「あしたのまち・くらしづくり2013」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

市民の知恵と伝統文化を活かした災害に強い男鹿の地域づくり
秋田県秋田市 災害に強い男鹿の地域づくり協議会
【活動の目的】
 活動の概要にも記したとおり、私たちは、男鹿市民の間に息づいている防災の知恵を発掘し、現代でも使うことができるように見直して地域に普及させるという目的を持って2年間取り組んできた。主な活動内容と成果を以下にまとめる。

1.1年目の活動について
①過去の地震・津波の聞き取り調査
調査実施期間:平成23年10月19日~24年2月24日
調査回数:28回、調査対象人数:41名(うち女性9名)
 男鹿市民に伝わる災害の記憶を発掘する調査。被害程度、災害後の身の処し方、避難先、非常食の実態、自然界の前兆現象などを調査。
 並行して、過去の災害の記憶を語り継ぐ語り部の発掘も行ない、ツアーやフォーラムで、この語り部の方たちに活躍していただいた。

②食料や生活物資の備蓄方法の調査
調査実施期間:平成23年10月~24年2月
調査回数:18回、調査対象人数:24名
 この調査では、男鹿における食料や燃料など、災害時に重要な位置を占める生活物資の“備蓄方法”を対象に行なった。
 海と山の幸に恵まれた半島らしい生活がみえた。食料の保存方法として塩蔵、味噌や醤油、酢漬け、乾燥、発酵、冷凍などがあり、旬の食材を利用することを教えられた。調査の成果として、男鹿の伝統的暮らしは“助け合い、お裾分け、お返し、海産物と農産物の物々交換や行商、農耕馬などの家畜とともに暮らす”などの事例が見えてきた。

③食文化を活かした非常食・保存食の料理教室
調査実施期間:平成23年10月~24年2月
調査回数:6回、調査対象人数:6名(すべて女性)
料理教室開催:1回目 2月26日 男鹿市脇本公民館 25名参加
2回目 2月28日 男鹿市船川港公民館 25名参加
 この事業では、男鹿に伝わる保存食や、非常時の保存食活用法を聞き取り調査し、その結果を参考に“保存食料理教室”を開催した。
 第1回目は「基本食から学ぶ防災に強い毎日の食づくり」、第2回目は「男鹿の伝統的な保存食を使った郷土料理、アレンジ料理」をテーマにして開催した。味噌を使ったアレンジ料理や塩蔵山菜を使った郷土料理“けのこ汁”など多様なレシピを紹介した。

④湧き水や井戸の所在地調査
調査実施期間:平成23年10月19日~24年2月24日
調査箇所数:24ヵ所
 この調査は、男鹿にある湧き水と井戸の所在地を確認し、非常時に飲用したり洗い物に使用したりなど、生活用水として使えるか否かを調べる目的で実施した。
 井戸の上流部での農薬や化学肥料の使用、土木工事や石材採取を原因とする湧出量の減少から、飲用を控えているという発言が複数あった。ただ、食器を洗う、衣服や身体を洗うなど、緊急時に使える水が確保できるということは非常に重要になるだろう。

⑤男鹿の災害文化を学ぶツアー「災害を乗り越えた村むらを訪ねる旅」
実施期間:平成24年3月17日(土)
ツアー地域:男鹿市全域の災害痕跡地11ヵ所、一般参加者:34名
 男鹿で起きた災害の跡地を男鹿市民と一緒に訪ね歩き、記憶にとどめ、これから起こるであろう災害に対する心構えを構築するためのバスツアーを実施した。見学地については、本事業で聞き取り調査を実施した各団体の代表者からもアイデアをいただいた。
 語り部の方に地震の体験談をお話しいただき、参加者から「勉強になった」と好評だった。参加者は半島各地の災害跡地を目にし驚いた様子だったが、「男鹿地震は話に聞くだけで詳しくは知らなかった。来たるべき災害に備えたい」などの意見をいただいた。

⑥“災害に強いくらしと地域を考える”フォーラムの開催 「男鹿防災フォーラム2012」
実施期間:平成24年2月5日(日)
会場:男鹿市ハートピア
一般参加者:87名
 男鹿の人たちに過去の災害を記憶にとどめ、今後の災害に対する心構えを構築してもらうためのフォーラムを実施。テーマは「災害に強いくらしと地域を考える」とした。
 基調講演・基調報告では、自給自立の地域としての半島の可能性や、将来襲われるかもしれない地震・津波の話をしていただいた。語り部の方の体験談を聞くなどし、昼食は保存食料理を提供し好評を博した。座談会では当協議会メンバーが1年間の調査で得た成果を報告し、災害に強いくらしと地域というテーマについて話し合った。
 参加者からは「語り部の貴重なお話を聞けた」「地震・津波の仕組みを知って勉強になった」「フォーラムは今後も実施してほしい」などのご意見をいただくことができた。

2.2年目の活動について
①防災の知恵を学ぶ「親子チャレンジクラブ」
実施回数:全6回(平成24年6月2日(土)~平成25年3月2日(土)の期間中)
会場:船川北公民館、若美トレーニングセンター
参加者:12家族36名
 男鹿市内に住む親子を対象に、災害時でも知恵と工夫で乗り越えられる技術や助け合うことの大切さを楽しく学んでもらうことを目的として企画した。
 内容は、「春の保存食作り」「サバイバルキャンプ」「おうちキャンプ体験」「冬の保存食作り」「味噌作りとおやつで終了パーティー」。
 小さなお子さんを持つ若いご夫婦の参加も多く見られ、「山菜採りがこんなに楽しいなんて知らなかった」「防災意識が薄れてきていたので、子どもと学ぶ良い機会だった」「本当にいざという時役立つことばかり勉強できた。災害時、学んだことを思い出してやってみたいと思う」など、参加者にとって良い機会を提供できたと考えている。

②集落の災害対応力を高めるためのワークショップ「防災男鹿さべり」
実施期間・会場・参加者:
平成24年10月31日(水) 男鹿市北浦公民館 42名
平成24年11月22日(木) 男鹿市椿公民館 29名
平成24年12月5日(水) 男鹿市男鹿中公民館 12名
 この企画では、地元住民の方にお集まりいただき、ご自身の住む地域の過去の災害や市の防災計画についての意見、これから起こるであろう災害への備えなどについて話し合っていただくことを目的として開催した。なお、男鹿市の防災担当者にもご出席いただき、市の防災計画の説明や参加者との意見交換をしていただいた。
 参加者からは「将来、子どもや孫たちのためにこの災害を伝えていきたい」「災害について日頃の過ごし方を見直す良いきっかけとなった」「相互理解の良い場となった。もっと多くの地域で開催してほしい」などのご意見をいただいた。

③“災害に強いくらしと地域を考える”フォーラムの開催 「男鹿防災フォーラム2013」
実施期間:平成25年2月23日(土)
会場:男鹿市総合体育館(会議室)
 このフォーラムは1年目の“男鹿防災フォーラム”の第2弾として、一般の方々といざという時について考え、話し合う目的で開催した。
 宮城県南三陸町から“復興みなさん会”代表の後藤一磨氏をお迎えし、東日本大震災の被災経験をお話しいただいた。その後、グループにわかれ、“いざという時の心構え”や行動など、日頃から考えていることについてワークショップを行なった。「災害時に家族間でお互いの安否確認や連絡をどうやってしたらいいのか」「普段からのコミュニケーションがしっかりしている地域は、災害時にも助け合えるのではないか」「家庭内で避難場所について話し合っていなかった。これからやらなければならない」などの意見が出た。

④男鹿の災害文化を学ぶツアー 「災害を乗りこえた村むらを訪ねる旅Part2」
実施期間:平成25年3月10日(日)
ツアー地域:男鹿市全域の災害痕跡地9ヵ所、一般参加者:23名
1年目の“男鹿の災害文化を学ぶツアー”第2弾となる。東日本大震災ののち、太平洋側だけではなく秋田県沖でも大きな地震が発生する可能性があることが示唆され始めた。
 このツアーは、男鹿半島各地に点在する過去の災害の痕跡を訪ね歩き、被害の規模や発生当時の様子を見聞きするものである。過去の災害に学び、この先発生するであろう災害被害を少しでも減少させることを目的として開催した。
 参加者からは「地元にいながら知らなかった場所を教えていただいた」「男鹿は災害を乗り越えて生きていることを実感した」などの感想をいただいた。

⑤防災パンフレット作成とホームページなどの情報発信
【防災パンフレット―『いざ!という時のために 男鹿のくらし「あんしんノート」』】
 1年目の聞き取り調査や2年目の様々なイベントを通じて、広く一般の方に知っていただきたいと思うことをまとめた小冊子作りを行なった。
 内容は、“当協議会が取り組んできたこと”“男鹿で起きた過去の地震について”“あんしんリスト(いざという時のために備えておいた方が良いものや持ち出し品などのリスト)”“男鹿ならではの伝統的な保存食の紹介”“災害時お役立ち情報”など。
【ホームページなどの情報発信】
 http://iza-oga.com/にて、この災害に強い男鹿の地域づくり事業に関する情報を発信している。今年度行なったイベント内容をわかりやすく写真を交えて掲載。そのほか、昨年度の災害調査報告、保存食・備蓄に関する調査報告、調査した湧水のマップも掲載している。

○復興歌について○
 災害の聞き取り調査の際、年配の方たちが昭和14年の男鹿地震発生を「5月1日午後3時」と正確に覚えていた。調査担当者がその理由をたずねてみると、小学校のときに歌で覚えたという。その歌とは、地震直後に男鹿市五里合小学校の若い教諭が、災害を忘れないように、また復興の願いを込めてつくった「復興歌」だった。復興歌は数年間のうち毎朝同小学校で歌われていたが、戦時色が濃くなるにつれ歌われなくなったという。
 当協議会では、この復興歌を災害の教訓を語り継ぐ有効な手段とし、再発掘に取り組むことにした。男鹿市教育委員会にかけあい、今年の5月1日、五里合小学校で74年ぶりに復興歌が歌われた。このことは地元紙や朝日新聞、NHKなどに大きくとりあげられた。元気に歌ってくれた子どもたちは、「五里合の人は歌を歌って協力して災害を乗り越えた。おかげで今の豊かな五里合がある」「これからも歌を忘れずに伝えていきたい」と話していた。

総  括
 2年間の取り組みを通じて、“過去の災害の記憶を風化させずに次世代に伝えていくこと、災害に対する心構え・備えを日常から考えておくこと、地域のつながりを大切にすること”がいかに重要か再確認できた。そして、自分たちができる最大限の範囲でそれを伝える活動ができたと考えている。しかし、人の記憶はだんだんと薄れていくものであり、このような活動は続けなければ意味がない。私たちは、これからも男鹿市と協働して男鹿を災害に強い地域にすること、そして他の地域にこの活動を広げていくことを目標として、取り組みを継続していきたいと考えている。