中心となり、コミュニティの再構築を図っていきたい」と熱く語る。
 同商店街では、数々のアイデアでソフト事業を重ねる一方、ガス灯風の街路灯をはじめ、歩道の整備、電線の地中化、統一看板、シャッターの美装化、ほっとすぽっと秩父館の設置(平成20年度彩の国景観賞受賞)などのハード事業も手掛け、みやのかわ将来構想実現に向け、一歩一歩近づいている。