「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

住民組織で取り組む高齢者自立生活支援活動
島根県松江市 淞北台いきいきライフを推進する会
1.淞北台いきいきライフを推進する会(以下「本会」)とは
 自治会に代わって高齢者福祉活動に取り組む住民ボランティア組織で、平成13年4月に発足し現在に至っています。

2.本会発足の背景と経緯
(1)地域の特性
 淞北台は松江市北部の丘陵地に島根県住宅供給公社で昭和40年代半ばに建設の、勤労者向け住宅団地です。坂道の多い高台(高低差35メートル)団地ですが、マイホームを求めて30歳~40歳代前半層が競い合って入居しました。その後約半世紀が経過した今日では、当時の団塊世代は80歳前後に達し、超高齢者団地に様変わりしています。
 現在約600世帯(戸建住宅300・県営集合住宅300)に1300人(高齢者約500人)が居住し、自治会は一つの組織で概ね全世帯が入会(島根大学留学生世帯を含む)しています。
(2)加速する高齢化にむけて
 高齢化は平成10年頃(入居30年経過)から顕著になりました。自治会は将来的に最重要課題と位置づけ、高齢者福祉施策検討委員会(住民代表23人)を設置(平成12年10月)し、その対応策の検討を委託しました。
 委員会は10年後・15年後を想定しながら多角的・精力的に検討を重ね「A 中・長期的視点から高齢者福祉活動の必要性を確認・B 自治会は役員の短期交代制定着から対応困難と判断・C 住民ボランティア組織での対応が最善策」との結論を自治会に答申。本会発足(検討委員中心に30人で構成)となった次第です。

3.本会の主な活動
(1)高齢者生活実態調査の実施(平成13年4月1日現在)
 福祉は全く素人の住民組織が暗中模索の中で、活動の手掛りを求めて最初に高齢者の生活状況とニーズ把握の調査を実施しました。
 この調査結果から多くの課題が浮き彫りになりましたが、中でも「A 高齢化率23%(戸建推計31%)は高いが、75%は前期高齢者・B 日常生活で困ることは坂道・買い物・バス便」などをヒントに、加齢に伴って引きこもりの懸念を感じました。

(2)高齢者自立生活支援事業の実施
 調査結果を踏まえ~みんな元気に楽しく老いて行こう~を合い言葉に、一つひとつできることから実施してきました。
①生きがいづくり(自助)事業(平成27年6月30日現在)
A 趣味教室・同好会(目的 親睦・交流)
 健康体操とおしゃべりの会・陶芸・囲碁・男の料理教室・手わるさ(手芸)の会・歩こう会など19種類。参加登録239人。原則月2回開催。運営費は会費制(親睦・交流費を一部補助)
B いきいき健康講座(目的 健康管理の知識習得)
テーマ 保健・医療・認知症・介護に関わることが中心(平成18年3月スタート)
2ヵ月に1回奇数月に開催、平成27年5月が56回で9年半継続開催中
講師は病院・開業医院の医師・看護師・薬剤師・保健師など、参加者は平均55人
②要援護者への支援(互助)事業(平成27年6月30日現在)
 独居高齢者対象の事業で概要は以下のとおりです。
A 要援護者支援会議 松江市補助事業「災害時の備え」(平成24年4月発足)
B 夢楽の会「独居高齢者お楽しみ会」年間3回開催、参加者は平均50人(平成13年度スタート)
C 独居高齢者の見守り(安否確認)対象者130人、担当は福祉推進員17人(平成13年度スタート)
D 映画の集い 毎月10日に開催、参加者は平均25人(平成22年5月スタート)

4.外部福祉団体との連携事業
(1)第2回高齢者生活実態調査の実施(平成19年4月1日現在)
 新たなニーズの把握の必要から再調査を実施しました。結果は「A 少子高齢化の加速で、高齢化率が32%(戸建推計44%)・B 住民数の減少・空き家の増加など過疎化現象が顕著」になりました。
 要介護認定者も初調査したところ認定率11・1%で、個別生活支援ニーズなど新たな課題が台頭していました。その他全調査項目で高齢化の加速が確認できました。
 この調査から、住民ボランティアでの対応の限界を知り、「B 外部友好福祉団体に協力・支援」を呼びかけました。

(2)淞北台福祉ネットワーク会議(共助)の立ち上げ(平成20年11月)
 外部福祉7団体と連携するネットワーク会議は年1回程度開催し、情報交換と協力・支援拡充を図っています。
 参加団体の支援で始めた新たな事業は以下のとおりです。
A 生活協同組合しまね「助け合い制度(おたがいさま)」随時利用(平成21年4月スタート)
B 包括支援センター出張相談窓口「高齢者よろず相談」2カ月1回の開設(平成21年7月スタート)
C 松江保健生活協同組合「健康チェック」毎月20日実施(平成21年7月スタート)

5.超高齢化にむけて
(1)第3回高齢者生活実態調査の実施(平成24年4月1日現在)
 入居当時の若者も50年近くが経過し、高齢化率37%(戸建推計48%)の超高齢化になり、本会の活動もいよいよ正念場をむかえ、真価を問われることになります。
 今回の調査で「今後期待する活動」欄に69件あった意見・要望の中に、本会の活動に感謝する言葉が20件近く寄せられていました。着実に成果は結実していると推測できましたが、災害時の備えの遅れが目立ち、新たな課題となりました。

(2)要援護(要配慮)者支援会議の発足(前掲3.(2)②Aの事業内容)
 この補助事業を活用して班(10世帯前後で構成)内の最新情報を共有し、災害時に備え班で見守り・助け合う体制づくりを構築することにしました。平常時の交流は、本会の活動に参加を呼びかけることにしました。

(3)地域包括ケアシステムの受け皿づくり
 淞北台福祉ネットワーク会議を発展的に淞北台包括ケア会議(新たに松江市担当部署と開業内科医参加)に改称し、今後、松江市のモデルケースとして運営していくことにしました。

6.自治会等との連携(親睦・交流)事業
(1)横糸の会
 新年会(自治会・淞寿会)、花見の会(自治会女性部)、月見の会・年越そばの会(有志)、ふれあい喫茶(自治会女性部)、留学生家族との親睦会(自治会女性部)など横に繋ぐ親睦・交流の場で50~60人が参加しています。

(2)屋外交流
 要援護者の生活支援の一環として日曜朝市(第1・第3日曜)・木曜朝市(毎週)を開催していますが、買い物難民層が多く盛会で恰好の交流の場となっています。

7.活動の成果
(1)親睦・交流目的の活動が親しい仲間づくりに発展
 本会の活動には単純集計で年間延べ1万人が参加しています。高齢者(約500人)1人当り換算で20回参加した計算になります。参加したことで新たな出合いから、知人・友人・親友にと絆が深まっています。元気高齢者が多く、談笑と活気にあふれています。

(2)低い要介護認定率
 本会発足から14年、一貫して目標にしてきた引きこもり防止、認知症・介護予防の成果は肌で感じていましたが、公的数値で立証するものはありませんでした。松江市は公民館区(小学校区単位に29館)別に要介護認定率が分るデータがあると知り、平成27年9月松江市の担当部署に依頼して淞北台の認定者を抽出してもらいました。
 結果は高齢化率37・2%に対し要介護認定率16・9%で、公民館区29地区と淞北台自治会の30地区で対比すると、淞北台は高齢化率で高い方から6位、要介護認定率は低い方から3位でした。
 因みに双方の数値が概ね同率の公民館地区と対比すると次のとおりです。
○高齢化が概ね同率の地区 ○要介護認定が概ね同率の地区
公民館区 率%(要介護認定率) 公民館区 率%(高齢化率)
本庄  38.6 (24.6) 竹矢  15.2 (29.5)
秋鹿  37.6 (23.7) 川津  16.3 (19.0)
淞北台 37.2 (16.9) 淞北台 16.9 (37.2)
雑賀  35.9 (21.7) 東出雲 17.1 (23.7)
白潟  35.9 (21.3) 持田  17.5 (24.6)

(3)成果の立証
 上記の対比は公民館区と一自治会区の比較で一概に評価できませんが、本会発足以来一貫して追い求めてきた認知症・介護予防の活動の成果を立証するデータであることは否定できません。
 本会の活動を通して実効ある介護予防は地域での親睦・交流機会の醸成と、地域事情に詳しい地域住民の理解と協力があってこそ、その成果が得られると確信しています。

8.活動の特徴(まとめ)
 本会の活動の特徴的なことは次のとおりです。
(1)自治会区の小地域福祉活動で住民ボランティア組織である。
(2)高齢者の自立生活(自助努力)を支援する活動である。
(3)定期的(5年ごと)に高齢者生活実態調査に基づく活動である。
(4)介護予防の親睦・交流を主目的にしている。
(5)戸建と県営集合住宅が一つの自治会で、共生・共助の体制ができている。