「あしたのまち・くらしづくり2013」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

学生にキッカケを地域に笑顔を
鳥取県鳥取市 NPO法人学生人材バンク
1.はじめに
 『こんにちは、お久しぶりです。今日も元気に頑張りますよ』
 『無理せず、ケガのないようにしんさいよ』
 高齢化のムラで、大学生と地域の方のやり取りが聞こえる。中山間地域への若者の参加はどこも悩ましい問題であるが、鳥取県では、大学生が足を運ぶことで、この課題を解決している。
 私たちは鳥取大学農学部3年生でありながら、NPO法人学生人材バンクの学生スタッフとして鳥取県の農村にて活動している。「学生にキッカケを地域に笑顔を」を合言葉に2002年に鳥取大学生が立ち上げ、現在に至る。専従スタッフ5名、大学生スタッフ46名で様々な活動を行なうようになったが、今回はその中でも、学生が中心的に取り組んでいる活動に焦点をあわせ、「農村16きっぷプロジェクト」と「田舎応援戦隊三徳レンジャー」を紹介する。

2.学生プロジェクトについて
(1)農村16きっぷプロジェクト
 2004年、鳥取県から農山村ボランティアを取りまとめる仕事の受託をキッカケに、農山村と学生を繋ぎ、コーディネートする「農村16きっぷプロジェクト」が始動した。
 プロジェクトは、①大学生を巻き込んだボランティア活動、②イベントの企画・運営、③広報誌「農村16きっぷ」の発行である。

①大学生を巻き込んだボランティア活動
 学生人材バンクは「とりっく」という学生向けにボランティア・イベント・アルバイト情報を配信するメール配信サービスを行なっており、参加したいと応募した学生と一緒に農山村地域に入って活動している。
 登録学生は2000人を超え、ボランティアに参加する学生は年間500人に上る。交流の楽しさ、農作業後のごはんのおいしさから、リピーターも多い。活動当初のボランティア派遣地域は、11集落であった。現在では、活動に共感する地域が増え、27集落で活動を行なっている。具体的な活動は、棚田水路清掃やイノシシ防護柵の設置、里山整備等、中山間地域の作業補助である。最初は作業だけであったが、信頼関係ができるうちに、お祭りやイベントにも声をかけてもらい、活動の幅が広がった。

 私が参加したボランティアの中で一番印象深いのは、岩美町横尾地区での調理補助である。普段、作業後には学生と地域の人がご飯を食べながら交流する機会があり、料理は地元で採れた野菜や山菜を女性グループが調理してくれる。近年、作業に参加する人だけでなく、調理する人も減っているという現状を聞き、調理補助にも参加した。
 女性が活き活きと活動していること、バランスもしっかり考えて料理していることを知った。野菜の切り方や調理方法、保存の仕方等、地域独特な方法を教えてもらい、農村の調理場でも学べることが非常に多く、農村の魅力を垣間見ることができる活動だった。

②イベントの企画・運営
 ボランティア活動のみに留まらず、学生スタッフが農村でやりたいことを企画・運営している。智頭町中島集落では、鳥取県内と関西圏の大学生と一緒に農村宿泊体験イベント「村咲ク」を2005年から行なっている。
 「村咲ク」は年2回、夏と冬に企画し、夏は田んぼバレーやそうめん流し、冬は正月飾り作りやもちつき等を行なっている。集落の人に料理やものづくりを教わり、学生が中島の魅力を村の人の前で発表し、一緒になって「村咲ク」を創り上げる。
 また、地域に何かお返ししたいという学生側の想いから、イノシシ柵の設置や公民館の大掃除等、集落の要望を学生が汲み取り実施される活動も行なっているのが特徴である。
 この他に、集落の人にもんぺの作り方を教わり、学生に魅力を発信する「もんぺプロジェクト」や、タケノコ掘りをしながら里山整備を行ない、新入生に農村の魅力を体験してもらう「タケノコ☆ドロボー」等、学生が楽しみながらも、集落も恩恵を受けるような活動を行なっている。

③広報誌「農村16きっぷ」
 前記二つの活動を多くの人に知ってもらうため、春と秋の年2回、『農村16きっぷ』という冊子を各4000部発行している。作成のために2泊3日の合宿を、ボランティアやイベントでお世話になっている地域の公民館を借りて行なう。
 全て学生がデザイン・レイアウトしており、パソコンを駆使して製作する。始めはデザインを考えることが難しかったが、作業していく中でイメージが次々と浮かぶようになり、農村の魅力を再確認することができた。完成品を見た時、非常に達成感に溢れ、やりがいを感じた。完成した冊子は、会員への発送や都会の移住相談窓口、鳥取県内各地の観光名所等に設置し、鳥取の農の現場を伝えている。

(2)田舎応援戦隊三徳レンジャー
 ―農業を元気に、楽しく、かっこよく―そういう思いで学生自らが米を生産し、さらに加工・販売まで手掛けているのが三徳レンジャープロジェクトである。
 田んぼのある三朝町三徳地区は中山間地域で、美しい棚田が広がっている。清らかな水が流れ、昼夜の寒暖差が大きいので、とても美味しいお米が収穫されている。しかし、その知名度は低く、良食味にも関わらず安い値段で取引されている。ならば自分たちがこの美味しさを世間に広めてやろうじゃないかと、この三徳レンジャープロジェクトは行なわれている。
 今まで田んぼに入ったこともないような学生が集落に受け入れられたのは、ボランティアなどで集落との信頼関係が築かれていたこと、棚田オーナー制度などに取り組み、棚田保全、農村活性化に取り組む農家の方々の協力があったことが大きい。
 棚田を守り、農業を若い世代に伝えたいという思いを持つ農家の方から指導を受けながら、熱い思いを持つ学生たちが農作業に取り組んでいる。大学での学びだけでは見えてこない、美味しいお米を作るのに必要な多くの気配り、手間を実感し、自分たちのお米に対する思い、農業に対する思いを、少しずつ強くしていく。
 右も左も分からなかった1年生も、収穫の時期には自分で考えて作業を行なえるようになり、2年生になればバリバリと作業をこなし、後輩の作業の指導を行なう。そして3、4年生は後輩へ、三徳レンジャーの〝思い〟を伝えていく。そうして三徳レンジャーは次代へと受け継がれている。
 普段の作業は先輩後輩の分け隔てなく、歌を歌ったり、変なポーズで写真を撮ったりと、和気あいあいとした雰囲気で行なっている。その様子を集落の方々も温かく見守ってくれている。作業の合間のおしゃべりを通じて、日頃から田んぼの様子を気にかけてくれているのを感じ、人と人とのつながりの大切さを学生たちは感じている。
 地域の方にとっても、若い世代と話ができるから、自分たちも気持ちが若いままでいられるという話を聞く。高齢化の進む集落に、このような形で若者が入ること自体が、地域に歓迎されているようだ。
 地域の方々に見守られながら、今年で活動5年目を迎え、棚田オーナー制度は終了したが、少しずつ規模を拡大しながら活動している。新しく借りた田んぼは、高齢化で耕作放棄されかけていた所で、棚田の保全に一役買うことができた。
 収穫したお米は直接販売やインターネット販売などを行なったり、卵かけご飯などに加工して学園祭や地域のイベントなどで販売している。スーパーに並んでいるお米よりも高い値段で販売しているため、ただ棚にお米を並べてみても、なかなか消費者の方は手を出さない。
 そのため、実際に店頭に立ってPRしたり、チラシを手作りしたりといった工夫を凝らし販売している。そういった努力の結果、自分たちの思いに共感して購入してもらえたり、美味しかったと言ってリピーターとして購入してもらえたりすると、1年間頑張ってよかったと、本当に嬉しく思う。多くの人に価値を感じてもらった結果として得られた利益で、1年間の三徳レンジャーの活動資金の全てを賄っている。
 また、昨年度の三徳レンジャーのお米はなんと食味値94を記録、県内の飲食店への卸売り、県外のマルシェでの販売などさらに活動の幅を広げている。こうした努力の結果、最近では新聞やテレビなどのメディアに取り上げられることも増えており、そこでのPRなども通して、三徳地区のお米の注目度は上昇、さらにはブランド化を目指して努力を重ねている。

3.活動の成果
 学生人材バンクの活動を通して、学生の成長はもちろん、受け入れ地域の人の姿勢も変化しつつある。活動当初はよそ者を受け入れることに抵抗を感じる人もいたが、継続する中で、ボランティアの受け入れに協力する人が増え、口コミで受け入れ地域が増えた。地域との信頼関係が深まるにつれ、「公民館を活用して交流イベントをしたい」、「空き家を使ってみないか」、「田んぼを貸してあげる」といった声が地域からもあがるようになった。そこで生まれたのが先ほど紹介した「材咲ク」や「三徳レンジャー」である。
 毎年約400名のボランティア参加者を生んでいることも成果であるが、このような積み重ねから生まれているものも多い。
 2009年には、継続してきた活動が評価され「第6回オーライ!ニッポン大賞」で大賞を受賞した。さらに近年では、3地域に11人の若者が空き家を借りて移住し、農家民泊や新規就農につながるなど、地域の担い手づくりにも寄与している。

4.今後の展望
 2012年10月、学生人材バンクの設立10周年を記念して、農村で活動する学生団体が全国から集まり、情報交換や交流を行なう「第1回全国know村サミット」を開催した。このイベントを機に県外で本団体の魅力を発信し、他団体とノウハウが共有できる機会を提供するプロジェクトが生まれ、鳥取県を超えた動きが始まった。
 引き続き、学生にキッカケを与えつつ、地域の担い手づくりを広げ、また全国的なネットワークでノウハウを全国へ発信していければ、鳥取で生まれた地域の笑顔が、全国に広がるのではないかとワクワクしている。