「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

子どもたちの笑い声が響きあう集落づくり
熊本県あさぎり町 中山間松尾集落
 私の住む松尾集落は、戦後の昭和29年須恵村の次三男対策で国有林が払い下げられ松尾開拓団として開拓入植したことから始まりました。開拓団の入植者戸数は8戸、平均2ヘクタールの耕作地と薪炭林が財産です。荒地を一鍬一鍬耕すことで交付される開拓奨励金が生活費でしたが掘っ建て小屋を造り、寝ずの番でイノシシから畑作を守る話を聞かされて育ちました。開拓入植から60余年。開拓者2世として此処で生活をしています。現在集落は4戸、住民も9人の限界集落の最前線です。集落に子どもたちは1人も残っていません。田舎に職場がないことと何もない田舎に魅力を感じるのにはまだ時間が足らないのかもしれません。集落住民は後期高齢者が半分、若齢者が40歳の集落がこれからも存続することが出来るのかとても不安です。平成11年に農林水産省所管である中山間地域等直接支払い事業が開始されこの事業の交付に係る集落協定の認定がなされました。この協定は対象となる農用地での耕作放棄地の発生を防止し、将来にわたって持続的な農業生産活動等を可能にすることにより集落の持つ多面的機能の確保を図ることを目的としたものです。これを契機として活動の基礎となる中山間松尾集落の組織作りが行われました。現在集落内の4戸と集落内に農地を持つ隣接地区の2戸を併せた6戸により第4次の中山間松尾集落として約17ヘクタールを維持管理しています。栗や梨などの落葉果樹とお茶を生産していますが、最大傾斜度が18.4度と急傾斜値が主です。構成員は、男性6名女性2名で活動しています。此処で中山間松尾集落としてのこれまでの活動内容と成果を紹介致します。

1.共同作業による耕作放棄地の解消
 集落住民の殆どが後期高齢者であることは前述致しましたが満足な労働人口が不足しておりこのため中山間松尾集落の共同取り組み活動として草刈りなどの耕作地管理及び作業道管理を行っています。中山間松尾集落の取り組み活動について行政担当者の目視確認が行われますが指摘事項はありません。

2.遠山桜祭りの開催
 集落の中に一本桜があります。八重の吊鐘桜で私の結婚記念樹でもあり天空に咲く遠山桜として来客者が増えてきました。集落で遠山桜祭りを開催し、山菜や漬物を販売することにしました。実行委員会の母体は中山間松尾集落です。あさぎり町のテントや備品を無償で借り受けて土日の2日間祭りを開催して特産物の販売を行っています。3年前からは、歩行者の安全と自然環境を保護するために無償のシャトルバスを行政と共に運行しています。須恵文化ホールをシャトルバスの乗降箇所と祭り広場としての位置づけにして地元高校の馬術部や催事販売店舗、地元商店などに声をかけて祭りの規模を拡大しています。松尾集落の小さなお祭りからあさぎり町のお祭りへと発展的に拡大すると共に、集落民の意欲の向上に繋げていきたいと考えています。何もない集落にお客様を呼び込むことで山菜や加工品が販売することができる喜びは充実感と共に住んでいることに誇りを持つことができます。近年では2千人以上の来客者数があり、遠くは岩手県や東北からも来場くださいました。

3.ワラビ狩り・栗狩りツアー体験の実施
 桜祭りに併せたワラビ狩りやあさぎりグリーンツーリズム研究会とタイアップした栗狩りツアーを実施しています。松尾集落内の共同取組活動栗園を開放してツアー客に収穫体験をしてもらいます。子どもを連れた家族単位のリピーターが多く、農家民泊や栗料理体験等他で味わうことのできない郷土料理でおもてなしをします。共同取り組み活動栗園は、地元小学校と提携しており栗ひろいに招待して将来の消費者を育てています。

4.古民家をリフォームして集える場所に
 開拓入植時の住宅は、入植者自らが原石を切り出し、砕いてブロックを作ることから始まりました。築60年、離農したブロック家をリフォームして集落民や来客者の休憩所を作りました。自己資金があるわけではありません。熊本県が主催する火の国未来づくりネットワークの活動に「遠山桜による限界集落の再生」の企画書を応募し地域の夢大賞を戴きました。また、民間団体であるトヨタ財団より活力あふれる地域の実現のために助成金を戴きました。この休憩所は、さくら庵と名付け中山間活動のベースとなっています。計画や慰労会など飲み会の絶好の場所となっています。

5.学生たちと地域活性化の提言
 あさぎり町は熊本県立大学と地域提言プログラムで包括提携を結んでおり「KUMAJECT」プログラムを4年間継続開催しています。遠山桜をあさぎり町全体のお祭として、限界集落からの脱却の方法や活性化の手だて等若い発想と行動力に期待しているのです。若者たちの行動に巻き込まれることで何よりも地区住民が刺激されています。さくら庵をベースに年間4回のアクションプログラムを実施し最終報告会を行政や議会を交えて開催しました。諸問題に住民の要望ではなく大学生という第3者の声として提言し収集してもらえました。

6.ワラビの酢漬けで6次産業化を
 標高350メートルの中山間地域は豊富な山菜に恵まれています。ワラビは庭先にあり自家消費か乾燥ワラビとして取引される位でした。集落の保存食として食べられていた酢漬けを集落の特産物にしようと声が上がったのも遠山桜の来客者数が増えたことによるものでした。集落民皆でワラビを収穫し漬け込んで製品化します。熊本県の夢チャレンジ推進補助金を使用して納屋を加工場に改造しました。あさぎり町の推奨商品として東京ビッグサイトで開催されたグルメアンドダイニングスタイルショーに参加してバイヤーとの交渉の機会を得ました。現在の売上高は20万円程度ですが栽培、収穫、加工、販売と6次産業化を目指して催事販売やネット販売により3年程度で50万円以上に拡大したいと考えています。ワラビの酢漬けは、原材料のワラビを集落内の高齢者から買い取ることで手短な小銭儲けをしてもらいます。このことが集落での意欲と収入の循環増進に繋がると考えます。

7.有害鳥獣対柵の先進地として
 中山間松尾集落の周辺部は国有林に囲まれています。人工造林の増加や農林業者の高齢化による耕作放棄地の存在も有害鳥獣が増えた要因の一つです。イノシシ・サル・シカが耕作地を荒らすため栗園の存続が危ぶまれた程です。3年前から住民で獣害対策について勉強会を重ね獣害に強い集落づくりを実践してきました。選別により出荷できない収穫物や残飯を有害獣の餌とならないようにしたり、防止柵に近い栗の枝を剪定したりと急傾斜地で栽培する栗にも注意を払ってきました。そして団地化した防止柵の設置を行いました。防護柵設置のためこの3年間の従事者数は240余人です。その殆どが立木の伐採でした。獣害に強い設置の方法は簡単ではありませんでしたがこの甲斐あって、団地化した防護柵の延長は6.0キロに及びます。現在では有害鳥獣の対策先進地として年3団体以上の研修者の受け入れも行っています。
 結びに、今私たちが目指すコンセプトは子どもたちの笑い声が響き合う集落づくりです。桜祭りや収穫体験、古民家への宿泊体験など交流人口を増やして年寄りたちの健康づくりや、やる気に繋げていきたいと考えています。これまで有害獣にやられ放題だった栗園をこれから生産地として新たに植樹して頑張ろうとする地元民がいます。仲間たちと有害獣に負けない集落づくりと小銭儲けで長生きできる集落づくりを飲み語り合いながら地道に行って参ります。松尾集落は、限界集落ではなく元快集落になろうとしています。