「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

乳幼児に外遊びの場をつくろう―公園を巡回する移動型の遊び場…プレーリヤカーの活動―
東京都世田谷区 KOPA(外遊びと子育て支援研究会)
遊べる場所がない乳幼児
 どこでも遊べると思われがちな乳幼児期の外遊びが、住宅の集合化や町並みの都市化、子育て支援の室内型の普及で、ここ数年、どんどん難しくなっています。
 移動型のプレーリヤカーを開発するきっかけは「乳幼児期の外遊びの場」を既存の施設を活用して育てたいという思いからです。

土・泥、水の遊びをさせたい、ママたちの思い
 2005年、既存の公園を活用して外遊びを育てたいと、都市再生モデル調査(※)を受け、乳幼児期の公園利用のあり方と、乳幼児期の外遊びについて調査しました。現状を知るために160人の世田谷区内のママたちにアンケートを行いました。
 アンケートから乳幼児期の遊びで、ママたちが一番させたい遊びは『土・泥、水遊び』でした。理由は「家には庭も土もない。家ではできない」「子どもが夢中になって砂場で遊ぶ」「子どもが飽きないで水遊び続けている」などでした。
 よごれる遊びは『乳幼児期の親には歓迎されない』と思っていたので、この回答は意外でした。親は「遊びで汚れるのは仕方がない」と受け止めていて、「家に庭がない、住宅に土や緑などの身近な自然がない」などで、土や水、自然との遊びを求めていることがわかりました。
 ※ 乳幼児期の活き活き公園活用調査 平成17年内閣府都市再生モデル調査

集合住宅、都市型の住宅で難しいよ
 また『水、土、泥の遊びは、させたい。でも今の環境では難しい遊び』として声が挙がりました。どこでもある素材でどこでも行えそうな遊びです。が、「うちのマンションでは遊べるのはベランダのみ。でもマンション組合でベランダでの遊びを禁止している」「住宅に土の庭がない。公園では人目があり自由にさせられない」「家の前の道では、近隣に迷惑になりそうで、できない」という声でした。
 また、分譲マンションのママからは、「汚れる」「壊れる」などで資産価値が下がるという理由で子どもの遊びは全面禁止という管理協定がある、との回答もありました。
 ほんとうに住宅周りでは身近な「水、泥、土遊び」が行えなくて、そのために公園に出向くことがわかりました。

公園を巡回するプレーリヤカーを始めました
 そこで公園が乳幼児期の遊び場として、もっともっと活用できるようにママたちと「公園利活用アイディア会議」を開きました。ここでは「乳幼児専用の庭のような公園がほしい」「乳幼児期が遊べるプレーパークがあればいいなあ」など、たくさんの楽しいアイディアが集まりました。その中から、住宅地にある公園を活用して、仮設の遊び場を開設していく「巡回型プレーリヤカー」を運行していくことを決めました。(※)
 90センチ×60センチのリヤカーに、遊び道具を積んで公園に出かけます。
 リヤカーは、この規模が魅力です。人間くさい、手づくり、歩いての移動、人にやさしい。また60センチのサイズは、世田谷などの都会の緑道も歩道も公園も行き来できる幅です。女性の手でも十分に操作が可能で、折り畳んで普通車で運べる大きさで、活動には2人のサポーターが公園までリヤカーを運び、遊具を置いて短時間の遊び場を創ります。
 ※2006年にそれまでの活動団体からKOPAに名称を変更しました。

リヤカーが来ると、いつもの公園が変わります
 「いつも」の公園に、リヤカーが出現するとその「いつも」が変わります。
 まず「今の時間は、乳幼児が遊んでもいい」という空気が生まれます。すると親たちの緊張がスッーと解かれます。親たちは、風紀的なことや子どもたちの起こす小さないざこざなど、対応しなければならない役目に先回りして身構えています。そんな緊張感がなぜか緩みます。リヤカーが通うようになってお弁当を持って長居する親子がいたりして、とにかく親の顔がゆっくりと変化していきます。
 そして人影や子どもの声で公園が明るくなります。リヤカーの遊具がカラフルなことも理由ですが、とにかく活気が生まれます。それが子どもたちを刺激します。
 そしてサポーターたち。子どもの預かりはしませんので、あくまでも見守り役ですが、地域の子育て活動情報を伝えたり、遊びをサポートしたり、遊具を直したり、座ったり、しゃべったり。この人たちが存在するだけで、やはり安心感がでます。この安心感から、みんなが優しくなれる。そんな雰囲気になっています。

プレーリヤカーで大事にしていること
 乳幼児期の遊びはイベントでなく毎日ある土や水や泥との単純なことの繰り返しの遊びです。小さなリヤカーに積んでいくために、搭載するものを検討しています。
・多様な遊びへのきっかけがつくれるように応用がひろい遊具であること
・素材はダンボールとかベニア板で自然感を生かしていくこと
・リヤカーに積むので軽量、折り畳みができること
・砂遊びができるセットは必需品。一般の家庭の鍋や釜、しゃもじを揃える
・いつもの公園が明るく楽しげに変化していくために明るい色使いをする
・リヤカーをしらせるためにシンボルや目印になる遊具を持つこと
 落書きや、ゆれる物に何度も触ってみたりする遊びも人気があることがわかり、吹流しや黒板ティピの搭載を思いつきました。
 ダンボールや布での手作りで、私たちの遊具は使用する中で壊れてもいきます。そのたびに継ぎ足して工夫して、試行しながら動かしています。

これが大事、公園行政や周辺住宅とのルール
 リヤカーの運行には、世田谷区公園管理事務所の占有許可をもらいます。
 「子どもの声がうるさい」とか「風紀的に迷惑」とか、迷惑施設になりがちな住宅地の公園の利活用につながると、プレーリヤカーを公園行政は積極的に後押ししてくれます。子育て支援の部署と公園行政と常に連携していくことで、子どもの遊びへの理解を深めていくことができる。これはとても大きな力になっています。
 季節の節目などには、公園に隣接する住宅に案内を持って挨拶に回ります。「子どもの声がうるさい」「不法な使い方だ」などの近隣からの苦情は避けたい。その結果、子どもたちが遊べなくなることはもっと避けたいことです。このような近隣周りを行うことも地域の活動だからできること。多様な要望や苦情を受ける公園の現状を考えると、安定して事業を続けていくには、欠かせないと考えています。

プレーリヤカーの可能性と乳幼児期の外遊び支援
 プレーリヤカーには、各地からの問い合わせが多くあります。「屋内で子育て支援を行ってきたが、外遊びも支援したい」「遊び場づくりの活動を増やしていきたいので、きっかけをつくりたい」「近隣の公園を遊び場として活用したい」「乳幼児の外遊びを主体とした支援を考えている」などです。首都圏だけでなく、地方都市もあり、児童教育学科がある大学からの問い合わせもあります。
 プレーリヤカーは手ごろです。金銭的にも実施しやすいという規模が受けているとも感じます。また手作り、人力、天候に影響するという素朴さが、エコの時代に合っている、というのも感じています。
 が、それ以上に受けるのは「乳幼児期の外遊びをなんとかしなければ」という支援者や親たちの気持ちです。
 それは「子育て」から「子育ち支援」に、関心が動いているという実感でもあります。プレーリヤカーは子どもの外で遊べる場を増やしています。住宅の高層化や利便化で何気ない遊び…土や水や草花や泥と遊ぶことができなくなり、その遊びそのものが特殊なものになってしまった。この何気ない遊びの機会をつくることが、子どもそのものの生きる力の応援と考えます。子どもが生きる力を多様に身につける機会をつくることは、いつの時代でも基礎であり、大人の役目です。「子どもが外に出て遊ぶ場をふやそう」という子育ち支援のメッセージに賛同してくれる方が、最近はとても増えてきて、うれしく感じています。

2014年の活動
 世田谷区で2006年に1台目のリヤカーを運行しました。そこから毎年、地区の子育てグループの協力を得て、リヤカーを増やし、現在では区内だけで6台のリヤカーが動いています。また世田谷区の自然体験遊び場事業として評価され、現在は委託事業として運行しています。(※秋に1台のリヤカーが新たにスタートします)
 逗子市、札幌市、東近江市、川崎市、板橋区など、プレーリヤカーでの乳幼児の公園遊びの連携も育っています。