「ふるさとづくり2002」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

サラリーマンの余暇の楽しみが特産品として地域の活性化へ!
滋賀県竜王町 竜王町そば振興会
きっかけ

 「緑と文化の町」滋賀県竜王町! 周囲一面に田圃の広がる心落ち着くふるさとである。高齢化社会と農業の移り変わりで兼業農家のサラリーマンは40歳前後であっても農作業をすることは少なく、農業を話し合う機会も少ない。
 職場での仕事に追われる中、「休みぐらい何か楽しみたいな!・・・和太鼓の響きが刺激的かな! ビンを再利用したガラス細工も楽しいかも!・・・」
 「自分で作ったそばを、自分で打って食べたらおいしいだろうな!」
 4年前に3名の仲間で1枚の田圃にそばを蒔いた。1か月もたつと真っ白い花がきれいに咲き、これまで行く機会の少なかった田圃へも毎朝見に行くようになった。
 心の余裕も少し出て収穫を楽しみにしていたが、徐々に害虫にやられ、結局一粒の実も取ることができなかったが、その過程にはこれまでと違う何かが見つけられた気がする。
そこで、昔の人が言った「そばを作ると村が栄える」をキャッチフレーズに、そばを「作る」「打つ」「食べる」の仲間づくりがスタートした。


地道な活動

 周囲の緑の田圃にそばの真っ白い花が鮮やかに咲き誇る。これまでにない新たな景観が地域住民の目を楽しませてくれる。2年目には新たに加わった仲間と3haに挑戦し、待望の「挽きたて・打ち立て・湯がきたて」の自作そばが喉を通ることとなった。
 はじめて取れたそばを、多くの方に味わってもらおうと、イベントに参加した。
 お年寄りから「昔はこうやってそばを作って食べていたものだよ!」と聞かされ、食文化の伝承にもつながるのかなと心を弾ませた。
 仲間が集まっても活動拠点がなかったことから考えたのが「出前のそば打ち体験教室」である。これまでそば打ち体験の出前は聞いたことがない。テーブルさえ準備すれば自宅、集会所、学校等で身近な仲間と気軽に楽しめることが好評で、順調に予約が入ってくるようになった。ただサラリーマンの悲しさ交代で休暇を取らなければならないが、この情報は町外へも広がり今では県外からの予約も入ってくる。
 「出前のそば打ち体験教室があれば、出前の屋台そばもいいじゃないか。」と軽いノリで屋台を作り、イベントと聞けば駆けつける。イベントではいつも食べに来てくれる常連客も増え、竜王そばの知名度もアップしてくる。
 こんな私たちの動きに、興味を示す仲間がさらに増え、「今年はそばを蒔いていいかな! そば打ちをしてみたいな! 食べに行くからガンバってな!」と地域住民の意識の中に「そば」が徐々に浸透してきた。


竜王町そば振興会

 そば栽培を本格化し、米、黒大豆に次ぐ特産品として育て、町の活性化に結びつけようと、平成13年7月には「竜王町そば振興会」として正式に発足し、本格的な活動が始動した。そば振興会では、生産担当、製造担当、販売普及担当に組織を分担し、それぞれ具体的な検討を重ねた。
 生産担当では、良質なそばの収穫を目指し農業改良普及センターの指導も受け、栽培される方へ栽培ごよみのチラシを配布することにより、そばの栽培も3年目には30名近くの農家に協力いただき町内で10haまで増やすことができた。
 しかし規模が大きくなれば問題も大きくなってくる。・・・刈り取りにも大型機械が必要になる。収穫したそばのストックも増えてくる。生産者の収益も確保する必要がある。・・・検討課題が山積する。
 製造担当では、「竜王そば」を安定的に供給するため、製粉機、製麺機を購入し自家製造ができる施設を整え、保健所の製麺加工の許可を取った。生麺のほか乾麺の製造委託やそば粉を使った加工品の製造委託も進め、「そばかりんとう」「そば茶」「そば飴」の供給ができるようになった。


そば&自然食フェスティバル

 県民の自主的な活動を助成し滋賀からの情報を発信しようと滋賀県の21世紀記念事業として「湖国21世紀記念事業 夢〜舞メント滋資 水といのちの活動」の募集があり、自分たちの活動をPRする絶好の機会と、行政に頼らない自主的なイベントとして「そば&自然食フェスティバル」を企画し承認を受けた。
 イベントはそば振興会だけでできるものではなく、実行委員会を組織し実行委員を公募した。お祭り好きが集まるだけあって、企画はさらに大きく広がり大イベントの計画となり、スタッフも100名を超える協力者が集まった。この自主的なイベントの動きに行政も全面的にバックアップ。これまでイベントは行政が企画するものという住民の認識が強かっただけに、地域住民に新たなパターンとして提供できたのかもしれない。行政が全面的に応援してくれると後は心配無用! そばと自然食のフェスティバルなのに、近江牛のジャンボバーベキュー、新鮮魚介類のたたき売り、餅つきもあり、ステージでは、モンゴル楽器演奏、歌、踊り、さらには子どもを対象としたお話し会と何でもありのイベントと化し、スタッフの元気さとともに来場者数も増え、2日間にわたる自主的なイベントも大成功を収めることとなった。今後もそばの白い花の咲く秋に、住民主体の実行委員会を組織し、「そば&自然食フェスティバル」を継続したイベントとして開催していきたい。


そば処 さわえ庵

 ここまで「竜王そば」の名前が広まったらもうやめるわけにはいかない。
 転作の麦後作物として、そばの本格的な取り組みにについてJAに相談をかけていると、タイミング良くJAの空き店舗の話が降ってきた。
 本来、そばは栽培から製粉、製麺加工、販売の過程を経てはじめて利益が生まれるもので、かねてより直売所の必要性を痛感していたことから、この話を断るわけにはいかない。中途半端な準備金でないことから本音は国や県、町からの補助金を目当てに計画したいところであるが、決断が必要となる。しょせんサラリーマン集団に店舗を構えられるのか。「たちまち誰がするの?」「どんなメニューを出すの?」…
 でも、夢のような話が現実に目の前にぶら下がっている。メンバーを集めて意向を確認すると意外と積極的な意見がでた。一粒のそばが4年目にはそば処として店舗を構えられることとなった。はじめて手がけた3人の名前から「佐」、「和」、「英」をひらがなで「さわえ庵」と名付け、初心を大切にすることにより、住民の憩いの場として利用して頂きたい。


さらに期待して!

 この直売店のオープンとともに、そばの栽培希望者が急増し、今年度は20haをこえる田圃に真っ白い花を咲かせることができそうである。現在では、生産から販売まで一貫して自主的に行えることから、そばを農業の収入源として魅力あるものとし、生産者の利益を少しでも確保するため、直売店の利益を生産者へ還元するシステムを現在検討しているところである。
 いつのまにか自分たちで栽培し、自家製粉、自家製麺、直接販売できるまさしく地産地消のシステムが整い、ふるさと竜王の味として認められたことにはいまだに驚きをかくせない。うまいそばには伝統的な日本の"侘(わ)び"と"寂(さ)び"がある。"笑(え)顔"を添えて屋号の(さ)(わ)(え)庵にも通じる三つのこころをそばを通して伝えていきたい。
 私たちの思いつきで始まったサラリーマンの小さな動きが、何の補助も受けず自主的な活動で「竜王そば」という特産品にまで定着し、さらには各方面で行政やJA、地域住民まで動かせたことは、私たちの周りに多くの仲間がいたからであり、この仲間の人柄こそが「緑と文化の町」にふさわしい竜王町の財産であると感謝し、これからも竜王町に愛着と誇りを持ち続けていくことを誓って応募のレポートとしたい。