「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

魚のゆりかご水田を核とした地域活性化に資する活動
滋賀県野洲市 せせらぎの郷
1.活動の目的
 野洲市旧中主町須原は、自然豊かな田園地帯である。しかし、昭和40年代から始まった琵琶湖総合開発により、ほ場整備や湖岸整備が進み、農業の合理化や交通の利便性は高まったものの、昔ながらの琵琶湖と水路、水田といった生きものの連続性が損なわれ、琵琶湖の固有種であるニゴロブナやそれらを含む豊かな生態系の仕組みが壊れてしまった。そこで、もう一度、かつての自然豊かな水田環境を取り戻すため、「魚のゆりかご水田プロジェクト」に取り組み、地域ぐるみで生物多様性に配慮した農業に取り組むことにした。また、こうした活動を核として、「生きもの観察会」や「農業体験」などによる都市住民との交流や学校や企業等との連携、「米・湖魚などの伝統食や伝統文化」の次世代への継承、農業後継者の育成などを進めることにより、先人の残した貴重な財産である須原の地域資源を後世に伝え、地域活性化を図る。

2.活動の経緯
 琵琶湖総合開発などにより利便性が図られた一方で、農業離れが進み、後継者不足が大きな問題となった。そこで、現在の水田を継承すべく平成元年に須原農業組合を設立して、転作作物の導入などを進め、地域農業を守ってきた。また、平成19年度から始めた「農地・水・環境保全向上対策」による活動組織の立ち上げをきっかけにして、非農家の方々との交流も増え、生態系保全、水質保全等が活発に活動されるようになった。また、そうした生態系保全活動「魚のゆりかご水田」をきっかけとして、幅広い人と人との交流が広がり、現在では、東京の環境NGOや吹田市の住民、大津市の住民との交流などにより県内だけでなく県外に向けても、まさに、人と生きものがにぎわう農村地域の活性化が図れるようになり、交流の輪は毎年広がりを見せている。

3.活動の内容
 魚の産卵場所としての田んぼの機能を取り戻すため、排水路に階段状に堰上げした魚道設置し、魚が田んぼに遡上しやすい環境を整え、琵琶湖と田んぼとの連続性を確保するとともに、琵琶湖の固有種であるニゴロブナをはじめとした魚類など生きものにやさしい「生物多様性」に配慮した環境保全型の農業を実践している。また、それ以外に農業体験を基本とした都市住民との交流や地域ブランドづくりなど6次産業化に取り組むなど、地域活性化を目指し、下記のような活動を行っている。
・消費者との田植え体験・稲刈り体験・生きもの観察会:(毎回150~200名程度参加県内だけでなく、京阪神・東京など遠方からの参加も多く、リピーターが多い)
・湖魚を食べる会・琵琶湖の環境とゆりかご水田の体験ツアーなど:都市住民や都会の子どもたちを対象とした体験ツアーを実施。大変好評を得ている。
・小学校出前講座:学校給食で「魚のゆりかご水田米」を食べながら勉強会。
・各大学の研修受入:龍谷大学では50人の参加があり、生きもの観察会では実際に生きものに触れ、いきものの成育状況を確認し、その後、地域の活動などについて講演するなどの勉強会を開催。
・生きもの命のゆりかご講座:各イベントでの体験参加者、また地元参加者に対して、体験イベントを軸とした複合的な学習機会を設け、湖岸域の農業(田んぼ)と琵琶湖との関係性、そして生きもの保全・食文化等について一体的な講座を行っている。
・大学生の農業体験:田植え作業、溝切り作業、畦草刈り作業、大豆の播種作業、等の農業体験の要望があり、それぞれの作業体験について受け入れている。
・都市へのPR活動:八王子市、吹田市での収穫感謝祭及び東京エコプロダクツ2012、2013にも出展し、生物多様性に関心の高い方々に「魚のゆりかご水田」について数多くの方々にPRを行った。

4.6次産業化に向けた取組
 平成25年産米の「魚のゆりかご水田米」でお酒づくりが地域住民の合意の元、お酒プロジェクトを12月に立ち上げ地域内の若者と、米づくりに従事するシニア層が同じテーブルにつき、地域一丸となって美味しいお酒づくりのため「楽しむ酒造り」、「酒づくりで地域を元気に」という目的に向かって、地域のみんなが魚のゆりかご水田活動への理解を一層深め、ネーミングやPR方法など、様々な課題を検討し、【月夜のゆりかご】として、4月に販売を開始した。PR効果から、非常に飲みやすく、美味しいお酒として好評であり、早々に完売となった。また、地域の自酒としての話題が広がり、人と人の交流も広がりつつある。今後さらなる「魚のゆりかご水田米」のブランド化を目指し、多くの方にお酒とともに、販路拡大を目指し、都市住民との活気ある交流や地域の活性化に結びつけたい。また、米粉を利用したお菓子、ケーキづくりなど、さらに6次産業化に向けた活動を推進していきたい。

5.今後の計画
 この活動を持続可能な取り組みにするためには、環境と経済が両立しないと難しい。もっとオーナーを増やしていくことは勿論だが、都市へのPRを一層進めていきたい。また、近年、韓国など海外からの視察や交流も始まってきたことから、将来的には海外に向けての発信も視野に入れた展開を考えていきたい。
 本年10月に行われる韓国でのCOP12「生物多様性条約締結国会議」にも参加を予定している。
 また、「魚のゆりかご水田米」のブランド力をアップしていくために、今年度から酒造りに挑戦し6次産業化・農商工連携への展開など、高付加価値の商品販売を考えていきたい。また、都市農村交流ツアーなどによる集客を図り、地域活性化につなげることについてもさらに研究して取り組んでいきたい。