「あしたのまち・くらしづくり2012」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

健やか長寿まちづくり
兵庫県稲美町 稲荘農場まちづくりの会

 稲美野荘園自治会は、昭和50年に開発された田舎の新興住宅地。大半がサラリーマンであり、働き盛りの子育てに大忙しの住民が溢れる「活気あるまち」であった。
 今、「まち」は、定年者が増え続け平成24年度には高齢化率31.7%となり400名の高齢者が出現する。人は言う、「会社で人間関係に苦労してきた、今さら人間関係で気を使いたくない」と大方の人が、老人クラブや自治会行事に参加してこない。地域に背を向ける高齢者群が新たな地域課題となっている。(老人クラブ加入者60歳以上66名/523名)
 「顔」と「名前」が分らない住民同士が「あいさつ」の言葉もなく、それぞれの生活の中に籠って馴染まないままの地域に明日があるのだろうか。
 エンジンの音が大きく響いた朝の出勤風景は、今はなく静かな毎朝を迎える「まち」は沈みゆくような静寂の中で人がいない錯覚に落ちる。
 平成20年春、農地のないサラリーマンであった37名が会員となって、近隣農家の農地30アールを賃借して「稲荘農場まちづくりの会」を発足させた。その目的は、高齢者がいきいきと地域で活動する場を提供し、会員が楽しく、日々生き甲斐に感じる「稲荘農場」を通して、地域の「健やか長寿まちづくり」に貢献する。
 事業の住は
1 野菜作り事業
2 生ごみ堆肥を活用した有機栽培事業
3 自治会員に食材の格安提供事業
4 イベント・コミュニティ事業
の四つを掲げた。
 農場を通して地域循環型コミュニティを創るべく、段ボールコンポストによる生ごみの堆肥化運動を推進し、生ごみ堆肥づくり教室を開催して、ごみ減量に取り組む自治会として、町役場から「ごみ減量モデル地区」に指定されると共に環境会員を組織して「生ごみの減量化」に努めた。現在も64名(全世帯の15%)が継続している。
 農場では、それらの環境会員が作った堆肥を農場で引き受け、肥料として活用し、会員には「野菜券」(300円相当)を発行して朝市の都度、野菜と交換して食べてもらう地産地消の循環型ごみ減量に取り組んだ。
 平成20年21年と連続して、天満小学校3年生(120名程度)が課外体験学習として農場の大根引きをサポートし、学童と交流を持った。
 大根を学校給食材として納入し、給食時に会員全員が招かれ給食を一緒に楽しみながら学童の質問に答弁しながら交流をさらに深めた。
 自治会員への食材提供事業は、大根1本50円を基準に大方の野菜は50円単位で販売。住民の台所を潤し「無農薬野菜が安く食べられる」の感想と共に朝市は賑わい、住民との交流の輪は大きく拡がった。
 平成21年兵庫県の助成金を受け、農場会員が中心となって自治会、老人会、子供会を巻き込んで「いなそうふれあいまつり」を開催した。播州地区の秋祭りは豪華絢爛で町でも天満神社秋の祭礼は多くの人で賑わい、御神輿が池に投げ込まれる伝統の神事がある。私たちの新興住宅地には、神社仏閣はなく、伝統行事はない。
 故郷に帰れば祭のある住民に幼き日の郷愁とこの地に“今を生きる”共感をしてもらいたいと「第1回いなそうふれあいまつり」を実行し今も続いている。(本年で4回目となる)
 「地域内清掃の日」を毎月第4土曜日に設定し、農場会員が老人会と共同して地域の環境美化に取り組み「きれいなまちづくり」を進めた。
 農場の存在は町民のよく知るところとなって、町内での新興住宅地への意識に良い刺激を与えた。
 毎年2回、女性会員の手料理で懇親会を開催。家族的な雰囲気いっぱいの中、酒あり、歌あり、語り合う中で、地域の将来に話が進む。
 平成22年に入り農場会員は46名に増えた夏の日。青々と茂っていた大根の葉っぱが一夜にして害虫に食われ全滅する事態になった。無農薬野菜作りを目指す中、虫取り作業に追われ、虫に負けた夏であった。
 朝市での大根の販売ができなくなり結果として、22年度は赤字となり借金で、翌年の農地賃料を払うピンチを経験したが、会員の頑張りで自立自転の農場運営は維持できた。
 そうした中、新たに事業の柱に「自治会員の福祉のための活動を行ない、自治会の活性化に寄与する」ことを加え、これからの少子高齢社会の問題点解決検討の自治会活性化委員会に参加した。
 2年間の検討の結果、平成24年4月1日、有志による「ちょっと手助けまちづくりの会」が設立された。
 この会は、会社勤め時代に培った知識、技能、資格を活かした人材の活用とその人たちの居場所づくりを創造して、持てる力を地域のために発揮して生きがいある生活の中で健康で住民同士が支え合う「共助共存」の地域をつくることにある。
 人と人、人と地域をつなぎ、地域のことは地域で支え合う風土を醸成しつつ「住み続けたいまち」を目的としています。ボランティア(スタッフ)の募集も終わり総勢41名の会員でスタートしました。
 平成24年4月の強風時、ガレージの屋根が剥がれ独居者(女性)からの依頼により修復作業を行ない、ちょっとの手助けを行なった。

 稲荘農場まちづくりの会は、今年で5年目を迎えました。新たな事業の立ち上げに参画して、来る超高齢社会にいかに立ち向かっていけるかをテーマに、「共生」の地域づくりに向かって始動いたしました。
 地域では、自治会、老人会、子供会がありますが、それに加え「農場まちづくりの会」が細胞分裂を行ないながら「ちょっと手助けの会」を産み、一つの点が次の一つの点を打ち、いつか面となる地域福祉を実現すべく、それぞれの機能を果たしながら相互に連携する「共生ネット」を目指した活動に一歩前進いたしました。