「ふるさとづくり'01」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

おばあちゃん先生による郷土料理の継承
福島県三島町 三島町老人クラブ連合会女性部
 町の子どもたちと共に、昔からの郷土料理を、季節ごとに地元の生産物を食材にし、化学調味料などは使わず、自然の味で味付けした料理を作り、一緒に食べながら継承活動を展開しているのが、三島町老人クラブ連合会女性部である。
 この活動は、当初公民館の「おばあちゃんの味」事業として、小学4〜6年生の女子希望者を対象に町民センターで、昭和60年2月から実施、今年16年目を迎える。
 現在は、小学校5、6年生を対象に春・秋2回実施しており、子どもたちの体験学習や世代間交流に大きな役割を果たしている。


地元の食材を使った郷土料理にこだわり

 この活動は、当時の公民館長が、おばあちゃんの手ほどきで、娘がおもしろそうに料理を作っている姿を見て、老人クラブ女性部のメンバーに呼びかけ、指導を願い出たのである。しかし、メンバーは「先生なんてはずかしい」と、みんなはじめは後込み引き受けてもらえなかった。そこで「先に生まれたんだからおばあちゃんたちはみんな先生なんだ」ということから始まったのである。
 同女性部のメンバーが先生となって、自分たちが考えるメニューで、子どもたちと一緒に料理を作って食べる。
 最初の頃は、公民館の裏畑を耕しジャガイモを作り、一緒にイモ掘りをして、料理を作って食べるなどであった。
 平成5年からは、小学校の授業に組み入れられ、宮下と西方小学校の2か所で実施、それぞれ地区の同会メンバーが指導に当たってきた。メンバーも年月を重ねる毎に、世代交替しながら、地元の子どもたちに郷土の伝統料理を継承するため一生懸命励んでいる。
 現在、小子化の影響で二つの小学校が統合し、三島小学校になり、「おばあちゃん味」は、同校5、6年生を対象に年2回実施していて、これまで30回を数える。
 この事業は、一貫して「なるべく昔からの料理にこだわること」、「季節の地元食材を使うこと」、「化学調味料でなく、自然の味で味付けすること」を信条にしたもので、数十年前から、この地方の食生活が反映されたものばかりである。
 「昔は子どもの数が多かった、何とかみんなに腹一杯食べさせたいという母親の気持ちや生活の知恵から、たくさんの料理が生まれた」と、初代のおばあちゃん先生の1人は語っている。そんな思いで生まれた料理は、季節に山や畑で採れる食材をふんだんに使った料理で、同じ材料を使っても驚くほどバラエティーに富んだものである。
 春の献立には、大抵フキ、ミズナ、コゴミやわらびなどの山菜が並び、秋になると、大根、里芋、そばなど、その年おばあちゃんの畑で採れた、自慢の食材が使われる。
 今は、金さえ出せば何でも手に入る時代とはいえ、丹精込めて育てたもの、山に入って採ったものを口にすることは、金では買えない貴重な体験であることを、子どもたち、おばあちゃんたちは、確認しながらこの活動を進めているのである。
 最近の子どもたちの食生活は、かなり変化してきている。それは、核家族の増加や祖父母が同居でも別食で、家庭の中で伝統的な味が継承されなくなったケースもあり、また、共稼ぎで忙しいお母さんたちは、市販の惣菜や冷凍食品に頼り、野菜嫌い、肉や揚げ物好きに応えているからである。
 その結果、肥満や高コレステロールなどの小児生活習慣病が心配の子が増えている。
 おばあちゃんたちは、山菜を採ったり、畑で野菜を作り、これから時代を担う子どもたちのために、自信と誇りを持って、家庭の中の食生活でも大きな力を発揮している。


先駆的な体験学習

 昨年度から「おばあちゃんの味」事業は、当初のように「自分立ちが育てて・採って・作って・食べる」形に近付ける努力をし、その一つの定番に春は「笹巻き」を取り入れている。
 笹巻きは、地域に伝わる早苗振りの行事食で、各家庭で笹が育つ6月、米の粉のだんごや餅米を笹の葉でくるんで食べる伝統食である。最近は、祖母と同居していない子どもは作る機会もなく、家族の少ないおばあちゃんもあまり作らなくなったといわれている。
 おばあちゃんたちは、子どもと一緒に、笹の葉採りからだんご作り、笹の葉でくるんで食べる品は、先祖伝来厳しい山村の暮らしの中で培ってきた力であり、これらを、一世代超えた子どもたちに生かすことの出来る喜びが、16年間続いた活動の大きな原動力になっているのである。
 一方、来年から学校では「総合的な学習の時間」で、体験学習や世代間交流授業が奨励されているが「おばあちゃんの味」授業は、まさに先駆的授業といえる。これからも継続し活発に展開することにしている。