「ふるさとづくり2002」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

市民による自然環境調査と、その成果の活用
埼玉県飯能市 天覧山・多峯主山の自然を守る会
これまでの経過

 首都圏50kmに位置する埼玉県飯能市には、市街地に隣接して天覧山・多峯主山という豊かな自然が残る一帯(約162ha)があります。現在は休耕田となっている4本の谷津にはホタルが飛び交い、絶滅の恐れのある希少な湿生植物が数多く生育しています。そしてそれを取り囲む山林は、落葉広葉樹林と植林地の割合が約半々と、現在では貴重とされている2次林が多く残され、数多くの動植物が生息しています。また、この山には数々の史跡や遺跡、古くから伝えられている民話等があり、飯能市のシンボルとして昔から多くの市民に愛されています。
 しかしこの地域には市街化区域があり、1995年大手企業から団地開発の事業申請が出されました。その計画の中には市街化調整区域として保全が約束されていた緑地をつぶして学校と道路を造るという内容も含まれていました。これに対して飯能のシンボルとなっている緑地を残せるよう開発の変更を求めるため、同年当会が結成されました。当会は、
・直接請求権を使った市民策定の保全条例案を議会に提出(有権者の約4分の1の署名を集めたが、否決)
・会報「やませみ」を年約4回発行(現在まで33号を数えています)
・毎月1回、「日曜日ふるさと散歩」という自然観察会の実施(1996年から毎月欠かすことなく続けられています。これまでの参加者数は延べ約2000人。)
・市民のための環境教育。「奥むさし環境講座」(現在までに7回開催)
 などの活動をこれまで展開してきています。


自然環境調査の内容とその成果

 2000年5月からは、「開発の影響を最小限に抑え保全していくために、"守ろう"としている自然がいったいどういう自然なのか? 客観的にどう評価されるのか?」そういった自然に関する情報を市民が手にしなければならないと考え、市民による自然環境調査活動に取り組みました。(資金面では2000年度PRO NATURAファンド活動助成を受け、調査活動を充実させることができました。)
 調査内容は、植物全種調査、希少種調査、植生調査、哺乳類生息調査、鳥類ルートセンサス、猛禽類生息調査、爬虫類・両生類生息調査、水質・水生生物調査、トンボ、チョウ、クモの全11分野。他に、カイトフォトグラフィー協会の会員さんから技術指導を受けて撮影器具を製作し、バルーンによる空中撮影も行いました。そして、上空からの景観写真として、新緑の里山の風景と早春の里山の風景の撮影に成功しました。また、この山の土地の形状・植生から推測される、里山としての利用の歴史についても、現地を歩きながら学びました。
 現地調査期間は約1年半。調査に参加した市民は延べ400人。各分野で専門の先生方のご指導をいただき、参加した市民も身近な地域の自然について勉強しながら、報告書の作成にまで至りました。
 調査結果の詳細は添付資料の報告書に譲りますが、植物全種が125科786種、「埼玉レッドデータブツク」に記載される絶滅の恐れのある植物が32種確認されました。このことは、この山が市街地に隣接し、四方を鉄道・道路・宅地に囲まれた"緑の孤島"状態でありながら、多様性に富む貴重な自然を有していることを端的に現しています。
 いうまでもなく自然に関する情報は、地域の自然を護る立場にある私たち市民が共有してこそ真価を発揮するものです。そこで、この「天覧山・多峯主山自然環境調査報告書」は、希望される一般市民に安価で頒布する他に、飯能市内各小中学校および、隣接する入間市、狭山市、日高市の各小中学校、図書館等の教育機関にも「地域の自然に関する基礎資料」として寄贈させて頂きました。全500冊という印刷部数でしたが、朝日新聞、読売情報クラブ、NHKテレビ「こんにちは一都六県」などでも紹介され、おかげさまで好評で残部はわずかとなっています。報告書をご覧になった学識経験者の方々からも、「市民がここまで調査をし報告書にまでまとめた」ことに、高い評価を頂くこともできました。


調査報告会「天覧山・多峯主山自然博物館」の目的・内容と成果

 しかし、この調査報告書は数ページのグラビア写真があるもののほとんどが文字で占められ、資料としての価値が高いものではあっても、気軽に目を通し即座に理解のできる読み物とはいえません。そこで、この調査成果を実物や写真などのビジュアルな媒体を使って解りやすく市民の皆さんに提供し、天覧山・多峯主山の自然の素晴らしさを実感していただければ、と考えました。そして開催されたのが、「天覧山・多峯主山自然博物館」です。
 このイベントは、今年(2002)の5月25日(土)、26日(日)の2日間、飯能市市民会館において催されました。(この催しには、(財)サイサン環境保全基金から助成を受けることができました。)
 この自然博物館の内容は、山の歴史、分野別調査結果、山の現状と課題、移入種問題、自然のあるまちづくりの提案、山の素材を使ったクラフト作品、現存植生図をもとに制作された山の立体模型、会の歩み、子どもが自然に親しめる展示物のコーナーなどで構成されました。また、専門の先生方のレクチャーや、「里山の植物で遊ぼう」、「木の枝でカブトムシを作ろう」、「葉っぱカルタ大会」など、親子で自然を楽しめる遊びのコーナーも開き、参加体験型の博物館を試みました。この模様は、朝日新聞、文化新聞(地方紙)、読売情報クラブなどでも紹介され、たった2日間とはいえ、約1000人の来場者がありました。また、飯能市長、助役、教育長らも姿を見せ、地域の自然に関心を寄せていました。参加者アンケートには、「解りやすく自然の不思議や魅力を楽しめました。」「身近にある多くの自然を知り、とてもうれしく思いました。自然保護は"常に続ける"ことが実を結ぶように思います。わがまちがいつまでも緑美しい里でありますよう祈って止みません。」「解りやすく、楽しく、そして面白く天覧山・多峯主山の自然を紹介して頂きありがとうございました。自然を護ることは大切だと頭で分かっていても実際に運動として一歩を踏み出すことはとてもエネルギーのいることだと思います。これを機会にこの運動に少しでも関わっていけたら、と思います。」などの言葉を数多く頂くことができました。


調査結果のさらなる活用と今後の展開

 今回作成した展示物のいくつかは、すでに市内小・中学校での総合学習の時間に活用されています。具体的には、「身近な自然を知ろう」というテーマでのレクチャーの際に、調査の様子が分かる写真や自動カメラに写った動物の写真を使用したり、山の立体模型で植生の話をしたり、フィールド学習の際にも様々な教材として利用されています。
 また、たった2日間の開催を惜しむ声が多いため、今後も出張展示の形で飯能市内のみならず埼玉県内各地にも出向き、より多くの市民・県民の皆さんの目に触れられるよう企画を立て準備を進めています。こうした普及活動が、長期的には市民・行政・企業が一体となった「自然と共生する飯能市のまちづくり」への取り組みにつながるよう、今後とも努力していきたいと考えています。