「ふるさとづくり2002」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

青少年の健全育成を希って―親子参加型藍染の実施―
徳島県徳島市 西富田藍の会
100歳の方々に藍染記念品贈呈

 かつて地域社会はそこに住む人々によってつくられ氏神さまの祭礼や地域の催し物によりその結びつきを一層強めていた。戦後の多子時代には小学校が地域社会の、つなぎ目の役割を果たしてきたが少子社会で小学校の地域社会に占める比重が低くなっている現在では青少年育成の場としての地域社会は生まれがたい状態です。従って自助努力による新しい地域社会づくりが地元に求められる所以でもあり、学校を中心とした地域住民が自発的につくりだす努力が今こそ必要であると思われます。
 西富田地区に住民とのふれあいと地域の活性化を図る目的をもって藍染の継承事業が誕生したのは平成元年で爾来延べ500人余の人々が来る年も、来る年も藍を建てて先人の偉大な技術に感服しながら今日まで藍染技法の一つひとつを修得してきました。
 その技量はまだまだ未熟ですが徳島市から依頼を受けて毎年、市が100歳になられた方々に"敬老の日"に贈呈する藍染記念品を作らせていただいておりますが、何にも勝る名誉なことと誇りに思って真心を込めて作っています。今年も松竹梅の模様をあしらった額絵が出来あがって徳島市へお渡ししました。
 平成3年から、はじまったこの額絵作りですが毎年違った模様の藍染記念品が11枚にもなり、その一つひとつが鮮やかに瞼の裏に浮かんできます。


何事もみんなで力を合わせればできる

 また平成5年に行われた東四国国体の時には遠来の選手の皆さんや役員の方を少しでもお慰めすることができればとスダチくんのマークの入った藍染コースター作りに力を入れ会員一同が協力し合って寒い時季には藍液の入ったポリ容器(藍がめの代り)を電気毛布でくるみながら保湿につとめ1500枚という、未だかつて作ったことのない大量のコースターを仕上げて国体事務局へ無事納めて大変喜んでいただきました。
 このことで私たちは何事もみんなで力を合わせてやれば出来るんだという自信を得、これからの"藍の会"で行う一つひとつの作業にも喜びを与えてくれたようで大変意義のある事業に参加出来たことを、むしろ感謝しています。
 最近では西富田コミュニティセンターの落成をみた平成12年10月に落成記念品の一つに是非"藍の会"で作った藍染記念品を加えたいので…という地区コミュニティ協議会からのたっての依頼もあって、全員で大判のハンカチにコミュニティセンターをめざして白鶴の群れ翔ぶ姿をイメージした図柄のものを350枚作成し、来賓の方をはじめ多くの人に贈って大変な好評をうけました。
 この他各種イベントのお手伝いや他のサークルの行う藍染にも協力してきました。
 中でも徳島市の福祉施設"ひまわり園"から頼まれて藍染の指導および作業を行いましたが、不自由な身体で一生懸命にしている姿には感激しました。
 私たち自身も数々の作品展示会をあちらこちらで聞いて沢山の同好の人にも見てもらいましたが、会場のここかしこで長所短所などを聞かれますが貴重な得がたい批判とこれを受けとめて、今後もますます切磋琢磨し藍染技術の向上にむかってさらに前進したいものです。


何か忘れ物をしているのでは…

 いま改めて振り返ってみるとき13年という歳月は長いようで短いものでした。"藍の会"が地域のふれあいを大切にし、町の活性化をはかりたいという心意気のもと藍染継承事業に取り組んできましたが…現在この"藍の会"の姿で果して良かったものか…何か忘れ物をしているのではないかと考えさせられました。
 ふと気が付いたことに地域の大人ばかりを対象として今まで行ってきたこの事業は、もう少し掘り下げて地域の児童(6年生)たちにも阿波藍染についての勉強をし、また体験する機会を与えるべきではなかったかと思いました。
 昨今の青少年がひき起こす数々の凶悪犯罪を見るにつけ地域において児童たちの心をしっかり育てていかなければということが、ひしひしと身に泌みます。


校外授業そして親子参加型へ


 現在、西富田地区で行っている藍染の事業に本年より地域の児童たちにも参加してもらって小さい頃から地域の人々とのふれ合いを密にしながら心身ともに健全成長することも欠かすことの出来ないものであって私たち地区の住民として大人として、しなければならないことの一つであると思えてこの度、親子参加型藍染ということで"藍の会"が行う地域学遊塾として市社会教育課へ申請書を提出したところ、これが認められましたので早速地区の新町小学校と相談しましたところ学校では得がたい地域の人びとと一緒に校外授業という型で勉強が出来ることは児童にとっても学校にとっても、またとない大変有難いことです、お言葉に甘えて早速実践できるよう職員とも相談しますとのことでした。
 児童たちの育っていく地域はいずこ何処もしっかりしたものでなければならないものです。地域社会をはじめとし、すべての関係者が連携して児童の人権尊重についても常日頃から取り組む必要があります。幼い頃から地域の人びととのふれ合いを大切にすることも一つの方法かと存じます。
 新世紀を迎えて是非児童たちも"藍の会"が行っている藍染継承事業に参加して私たちが藍染に勤しむ真摯な姿を見、真剣な態度に接することによっておのずと感化を受け児童一人ひとりが人間性豊かに成長してもらいたいものです。最近の16〜17歳の青少年がひき起こす数々の凶悪犯罪や成人式の日に全国各地で起こった異常とも思えるような事件は新聞に「荒れる成人式」と大きく報じられていました。こうした行為は児童たちの成長過程にある地元の存在価値に大きく左右されているのではないかと思われます。
 今年の1月に行われた徳島市長、教育長を圍む子ども会議で、ある小学校の児童の意見として出されていた「地域にある貴重な文化を守っていきたい」ということも体験ないしは、その文化を知ることによって児童会の活動としても花開くことになるでしょう。学校での児童会の活動状況の中にもこうした気持ちの児童が大勢いることを思うとき、学校だけではなく地域ともども考えるべき問題であると思い、こうした観点からも親子参加型の藍染継承事業として取り組むことにしました。
 今年からの藍染は今までの上に児童たちが加わったかたちで行うことになります。藍がめも2基(大1、小1)とし藍建は5月中旬〜6月上旬に行い地域の一般の方(藍の会々員)は従前通りの方法で今年はのれんとうちわの作成に挑戦、児童に対する藍染の勉強は学校と連絡を取りながら藍建をする日に社会科授業の一環として藍に関すること、郷土の伝統文化藍染の歴史、すくも等について1時間半程度の講義を行ってその後、藍建の実技に移り藍液の成熟している7月〜8月頃の夏休み中にそれぞれハンカチを染め上げて、次の工程である型紙の彫り方、作り方は冬休みに予定していたが美術の秋にこそ行うのがふさわしいのではないか、また新しく出来たコミセンの藍工房とはいえ冬の寒さに対する暖房の設備もありませんので学校と話し合った結果11月初旬に実施しました。
 児童たちも大変興味をもってわれわれの思いつかない大胆な構想を持って染色の技にもチラッとその新しい感覚を覗わせていたのが印象的でした。教える側も一つひとつに力が入ります。立派に作りあげた作品が出来たとき当人はもとより一人ひとりがわがことのように喜び合ったものでした。


藍色のような美しい平和な色の心を持った子どもに


 この親子参加型の藍染継承事業ははじめて行ったものですが来年の6年生にも次の年も…とずっと続けていかなければなりません。藍染の原科となるすくもだけでも1俵が13万円もするため"藍の会"のような小さな会ではとても継続して行う力がありません。自分たちの(藍の会々員)藍染をするのが精いっぱいです。
 地域、学校、藍の会この三者が協力しあって次の世代を背負って立つ児童たちのため、これからも地区に新しく出来たコミュニティセンターを拠点として郷土の文化藍染を守りつづけなければなりません。
 その昔とつくに外國の人から"ジャパンブルー"といわれていた藍色のような美しい平和な色の心を持った優しい子どもたちがすくすくと育って欲しいと希っています。
 土の塊のような汚い色をしたすくもをみんなで溶けやすいように小さくし、これにお湯と消石灰、苛性ソーダ、ブドウ糖を混入して毎日交替で撹拌作業を欠かさず行って作った藍の液からこんな美しい色が出てくるとは誰もが思いもよらなかっただけに、また一つひとつの作業工程を自分の手で仕上げただけに藍染の不思議な変化に驚きをしかつ魅力を感じたことでしょう。
 児童たちの中で1人でも2人でもこの事業を絶やしたくないという気持ちの子が現れ、継続していくならば西富田地域に育ったこの小さな藍染文化もきっと喜ぶことでしょう。私たちもこれから地域に芽生えたこの文化を育んでいく青少年の健全な育成を心から希ってともに藍染の勉強に励みたいと思っています。
 地域の人びとと一緒にした藍染が良い想い出となり、この親子参加型の藍染への挑戦が学校では出来ない体験となり人びととのふれ合いによって豊かな感性や創造性を養うことができともに生きる心や感謝の心を育み自主性を高めるなど"生きる力"を育成するのに役立つでしょう。これからの長い人生を正しい心の持主となって生きていって欲しいです。
 "藍の会"も気持ちを新たにこれからの藍染研鑽に取りくまなければとつくづく感じています。
 自分で作った初めての藍染作品を手にして児童たちは自信と誇りをもち勤労にたいする喜びを学びとることが出来たことでしょう。たった1枚の薄っぺらなハンカチですが小学校の卒業記念の一つに加えてこの作品を作った時のことを想い出し、純粋な気持ちをいつまでも持ち続けて欲しいものです。