「ふるさとづくり'01」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

公共交通復権で人と環境に優しいモデル都市目指す
岡山県岡山市 RACDA(路面電車と都市の未来を考える会)
 人口60万人を超える岡山市でも、中心市街地の空洞化は極めて深刻な状況にあった。何とか街の再生を図りたい、と願う有志の間で研究・検討を続けてきた人たちが中心となって、平成7年、RACDA(路面電車と都市の未来を考える会)を発足。公共交通復建を軸に、新しい都市づくりに乗り出した。


自動車交通一辺倒が中心市街の空洞化生む

 かつて岡山の中心市街地には、あふれるような人の賑わいと、豊かな人間関係に立脚した生活文化の集積があった。それは、歩行中心のヒューマンスケールな距離感・空間感覚から生まれるもので、時速50キロ、100キロといった高速で移動する自動車の距離感・空間感覚からは生れ得ないものだった。
 道路整備が進めば進むほどあふれる自動車。慢性的な渋滞。多発する自動車事故。毎年100万人以上が傷つき、渋滞による経済的な損失は年間12兆円にも及ぶという。渋滞を避けようと路地裏まで侵入する車で子どもの遊び場は奪われ、容赦なく住民生活を脅かしてきたのが、車社会の負の面だった。
 自動車に依存した町づくりを進める限り、中心市街地の空洞化に歯止めをかけ、人間的な温もりと賑わいに満ちた街を取り戻すことは期待できない――と、RACDA設立の10年ほど前から有志10人ほどで作る「岡山未来デザイン委員会」や、岡山商工会議所の「都市委員会」での共通する認識だった。
 しかし、岡山のような地方都市は、車なしの生活は考えられない都市構造になっていた。そんな時、ふと気付いたのが、岡山の市街地を渋滞にも影響されず、悠々と走り続ける路面電車の存在だった。聞けば、欧米の一部都市では、中心市街地の空洞化をはじめ、様々な都市問題の解決策を、路面電車やバスなどの公共交通機関の復建に求め、大きな成果をあげている、というのである。
 なかでもLRTという超低床型最新ハイテク路面電車システムを中心に、パーク・アンド・ライドやトラジットモールなどの新しい交通施策を積極的に導入し、中心市街地の再生から、人と環境に優しい街づくりに大きな効果を発揮していることが分った。
 早速、日本交通計画協会や岡山商工会議所で派遣するヨーロッパでの路面電車による街づくり視察団に、有志の会も参加。実際に、フランス南部の都市で、人と路面電車の共存する感動的な光景を目のあたりにするなど、近未来的理想の都市像の存在を学んだ。


“らくだらくだ、ぐるっと回ればもっと楽だ”

 平成7年、岡山商工会議所は、路面電車の環状化構想を柱とした「人と緑の都心1キロスクエア構想」をまとめ、デザイン委員会にも協力要請があった。二つ返事で応じたメンバーは、同年10月、RACDAこと「路面電車と都市の未来を考える会」を設立。構想実現に向けて動き出した。
 RACDAのネーミングは、オアシスからオアシスへと砂漠を飄々と歩む『ラクダ』をイメージしたもの。また、このらくだは会のキャッチフレーズ「らくだらくだ、ぐるっと回ればもっと楽だ」でいう、岡山の中心市街地をぐるっと一周する路面電車の環状化実現にも掛けているのである。
 RACDAは、路面電車を利用したイベントやセミナー、シンポジウム、海外視察などを次々に実施した。9年には、「人と環境にやさしいトランジットモデル都市を目指して」をテーマに「第3回 路面電車サミット in 岡山」を開催した。また、サミットに先だって、Niftyの協力でインターネット会議室を開設し、路面電車と街づくりの新しい風を起こす契機となる熱い討議や、国内外から多くの貴重な意見を聞くことができた。
 このサミットを契機に、岡山においても、路面電車延伸・環状化を進めるための「岡山まちづくり交通計画調査」がスタート。12年には、第1期事業として、岡山駅から市役所、岡山大学付属病院までの約1.6キロの間で、道幅36メートル6車線のうち、市役所筋の2斜線を減らし、かつ東側の歩道に軌道を寄せてセミ・トランジットモール化する延伸計画が答申された。
 また、今年2月には、路面電車の延伸を前提に、市役所筋の2車線を削減した交通社会実験も行われた。国の路面電車に対する制度支援も年々整備されてきているなかで、一見順調とも見える会の活動も、実際は試練の連続である。路面電車の延伸・環状化の実現には、沿線住民の合意形成や関係機関の調整、事業資金の調達、事業方式の確立等々、前途には難問が山積しているからである。
 しかし、昨年は路面電車・環状化早期実現で10万人近い署名を集め、全国からも多くの募金が寄せられている。活動を通してメンバーは、街づくりは偉大な民主主義の実践学校であり、公共意識に目覚めた住民が“シチズン”に脱皮しつつあるのを実感している。