「あしたのまち・くらしづくり2013」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

地域で補い、支え合える若者支援モデル
山形県米沢市 特定非営利活動法人With優
 NPO法人With優は、地域に住む子どもたち、大人が自分らしさを大切にし、生き生きと幸せに生きること、地域に笑顔が広がること、優しい地域社会づくりに寄与することを目的にこれまで活動を継続してきた。
 With優を立ち上げたのは平成19年5月。前職を退職後、自らの思いをチラシにして市内約7000軒、一軒一軒話をしながら思いを伝え、賛同してくれた11名と現団体を立ち上げた。私は自分の生き方として、自分を育ててくれた街に戻り、何よりそこで生きていきたかった。しかし、大学卒業後、自分のやりたい職業に就けず、それでも生きていくために様々な仕事を転々とした。今思えば、そこで出会った人々、経験が何よりも今の私のモチベーションにもなり、力になっている。そして、そんな時にふと周りを見渡したら、自分の役割を見いだせずに苦しむ若者や自らの命を絶ってしまう友人もいた。私は何よりこの街が好きだから、そんな地域を少しでも変えていけたら、一人でも笑顔になってくれたらと今の活動を継続している。
 毎週月曜日〜金曜日(9時〜17時)まで毎日運営しているフリースクールは、学校に行けない・行かないことを選択した子どもたち、今の社会の中で生きにくさを抱えた青年の生活と学びの場である。学習支援は教員免許を保有したスタッフが中心に対応し、読み・書き・計算を中心に、躓きがある部分から子どもたちや若者の一歩先をスタッフが歩いていくような寄り添い方の支援に心がけている。地域ボランティアや地域事業所でのアルバイト体験等にも積極的に取り組み、なんのために勉強し、どんな生き方をしていきたいかを地域のたくさんの方に支えてもらいながら実践している。これまでに24人が高校・専門学校・大学へ合格、進学、9人が在籍する学校へ復学、15人が高校卒業程度認定試験に合格した。修学旅行も毎年、子どもたちと企画・実施しているが、自分たちが楽しむ分の企画については資金作りも自ら行なっている。春は山菜採りをして販売、他に自分たちで育てた野菜を販売したり、地域事業所と連携しての新商品開発にも取り組んでいる。NPOの中でも青少年分野、特に不登校やニート、ひきこもり等の対処的な支援を行なう団体は少ないが、学習支援を毎日実施しているフリースクールは、県内では当法人のみで全県から子どもたちが通っている。
 毎週土曜日にはフリースクールと同じ場所で一般の営業許可をとってカフェレストランを運営している。窯焼きのピザと麺から手打ちの生パスタを中心としたランチのみの営業を行なっている。地域のどんな人も日常から離れて「ほっ」とできる時間を持ってもらいたい、地域で孤立しがちな子ども、若者が活動している場所へ多くの地域の方に足を運んでほしい思いで同スペースにて運営、敷居の低い相談窓口としても機能し、支援の入り口にもなっている。また、フリースクールに通う生徒が地域と繋がれる場、就労体験の場としても機能し、毎週子どもたちがアルバイトとして手伝いに来ている。冬期間は豪雪のためお休みにしているが、毎回20〜30名ほどの来客があり、年間800名ほどの利用がある。フリースクールの昼食は毎日、スタッフと生徒で一緒に作って食べているが、カフェレストランで使用する野菜も含め、地域の農家の方から指導を仰ぎ、無償で借用いただいた農地にて農業にも取り組んでいる。
 平成22年度からは地域内でニートやひきこもりと呼ばれるような若者、これから就労を目指す若者の就労支援の総合窓口である置賜若者サポートステーションを開設、今年度も国から認定を受けて実施しており、これまでに400名が登録・利用、そのうち250名ほどが就労等進路決定している。完全にひきこもり状態の若者もおり、地域の若者支援ネットワークや病院と連携したアウトリーチ等で支援を継続、自立を目指すと共に、当事者支援だけでなく、受け皿となる事業所や地域住民へのアプローチも積極的に行ない、社会的に弱い立場にある子どもや若者を地域力で補い、支え合えるような取り組みを重視している。
 その特徴的な取り組みとして当法人が昨年10月から始めたのが居酒屋プロジェクトである。これから一般就労を目指す若者の中には長期にわたり無業状態が続き出口がなかなか見えないもの、発達的な課題や精神的な課題を抱えているものもいる。地域の受け皿としては即戦力を求めている現状はあり、そのような若者が地域社会の中で役割を持ち、定着していくのは困難な時代なのかもしれない。福祉的な作業所でトレーニングしている者もいるが、やはりそこから一般就労に向かうのは困難な現状がある。失敗を繰り返す若者、その中には本来安らげるはずの家庭の中でも居場所を失い、自らの存在意義を見失い、かけがえのない命を絶とうとする若者もいる。「失敗を許さない社会だからこそ、失敗できる場所があっても良い」なにより就労してから本当の壁にぶつかる若者も多く、社会に出て躓きかけた時に躓かないように支え合える場所が必要でもあると考えた。そこで、一定期間無業状態にある若者や発達・精神的に軽度の障碍を抱えた若者が中間的に働き、それを地域の人が利用することで若者を支える会員制居酒屋の立ち上げを目指した。会員制にしたのはそこで働く若者が安心してトレーニングできるようにするためである。どのような居場所が必要か、どんな居酒屋があったら喜ばれるか困難を抱えた若者とプロジェクトチームを作り、運営面やメニュー等も一緒に考え、施設の改修工事もできる部分は共に行ない、自分たちでできない部分は地域住民や企業から寄付を募り、工事費や設備費に充てた。組織の一人として自らも役割を持ち、必要とされ、その組織を変えうる一人であるという認識が大きなモチベーションともなる。約3か月で地域事業所、地域住民150名以上から250万円を超える寄付が集まった。平成25年2月には会員制居酒屋「結」を市内中央の空きテナントにオープン、現在まで多くの地域住民の方に支えられている。オープンして8か月が経った今、会員は800名を超え、たくさんの地域の方々が若者に寄り添い、自分たちにできる若者支援を実践している。
 カフェレストランや会員制の居酒屋、地域に発信する場所を築き、現在法人として取り組んでいるのは高齢化に伴い増加してきた休耕地、無耕作地をこれから社会に出ようとしている若者と耕し、地域の人に喜ばれる農作物を育て、循環していく社会を構築していくことである。そして何より学校に行けない子どもたち、職業的な役割を持てない若者に寄り添い、その子らしい人生、生き生きと幸せに生き抜くことのできる地域社会を地域で生きるすべての方と支え合い、補い合って実現していきたい。大きなことはできないが、目の前にいる一人の子ども、若者が笑顔になり、その笑顔が地域に広がるよう挑戦し続けていきたい。