「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

誇りを持って住み続けたいと思える地域に
山口県長門市 特定非営利活動法人ゆうゆうグリーン俵山
 俵山地区は山口県長門市の南西部に位置し、467世帯1085人が暮らす典型的な中山間地域である。湯治場として名を馳せた俵山温泉を農村集落が取り囲む地形であるが、高齢化率が48%を超えるなど、過疎高齢化の進行により、地域の活力は急激に低下している。
 俵山温泉は、環境省指定の国民保健温泉で、アルカリ含有度が高く、神経痛やリウマチに効能があることから、昭和以前は2週間以上湯治で滞在する方もいて、40軒以上あった小旅館や、周辺農家も賑わったものである。時代は移り、湯治客の高齢化や医療技術の進歩によって、宿泊客は大幅に減少してきた。現在では旅館数も半分以下で、そのほとんどが老朽化、後継者不足も手伝って温泉地の存続も危うい状況に陥っている。周辺農家も同様で、耕作放棄地の拡大や後継者不足から、担い手や法人組織への集積が進んでいるが、組織の運営もままならず、強力なリーダーの出現が望まれている。
 そうした状況の中で、温泉の成分に活性化水素が大量に含まれていることから、アンチエイジングに効果があることが科学的に証明されたり、山間部で寒暖の差が大きく、米や野菜などの農産物が美味しいことが広く知られていることから、グリーンツーリズムを活用した地域再生に取り組むべく、2004年にグリーンツーリズム推進協議会を設立。2009年には、地域課題の解決に向けて、NPO法人に組織を改編した。
 まず、地域再生のために出したテーマはグリーンツーリズムである。豊かな自然や農産物、温泉などの資源を活用しながら都市部の住民に来訪してもらって癒しを提供することで経済効果を得ようというものだ。勉強会やモニターツアー。大学生の民泊や農業体験を実施してきた成果として、2008年に「子ども農山漁村交流プロジェクト」のモデル地域に選定され、人材育成などの環境整備が加速した。これによって都市農村交流活動に拍車がかかり、現在では、小学生から高校生までの体験型教育旅行や、大学生から社会人まで幅広い年代に対応した交流活動の受入を実施している。
 ところが、地域の課題は広範囲であり、高齢者対策、環境問題、産業振興、教育問題など多くの諸課題に直面した。「地域のことは、自分たちで考え、動かしていく」ためには、地域コミュニティの充実が重要である。組織を法人化して、幅広い事業に対応できる体制整備を図った。市から指定管理を受託した交流拠点施設「里山ステーション」を拠点に、現在の会員数は285名。地区住民の約3割が加入し、体験型教育旅行の受入などの都市農村交流を中心に、福祉事業、産業振興などにも取り組む。地域課題の発掘、解決を図りながら、情報発信や観光デザインを含めた俵山地域のコーディネーターとして日々活動している。

①体験教育旅行による都市農村交流
 現代の子どもは生きる力が不足しているといわれる。ゲームやスマホなど機器の普及や外遊びの減少などが原因とされ、自然相手でコミュニケーションが必要な農山村での生活体験の有効性が議論されている。俵山地区では、豊富な体験メニューと数名の有資格者を有して、安心安全な体験交流事業を提供しており、学校単位での体験教育旅行に対応している。体験メニューには、地域の特徴である温泉と農産品を取り入れ、入浴体験では、マナーや礼儀作法、コミュニケーションについて学習する。自分たちで収穫した農産物でつくった料理は格別で、田舎料理でも食べられるようになったと帰宅後に家族を驚かせることもある。さらには、農家民泊が体験メニューの中心となっているが、個性豊かな50軒の民泊先が農村体験の貴重な思い出となっているようだ。
 今年は、5月に宇部市の中学生150名の体験教育旅行を実施した。2泊3日のメニューは、民泊を中心に田植えや野菜の植付、街歩きや温泉体験などであったが、帰宅後のアンケート結果からは、今後家族を連れて俵山に訪れてみたいとの意見が半数程度もあり、教育効果だけでなく、地域にとっても有効な事業であることが認識された。秋にも小学生の体験旅行が予定されており、準備に余念のないところである。

②高齢化社会に対応した福祉事業
 地域の一番の課題は超高齢化である。高齢化率が50%近くであり、高齢者のみの世帯が急増している。これらの家庭では、買物、通院、食事等が困難になっていることから、少しでも長く故郷で生活してほしいとの思いで、デイサービス事業、食の支援、足の確保事業を展開して自立を支援している。デイサービスでは、比較的元気な高齢者が引き籠りにならないように、仲間と楽しい時間を過ごすサロン形式で週2回。昼食の支援は安否確認を兼ねて週5日。足の確保はデマンド形式で週3日実施している。最初は利用者も少ない状況であったが、このところ少しずつ利用が拡大している。

③公共施設の管理と環境保全
 NPOでは、交流拠点施設のほかにラグビー場の指定管理も受託している。ここは、2011年に山口国体少年ラグビーが開催されたところで、現在2019年ラグビーワールドカップのキャンプ地に立候補している。今年は全国ねんりんピックが開催されることになっており、選手を迎えるための芝管理や使用団体の日程調整など地域に密着した取り組みを実施している。
 また、地域には、3万本以上のしゃくなげ園や、ツツジの名所の公園などがあり、季節には多くの観光客を喜ばせている。しかし、その敷地が広大なため、夏場の草刈り作業が追い付かない。そこで、モニターを募っての作業イベントを開催したり、定期的に会員を招集して作業に取り組んでいる。さらには、通学路や花壇などの環境整備は、行政との協働のなかで、少しばかりの経費を負担してもらい環境対策に取り組んでいる。

④特産品開発と地産地消
 俵山地区は寒暖の差が大きく農産物がおいしいと言われる。これを地区外の人たちに紹介するため、毎月第2日曜日に朝市を開催している。さらには、お中元、お歳暮時期には加工品を詰め合わせた宅配セットも販売している。地域の特産品を開発しようと、朝市の開催時には、ソバやパン、ピザなども提供し、徐々にお客様が増加している。宅配セットは毎年100セット程度の受注があり、都会で生活している人に故郷を感じてもらっている。2014年にはこれらの食文化を広くアピールするイベントとして「イチニチレストラン」を開催した。事前にワークショップを開催して食材の活かし方も学習し、地域の食材で工夫した料理を提供し、温泉街は久しぶりの活気を取り戻した。今年はさらにバージョンアップした催しを企画している。

⑤UJIターンの促進
 2013年度に地域おこし協力隊を導入してUJIターンの促進に取り組んでいる。空き旅館を借り受けリニューアルしたお試し暮らしの宿を活用したり、地域の空き家情報を整備したりすることによって、移住に対する問い合わせも増加している。現実に2015年4月には5人の子どもさんを含む7人家族がIターンで地域に居を構えている。ここ5年間をみると、この協力隊員も含め、5世帯20名が新しく住民となり、活性化に貢献している。今後とも田園回帰の流れが加速すると考えられ、協力隊を中心に取り込みに努力していきたい。

⑥今後の取り組み
 全国の中山間地域では、過疎化による活力の低下が大きな課題だ。私たちも課題が多すぎて多様すぎる事業を展開している。国では地方創生として、まち、ひと、しごとを創り出すように求めているが、ひとつの事に特化して実績をあげていくことは困難だ。小さなことを積み上げて稼げる社会にしていかなければならない。そのために、住民が住んでいる地域に誇りが持てることが大切だ。地域コミュニティを強化することで住民同士が助け合えること、都市農村交流で都会の人から感謝されること。これらの積み重ねが誇りを生み出すと考えている。誇りを持って住み続けたいと思えば、地域に愛着もわくし、良くなってほしいと願うはずだ。我々の活動がその一助にならなければいけない。