「ふるさとづくり'01」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

“やきそば”で中心市街地の賑わい取り戻す
静岡県富士宮市 富士宮やきそば学会
 静岡県富士宮市で、「富士山」だけではないまちおこしが始まった。中心市街地活性化を考える市民が、まちおこしの素材で「富士宮やきそば」に着目。平成12年、「富士宮やきそば学会」を結成。地域のオリジナリティをキーワードに情報発信したところ、マスコミも注目。見事、中心街に活気が戻った。


路地裏の魅力発見が市街地活性化のカギ

 「富士山」をはじめ「白糸の滝」や「朝霧高原」などの観光資源に恵まれた富士宮市も、全国各地にみられる地方都市の例に漏れず、中心市街地の空洞化が進んでいた。そんな折、平成10年、中心市街地活性化法が施行され、11年から、富士宮市でも中心市街地活性化基本計画策定のための「市民によるワークショップ」が開催される運びとなった。
 ワークショップでは、様々な意見が出されたが、画期的な計画を作るまでには至らず、具体的な活動を望む有志がワークショップ終了後に再結集した。こうして「歩いて楽しいまち、路地裏の活性化」を検討するうち、富士宮市の裏通りには、「やきそば店(お好み焼き屋)が多い」ことに気付いた。資料で調べると、県内の他の町は人口1万人に対しせいぜい1〜2軒であるのに対し、富士宮市には何と約7軒ものやきぞば店があった。
 飲食業組合等の資料を頼りに、やきそば店をリストアップすると、150軒を超えていた。しかも、麺や調理法も独特のものであることが分った。一般にやきそばの麺は茹で麺だが、富士宮では蒸して油でコーティングするため腰があり、歯ごたえがあった。また、調理では普通使用しないラードを絞った後の「肉カス」を入れたり、鰹節でなく「いわしの削り節」をかける独特の方法が見られ、「これぞ富士宮の『路地CUL』オリジナリティ」と判断したメンバーは、富士宮のやきそば店をさらに調査するため、「富士宮やきそば学会」を組織。12年11月から始動した。
 「やきそば学会」の命名は、振興会やファンクラブといったものよりインパクトがあり、「やきそばG麺」とくれば、どんなものか好奇心を掻き立てる。早速マスコミが飛びついてきた。NHK、SBS静岡放送、静岡朝日テレビ、静岡第1テレビ、テレビ静岡からラジオ各局、新聞も地元紙はもとより全国紙まで取り上げた。


やきそば繁盛の経済効果は広く深く浸透して

 マスコミに取り上げられ、一気に話題が先行したが、やきそばG麺となって会員は、日夜手弁当で調査を続けた。その結果、100軒以上の詳細をデータに蓄積し、データベースをもとに「富士宮やきそばマップ」(当初2万部)を作製し、ホームページを開設した。また、店が裏通りに多く地味なことから、目印になる織旗をつくり(当初100本)、来訪者に分りやすくした。
 一連の活動は話題性もあり、マスコミの報道で大変な反響を呼んだ。マップや織旗のあるやきそば店には、東京はもとより、東北や関西方面も含む市外からの客が爆発的に増加した。ゴールデンウィーク中は、主だったやきそば店には行列ができ、店の焼き手は昼食を取る暇もないほど忙しく、休み開けには腱鞘炎で病院に通う業者も出たほどだった。
 そして、繁盛したのは、やきそば店だけではなかった。麺を販売しているスーパーは、通常の5倍からの売上があった。必然的に製麺業者の生産量も爆発的に増加した。こうして、1日2〜3万食の出荷量が、少なく見積もっても4万食程度にはなり、1日1万食の増産となった場合、1食350円の安いやきそば換算でみても、月に3,000万、年間3億6,000万円程度の経済効果があったことになる。しかも、やきそばにはソースやキャベツ、ラードも使う。富士宮やきそばの特徴である「肉カス」に至っては、精肉店では品切れ状態になり、ガスの使用量も確実に伸びていた。
 マスコミの取り上げ方も、テレビ局ではニュース扱いではなく、1時間の特別番組を制作してくれた。会員らは、これらの報道をCMとして番組を作成したならば、報道されたテレビ番組の時間を通算すると、1億円以上の経済効果になる、と計算している。
 富士宮やきそばの話題は止まることを知らず、県の広報や国の官報にも取り上げられ、日本道路公団までもが協力を申し出てくれることになった。その結果、東名高速道路のサービスエリアの海老名、富士川、浜名湖や、西富士道路の料金所などに、道路公団が製作した富士宮やきそばのパンフレット「やきそば道」が置かれている。
 富士宮と言えば、今ややきそばのイメージが定着しつつあり、富士山の開山祭など、市内各種イベントには必ずやきそばが出店している。そして特筆される点は、「行政予算を一切使わない活動」ながら、“やきそば”という素材が一石を投じたことで、富士宮市の中心市街地に見事賑わいを取り戻したことだ。