「ふるさとづくり'01」掲載
<企業の部>ふるさとづくり賞 内閣官房長官賞

漁業体験を通じ後継者育成
新潟県能生町 能生町漁業協同組合青年部
 能生町は、新潟県の西端部にあって、海、山など美しい自然が豊かで、四季の変化が明瞭な、人口11010人、面積150平方キロメートルの町である。
 町の基幹産業は、農業と漁業であるが、特に漁業においては、3つの漁港(能生、筒石、鬼舞漁港)があり、県内屈指の水揚げ高を誇っている。中でもベニズワイガニの直売は能生町の名物として全国的に知られている。
 また、町内には県内唯一の水産高校である県立海洋高等学校があり、日本の水産業界に多くの優秀な人材を送り出してきた。
 さて、今回応募した活動の主体である能生町漁業協同組合青年部は、部員数16名、平均年齢29歳の比較的若いメンバーで活動している。ここに『「海が好き!」OH!さかな教室』を紹介する。


次の漁業を担う子どもたちへ

 平成10年の青年部総会で地域に密着した形で地域の皆様に喜んでもらえるイベントを行いたいとの意見が挙げられ、検討することとなった。それまでの青年部の活動範囲は、青年部内だけに留まるマンネリ化したものであった。この総会で色々な意見が出された中、地域の子どもに視点をおき、われわれの共通した思いである「町の、地域の、漁業の担い手不足」、「元気な子どもたちがいない(海や浜に子どもたちの姿がなくなった)」など直面している問題を取り上げ、これに対し、われわれの活動の中で何ができるのかを考えることになった。
 そこで、次の漁業を担う子どもたちを対象にして、「魚類に触れて、好きになろう!」や「漁船に乗船して、海や漁を体験しよう」といった内容を積極的に盛り込んだ企画を青年部で発案し、取り組むこととなった。これが、「OH!さかな教室」である。


メインテーマは「海が好き!」

 魚や漁船などを通して、海をこれまで以上に身近に感じて、そして資源としての海を大切にする心を養う機会を設けた。
 参加対象者は、町内小学生(5校)の5年生とした。理由は、小学生5年生が学校の授業で地域の産業を習う機会があるからである。
 開催場所は、能生町漁港とした。理由は、われわれの活動拠点であることは当然であるが、県立海洋高校の実習船「海洋丸」と「くびき」があることと稚魚の育成施設(栽培棟)が備わっているからである。さらには、次の水産業を担う海洋高校の生徒も巻き込んで、漁業に携わるわれわれの生の姿(活動)を知ってほしかったからである。

(1)底曳船乗船体験の操業見学
 海洋高校実習船に乗船し、船内装備の見学を行った。さらに子どもたちが乗船したまま沖に出て、実際に網を張って魚を獲るところを体験した。
 船に乗ることも沖にでることも初めての子どもたちが多く、皆一様に目をキラキラさせていた。
 引いた網の魚が飛び跳ねる様に驚き、その魚に群がる鳥たちに驚くといったように驚きと感動の時間を過ごした。

(2)生け簀の開放(魚の手づかみ)
 漁連の荷捌場に特設の生け簀を造り、生きた魚を入れて、子どもたちに生け簀に入って魚の手づかみ体験を行った。必死になって逃げる魚に怖がったり、驚いていた子どもたちも次第に慣れ、皆いきいきとした顔で時間を忘れて無我夢中に魚を追いかけていた姿が印象的であった。ちなみに、魚はホッケ、アジ、サバ、ハタハタ、カレイ、タコ等である。

(3)漁網の説明
 底曳用の網を広げて、立体的に見せ、底曳き漁の仕組みを説明し、子どもたちに魚の気持ちになってもらうため、その網を潜ってもらった。はじめはなぜ魚が捕れるのか不思議がっていた子どもたちも、実際に潜ったことで漁の仕組みが分かったかな。

(4)ロープワーク
 この作業は、日頃漁師が使う結び方を習得するだけでなく、子どもたちに少しでも役立つ技術を習得する意味を含んで、人命救助の際に用いるロープワークを個別に指導した。
 人命救助に関することもあって、真剣な眼差しでわれわれの説明を受け、日頃慣れない手つきで四苦八苦していたが、次第に自分でできるようになると嬉しそうに何度も結んでいた。

(5)ビデオ学習
 漁師の仕事を紹介した「漁師さんの1日」というビデオテープを海洋高校の栽培棟の教室で放映した。早朝の出港から網打ち、網曳き、漁獲、入港、選別、袋詰め、セリ(市場)などの様子が紹介されたが、大変な作業の中に漁の喜びや入港の安堵感が少しでも伝わっただろうか。

(6)魚食普及の話
 昨年まで県内民放で「お魚博士」として、テレビ出演していた鈴木先生にお出頂き、子どもたちに魚の特長や種類などについて講話を頂いた。徐々に魚のことが分かりつつある子どもたちは、盛んに質問をして、更に魚に対して興味が沸いたようだった。

(7)みそ汁、イカ焼きの提供
 能生町漁協婦人部の協力で、当日の昼食時に名物のベニズワイガニのみそ汁とイカの炭焼きを子どもたちに振る舞った。昨今子どもたちの魚離れが危惧されているが、魚の手づかみ体験で実物を見て触れたばかりのカニやイカが調理されて感激した様子で、初めてカニやイカを食べる子どももそのおいしさにお代わりをすることもあった。

(8)その他
・参加者(子ども、先生、青年部員)がスムーズにうち解けてほしいことから、参加者全員が名札を着用した。(参加者手作り名札)
・生け簀の魚と底曳船で獲れた魚を子どもたちにお土産として提供した。これを機会にもっと魚類を好きになって欲しい。
・町内2漁協(能生魚協、筒石漁協)の水揚げ量や漁船の種類と数、組合の実態等をまとめた資料と漁の方法を図で示した簡単な教材をわれわれで作成した。これを「OH!さかな教室」開催2週間前に各小学校の授業で活用し、当日もビデオ学習の中で使用した。

(9)「OH!さかな教室」の感想や意見
 学校毎に「OH!さかな教室」の感想文作成を授業の中で取り組んでいただき、子どもたちの感想・意見を次回に反映できるようにしている。
 感想文は、日々の当たり前になっていた感動や驚きを思い起こす、われわれの心を打つものばかりであり、次回開催の活力源となっている。
 特に参加された子どもたちの親から「能生町に住んでいて良かった」との文書がわれわれの今日の支えになっている。


波及効果

1 内部波及
(1)港まつり絵画展示会
 「OH!さかな教室」に参加した児童から感想文と「海が好き!」というテーマで絵画の作成を毎回お願いしている。
 この絵画は、毎年青年部が主催する港まつりで展示している。優秀な作品には、賞状と賞品を授与することにして、青年部員全員で審査した。
 このことが、地域の方々に影響を与えた。港まつりは漁協組合員の内部的な催し物であったが、絵画展示により、子どもたちの関係者(家族の皆様)や各小学校の先生方も来て下さる結果となり、今までとは違う新しい雰囲気を作り出すことが出来た。
 なお、その絵画は、夏休みの期間、町内児童館に展示されるようになった。

(2)港内防波堤の壁画キャンパス
 「OH!さかな教室」が行われ、青年部内でも部員1人1人に変化が現れた。「OH!さかな教室」の成功が自信となり、幅広い新しいアイデアが次々に提案された。その一つとして、防波堤をキャンパスに大きな壁画を描くことにした。漁港を生きた教育現場として捉え、かつ観光面や美化運動の一環で取り組むことにした。
 原画の題材は、能生漁港がある能生小泊地区に伝わる民話「上がり岩」を題材にした。
 壁画の寸法は、縦4メートル、横120メートルである。原画のデザインは、上越教育大学の阿部靖子教授と学生にお願いした。壁画の作成は、当初青年部員で行う予定であったが、あまりにも大きすぎることと永久に残すには、きれいな絵であって欲しいということから塗装業者に依頼した。
 また、壁画以外にも「海が好き」という大文字を青年部で書き、その下に地元の児童や保育園児に思い思いに絵を描いた。さらに町内や糸魚川市に一般希望者を募り、海を題材にして、それぞれ描いた。参加者から「記念になる」「思い出に残る」等と好評であった。

(3)ゴミポイ捨て禁止を子どもたちが呼びかける「港内スピーカー」の設置
 心ない人々によるゴミのポイ捨ては、全国の漁港の共通問題である。当漁港も例外ではない。青年部も独自に一斉ゴミ拾いなどの活動を行ってきたが、ゴミの量は減らなかった。
 そこで、青年部内で検討した結果、子どもたちの声を録音し、港内に放送することにした。具体的には、「OH!さかな教室」で「海の大切さ」を勉強した子どもたちに純粋な気持ちでゴミの持ち帰りを訴えてもらえば、聞いている人々に対しても嫌味にならず効果があるのではないかと考え、各学校にその趣旨を伝えた。各学校では、思い思いの企画で子どもたちのメッセージを録音してくれた。青年部でスピーカーと各種機材を設置して、現在1日3回定刻にメッセージを港内に流している。その結果、以前に比ベゴミは格段に減少し、美化運動の重役を担っている。

2 外部波及
(1)福祉団体「手をつなぐ育成会」との交流
 手をつなぐ育成会より、育成会主催の北信越大会が上越圏を会場にして開催されるので、「日本海探訪コース」という企画の中で、OH!さかな教室を実施することとなった。参加者は障害を持った方々であり、彼らをサポートするボランティアスタッフを含めると300人近くとのことで困惑したが、福祉団体への貢献になり、水産業に対する理解を得られる貴重な機会であることから、積極的に協力した。
 OH!さかな教室と異なり、参加者の滞在時間は2時間と限られた中で、安全を第一に考え、かつ、内容の濃い企画を何度も検討した。内容を以下に示す。
・魚協婦人部から「つみれ汁」を振る舞った。
・生け簀を開放し、生きた魚を直接手で触れる機会を設けた。
・触れると危険な魚は、水槽に展示した。
・棒受網は、この日のために青年部員でオリジナルの網を作成し、当日実際にすくい上げて見せた。
・漁船の見学は、底曳船2隻、カニかご船1隻を会場脇に係留させ、装置類の説明を行った後、希望者全員を乗船させ船の感触を体験した。その際、車椅子の青年を部員4人で担いで乗船させたのだが、この時彼は満面の笑みを湛えてくれた。この瞬間が何よりも励みになる。
 青年部にとっても障害者の方々と交流ができ、人として一歩成長できたのではないかと思う。

(2)中能生小学校との交流(体験学習に協力)
 中能生小学校6年生による「自給自足」をテーマにした漁業体験を実施した。OH!さかな教室がきっかけとなり、学校の体験学習の一環として行うことになったのである。
 中能生小学校では、山と海で子どもたち自身が食糧を調達し、それを自炊するという内容であった。青年部は、海の食糧として、魚釣りを指導することになったが、釣りの成果は少なく、最後は授業の趣旨に反する行為であるが、青年部で海に素潜りし、サザエ、アワビなどを獲って提供した。そして、子どもたちと一緒にバーベキューを行い、子どもたちとの交流を図った。

(3)木浦小学校と新潟県中郷村片貝小学校との交流に参加
 木浦小学校と新潟県中郷村片貝小学校の交流の中で、催し物として海釣りを体験させたいという依頼があった。青年部で釣竿、釣具、餌類を手配し、両校の子どもたちにサビキ釣とエサ釣に挑戦してもらった。
 上記2と同様に小学校からのこれらの依頼は、「OH!さかな教室」で子どもたちが「海」の体験を行ったことがきっかけとなり、「OH!さかな教室」以外でも各学校から依頼が来るようになった。われわれとしても、水産業に対する理解を得られる良い機会であることから、喜んで協力している。
 これらの活動がスムーズに行えるようになった背景には、われわれの活動に対し各学校やPTA、町の理解があって始めて可能となったことである。各学校では、学校行事として認めて頂き、町教育委員会からもバスの手配等の協力を頂いている。県立海洋高校や筒石漁協青年部を含めて町内の各団体の協力と連携を頂くことで円滑な運営ができるようになった。

(4)名立漁業協同組合研究会との交流
 われわれの活動は、町内を越え、近隣市町村でも話題となった。その中で、名立漁協研究会からアドバイスを受けたい旨の依頼があった。同じ志を持つ者として、われわれ青年部も協力した。
 「OH!さかな教室」と内容的には、似ていたが、客観的に観ることができ、われわれに足りないこと、工夫が必要なこと等逆に勉強になった。

(5)県立海洋高校生徒会との交流
 「OH!さかな教室」を契機に海洋高校と頻繁にお付き合いさせていただくようになった。その際、生徒会からの提案で、生徒会主催のカッターレース大会に参加するお話を頂き、水産業を担う高校生との交流は漁師をしている青年部としては意義深いことと考え、参加している。今回を契機にカッターレースに限らず、海洋高校との交流を継続して図っていきたい。