「ふるさとづくり'01」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

老いも若きも安らげる街の縁側
愛知県名古屋市 クニハウス
 人は誰もが1人では生きられない。かつては近所同士で自然に知恵を分かち合い、助け合って生きてきた時代があった。今日、そんな「地域力」の復権が問われている中で、名古屋市内の自宅を改造して、地域に人間味豊かな『街の縁側』を創り出しているのが、「クニハウス」だ。


クニハウスの成り立ちと5つの約束

 丹羽さんは定年を機に、名古屋市千種区にある鉄筋コンクリート2階建ての自宅を『街の縁側』に改造。設計はユニバーサル理念のもと、学生にボランティアで引き受けてもらい、やはりボランティア仲間5人と開所した『街の縁側』の呼称は、訪れた高齢者が「まるで街の縁側ですね」と言ったのが発端だ。
 クニハウスには、5つの約束がある。(1)ここに集う人は全て対等。年上を敬い、年下には大らかに、笑顔で挨拶、
(2)政治・宗教の勧誘を禁じる、(3)足跡以外は何も残さぬよう、清潔に心がけて使用する、(4)節水・節電(省エネ)に協力、(5)整理・整頓に心がける、というもの。また、「来る者拒まず、去る者追わず」で、記念日のクリスマス会以外は何の行事も制約もつくっていない。
 こうして始まったクニハウス「街の縁側」には、12年度に延べ1674人の来訪者を数えた。その縁側の活動を紹介してみよう。
(1)若い母親・父親と乳幼児が一休みと遊びで交流する。ままごとをする幼児と見守るボランティア。カウンターで人生の先輩と茶を飲みながら、育児の悩みを語り合う若い母親たちの一時の憩いの場ともなっている。
(2)小学生が下校時に寄り、大人とオセロや将棋をしたり、池の鯉や植物の観察などをして遊ぶ。また、ピアノの連弾や読書をしたり、不登校児との遊びが交流となる。
(3)知的・身体・精神障害児(者)と家族に憩いと交流の機会を作っている。作業所や授産所で働く人々が一休みしたり、遊びで交流する。また、クリニックに通院する若者たちがボランティアや来訪者と交流し、手作りの昼食を一緒にしたり、散歩に出て語り合ったりしている。ときには、自閉症児が母親ときてピアノを弾くのを別の来訪者が聞いてやったり、精神病院から外出許可をもらって、1日過ごして帰る若者。半身麻痺の女性がリハビリテーションを兼ねて、自宅から2キロの道をボランティア同伴で90分かけて来所していたが、半年後の現在は、人手を借りず45分で来られるようになった。


他者に優しい生活の助っ人クニハウス

(4)八十日目(やっとかめ)で息抜きの人たちの茶飲みと交流(病院で夫に付き添う妻の息抜きや、腎臓病、高血圧、リュウマチ等で長期自宅療養中の男性、女性たちの一休みの場などに)。
(5)(地元)高見学区内の町内会や婦人会の役員会、更正保護婦人会などの会議。
(6)ボランティア団体の定期会合。
(7)身近な暮らしで困りごとや高齢者介護(介護保険制度の利用の仕方とか、介護と必要な家の改修等)や受診、住環境等の問題などの相談。
(8)外国人医療センターの定期的な無料医療相談と検診(外国人を対象に平成13年3月まで実施。4月から実績が認められ、名古屋国際センターに移動した)。
(9)玄関前の縁側で、散歩や地下鉄駅からの帰宅途中の高齢者たちが一休みしたり、室内の大時計で時間を確認しながら休憩する。
(10)収集ボランティアコーナーでは、来訪者や近所から使用済み切手やテレホンカードを集めて、千種社会福祉協議会に協力している。
(11)ユニバーサルデザイン改修のクニハウスの見学(建築家や学生、保健・医療・福祉現場の職員等)に協力と交流。
(12)電話相談(閉じこもりの男女やその両親ら)。
(13)名古屋市や愛知県の最新医療・保健・福祉等の情報パンフレットの展示と説明。
(14)(少ないが)学生や現業者の資格取得や進学、悩み事相談。
(15)(少ないが)外国や国内のボランティア活動者の宿泊と交流。
(16)年1回のクリスマス会(11年57人、12年78人参加)――といったところが、概略の日常活動だ。
 この活動を、12年12月号の『ボラみみ』(ボランティアのみみより情報誌)が特集で、「地域のオアシス」と紹介した。それ以来、来訪者も増え、さらに13年3月に、愛知県第6回人にやさしい街づくり特別賞を受賞し、見学者・来訪者はますます増えている。
 ところで、クニハウスの運営維持費は、ボランティアスタッフの積立金や支援者、見学者、相談者らの寄付で賄っている。電気や上下水道、電話、雑費等に毎月1〜2万円の出費がある。当初はパソコンの導入計画もあったが、経済的理由からまだ実現していない。
 また、毎月1回運営委員会を開き、反省や今後の予定などを確認している。そして、丹羽さんらは、今後NPOの申請も視野に、「継続は力」を信じ、地域力を高めるための一翼を担う意欲にますます燃えている。