「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

みんなに安心・安全でやさしいトイレを提言
長崎県長崎市 「みんなにやさしいトイレ会議」実行委員会
1.活動歴について
●トイレの現状や使い勝手は、伝えなければ、伝わらない。
 公衆トイレの使い勝手を提案する市民活動組織を立ち上げたきっかけのひとつは、公衆トイレを使わないという女性たちの声。「汚いし、臭いし、使い勝手悪いし・・・ほとんど使わない」そうは言っても公衆トイレのメンテナンスは、通常通りの方法で流され、実は女性たちが余り使っていないという声が伝わらないまま、改修もされていく。観光都市長崎にとって公衆トイレは、おもてなしの基本の「き」である。自分は使わないから、トイレは自分たちには関係ないから、知らん顔していて良いのだろうか?
 では、どうするか。公衆トイレの実態調査をする。調査をすることで、見えてくる現状をきちんと行政に伝えよう。現状を知ることで使い勝手も見えてくるはず。
 2011年1月「みんなにやさしいトイレ会議」実行委員会を設立。「入りたくないトイレ→入りたいトイレ」をコンセプトとし、「安心・安全でみんなにやさしい使い勝手のトイレの提言」を目標とした。会議の名前は女性だけでなく、子どもから大人、身体の不自由な方まで、みんなにやさしい視点にしたい、そんな想いで名付けた。組織を立ち上げた当初、「トイレ会議って、何をするところ? お掃除ですか?」「公衆トイレは、行政の管轄じゃないですか?」お掃除はともかく設置するのは確かに行政。しかし使うのは私たち市民。使い勝手や現状も、きちんと伝えなければ、伝わらない。改善されない。トイレ問題を他人事ではなく、自分たちのこととして捉えてもらうこと。そのためにはトイレに対する関心を持ってもらうことが何よりも大事なのだ。

●市民・行政・専門家、三つの視点で「使い勝手の基本」を提言。
 まずは現状を伝える実態調査に各自で取り組む。年に1度は、専門家から学ぶ「トイレシンポジウム」を開催。学ぶだけでは進展しない現状については、問題点を話し合う。何度も繰り返す地道な活動が、やがて私たちトイレ会議(使う側)・行政(設置する側)・専門家(作る側)三つの視点で取り組む「使い勝手の基本マニュアル」提言というひとつの形になる。
 長崎市では今後、10年間で、まちなかの賑わいの再生を図る「まちぶらプロジェクト」を推進しており、まちなかのトイレの整備についても重点を置いて取り組んでいる。2013年度からは設計の段階から行政との話し合いに参加、私たちの提言する「使い勝手基本マニュアル」は、改修される公衆トイレに、ほぼ全て採用されている。2015年3月現在で、採用された公衆トイレは、長崎市内5か所となる。
 「使い勝手基本マニュアル」といっても、大げさなものではない。むしろ簡単なプラスアルファである。例えば「洗面所横のバック掛けフック・女子用トイレの全身鏡・男子トイレのベビーキープ・男子小用横のフック・多目的トイレの荷物置き又はベンチ&フック・緊急ブザーは上下2か所・・」など、これまでの公衆トイレにはなかった小さな機能ばかり。しかしその小さな基本が、使う側にとってやさしい使い勝手になる。予算をかけるのではなく、やさしい気持ちをかけて欲しいことを伝えることができたと思う。高齢化社会を考えると、大人の介護用ベッドも基本としたいが、スペースなどの問題もあり、まだ道のりは遠い。

●2015年3月改修「長崎市丸山公園公衆トイレ」
 私たちの基本マニュアル提言が取り入れられたトイレとしては5か所目となる長崎市内丸山公園の公衆トイレが、今年3月20日に完成した。観光名所でありながら汚れ、特に悪臭がひどく、外観もかなり老朽化が目立っていた。女性だけではなく男性にも敬遠されていたワーストトイレのひとつ。立派になった公衆トイレは、「こんなにきれいになってうれしい」と喜んでいるのが手に取るようにわかる。本当に、いつ行っても多い。今回は、多機能トイレ入り口の前に、さり気なく目隠し用格子を取り入れてもらったのも、大きな進歩である。優しい気配りが採用された。

●お出掛け先の安心感、おもてなしの基本「まちかどトイレ」の設置!
 お年寄りの方々にとって「お出掛け先のトイレ」は、大きな問題となる。行きつけのトイレがある安心感は大きい。長崎の街中には、現在も気軽に使えるトイレがない。若い女性たちは、カフェ、コンビニなどお金をだして使えるトイレを知っている。しかしお年寄りの方々は、せいぜいデパート。銀行やドラッグストアは借りることができない。行政へ提案するとしても土地の交渉、設置場所など問題が多く時間がかかりすぎる。要は、「トイレだけでもどうぞ」という店舗を探せば良い。言うは易し、現実は厳しい。「トイレを貸すと汚される、掃除が大変、水道代、トイレットペーパー代もかかる・・・」など問題が立ち塞がる。私たちならなんとかできそうだと街中を探して歩く中で、快く協力してくれた店舗、それがレストラン「きっちんせいじ」。

●2013年6月「まちかどトイレ」第1号!レストラン“きっちんせいじ”
 第1号は、長崎市の街中に比較的近い、電車を活かした店舗で有名なレストラン「きっちんせいじ」。交渉がスムーズに進んだのは、経営者ご夫婦がトイレに関心を持たれ、おもてなしの基本として日々、清潔にされていたからだった。しかし古い型の和式トイレでは、「まちかどトイレ」として無理がある。そこで私たちは活動資金を取ることを決意、レストランを長期的に休むとトイレ自体の使用もできない。専門家と相談しながら、スピーディな工期を実現させた。
 「まちかどトイレ」には、強制ではないが、ちょっとしたルールがある。使わせてもらった感謝の気持ちを入れる「ちょっと出してね貯金箱」だ。使用料が必要なトイレは、使う人は少ない。「あなたのありがとうの気持ちを…」なら大丈夫ではないだろうか。結果、貯金箱には、少しずつお金が入る。私たちは、その気持ちのお返しとして、お店の方にトイレットペーパーを進呈する。「まちかどトイレ」は、一方通行では続かない。お互いにプラスにならなければ継続していくことは難しい。「まちかどトイレ」として提供して頂く代わりに、私たちはお店の広報を手伝う。行政のサポートで街の地図にも入れてもらう。時には「何か問題点はないですか?」顔を出す。2年以上が経過し、街にしっかりと定着した。利用者は順調に増え、地元の方はもちろん観光客の方にも喜ばれている。

●2014年4月「まちかどトイレ」第2号!カフェ“チェントアニ”
 第2号は、普段着で行けるデパートが閉店し、気軽に使えるトイレがなくなってしまった長崎市新大工町のカフェに協力を依頼した。このカフェは、利用者の年齢層が幅広く、出入口が国道側&商店街と2か所、トイレのスペースが広いことも条件にぴったり。再び、活動資金にチャレンジ! その改装資金で、入口の段差をなくし便器も一新、設備関連も充実させる。第2号は、長崎市政記者室で発表したこともあり、テレビ局3社、新聞各社が大きく取り上げてくれた。私たちの認知度はもちろん、店舗にとっても大きく貢献できたと思う。

●2014年5月「まちかどトイレ」第3号!島原市“まちの寄り処 森岳”
 第3号は、島原市森岳商店街にある島原市最古の古民家「まちの寄り処 森岳」。運営者の方が、私たちの活動をテレビや新聞で知り、「うちもぜひ使って下さい!」と急遽市外への展開が実現した。改装の必要がない充実した設備も本当に有難い。由緒ある町屋「鵜殿家」で観光客も多く「まちかどトイレ」としての役割も充分。お店の入り口に「まちかどトイレ」の看板が誇らしげに…。これからも私たちの想いが繋がり、「まちかどトイレ」を提供して下さる店舗が、もっと増えることを願っている。
 また私たちの「まちかどトイレ」設置の取り組みがお手本となり、2015年5月1日、長崎市まちなか事業推進室の「ながさきおもてなしトイレ支援事業」へと繋がった。
(長崎おもてなしトイレ支援事業:http://www.city.nagasaki.lg.jp/sumai/660000/666000/p026930.html)

2.受賞歴
●2014年3月第1回市民活動表彰「ランタナ大賞」受賞
 長崎市市民活動センター『ランタナ』主催「ランタナ大賞2013」は、ボランティアや、まちづくりに取り組む市民活動団体を表彰する、行政として初めての試み。登録している51団体がエントリー、1次審査を通過し5団体に残る。我がトイレ会議としては、日頃のトイレ活動に対する皆さんの関心の低さを悩んでいたが、実は1次審査で皆さんに高い支持を頂いていたらしい。15分のプレゼンによる審査及び、来場者による投票形式。その結果、想像を超える多くの方々から共感を得たことで、これまでの取り組みが間違っていなかったのだということを実感、晴れやかな大賞受賞は、今後の大きな励み、大きな進歩となる。
●2013年8月長崎市「まちぶらプロジェクト」に認定される
 私たちが取り組む「まちかどトイレ」などの活動が、市民や企業が主体となって取り組む、まちなかの賑わいづくりとして評価され「まちぶらプロジェクト認定」第2号となった。
●2014年9月「ながさき・おもてなし表彰」知事賞受賞
 観光都市長崎で暮らすものにとって、またトイレ活動を推進し続ける会として、まさに感動的な賞となった。
●2014年11月日本トイレ協会グッドトイレ選奨受賞
 地域で取り組んできた地道なトイレ活動が、まさか日本トイレ協会で、評価を頂くとは思ってみなかった。しかもプレゼンをさせて頂いての受賞に私たちも、ようやく少し進化したのだと実感しました。

3.発行物
 2015年3月、これまでの実績や提案などを編集した「トイレタイムス」第2号を発行(1万部)。巻頭の「110(トイレ)人に聞きました“あなたにとってトイレとは?”」が読み応えあるものとして大きな評価を頂いた。