「あしたのまち・くらしづくり2013」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

里山の未来を紡ぐ自創自給プロジェクト
岐阜県郡上市 ふるさと栃尾里山倶楽部
1.目的
 岐阜県郡上郡の7町村が合併し、明宝村が郡上市となったのは平成16年3月。役場は地域振興事務所となり、職員は年々減少。厳しい財政運営に、公的資金による地域活性の道は険しくなり、地域には閉塞感が漂うようになった。少子化と高齢化の問題は解決の糸口さえ見つからず、神社の祭礼や公民館活動など、地域に根付く文化の継承も危ぶまれる状況となった。そんな危機的な状況の中、郡上市明宝二間手下組16世帯のうち、13世帯が集まって「ふるさと栃尾里山倶楽部」を結成。未来永劫に元気な集落をつないでいこうという熱い思いを胸に活動がスタートした。
 私たちは、活動を開始するにあたって、身近にある大切なものの価値(地域資源)を見直し、現代社会で失われつつある「結」の精神を活かしながら、交流の視点で「コミュニティの自律」を再構築するための取り組みを行なうこととした。みんなで知恵を出し合い、汗をかきながらも「やって楽しい」をモットーに、「小さな集落から日本の中山間振興のモデルとなるような新たな旋回軸を生み出したい」という大きな目標を掲げ、様々な活動を実践している。

2.活動の内容
■集落の魅力と価値を引き出す「栃尾里人塾」
 活動の柱である栃尾里人塾は、参加者も地域住人も同じ「里人」として、共に考え、学び合い、刺激を相互にもらいながら未来につながる新しい里山(集落)の創造を目的として実施している。栃尾里人塾のテーマは「森」「農」「自然エネルギー」。手法は「塾生みんなで考え、やってみる。なにより楽しく」とし、塾生各自がアイデアを出す「実践型」を当初から継承している。塾を通して参加者、地域住民からはやりたいこと、チャレンジしたいことが多数生まれ、実践する場と機会づくりの提供が可能となった。

■持続可能な内発的集落経営モデルの実現と古民家コミュニティ
 儲かる農業や多くのお金が地域に落ちるグリーン・ツーリズムではなく、心豊かに暮らしながら内外の力で集落を担う人財を育てる「体感型里づくり」を実践。過疎地域の課題を自らの仕組みで解決する自律型集落の実現をめざしている。

■未来を紡ぐ小さな集落のチャレンジ
 ふるさと栃尾里山倶楽部は、集落(郡上市明宝二間手下組/世帯数16世帯)の13世帯住民16人でスタート。現在の会員数は22人となっている。これまでの主な取り組みは次のとおり。
@平成21年に空き家となっていた築110余年の古民家を再生し家主の先祖の屋号から「源右衛門」と名付けて、田舎暮らしの短期滞在施設として利用するとともに、地域コミュニティの拠点施設とした。
A平成22年には、集落の元気づくりを目標に「栃尾里人塾」をスタートした。テーマを「森」「農」「自然エネルギー」とし、平成23年度以降も同じテーマで塾を開講。過去3年間で約500人の参加があった。
B平成22年度に「中山間地域における自給自足型のエネルギー供給実証実験(環境省チャレンジ25地域づくり事業/事業主体は岐阜県)」を源右衛門で受け入れ、太陽光発電、燃料電池、薪ストーブ、小水力発電の設備を源右衛門及びその敷地内に設置。岐阜県の次世代エネルギーインフラの中山間地モデルとし、CO2の削減効果を検証している。
C平成23年度から「子ども寺子屋エコキャンプ」を開催している。(今年も7月に開催)源右衛門を拠点に、地元のお年寄りから自然の大切さや生活の知恵を直接学ぶ地域密着型子どもキャンプとして好評を得ている。
D平成23年度から、かなぎの森プロジェクトを始動。「山行きさの小屋」をつくり、植生調査や広葉樹の間伐、間伐した木をつかったものづくりワークショップなど開催している。今年度は、ログビルダーを養成する「森をつくる家づくり講座」を8月から開催している。
EコンバートEV軽トラックづくりにチャレンジ。地域で廃車となった軽トラックをEVに改造。
F失われつつある地域の伝統を継承する事業として、かつて葬儀や法事で振舞った「おときごはん」を復活。平成23年11月と12月の2回、源右衛門で開催し、120人の参加を得た。
 平成24年度も12月に開催。約80人が郷土の伝統食を楽しんだ。
G平成24年度から新たな取り組みとして、「ドジョウ田んぼ復活プロジェクト」を始めた。昭和40年代までは集落の田んぼにはドジョウが生息していた。このドジョウが生息できる環境の復活を目標に、都市住民の参画を得ながら、昔ながらの作業を取り入れて実施している。今年度は、新たにビオトープづくりにチャレンジ中。
H自創・自給の里「栃尾」の様子やふるさと栃尾里山倶楽部の取り組み、自然エネルギーの解説を、小学校高学年が読めるレベルで冊子にした。地域の教科書として活用するとともに、同様の課題を抱える他地域へ積極的に成果を提供することとしている。

■活動の成果
 ふるさと栃尾里山倶楽部の結成から3年。都会からの参加者と地元住民が一緒になって地域活動を行なってきたことで、集落は大きく変化した。地元の良さを都会の人の目を通して見ることで再発見できたことや、地元の付き合いが濃密になってきたこと、そして、集落の年長者から多くの知恵を学び、高齢者に生き生きとした笑顔が戻ったことなど、多くの成果が生まれた。また、存続が危ぶまれていた地元の祭礼に、栃尾里人塾の参加者が役者として加わり、役者不足が解消した。これほど多くの成果が出るとは誰も予想していなかった。
 活動成果のまとめは次のとおり。
@子どもから高齢者まで、集落の住民が頻繁に顔を合わせて話をする機会が増えたことで、地域の連帯感が強まり、地域づくりを軸とした形でのコミュニティが再構築されてきた。
A都会の住民と一緒になって考えた上でプランを練ることにより、住民だけではあり得なかった地域資源の価値に気付くことや高齢者の知恵の活用につながった。
B地域の課題とめざすべき姿を地域住民間で繰り返し共有することにより、みんなで話し合った将来の夢に向かって確実に前進している。
C地域のNPO等との連携により、幅広い活動の展開が可能となった。
D存続が危ぶまれていた地域の祭礼に、栃尾里人塾に参加した都会の若者が役者として立候補し、地域の伝統文化を継承していく新たな可能性を示すことができた。
E集落に根付いていた支え合いの精神を生かした仕組みが、地域内外の人々との絆を深めることで再構築され、地域住民に誇りと自信、そして自律の心が芽生えた。
F「森と水の恵み」と「新エネルギー技術」の融合に里山の暮らしを加えることで、都会住民があこがれる「ふるさと」の具現化が可能となり、里山保全などへの関心を高めることに成功した。
G葬儀事情の変化により集落の中で大切に継承されてきた食文化「おとき(集落で亡くなった方を偲んで参列者に振舞う料理)」がなくなった。これを復活させたことで、大切な食文化を何とか繋いでいく可能性を見出すことができた。
H集落に暮らしていた人々が自然を敬いながら願い年月をかけて築いた「里山」について、「ドジョウ田んぼ復活プロジェクト」を契機に関心が高まり、環境に対する意識喚起が集落内外の人を含めて実現できた。さらに、農薬を使わず手作業で田植えから管理、稲刈りまでを実施することで、お年寄りから失われつつある知恵や技を学ぶことができた。

■取り組みのポイント
 『空き家となっていた古民家の活用と集落の元気づくり』を目標に平成22年度からスタートした「栃尾里人塾」。人と人との絆を生んだこの塾は、地域住民の心に誇りと自信を復活させた。
 平成23年度からは、この塾を中心に「未来の里づくり」「絆の場づくり」「地域を支える人財づくり」の視点で活動内容を深めている。塾のテーマである「森」「農」「自然エネルギー」で実践した里の知恵や技の体得に加え、人と人をつなぎ、未来の暮らしを創造して「共感・感動」を内外に発信できる地域人材の育成にも力を入れている。また活動拠点である再生古民家「源右衛門」で「おときごはん」や「子ども寺子屋エコキャンプ」さらには「軽トラEV(電気自動車)制作」などを実施。地域内外から人が集い、未来の里の暮らしに見て触れられる、さらにそこに集う里人の想いを実現できる場づくりを行なっている。

3.今後の方向性
 平成22年度からスタートした「栃尾里人塾」は、「みんなで考え、やってみる。なにより楽しく」を合い言葉に延べ500名以上が参加。参加者と地域住民の絆をつくることに成功した。その絆は近隣住民にも広がり、新たなコミュニティ再生のきっかけを示した。塾を通して参加者、地域住民からはやりたいこと、チャレンジしたいことが多数生まれ、実践する場と機会づくりの提供も可能となった。
 「里山の自然+残すべき技と知恵+テクノロジー→人財育成」を学び、実践する場を創出し、都市住民の移住実現、地域コミュニティ再生、新たな地域産業づくりなど、誰もが「住みたい、暮らしたい」地域づくりを今、住民自らの手で“楽しく”始める必要がある。これまでは国が農業や林業を指導して集落形成に影響を与えていたが、結果グローバル経済の中で農山村は疲弊している。これからは国がガイドラインを示すのではなく、過疎集落で暮らす私たち自らが地域の思いを込めてつくったプランで、「自創自給の里山再生」を実践したいと考える。「地域デザイン力」を発揮しながら、未来へつながる人財づくりと地域経営、そして持続可能な「元気づくり」を、ひとつのシステムとしてつくり上げたい。

4.新たな展開
 ふるさと栃尾里山倶楽部のメンバーが中心となり、平成24年9月にNPO法人ななしんぼを設立した。みんなで夢を持ちより、夢を語り合う場をつくり、夢をつなぐ方法を考えることでその夢は実現へと向かって働き出す。 NPO法人ななしんぼは、こんな想いを胸に、これまでにはないまったく新しい考えで設立された地域の中間支援組織である。
 本来の地域自治の考え方で持続可能な明宝をつくりたい ― そのためには行政、企業、市民があたらしい価値観でつながり、未来を描く場と仕組みの革新が必要になる。今年度は、人が集まる場づくり(夢実現塾「MOSO塾」の開催)、地域団体支援(住民主体イベントのマネジメントや地域づくり団体事務支援)、人材育成(地域協働型インターンシップによる学生の長期受入れ)、地域起業(四万十ドラマと連携した「あしもと逸品プロジェクト」)、コミュニティカフェの運営(みんなのトライアルカフェづくり)、過疎集落支援、空き家対策(空き家の管理人制度などの仕組みづくり)など、地域のジョイント役として多くの取組みを実施中。