「ふるさとづくり'01」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

市民参加によるこどもの図書館づくり
高知県高知市 特定非営利活動法人 高知こどもの図書館
 平成11年12月、全国で初めて特定非営利活動(NPO)法人による「高知こども図書館」が開設した。市民が基本構想を提供し、行政(高知県)が場所を提供してスタートした図書館は、こどもから若者を主な対象に、柔軟な運営体制を多くのボランティアで支えている。


高知こどもの図書館をつくる会からスタート

 平成6年秋、高知県立図書館の定例読書会で、県立図書館の新築移転のうわさが話題になった。この話は、こども文庫連絡協議会や高知おはなしの会、高知こども文化応援隊など、様々な団体に瞬く間に伝わった。そして間もなく、「移転した後の古い県立図書館を専門のこども図書館として残せないだろうか」という話しに発展した。20年以上地域で文庫を続けている仲間は、大切な2万冊の蔵書を寄付するという。永年育んできた人々のネットワークが生きたのである。
 女性ばかり5人で、「高知こどもの図書館をつくる会」がスタート。平成7年2月、おりしも高知市で開かれていた全国の「児童図書館研究会」でこども図書館構想を発表するなど、会は本格的に活動を開始した。
 会では、7、8、9年と賛同者を広げつつ、図書館に関する勉強を重ねた。また、運営のコンピュータ化等々、課題は限りなくあった。それら学習したことを基本構想としてレポートにまとめ、知事に提出した。その知事は、住民の声に耳を傾けよう、知事自身も勉強しようという姿勢が、どんなに運動を進める上で大きな力になったか、計り知れないものがある、と会のメンバーは受け止めている。
 だが、経済不況の時代に入って、思わぬ誤算が生じた。県立図書館の新築移転計画は先送りとなってしまったのだ。県立図書館移転後をこども図書館に、と考えていた運動は成り立たなくなった。しかし、会では、別の場所を探すことを選んだ。だがそれはなかなか難しく、暗礁に乗り上げかかっていた。
 そんな中で10年春、県の建物を無償貸与してもいい、という提案があった。官民協働の作業は、こうして、ここから始まった。こども図書館をつくろうという運動の根っこには、永年の地道な読書活動があったように、行政の側にも、数年前から市民と行政の枠を超えて高知の文化を考えていこう、という試みがあって、共に機は熟していたのである。


ボランティアの役割が大きいこども図書館

 10年には、県庁内に「こども課」という強い味方が登場した。健康福祉部の中に全国で初めてという「こども課」が置かれ、課内の「ゆめ企画班」が集中的に子どもの心を育てる事業に取り組むことになった。こうして、10年6月から、「こども課」と「こどもの図書館をつくる会」とで話し合いを重ね、子育て支援から出発したい「こども課」と、あくまで図書館本来の仕事を主体に、それが子育て支援につながると考える会との間で、互いの妥協点を探っていった。
 ところで、10年12月に施行されたNPO法によってこども図書館を運営することに決めた会は、11年3月、こども図書館の運営をNPO法人とする申請書を県に提出。7月に認証されて、ここに全国初のNPO法人「高知こども図書館」が誕生した。
 県から借りることになった建物は、旧消費生活センターだった。1〜2階合わせて約700平方メートル、改装して備品を整える作業までを行政が担当した。1階に絵本、低学年・高学年の読み物、YAと言われる中高校生の小説や、大人まで十分に対応できる自然科学や環境の本、音楽の本などが並ぶ。小さいながらも書庫もある。“木の文化県”を標榜する高知県なのだからと、粘って絵本コーナーの床は檜の間伐材で張ってもらった。
 2階には、児童文学を専攻する大学生のレポートにも十分参考資料として提供できる研究資料室や、音楽会や人形劇、おはなし会に使ったり、テーマ別の企画展示などに使える多目的スペース、ボランティア作業室、会議室などがある。
 オープンした図書館の来館者数は1日平均84人、貸出し冊数1日平均165冊。この運営を担う専従職員は、館長を含めて3人。理事16人。そして、ボランティアの役割が非常に大きく、おはなし会の講師や選書など様々な委員会のスタッフとして参加したボランティアは、延べ590人にも上った。
 12年度で見ると、会費で運営を支える会員が654人と17団体。それに助成金や寄付金、自主事業費を合わせて年間予算は、1200万円を運営資金に計上している。
 開館時間は、10時〜18時。休館日は火曜日で木曜日を館内整理日に当てている。こうして図書館は、こどもから全ての人に開かれた直接サービスをモットーに大勢の人に利用され、毎月のおはなし会や絵本の講座などの活動も、継続して多彩に展開されている。