「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

安心して老いていける地域社会の実現に向けて
奈良県高取町 天の川実行委員会
 高取町は製薬・売薬業で繁栄したが、昭和40年代から西洋薬に押され衰退し、若者は職を求め町を出ていき高齢化率が30%を超える。わずかな商店も廃業寸前で、町内を走る私鉄も運行本数減が話題にのぼり、このままでは町は消滅するとの危機感を持った。地域の商店はもはや個人の物ではなく社会インフラだ。高齢化が進んでも地域で買い物ができれば生活できる。まず商店を元気にするため人を呼ぼうと考えた。町がこうなったのは役場や町長のせいではない。住民が町に何ができるかが問われている。これからは住民が町に支えてもらうのではなく、住民が町を支えることなくして地域は成り立たない。まずは行政や既存の団体に頼らずもちろん補助金も受けず、リタイヤした高齢者住民で活動することを宣言した。
 2006年1月に一本道で山城高取城へ続く旧城下町の街道を天の川に見立て、高齢者住民が天の川の星になって輝こうと、5人ほどの高齢者仲間で任意団体「天の川実行委員会」を作った。「一定の活力を維持し、安心して老いていける地域社会の実現」を目的としお客様は、何事にも感動を露わにし、口コミ力があり、食事やお土産におカネを使い、行動力のあるシニア女性に狙いを絞って、2007年3月から「町家の雛めぐり」を始めた。
 仲間は5人、地域での知名度ゼロ、活動資金もゼロといった制約はあるが、技術や知識、経験そしてふるさとへの思いを持った高齢者世代と歴史の情緒ある街道といった地域資源、この条件に合致した企画だ。街道沿いの主に個人宅や僅かに残っている商店で飾るひな人形を楽しんでもらう1か月間の企画で、全国的なひな祭りイベントと差別化を図るため住民との交流が自然とできるよう、それぞれの家の「雛物語」を色紙に書いてひな人形の横に飾ることにした。「町の方とのお話や、ふれ合いがとても楽しかったです。とてもステキなイベントだと思います」といった観光客の方の感想に代表されるように住民とのふれ合い交流が口コミで増え、雛を飾る家が最初の年36軒、今では100軒程度住民から協力を得て、観光客も最初の年が8151人だったのが今年は44321人まで増え、高取町で観光客が直接消費した額も6800万円にまでなった。
 秋の企画もやろうと2009年10月から、1か月間「町家の案山子めぐり」を始めた。住民が作った等身大のおばあちゃんやおじいちゃん、子どもの案山子を町家や商店に飾り観光客に楽しんでもらう企画だ。最初の年は6183人だった観光客も昨年は8127人にまでなった。
 観光客から褒めてもらうと高齢者はうれしい。生きがいになり元気になる。観光と福祉は表裏一体だ。引っ込み思案だった高齢者が積極的にイベントに参加するようになった。観光客の感想に「自然な町。街づくりに町の人たちが自然に一生懸命されている様子に感動した。毎年新しい企画をプラスしての行事。生きがいもあり羨ましい限りです」とそれが表れている。また2012年3月に奈良女子大学藤平先生等が実施した「この町に住み続けるための住民調査」で、雛めぐりや案山子めぐりなどのまちづくり活動に「街道沿いが活気づいてよいと思う」「観光客とおしゃべりするのが楽しい」「住民同士が交流する機会となってよい」「住民たちの生きがいづくりに役立っている」など住民の評価は高い。そして商店の廃業に歯止めがかかり、新規に開業する店舗も3店舗でてきた。
 2009年10月住民より寄付金500万円を集め、奈良県より500万円及び民間都市開発推進機構より500万円拠出金を受け、空き家を改修してギャラリー、物産販売所、街なみトイレなどの機能を持つ町家のギャラリー輝をオープンし、月替わりで手工芸作品展を開催している。運営は全てシニア女性ボランティアで行っており、2017年3月までスケジュールは決まっている。
 2010年5月高齢者住民のまちづくりへの取り組みに刺激を受けた高取町商工会青年部が中心になって、旧JA高取東部支店跡地を買い取って「食事処」や「街なみのトイレ」、「イベント会場」、「農産物直売所」、「まちづくり団体の事務所」などの機能を持つまちづくり拠点「街の駅城跡」を整備し、観光客と住民との交流の場として活用されている。
 2007年3月町家の雛めぐり開催以降観光客から美しい街並みを褒められ、住民の自主的意志による伝統的建造物町家保存の動きが活発になり、また2011年8月高取町一区自治会とNPO法人住民の力及び天の川実行委員会が協働して「土佐街道周辺景観住民協定」を締結し、10月17日に知事より「奈良県景観住民協定」として認定され、各自治会を通じて住民の皆様に旧城下町の景観保全の重要性を周知していて、2007年3月以降に住民の自主的な町家改修が19件に及んでいる。
 2011年10月高取町一区自治会及びNPO法人住民の力と天の川実行委員会で、地域活性化について色々と協議をした。高取町には日本一では山城高取城があるが、世界一のものを作ることを思い立ち、ビールのアルミ缶を使って日本一の山城高取城の天守閣オブジェを作ることになった。空き缶の回収では7自治会962軒の家に協力を呼び掛け380軒から空き缶の提供を受け3万2520個回収できた。またキリンビール奈良支社や町内の企業からも空き缶の提供を受け、5月21日より8月31日まで、各自治会及びNPO法人住民の力と天の川実行委員会の関係者60歳から84歳まで30人が103日間延べ487人で作り、最終の個数が3万5679個であることが確認され、ギネス社より2012年9月1日付けでギネス世界記録に認定された。テレビの全国放送や新聞・週刊誌の全国版掲載などで高取町の知名度は大幅に上昇し、住民の地域活性化への関心が高まった。
 2013年10月地域の活性化に取り組むall高取町をPRするため「恋するフォーチュンクッキー 高取町Version」の映像制作を思い立ち、行政にも参加を呼びかけ、高取町役場と天の川実行委員会の協働で取り組むことになった。町長や高取町役場職員、幼稚園や小中高校、自治会や老人会、商店や企業、NPOやボランティア団体等が登場し、高取町の施策や事業、神社仏閣や史跡、街沿いの商店や製薬会社、元気な園児や小中学生、ボランティアに取り組む住民等を映像でYou Tubeを使って全国に紹介した。小学生のお母さんたちから「You Tubeのシェアでは他市町村、他府県の方たちから『素晴らしい町』『自分の故郷を誇りに思う』『住んでみたくなった』など、数多くのコメントが寄せられた。希薄になりつつある人と人とのつながりも見直させて頂き、よい勉強になりました」などの声が寄せられた。
 当初高齢者仲間5人で動き出したまちづくりは、町の住民や商店そして色々な高齢者グループや団体の賛同を得て大きな輪となり、さらに商工会青年部や小中学生の若いお母さんたちといった次代の町を担う年代へと広がりつつあり「安心して老いていける地域社会の実現に向けて」町内に根の張ったまちづくり活動が進んでいる。