「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣官房長官賞

新しい街をつくるプロジェクト
茨城県那珂市 一般社団法人カミスガプロジェクト
地域の概要とプロジェクトの設立経緯
 茨城県那珂市は水戸市の北にある人口5万3千人ほどの街である。市の主要産業は農業であるが、近年は南に水戸市、南東にひたちなか市、北東に日立市という都市圏があり、通勤に便利なベッドタウンとして、宅地化が進み、過疎化が激しい茨城県北部においては珍しく人口の流入がある地域だ。
 那珂市の中央を縦断するJR水郡線は水戸駅〜常陸大子〜郡山を結ぶ本線と、水戸〜常陸太田を結ぶ支線があるローカル線だが、那珂市のほぼ中央にある上菅谷駅で、本線と支線が分岐する。
 上菅谷駅のある菅谷地区は那珂市の中心地として、古くは水戸から常陸太田を結ぶ太田街道の宿場町として繁栄した。1980年代までは駅前を国道349号線が走り、商業地として賑わっていたが、1980年代以降はモータリゼーションの普及にあわせて、349号線那珂バイパスが整備され、郊外店が乱立し、駅前の商店街は衰退していた。那珂市では2002年より10か年計画で商業振興計画を立て、駅前からバイパスに続く接続路を作り、駅前の再開発を進めたが、その際の区画整理とともに、駅前に点在していた商店はほとんどの店が廃業してしまい、逆に商店街は壊滅、駅前は「何もない更地」になってしまった。
 カミスガプロジェクトは、東日本大震災の後、2011年5月に誕生した団体である。発起人の菊池一俊は、震災後に個人で基金を立ち上げ、募金活動を行っていたが、復興と騒ぐよりも新しく興す「新興策」が必要だと考え、SNSサイト「facebook」で、更地と化したJR上菅谷駅前に「カミスガ」という新しい街を作ろうと訴え、那珂市内外から約80人の仲間を集めた。学生、会社員、公務員、自営業者、農家、弁護士など、20代から60代まで幅広い層が集まる他に類を見ない団体になった。
 2013年に法人化、「一般社団法人カミスガプロジェクト」となり、様々な活動を行っ
ている。

団体の特徴
 団体メンバーは事務員をのぞく全員が、ボランティアで集まっており、基本的に事業はすべて自主財源で運営している。またイベント等、限定した事業だけでなく、様々な事業を矢継ぎ早に幅広く展開しているため、商業振興、地域活性化、地域連携、地域コミュニティ、世代間交流など、様々な分野で貢献している。

歩行者天国イベントの開催
 プロジェクトは新興のために、まずは賑わいを作り、那珂市および上菅谷駅を認知してもらおうと考え、駅前に新しくできた接続路「宮の池公園通り」を、歩行者天国にして、テントでお店を並べ「一日商店街」を作り、様々な企画を用意し、来場者に一日楽しんでもらうというイベントを考えた。
 このイベントは設立時から2か月に1回、偶数月の第一日曜日に開催しているが、一番の特徴としては自分たちで資金を集めて開催している点てある。自治体からの補助金等を一切使わず、出店料、協賛を募り、自ら出資し、低予算でのイベント開催を続けている。
 それでも規模は回数を数える毎に大きくなり、現在では1回あたり平均2万人近く来場する「茨城県北部」屈指の名物イベントとなっている。
 イベントの目的は大きく三つある。
 一つは「来街者の誘致」。
 先にも述べたように、イベントを通じて来街者を増やし、上菅谷を広く認知してもらうことである。4月と10月は「サスガ★カミスガ」として、特に来街者誘致を増やすために大型企画を用意している。
 二つめは「市民交流」。来場者同士の交流、来場者と商店主の交流である。
 人口の流人が多い那珂市では、新住民と旧住民の交流が少ない。地域が一つになれるように、イベントを介して交流が生まれるような企画を用意している。2月、6月、12月は「ガヤガヤ☆カミスガ」として、参加型のイベント企画をたくさん用意して開催している。
 三つめは「観光の玄関口としての確立」だ。
 那珂市以北の大子町、常陸大宮市、常陸太田市は観光資源の宝庫だが、それに対して那珂市はほとんど何もない。観光地としての町おこしは不可能である。
 しかし、県北部の観光地へ行くには常磐道なら上菅谷駅から車で5分の「那珂インター」を経由し、水郡線では上菅谷駅での乗り換えが必要となる。そこでプロジェクトは、無理に「目的地」になるのではなく「寄り道する街」というコンセプトで、県北部の「観光の玄関口」、県北部観光の案内役として、沿線地域に貢献しようと考えた。
 毎回沿線市町村の商店街や団体に出店を募り、様々な企画で沿線地域のPRに貢献している。今では、県央、県北だけでなく、県西、県南の団体も出店しており、地域同士の連携も高まり、大きな広がりを見せている。
 この歩行者天国イベントの大きな特徴として、出店に関しては「普段自店で販売しているものを販売する」という約束がある。よくイベントというと、その日限りの商品を販売する模擬店が多いが、カミスガでは専門店が並ぶ。また、この地域に新規開業を希望する市外からの出店者を優遇している。あくまで地域のお店を増やし、商店街を作るという目的を設立当初から徹底しているのだ。
 また、近隣市町村にある高校や大学などから学生ボランティアを募り、毎回80名近くの学生と一緒にイベント運営をして次世代の育成、世代間交流も図っている。
 イベント企画は老若男女すべての来場者が楽しめるように考えているのも特徴だ。無名の若手漫才芸人を集めての「お笑い勝ち抜きバトル」、子どもたちに様々な指令を出し、コインを集めさせる「カミスガRPG」、軽トラに高座を作り、大学の落語研究会の学生を集めて開く「軽トラ寄席」、市内の運送業者からトラックを無償提供してもらい、地域で活動するバンドの演奏や、地元の子どもにダンスなどを披露してもらう「ステージ」、若い主婦世代に人気の手作り雑貨の「ワークショップ」など多種にわたる。中でも歩行者天国にヴァージンロードを敷き、駅長に司式者を務めてもらう「駅前結婚式」は、挙式を上げた夫婦はもちろん、来場者にも大変好評だ。
 とにかく「いつ行っても楽しい」というイメージを定着させるために、毎回趣向を凝らした様々な企画で来場者を飽きさせない工夫をしている。

エキマエ・ガーデニング事業
 これは震災復旧工事によって後回しになっていた駅前ロータリーにある未整備だった緑地部分を、市民たちの手で花を植えて駅前を整備し、おもてなしの心を育む、植えて育てる「植育」事業として、年に2回、市内の菅谷保育園の園児と、同じく市内にある水戸農業高校園芸科の学生に共同で植栽をお願いし、植栽以外の維持管理をカミスガプロジェクトで行っている。現在ではガーデニング以外でも保育園児と高校生の間に親交が深まっており、交流が図られている。

映画製作事業
 平成24年の春、映画製作を夢見ていた元映像会社勤務のメンバーが中心となって、映画製作事業部を立ち上げた。まずは上菅谷から分かれる水郡線の3路線を舞台に『水郡線沿線地域活性化支援作品』を製作した。
 平成24年夏に常陸太田から上菅谷を舞台にした1作目『走れ』を撮影、秋に上映を行い、延べ3000人を動員、続けて平成25年冬に常陸大子から上菅谷を舞台にした2作目『シガノココロ』を撮影、春に上映で3500人を動員、そして平成25年夏に水戸から上菅谷を舞台にした3作目『そなたへ』を撮影、秋の上映で3500人を動員し、3部作で延べ1万人を動員した。なお、出演者は地域の市民から募り、技術スタッフ以外のスタッフ(AD等)は全員プロジェクトのメンバーで補って経費をかけずに製作している。技術スタッフのみプロに依頼しているが、そのプロも茨城在住の有志から募り、本格的な映画に仕上げている。上映会は県内13か所のほか、都内でも上映会を行う。
 さらに最新作として那珂市の東西にある市町村、ひたちなか市、城里町などを舞台にした第4作目『あかいはし、とりのみち。』を平成26年冬に撮影、今春に上映し、こちらものべ3000人を動員した。半年に1本という驚異的なスピードで映画も作っている。
 地元製作、地元配給、すべて自分たちだけの力で映画という事業を行っており、東京資本に頼らない『本当のご当地映画』として、地域の話題になっている。
 映像を通じて土地、人などの隠れた地域資源の発掘を狙い、沿線地域の観光に貢献している。今後も県内近隣地域を舞台にした映画の製作を続けていく予定。

ツアー事業と通販事業
 平成25年度の総務省「移住交流事業」として、「なかなか楽しいカミスガワーホリツアー」を開催した。この事業は都内の小学生を対象に開催、子どもたちに那珂市をはじめとする県央、県北地域の事業所で「労働体験」をしてもらい、ありのままの茨城で魅力を伝えようという企画である。さらに、このツアー参加者にはお給料と称した「クーポン券」を帰りに支給し、そのクーポン券は帰宅後に通販サイト「常陸の逸品」でお買い物ができるというものである。
 初回の開催だったが総勢80名以上がツアーに参加し、大成功を収めた。今年度は自主財源での運営にはなるが、新たに県内(おもに那珂市内)の小学生も同時に募集し、東京と茨城の地域間の「子ども同士の交流」も促進できるように工夫し、継続開催する。
 またツアー事業にあわせて運営を始めた通販サイトに関しても、リピーターも多く、商工会のお店をはじめ、近隣地域の取扱店には「簡単に通販も始めることができた」と好評である。

酉の市の運営
 那珂市内の地域資源を最大限に活用しようと、平成24年の秋から、市内にある「鷲神社」にて、商売繁盛の縁起物を販売する熊手市「なかなか儲かる酉の市」を開催している。茨城県内では熊手市を開催している神社はなく、始まってわすが2回の開催ではあるが、2年続けて熊手は完売するくらいの盛況ぶりである。
 これは、地域資源を活用し、那珂市を「商売繁盛のまち」としてPRし、新規出店、企業誘致のきっかけを作ろうと始まったのだが、熊手の製作に関しては市内の福祉障害者施設に依頼し、売上を手数料として払うことで、地域の福祉活動にも貢献している。このお祭りは「年に1回、茨城の商売人が那珂市に集まる」というキャッチフレーズを掲げ、今後も長く続けていき、商売繁盛の街を定着させるよう今年度も継続開催が決定している。

地域連携と地域貢献
 今では確実に「カミスガ」という新しい地名が定着しており、市内不動産業者が販売を始めた同地区の新しい分譲地には「カミスガ☆タウン」と名付けられ、また地域の新聞販売店のミニコミ誌も「カミスガ」という名前で発行されている。
 カミスガプロジェクトは、壁を作らず、地域が大きく一つにまとまっていくのが理想と考えており、現在でも地域の自治会のほか、学生ボランティアをはじめとする近隣の学校、「那珂市商工会女性部」をはじめとする女性団体、歩行者天国イベントに出店する近隣市町村の商工会や観光協会などの各種団体との連携を重要視し、実際に連携して活動している特殊な団体である。特に那珂市商工会と東日本旅客鉄道株式会社とは巡携を強化しており、様々な企画にカミスガプロジェクトとして協力する機会が増えている。また近隣市町村の市民団体や商工会などの活動にも協力することが多くなっている。地域住民からの支持もかなり高く「カミスガのおかげで孫がウチに遊びに来るようになった」と感謝されている。

将来への提案
 茨城県は自動車が一人一台といわれるくらい必需品であるが、モータリゼーションの普及による郊外店の台頭、駅前商店街の衰退は、将来的に考えると今後高齢化社会がさらに進み、昭和40〜50年代生まれの世代が高齢者になって自動車の運転ができなくなった時には買い物難民が溢れかえることになる。そのために「鉄道の見直し」「商店の駅前回帰」を先行して行い、提案していくこともプロジェクトの重要な要素として捉えている。
 また「新しい街を作る」という活動が、現在瀕死の状態になっている近隣市町村の商店街に刺激と勇気を与えていると評されている。

新しい街を作るために
 様々な事業を行っている団体とだが、現在は駅前の「宮の池公園通り」に、米軍海兵隊のバスを改造したユニークなオフィスを構え、駅前の名物となるとともに、歩行者天国イベントの小規模版として、オフィス前でミニマルシェ的なイベントも行っている。
 また、テナント募集や誘致をカミスガプロジェクトでプロデュースするという形で、地権者にテナント建設の提案を行っている。現在は上菅谷駅前に「商業振興(那珂市アンテナショップ)と市民交流(コミュニティカフェ)と文化施設(ミニシアター)を兼ね備えた総合施設」の建設を目指し、商工会と協議している。
 「10年後に新しい街を作る」と団体設立当初から公言し活動しているが、現在、設立からわずか3年で、宮の池公園通りには5件の商店が新規開業した。今後はさらに活動を拡大していく。