「あしたのまち・くらしづくり2013」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

子育て支援はまちづくり~支えあう子育て~
新潟県上越市 特定非営利活動法人マミーズ・ネット
始まりは育児サークルママたちの思い
 1996年、新潟県上越市で育児サークル活動をしていた母親たちが集まって小さなイベントを開催しました。子育て中の人たちが共感し合うことができたら、そんな思いで始めたものの、そのイベントさえ終われば解散するつもりでいたのです。ところが終わったときには、このままにはできないと考え始めていました。当時、専業主婦として家で子育てをしていた女性たちが、週1回イベント準備のために集まって話していく中で、自分だけと思っていた子育ての大変さは皆同じだということに気が付いたのです。
 みんなが同じように困っているのなら我が家だけの問題ではなく社会全体の問題だよね、それなら子育てしやすいように変えていこう!「上越市の子育て環境をよりよくするために」。なぜか最初から大きな目標を掲げ、活動を続けることになりました。けれども私たちの取り組みがそのまま、まちづくりにつながっていくことに、このときはまだ気がついていませんでした。

雨の日、雪の日でも親子がつどえる場がほしい
 育児サークルの連絡会としての活動を続けていく中で、大きな問題が一つ浮かび上がってきました。上越は豪雪地帯です。年間を通して雨量も多く一年の半分は外遊びができないような気候ですから、雨の日、雪の日は子どもとどう過ごせばいいのかと皆が悩んでいました。友人の家を行き来するのにも限界があります。上越に親子が気兼ねなく伸び伸びと一日を過ごせる場がほしい。しかもただ場所があればいいのではなく、スタッフがいて親子同士を結びつけてくれるといいね。どこにあればいいと思う?と話はどんどん進み、勝手に建設場所も想定し図面まで引いてしまっていました。そして夢物語で終わらせてはいけないとついに意を決し、上越市役所に相談に行くことにしました。
 市役所といえば市民課窓口しか思い浮かばない私たちを、市民活動をしていた先輩女性たちが助けてくれました。どこに行けばいいのか、どう話を進めればいいのか相談にのってくれました。育児サークルにアンケート調査を行ない、0歳から3歳の子どもを持つ親たちの意見としてまとめ上げて提出することができました。その後紆余曲折はありましたが、子育て中の人たちのがんばりや、応援してくれる地域の人たちのおかげがあって、2001年、上越市市民プラザの中にこどもセンターが開設しました。
 この一連の動きの中で、私たちがやろうとしていることは、まちづくりなのだと自覚を持ち始めていきました。子育て環境をよりよくしていくためには、様々な人の理解と協力が必要です。ネットワークを広く地域に広げていく必要性に気が付いていったのです。

ひろがるネットワーク
 活動を始めた当時、地元密着の子育て情報が少なかったため、自分たちで情報発信することにしました。子どもたちとお出かけしやすいように授乳室やオムツ替えスペースのある施設をリストアップ、調べたことは情報誌で発表しました。すぐ役に立つ情報は地域で子育てしている人に喜ばれると同時に、地域に対しても「オムツ替えできるスペースが求められている」という発信にもなりました。街の規模があまり大きくないことも幸いし、ネットワークは徐々に広がっていきました。私たちの情報発信事業を知った地元のケーブルテレビから子育て世代に向けた番組の企画に加わってほしいという依頼をうけ、今も続けています。私たちの情報誌も地元子育て情報満載のフリーペーパー「With Kids NEWS」として続いています。行政や市民団体だけにとどまらず、企業とのつながりも生まれていったのです。
 ネットワークが広がる中でマミーズ・ネットも成長し2004年にNPO法人となりました。上越の子育てのために確かに役割を果たしているこの活動を、しっかりと続けていかなければと思いを新たにしたのです。入るのも抜けるのも気軽にできる育児サークルの良さを残しながらも、活動を継続していくためには組織の基盤を整える必要があると考えました。
 2006年には、企業への出前子育て講座を開始しました。子育てしやすい環境にしていくためには、父親が子育てを学ぶことも大切です。しかし男性は講座になかなか集まらない現状を何とかしようと、就業時間内に職場で行なう子育て講座を実現したのです。これも、企業とのつながりがあったために実現に至りました。実施していく中で企業側から、せっかくの研修だから会社全体で受けたいという希望も出始めました。従業員皆が受講するのですから、子育てが終わった世代もこれからの世代も男性も女性も一緒です。皆で子育てについて考え理解を深めることで、会社全体で子育てを応援しようという雰囲気をつくるよい機会になりました。企業講座を通しても「まちづくり」ができるとわかっていきました。2007年からは一部の講座については上越市と協働で行なっています。
 自営の『子育て応援ひろばふぅ』を2007年に開設し、子どもを遊ばせるためのひろば・上手な子育てをするためだけのひろばではなく、親のためのひろばが欲しいという思いを実現しています。また同年、こどもセンターの運営を上越市から受託しました。現在は、移動子育てひろば、ファミリーサポートセンター事業も受託しています。もっとたくさんの地域の人たちから活動を支えてもらいやすくするために今年4月に、新潟県の認定第1号として仮認定NPO法人となりました。

支えあいを地域の中で循環する
 マミーズ・ネットの子育て支援の活動に参加する人たちは、はじめは「参加者」や「利用者」なのですが、徐々に皆それぞれ自分ができる形でほかの人を支え始めます。他の人にちょっと手を貸すといった小さなことから始まるのですが、大きく発展していくこともあります。ふぅから生まれた育児サークルもありますし、ふぅで講師デビューを果たした人がその後独立して起業していったという事例もあります。利用者の人たちが、ボランティアスタッフとして自分の子どもと一緒に、または子どもが幼稚園に行っている間にふぅに来て、「ちょっと先輩ママ」として利用者さんが楽しい時間を過ごせるように気を配ってくれたりもします。ふぅがあって私が楽しかったから今度は「恩返し」がしたい、そんなうれしい言葉をもらうこともあります。ボランティアから始まり、マミーズ・ネットのスタッフとして活躍している人が多数います。学生やすでに子育てを終えた世代も活動を支えるボランティアをしてくれます。

子育て支援はまちづくり
 子育て支援は、母親が上手に子育てできるようにすることだと考えられる場合もありますが、私たちは、子育て期にある男女の、一人の成人としての生き方を支えていくことだと思っています。
 現在、上越市で生活している若い人たちの多くが学校を卒業して社会人になっても地域社会とは縁を持たずに過ごします。自分の子どもを持つことで初めて、町内や地域の活動に参加していくことになります。子育て期は親の地域デビューの機会でもあるのです。子どもとともに地域で活動してみて初めて地域に知り合いができます。親子で楽しい経験ができると地域活動は良いものだと思えますし、人のために何かすることが楽しくなります。マミーズ・ネットでそんな体験をした人たちは、町内の子ども会やPTA活動に積極的に関わっていきます。子育て支援の受け手だった人たちが、地域を支える人材に育っていくのです。
 マミーズ・ネットのスタート時、子育てを始めたばかりだった女性たちが、地域に徐々に理解者を得ながら上越の子育て環境をよりよくするために自分たちが必要だと思うことを実現し、ここまで来ました。育児サークルの連絡会がNPO法人となり、スタッフを雇用する「職場」を地域に生み出すことにもなりました。活動とともに子育てをしてきたとも言える創設時からのメンバーの子どもたちは成人し、すでに結婚する年齢にもなってきました。親として活動に帰ってくる日も近いでしょう。一方で、子どもを持ったばかりの新しいメンバーも入ってきます。支えあいは循環していきます。
 子育て中の人たちの暮らしを支えるためには、企業経営者や子育てが終わった世代、これから子どもを持つ世代、学生など、自分は子育てとは無縁だと思っていた人たちをも巻き込んでいくことも必要でした。私たちがやってきたこと自体が「まちづくり」なのです。子育てしやすい環境づくりのために地域とともに支えあって活動を続けていきます。