「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

放課後こどもクラブBremenから広がる地域の輪「はじめの一歩」
宮城県石巻市 放課後こどもクラブBremen
1 活動の背景
 放課後こどもクラブBremenは、仙台市の北東約50キロの石巻市の日和山にある。石巻市は、全長249キロの一級河川「北上川」が海にそそぐ河口に位置している。宮城県沿岸部の中核をなし、江戸時代は「奥州最大の米の集積港」があり、明治以後は、商業、農業、工業がバランスよく栄えていたまちである。平成17年には石巻地域1市6町が合併し、新石巻となった。東日本大震災では大きな被害を受けたが、世界中から多くの支援を受けて復興への歩みを進めている。
 人口は震災前の17万人を大きく割り込み、現在14万9000人まで減少している。また、石巻市全体の高齢化率が約26%になり、希望を失うほどではないにしても、無条件に明るい未来を描ける状況ではない。
 被災地石巻市の中でも、日和山地区は特異な面を持っている。それは、大津波による被害がなかったことである。被害を受けた市の中央部にあって、津波被害のない地区の住民の置かれた立場は微妙なものだった。同じ市民でありながら被災者感情を共有できず、市内に数多く入ってきたボランティアやNPOとの交流もなく、被害が少ない地区として、当然ながら手厚い支援の対象外であった。幸か不幸か、それが内発的な活動を促す要因となった。
 復興に当たっては、NPO団体や国や地方公共団体による外発的な支援がその原動力となってきたが、真の復興は地域住民の内発的な関わりの中からしか生まれないと考えている。この地区の三世代にわたる古くからの定往者であるBremen主宰者が、地域住民による内発的な関わりの中で、地域のコミュニティを一歩一歩広げる様子をレポートする。

2 広がる地域の輪
(1)一人から始まる放課後こどもクラブBremen
① 上質の生活の場として設立
 夢を叶えようと早期退職を決意したのが平成23年。退職間際に東日本大震災に遭遇し、緊急学校支援員として児童の心のケアに尽力。その後、単なる学習支援だけの塾ではない「児童の居場所づくり」が急務であると考え、平成24年5月、放課後こどもクラブを設立。保護者負担無料でサービスするNPO活動ではなく、保護者の責任者意識を喚起するために会費制とした。
 多学年の児童が発達段階別のケアを受けることもない公立の放課後児童クラブの不十分さをカバーすべく、主宰者と家人、ネイティブアメリカンのALTも含めた4人の地域在住の教員免許取得者をボランティア講師として要請し、上質の学習ケアを行った。
 平成27年度からは、45坪の空き家を施設として提供しているが、当初は母屋の2部屋を使い、数名の生徒を数人の講師が指導するといった少人数指導を行い、ケアの行き届いた上質の生活の場として機能してきた。
 現在12人の会員を擁しているが、個人のニーズに応えるために、常時会員の小学生と長期休業期間中の特別会員、高校生のボランティア会員など、多様な会員を受け入れている。小学生の上質の生活の場として設立したBremenは、今では学齢期から高校生までの交流の場としての役割をも果たすようになってきている。
② 教育相談活動の開始
 Bremenでは、平成25年度より保護者への育児サービスの一環として無料で教育相談活動を行っている。
 家人の前職が教育職であり、現在門脇地区の主任児童委員として活動しているため、地域の教育問題の受け皿として相談活動を行うことにした。「いじめ」や「不登校」、「発達障がい」等の保護者の悩みに応えている。また、民生委員児童委員として、月1回の定例会や「福祉のつどい」、地域住民と行政諸機関をつなぐ活動、通学路の安全点検等々を行っている。
 主宰者は「認定心理士」の免許を取得しているため、精神的な不安等についてもある程度までの相談に応じる体制をとっている。
③ イベント「こども将棋大会」等の開催
 石巻市全体の子どもの遊びに対する支援活動はNPO諸団体等によって適宜行われてきたが、外部の団体に依るところが多いため、正月になるとどの団体も活動を停止してしまうのが常であった。
 そこで、宮城教育大学の将棋部OGでもあるBremen主宰者が発起人となり、平成26年より「新春こども将棋大会」を行っている。1回目は地元の「石ノ森萬画館」、2回目は「千金堂学びのホール」を利用したが、それぞれ会場費減免の援助をいただいた。運営は、地元の日本将棋連盟石巻支部とも連携し、宮城教育大学将棋部OB会の全面的な支援で行った。
 遊びの少ない正月の時期に行っているので、仮設住宅に住んでいる方々も含め、近郷近在から将棋の好きな児童・生徒(小学生から中学生まで)や、その保護者も含め70名ほど集まり、将棋を楽しんでいた。夏季の将棋大会の要請もあり、検討しているところである。
 その他、子どもに関わるイベントとして、「親子でパズル教室」「子ども映画会」等を開くなど、条件がそろった段階で適宜実施している。
④ 生活困難児童への援助
 平成26年6月に、以前勤務した小学校で担任した児童の父親が、36歳の若さで急死した。残されたのは、進行性の病気を患う母親と、中学生を頭に幼稚園児までの4人兄弟であった。うち一人は障がいがあり、支援学級に通級中である。今Bremenに通うAさん(小6)は4人兄弟のうち唯一の女子であり、家事等で頼りにされるため、自分の自由になる学習時間が確保できない状況であった。該当地域の方から相談を受け、このようなヤングケアラー問題を少しでも解消できないものかと考え、当該児童と保護者に打診したところ、Bremenに通いたいとの要望を受けた。
 被災地支援のためひと月の会費をかなり低く設定しているものの、収入の道を断たれたAさんの家庭には負担が大きいため、クラウドファンディングで支援を受ける計画をたててインターネットで広く協力を呼び掛けた。その結果、2度の支援を受けて、平成28年3月の6年生卒業時までの在籍を保証することができるようになった。
⑤ 地域に居住する被災者・高齢者の参加
 児童がBremenに通うためには、学校からBremenまでの交通手段の確保が必要である。そこで、保護者が安心して働けるように送迎を行うことにし、運転業務を地域の被災者にお願いすることにした。常勤の従業員を雇用できる規模ではないので、パートとして地域の被災者を雇用した。その方は自宅も営業店も被災しており、再建をしながらの勤務なので、隙間時間を利用して仕事に従事していただいている。
 また、地域人材の参加として、高校の数学教員を退職したT氏にボランティアの依頼をしたところ、児童のためにと快く引き受けていただいた。高校数学の専修免許を持っている先生で、子どもたちのどのような数学的問題にも対応でき、分かりやすく教えていただいている。
 団塊の世代が退職して地域にいることが多くなったが、「生きがいづくり」のモデルとも言える。
⑥ 石巻市のファミリーサポート事業との連携
 平成25年度には、Bremenで上の子が学習している間、兄弟の乳児をファミリーサポート事業で支援をし、石巻市の子育て支援課と連携を取って活動した。働く保護者の支援のために必要と判断したからである。
 その子が転居のためにBremenを去った後も、引き続き地域の働く保護者の支援のためにファミリーサポート事業への支援を行っている。1件は早出のある職業のため保育所の開所時間に間に合わないためであり、もう1件は障がい児の登校支援である。
 1件目については、長期的には保育所の開所時間との兼ね合いが不可欠な問題であるが、市の制度が整うまでの間、母親の就労支援として行っている。
 2件目は、保護者の心理的な負担感の軽減をねらいとして協力している。保護者に支障があった時に、障がい児童のケアが両親にとって大きな心理的負担となる。今回は、両親双方が精神的、身体的な病理を抱えているため、送り迎えができない状況にあった。それまでの担当者が都合が悪くなり、両親が途方に暮れていたところで私たちと出会うことになった。
 障がい児K君の登校支援を家人と一緒に行っているが、夫婦で送迎を行うことで、保護者はK君が大事にされていると受け止めており、そのことで保護者の心のケアに繋がっていると言える。
 また、教育関係者であった主宰者の人脈により、学校の対応を保護者に分かりやすく伝える仲立ちもできて、保護者の安心感が増している。

(2)地域高齢者の輪の広がり
① 日和なごみ会の結成
 被災地の中にあって、津波による被害がない日和山地区の高齢者は、引きこもらざるを得ない状況であったが、地区のSさん(80歳)の発案により、平成24年6月「日和なごみ会」が発足するに至った。当初は10人のメンバーであったが、月1回の学習会や演奏会等の行事を継続してきた。初めは、一人で北京在住の息子の居宅に行ってきた80代の地域住民の報告会を行った。継続するうちに、仮設住宅の住民との交流会や健康づくりのための介護施設との交流、社会福祉協議会や地域包括支援センターとの連携なども行われるようになってきた。
 最近は、遠巻きに眺めていた周辺地区住民も、機会を見つけて参加するようになってきている。現在の会員は14名を数え、会員ではなくとも体調の良いときに参加する地域住民も4名ほどと、輪が広がっている。「何日ぶりかなあ、人と話したの。」「生きようという気持ちになった。」という高齢者の言葉が、会運営の励みになっている。
② 買い物難民化に対する支援
 日和山に住む高齢者は、震災のために近所の商店がなくなったり閉鎖したりしたため、日常のこまごました買い物ができなくなる買い物難民と化した。そのために、青果市場の商店に働きかけて、「日和なごみ会」の集会に合わせて移動販売をするサービスをやってもらうことになった。その結果、会合の後に市場直送の新鮮な野菜を喜んで購入する姿が見られた。
③ 健康マージャン教室の開設
 石巻市では、地域のコミュニティが崩れた後、仮設住宅や復興住宅等の建設が進み、再度コミュニティの結成が必要となってきている。
 趣味の活動の多い女性と比較して、男性は自宅以外での上手な余暇の過ごし方ができずにいた。住宅に引きこもり、孤独を酒で紛らわすか、長時間を無為に過ごせる遊技場に入り浸ることが多かった。情報を交換していた社会福祉協議会から、地域の高齢者男性の受け皿が必要との要請もあり、対応を考えた。
 そこで、平成27年5月20日より在宅の男性が集いやすい「健康マージャン教室」を開催することにした。
 まだ、始まったばかりだが、常時4人から8人程度の愛好者が集まり、ゲームを楽しんでいる。「飲まない」「吸わない」「賭けない」のスローガンがあるので、女性も安心して参加している。
 初心者女性が楽しく覚えることができるように、コミュニケーションマージャンも導入し、週2回ながら、和気あいあいとした穏やかな教室となっている。

(3) 高齢地域住民と子どもたちとの輪
 放課後こどもクラブBremenと日和なごみ会は、それぞれ別の時間帯で活動し、直接の交流はなかった。しかし、地域の人たちは、子どもたちの活動を目を細めて見守っていた。次第に子どもたちに声をかける方も現れ、子どもたちも挨拶をし、近寄っておしゃべりをしたりするようになった。荷物を持ってあげたりする自然な交流が生まれるようになった。庭の畑に作物を植えようとすると、子どもたちに芋の植え方を指導したりしてくれる地域の方も現れた。迎えに来たお母さんと幼児を可愛がって一緒に遊ぶようにもなった。
 最近は高齢者とだけでなく、地域に新しくやってきたご近所の児童同士や、Bremenのボランティアたちとの交流も生まれるようになってきている。誰からも強制されない自然な輪の広がりである。

3 おわりに
 高齢の域に差し掛かった主宰者一人の、小さな思いから始まった放課後こどもクラブBremen活動であるが、4年目に差し掛かり、少しずつだが地域の輪を広げることに成功している。児童たちは安心して放課後時間を過ごし、学習意欲や学力の向上も見られる。地域の高齢者、高校生、ボランティアの先生、家人らが子どもたちに関わろうとして下さっている。
 「あしたのまち・くらしづくり活動」としての規模は大きくないが、働く親世代への支援活動、児童クラブの質の向上、子どもの遊び場づくり、障がい者支援、児童の貧困問題への支援、高齢者の生きがいづくり、団塊の世代のボランティア活動支援、被災者支援、買い物難民支援など、多くの視点に対応する活動を行っている。
 以上述べた活動は、一人からでも、NPO等の支援がなくても、状況がゆるせばだれでも始められる活動である。活動を進めるうちに、家人をはじめとして多くの方々が協力して下さるようになった。
 平成26年12月には、石巻市より創業支援の補助金の交付を受けた。それに応えるべく、これからもBremenが子どもたちと地域高齢者のみならず、地域づくりの輪を広げていきたい。ひいては、それが石巻市のより良い復興に繋がるものと信じて活動している。