「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

子どもたちへ 未来へのバトン
東京都あきる野市 いずみの会生活学校
 いずみ
 ここに小さないずみあり/湧き出でてたえまなく/あふれ出て尽きず/かわいた大地をうるおし/疲れた人をいやし/なおあふれ出る/そんな豊かないずみとなろう/汲んでも尽きない友情の/ああ友情のいずみとなろう

 この詩は昭和57年、今から32年前、いずみの会が発足したばかりの会報「いずみ第2号」に掲載した詩です。新しい女性の会ができたことを喜び、こんな会であってほしいとの願いを込めて作りました。
 いずみの会は、100人もの女性の会です。毎月企画会議が開かれ、例会や行事の案が練られます。12の班の代表者が出席して活発に意見を出し合い、和気藹藹と会議自体が楽しいのです。それもそのはず、いずみの会は当時の南秋留小学校PTA会長・千田洋子さんの呼び掛けで、当時のPTA実行委員の多くが賛同して生まれた会なのです。母体は、共に学校行事を協力してやってきた仲間たちですから気心も知れ、どんな小さな意見も尊重する話し合いが身に付いていました。そんな雰囲気から、私たちに相応しいタイムリーな企画が次々に生まれました。
 「子どものしつけや金銭教育」「生活の見直し・人生設計」「高齢化社会へ向けて」の講演会。「エネルギー問題」から原子力発電所の見学等々。振り返ってみると実に多くの学びや研修をしてきました。そればかりでなく、市民コンサートを企画したり、毎年バス旅行をして親睦をはかり、有意義な活動をたくさんしてきました。それらについては、現在305号となった会報小冊子「いずみ」がすべてを語ってくれます。
 さて、このように幅広く活動し、会員一人一人が自分の世界を広げ、自分の良い点を伸ばし成長してくることができました。何よりたくさんの良い仲間と豊かな数十年を過ごせたことに深い感謝の思いがあります。その感謝を少しでも地域社会向上に役立ちたいという気持ちが自然と芽生え、花開いていったのが南秋留小学校での活動です。その中の代表的な三つの活動について述べたいと思います。
 一番目は「読み聞かせ」です。2000年11月、今から14年前から始まりました。朗読ボランティアを経験した会員を中心に20名程が、昔自分の子どもが通った南小へ出かけるようになりました。1年生から4年生までの12クラスに、週1回、朝の15分間自分の選んだ本を読み聞かせるのです。
 教室に入ると「今日は何の本?」と子どもたちが待ち構えています。本を出すと子どもたちの目が輝きます。そして本の題名を黒板に書いてくれる子もいるのです。読み始めると、ザワザワしていた教室もシーンとなって読み手も聞き手も絵本の世界に入ります。何と幸せな時間でしょう。「教室に ジャックと豆の木読む朝は みんなジャックとなりて聞きをり」……とこんな感じです。
 学年ごとに読み手が決められていて、それぞれ工夫して本を選び、読む時間をはかり、覚えるくらい練習して教室に立ちます。
 1年生には身振り手振りも交え楽しく。大型絵本や紙芝居も使います。2年生にもなるとしっかり聞けるので本の幅も広がり、地域に伝わる民話や昔話も。3年生は元気いっぱい。冒険物やシートン動物記、落語も好まれます。しっとりと詩を読むこともあります。4年生には、宮澤賢治の作品や各地の民話、世界の名作等。それと同時に戦争の話の「つるちゃん」や、戦争の体験談も語りの形で入れています。70代の戦争を体験した会員が、「私が4年生だった時」という題で戦争中子どもだった自分がどんな暮らしをしていたか、その記憶を伝えています。
 学年末の3月、その年度の最後の読み聞かせの日に、子どもたち全員が書いた手紙をもらいます。「読み聞かせのみなさんへ」と表紙に書かれ、クラス毎にリボンで美しく綴じられ、感謝と感想が書かれてあります。
「おもしろい本、楽しい本いろんな本を読んでくださってありがとうございました。おかげでそんなに好きでなかった本読みも今では大好きになりました」(3年女)
「まいしゅう水曜日雨がふっていても雪がふっていても読み聞かせにきてくれてありがとうございます」(2年女)
「かいとうカメレオン、どうしてかいとうになったのですか。そのわけをしりたい。でもたのしかったです」(1年男)
「私は読んでくれる本を聞いてよくこう思います。『この本の世界の中に行ってみたいなあ。本は人をじしゃくのようにひきつけるのかな』って」(3年女)
「沖縄の話で、戦争で逃げていくところがかわいそうだったけれど、よかったです」(4年男)
 子どもたちの手紙を読むといつも感動します。読み聞かせを本当に楽しんでくれていること、お話が心の中にしみ込んでいっているのがわかるからです。また、校長先生はじめ先生方も、「読み聞かせが子どもたちの成長に大きな影響を与えてくれる」「本は心の栄養です」「読み聞かせを通して、子どもたちの集中して話を聞くという面を育てていただいている」…等、大変高く評価し、感謝していただいています。私たちもやりがいを感じ、さらに良い読み聞かせをめざしています。
 二番目は「昔あそび」の伝承です。2003年、今から11年前から1年生の生活科の授業でやっています。「テレビゲーム全盛の時代だからこそ、伝承遊びの大切さ、面白さを子どもたちに体験させたい」という学校からの要望に応え、折り紙、おはじき、あやとり、お手玉、かるた、こま等の遊びを教え一緒に楽しみます。1年生100人に、いずみの会会員等約40名。最後は体育館に集って会員の大正琴演奏に合わせて歌を歌った後、全員に配られた紙風船をついて、体いっぱい使って遊びます。私たちにとっても童心に帰るひと時です。
 三番目は「味噌作り」の伝承です。2004年、今から10年前から5年生3クラスの生活科授業で教えています。「大豆をゆでてつぶして、糀と塩をまぜて、丸めて、1年寝かせて、はい、出来上がり!」身近な味噌が大豆と糀と塩でできていることを初めて知る子どもたち。つぶしたり、丸めたり、かめの中にたたきつけたり……の工程を興味を持って体験しています。5年生の2月に仕込んで、6年生の秋に、味噌汁や豚汁にして食べるのです。
「味噌は昔から食べられていたけれど、完成までに長い時間がかかるのにおどろきました」(5年女)「雑菌が入らないように空気をぬくこと、1年ねかせてはっこうさせることなどいろいろ知ることができました。6年生になったら味噌が完成します。楽しみです」(5年女)「みそづくりはイラスト入りでやさしく説明してくれたので、失敗しないでうまくいきました」(5年男)
 そして6年生になった11月。
「かめのふたを開けたとたん味噌のにおいがプンプン。『わあー味噌ができてる』と友だちとはしゃいだ。私たちの作った豚汁をいずみの会の皆さんが『まあおいしい!』と言った」(6年女)
 このように、「読み聞かせ」「昔あそび」「味噌作り」を通して子どもたちと過ごす日々は本当に楽しく元気の素です。道やスーパーで出会った時も「こんにちは!」と元気で挨拶してくれます。かわいくて家族のように思えます。32年前に南小のPTAを母体として生まれたいずみの会が、また南小の子どもたちのために学校で活動している。とても素敵なことと思います。こんな手紙をもらいました。
「いずみの会のみなさんへ。1年生の時から『本の読み聞かせ』『昔あそび』『味噌作り』をしてくれてありがとうございました。もう卒業まで数えるほどしかないのですが、この思い出は一生忘れません」(6年男)
 私たち一人一人の力は小さいですが、地道に続けてきたこと、仲間と協力することにより大きな力となり、「大地をうるおすいずみ」となって豊かに実を結んできたのだと思います。未来に生きる子どもたちに伝えたいことを、真心のバトンとして手渡し、私たち一人一人も子どもたちのキラキラした瞳から元気や勇気をもらって励まされています。
 冒頭の「いずみ」の詩のようにいつまでも尽きないいずみとして、友情を大切に自分をも周囲をも潤して歩み続けたいと心を新たにしています。