「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

学生の空き家再生を通じた糸島地域活性化
福岡県福岡市東区 糸島空き家プロジェクト
1.糸島空き家プロジェクトとは
 糸島空き家プロジェクトは、福岡県糸島にある空き家を学生自らで改修し、学生と地域の人々との交流の場所にすることを目的とした、九州大学の建築学生を中心とした学生団体です。
 糸島地域は福岡県西部に位置し、福岡市都心に程近く、豊かな自然に囲まれた全国でも多くの注目を集めている場所です。また、人と人との関係がとても密であり、地域独自の行事や地域に根付いた活動をしている団体も多く、活力に溢れた地域です。最近ではアーティストや企業家などの移住者も増加し、人を惹きつける魅力が多い糸島ですが、地域住民の高齢化や若年人口の流出によって空き家が増加しているという問題もあります。空き家の中には伝統的な民家形式をとった魅力的なものも多く、市を挙げてその活用を促しています。
 加えて、現在九州大学はその糸島地域ヘキャンパス移転をしている真っ最中です。すでに一部の移転は終わっており、現段階でも新キャンパスに通っている学生はいますが、キャンパス移転が完了すると約2万人の学生が糸島のキャンパスに通うことになります。糸島に暮らす人々の中には、キャンパス移転によって多くの学生との交流が生まれることを期待している方が多く、また、学生の中にはキャンパス移転を機に糸島を満喫してみたいと思っている人もいます。しかし、現在新キャンパスに通っている学生の多くは他の地域と同じように1人でマンションに住み、自宅と大学を往復しているだけで、地域に関わらない暮らしをしています。既存のコミュニティに学生が参加していくためには、学生と地域の人々が関わりあう場が必要です。
 そこで私たちは一つの解決策を提案しました。それは、糸島地域に多く存在している空き家を学生自らリノベーションし、そこを学生の居住・活動拠点とすることで、地域の人とも関係を持ちながら暮らしていくという提案です。長い歴史と伝統をもち、自然豊かで魅力的な糸島という地域に積極的に関わりながら暮らしていくことは、学生にとっても多くの刺激を受ける機会となり、地域にとっても学生の若い意見、行動力を様々な場面で取り入れることができるなど、双方にとって大きなメリットがあると考えています。これが、私たちの考える『糸島』らしい生活です。
 この提案を基本コンセプトとし、私たちは実際に四つの物件を改修・再生し、九州大学の学生や卒業生の方に使用してもらっています。

2.活動実績
 一つの物件を改修する工程は、物件の活動コンセプトの企画から始まり、設計、施工、竣工後のアフターケアというプロセスを踏んでいます。私たちはこれらを九州大学のOBの方や地元の建設会社の方にアドバイスを頂きながら、全て学生主体で行っています。今までに改修してきた物件はそれぞれ「まちの縁側~糸家~」、「元岡学び家 九大研」、「コ・ワーキングカフェ がやがや門」、「Farm Share House篠原」と呼ばれており、それぞれが異なる特徴を持っています。

(1)まちの縁側~糸家~
 「まちの縁側~糸家~」は、私たちが最初に改修した物件です。築30年の木造平屋建ての建物で、改修する1年前までは薬局兼住宅として使われていました。現在はシェアハウスとして使われており、九州大学の卒業生が暮らしています。道路に面した部分には『まちの縁側』と呼ばれる土間空間が設けられており、そこで入居者による様々なイベントが催され、地域の人々同士の、また地域の人々と学生との交流の場所となっています。具体的には、後述する「元岡学び家 九大研」の利用者による寺子屋、子どもたちによる駄菓子屋、地元のお父さん方が集まる親父の会など地域住民の方たちの学びの場・遊びの場・意見交換の場として賑わっています。糸家に設けられた『まちの縁側』は、その名の通り前原というまちに住む人々や学生の活動の拠点となる、居心地のいい“縁側”として機能しています。

(2)元岡学び家 九大研
 この物件は伝統的な住宅形式ある長屋門つきの築130年の古民家で、その母屋を地域の子どもたちを対象とした学習塾に改修したものです。学習塾の経営に関心のある九州大学の学生が長年空き家となっていたこの物件に注目し、私たちと共に改修することになりました。現在は学習塾がオープンし、地域の子どもたちの学びの場として活用されています。塾の講師には九州大学の卒業生のほか、現役学生がアルバイトで参加し子どもたちに勉学を教えています。

(3)コ・ワーキングカフェ がやがや門
 「コ・ワーキングカフェ がやがや門」は、「元岡学び家 九大研」に併設する築90年の長屋門をリノベーションしたカフェ兼コ・ワーキングスペースです。地元の商工会より、地域の人と学生が交流できる場をつくってほしいとの依頼をいただき改修することとなりました。かつて、この長屋門は農作業の倉庫として使われていましたが、空き家となって以来全く手つかずの場所となっていました。そこを長屋門という伝統的な形態を最大限に活かす設計をし、改修しました。今では九州大学の学生と地域の方々によってカフェが運営されており、「がやがや」と様々な人がコミュニケーションを行い交流が深められる場所となっています。

(4)Farm Share House篠原
 「Farm Share House篠原」は今年度より運営の始まった物件です。元々は増改築を繰り返した築60年の古民家で、大きな庭を有する素敵な物件でした。そこで私たちはこの物件を、庭を菜園とし地域に開放する、菜園付きのシェアハウスとして改修することとしました。改修後は九州大学の学生2人と社会人の方1人が暮らしており、現在は菜園作りを私たちや地域住民の方々と一緒に行っています。

 これらの物件を改修していく中で最も魅力的に感じることは、改修した物件を活用する学生だけでなく、私たち自身も地域の人々と交流する機会を多く設けることができたことです。各物件とも、企画・設計の段階からそこを利用する人たちや近所の方々と密にコミュニケーションを図りながら進めました。改修中には、漆喰塗り、家具作りなど地域の人にも参加を呼びかけてワークショップを開催し、糸島に住む方々と交流を重ねてきました。さらに、近所の方々には多くの迷惑をかけていたにも関わらず、学生が地域に入って活動しているということで、炊き出しをしていただくなど、多くのご支援をいただきました。これらの物件を無事竣工させることができたのは、なによりも周りの方々の理解と協力があったからだと考えています。
 また、私たちの活動が地域の人々に評価され、空き家改修の他にも様々な依頼をいただいております。具体的には、「伏龍池」というため池のランドスケープ案を考えるワークショップの開催、地元のお祭りでのイベント主催、さらには、福岡移住促進プロジェクトを進めている方の拠点作りに参加させていただくなど、活動の幅は徐々に広がっています。学生と一緒になって地域の活性化に努めたいと思っている方々が糸島には大勢いて、私たちはそういった方々に期待していただいているのだと感じ、その期待を胸に日々活動しています。

3.今後の展望
 私たちは、糸島地域にある空き家を再生・活用すること、またその他様々な活動を行っていくことで、私たちを含めた多くの学生と地域の人々との間に交流のきっかけを創出してきました。私たち糸島空き家プロジェクトは、空き家を大切な地域資源であると考えています。この活動が継続・発展し、学生と地域との交流拠点が増えてゆけば、『糸島』という場所が、活気にあふれた素晴らしいまちになり、九州大学もより地域に根ざした存在となっていくのではないかと考えています。