「あしたのまち・くらしづくり2013」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

山間地と製材所の資源を活かした地域活性
三重県伊賀市 穂積製材所プロジェクト
プロジェクト発足の経緯
 穂積製材所プロジェクトは、三重県伊賀市の北西部に位置する旧島ヶ原村地区にある島ヶ原木材工業有限会社(以下、穂積製材所)を拠点とした、林業・森林問題の解決に取り組むプロジェクトです。2007年に穂積製材所とまちづくり会社studio-L、京都造形芸術大学空間演出デザイン学科が協働して発足しました。
 島ヶ原地区は、北は滋賀県、西は京都府、南は奈良県と接する、旧上野市の山間地域にあります。大阪湾へと続く木津川の上流地域にあるこの地域の人口は約2300人、そのうち3人に1人以上は65歳以上の高齢者です。平地が少なく山々に囲まれたこの地域は、面積の8割を森林が占め、さらにその8割を人工林が占めています。しかし近年、海外の安価な輸入木材の増加と国産木材の需要低下に加え、林業や製材の技術継承者の高齢化と担い手不足が影響し、管理が行き届かなくなった森は荒廃の一途を辿っています。その結果として土砂崩れなどの自然災害や森林の生態系破壊だけでなく、林産・製材・木造建築・木工など、地域が継承してきた技術を失うことも懸念されています。
 こうした現状の解決に向けて穂積製材所プロジェクトはスタートしました。始まりは2006年、穂積製材所を営む穂積夫妻とstudio-L代表のコミュニティデザイナー・山崎亮との出会いがきっかけです。穂積製材所はJR島ヶ原駅の駅前にあり、大阪、京都から1時間半、名古屋から2時間で来ることができる場所にあります。こうした魅力的な立地にある、休業中の製材所の土地を活用した交流スペースをつくり、穂積家が長年村長としてお世話になってきた島ヶ原への恩返しがしたいと、山崎に相談したことをきっかけにこのプロジェクトがスタートしました。現在は製材所の敷地内にstudio-Lの事務所もでき、全国各地から集まった大学生や大学院生とstudio-Lのスタッフが製材所や地元の方々の協力を得ながら、木材を活かした地域活性に取り組んでいます。

これまでの活動内容
 穂積製材所プロジェクトでは島ヶ原の立地条件、製材所の持つ木材加工の技術と設備、豊富な木材資源などの、それぞれの魅力を活かした活動を展開しています。活動を通して主に目指しているのは、多世代・都市農村交流を通じた地域の活性化と、林業・森林問題の解決の2点です。

□多世代・都市農村交流を通じた地域の活性化
 高齢化の進む地域の活性だけでなく事業の持続性を高めるためにも、地域住民と若者たちが連携・交流して取り組むための様々な仕掛けを考えています。
 まずは場の整備から始めようと、プロジェクト初期の2007年から2008年にかけて、プログラム実施時に都心部からの来訪者が休憩・宿泊するための施設「木製テント」をつくりました。この木製テントづくりは、都市部の若手建築家、建築・インテリア等ものづくりを学ぶ大学生、地域の製材所や林業関係者など多くの主体が参加・協働し進めていきました。製材所内の使用していない納屋を解体し、解体した部材や倉庫の在庫を活用し、家族連れ(4人程度)が一緒に休憩することができる広さの施設を2年間にわたり計6棟つくりました。
 木製テントづくりにあたっては、実物大のものづくりができるため、関西の建築・デザイン系の学生を中心に多くの方に参加してもらうことができました。その結果、地元の大工をはじめとする地域住民の方と学生との交流も活発化し、卒業後に島ヶ原を訪れ穂積製材所プロジェクトに関わってくれる学生を多く見つけることができました。プロジェクト発足から6年経ち、当時関わっていた学生(2名)が穂積製材所のスタッフとして従事するため島ヶ原に移住しています。

□林業・森林問題への取り組み
 島ヶ原地区には豊かな自然環境や生活文化はもちろん、製材所が所有する広大な森林もあります。そうした製材所特有の環境を活用し、管理されない森林が抱える課題を知るための森林ツアーや、地域産材を使った家具づくりなどの実践的プログラムを展開しています。
 具体的なイベントとして一例を挙げると、2012年9月に外部から講師(デンマーク出身のデザイナー、イェンス・イェンセン氏)を招き、森林学習と木工教室の1泊2日体験型宿泊プログラムを行ないました。製材所スタッフ、地域住民の方のガイドのもと実際に森林の中を歩いての勉強会を行ない、製材所にて製材行程を見学したのち、講師の指導のもと穂積製材所の木材を使った家具づくり教室を開催しました。また、プログラム参加者だけでなく地域住民の方も対象としたレクチャーも同時に実施しました。
 この2日間のイベントには、FacebookなどのSNSを通じて応募した親子連れや都心部の若者グループなどを中心に、約30名の参加があり、レクチャーには約80名の方が参加してくださいました。森林環境・ものづくりのイベントだけでなく、地元で地産地消の取り組みをしているNPO団体の方と連携し昼食を提供したことも大きな反響を呼びました。様々な場所から集まったものづくりの好きな参加者や地元のスタッフが交流しながら、普段体験することのできない製材所ならではの環境を活かして、楽しく木や森の魅力、大切さを学ぶことができました。

新たな取り組み
□工房づくり
 地域産材を活用したものづくりを行なっていく拠点として、かつて製材所の木材倉庫として使われていた倉庫を簡易改修し、ものづくりのための工房として再生させました。改修の期間は2012年10月から翌4月の約7ヶ月間で、製材所スタッフと建築士の資格を持つstudio-Lのスタッフの現場管理のもと、ボランティアで集まった多くの若者が週末を利用して泊まりがけで工房づくりを体験しました。
 ボランティアメンバーはSNS等の呼びかけによって集まり、ものづくりの好きな建築系の学生だけでなく社会人の参加も多くありました。京都、大阪、奈良の関西圏の他、東京や神戸などの遠方から1泊2日で参加される方もいました。木材倉庫の古くなった壁を取り外すところから始まり、基礎の打ち直し、床面と壁面の張り替え、構造材の補強、建具の取り付けなどの一連の行程に取り組みました。地元の大工のアドバイスのもと、多くをボランティアメンバーの手によって行なっています。期間延べ100人近くの参加者とともにゆっくりと時間をかけて進めていきました。
 工房は、木材倉庫だったため天井も高く広々としており、これまで島ヶ原にはなかったタイプの新しい交流スペースができました。完成した工房の作業スペースには、製材所で埃をかぶっていた木工用具や機械が所狭しと並べられ、また製材所の技術者や木を活用したものづくりのエキスパートが揃い、「ヒト」「モノ」ともに製材所ならではの環境が整っています。

□ものづくり工房でのイベント活動
 そうした環境の揃うものづくり工房で、前述の家具づくり教室をはじめ、あらゆるイベントを定期的に行なっています。
 今年の4月21日にはものづくり工房の竣工を記念した記念イベントを行ないました。ものづくり工房の建設に携わったボランティアだけでなく、設計に関わってくれた建築家の方々、支えてくださった地域住民の方々や外国人観光客、studio-Lと関わりの深い全国各地の団体からの参加がありました。6年間にわたる穂積製材所プロジェクトの歩みを振り返り、新たなものづくりやイベントの拠点としての工房の竣工を一緒に祝いました。また、これまでの感謝として、ものづくり教室の工房第1号イベントでもある箸づくり体験ワークショップを行ない、その後参加者とともに工房のこれからの使い方を話し合いました。
 特に箸づくり体験では、各地から集まった年齢も異なる参加者がそれぞれ輪となり、子どものヤスリがけ作業を年配の方が手伝ってあげたりと、お互いにアドバイスをし合いみんなで協力して思い思いの箸を作りました。
 この他にも今後、子どもや家族での参加の増える夏休みに向けてイベントを行なっていく予定です。工房はものづくりのための拠点であると同時に、これまで島ヶ原にはなかった多くの人数が交流することのできるオープンスペースでもあります。そうした特徴を生かして、勉強会や古道具市、料理教室など、ものづくり以外のイベントも企画しています。都心部から週末に余暇として遊びに来たくなるようなイベントや、地元の年配の方にも楽しんでもらえるイベントなど、多くの方を対象とした各種イベントを行ない、ものづくり工房での活動をきっかけに、多地域・多世代をつなぐコミュニティとなることを目指しています。

□地区の瓦版「がはらばん」の発行
 工房が完成した今年4月に、イベント企画と同時に始まった取り組みが、島ヶ原の魅力を発信する瓦版の発行です。「島ヶ原の瓦版」をもじり、「がはらばん」と名付け、地域行事のレポートや、日頃ふれあう中で気になった人を取材した内容を発信しています。studio-Lにインターンとして全国から集まる若者たちが毎月発行号ごとに編集チームをつくり、企画からデザイン、配布までメンバー自ら行なって積極的に情報発信に取り組んでいます。がはらばんの制作を通じて、彼らの学びの場も獲得しています。
 がはらばんのコンセプトは、インターン生の「ヨソモノ目線」からの島ヶ原の魅力の発信です。地元の人には特別なことではない田舎のくらしを外部の若者の視点で紹介し、島ヶ原の魅力の再発見につなげていくことを目標としています。その他にもプロジェクトの顔としての意味合いも持たせており、プロジェクトの活動報告やものづくり工房でのイベント告知、地元高齢者からの若者への生活の困りごと相談コーナーなどを設けています。
 まだ初号発行から3ヶ月余りですが、取り組みに興味を持った自治協議会の協力を得ることができ、島ヶ原地区への全戸配布(全725戸)も実現しています。島ヶ原全地区に確実に配布ができるようになったことで、住民の皆さんも製材所に遊びにくるようになり、また取材を受けた住民から「島ヶ原中の人が自分に声をかけてくれるようになった」という嬉しい報告も寄せられるようになるなど、これまでの島ヶ原にはなかった交流が生まれ始めています。今後は長期的な目標として、インターン生だけでなく地元住民にも企画や編集に携わってもらうことなども視野に入れ、島ヶ原の交流の仲立ちとなるような便りとなることを目指していきます。

おわりに
 プロジェクト発足から7年目に入り、これまでは無理のないペースでゆっくりと進めていった活動も、ものづくり工房のオープンとがはらばんの発行をきっかけに、多くの地元住民の期待、注目が集まってきました。その結果、現在では森林活動やものづくりに限らず、地区の小学校への出張授業や、企業と連携しての研修合宿など、これまでになかった新たな活動も展開しています。今後もこれまでの活動を継続し行なうことと共に、自分たちのできることと地域の求めていることの両面から新たな取り組みにチャレンジし続け、穂積夫妻の念願であった「島ヶ原への恩返し」「島ヶ原における新しい交流を生む場」として発展を続けるべく活動していきます。