「ふるさとづくり2003」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 内閣総理大臣賞

地域に根ざしたリサイクル
東京都墨田区  墨田区生活学校連絡会
ゴミ減量運動から始まったリサイクル

 昭和47年に誕生した生活学校は、地域に根づいた運動を展開してきた。とくに戦後の物不足の時代を生きた私たちは、「大切な資源をゴミにしないで」と廃品回収を続けてきた。この運動はやがて区内全域に広がり、その回収量は都内一ともいわれるようになった。しかし、経済成長とともに「消費は美徳」との風潮も生まれ、その活動は下火になってしまった。
 バブルがはじけ「資源は有限だ」とその大切さを見直すようになり、都・区から回収量に応じた報奨金がでるようになった。しかし、回収された資源が再生品として市場に出回っても品質の割に価格が高いなどの問題があり、思うように消費者に受け入れられなかった。
 また、雑誌は資源として回収されず、「ゴミ」として処理される時期があった。
 私たちは、「いつか回収される日が来るだろう」と雑誌を自宅の倉庫等に保管してその日を待つようにした。そんな折、平成9年6月に日本テレビの取材を受け、地球環境、とくに森林を守るためにリサイクル品を使うことの必要性を訴えた。私たちの活動を通して本当の意味でのリサイクルとは回収だけではなく、「再生品を使う」ことが必要であると痛感していた。


リサイクルの草の根運動

 平成7年から区では「いきいきリサイクルカレッジ」を開校してリーダーの養成に力を入れるようになった。
 私たちはそこでいろいろな再生品の利用法を学んだ。牛乳パックの紙漉で作るはがき、牛乳パックを利用した鉛筆立て、廃食油を利用した石けんづくりなどを実際に体験した。それを地域の主婦や子どもたちを対象に、体験学習を通じて環境づくりの大切さを教えてきた。親たちにも喜ばれ、口コミで参加者も多くなっていった。
 この活動が行政を動かし、リサイクル活動センターが設置され、リーダーたちが自主運営にあたっている。そして、家庭の不用品交換会場として区民との交流が始まり、区民を対象に、リサイクル教室も開かれるようになった。近年になって学校も5日制になり、自由時間には環境学習の出前講師を引き受けるなど、学校やPTAから喜ばれている。
 私は、このような地道な活動を通して区民一人ひとりの意識が少しずつ変わっていることを感じた。
 平成11年5月に資源回収業者(R団連すみだ)の式典に消費者代表として参加、その席上挨拶で「古紙を集めるだけではリサイクルとは言えない。再生品の消費方法まで考え、区と消費者と業者が一体になってできることから始めたら」と提案した。


子どもたちにも愛される「すみだっ子」誕生

 私たちの呼びかけに業者代表はすぐに行動を起こした。古紙問屋、製紙工場との交渉を続け、区内循環型リサイクルの計画をわずか1か月で私たちに報告してくれた。
 早速、業者と生活学校との協議会を持ち、区民に末永く利用される製品を作りたいと話し合った結果、子どもたちにも愛されるキャラクターとして「すみだで集めてすみだで使う」を合い言葉に、古紙100%のトイレットペーパー「すみだっ子」を誕生させた。その品質も今までの再生品とは思えないくらい良くできたものであった。渉外・製品部門と無料宅配は業者が受け持ち、販売・PRは区内に顔の広い生活学校がボランティアで受け持つことに決めた。


区民へのアピール

 販売開始はもっとも効果的なすみだまつり(平成11年10月)からと決定した。事前活動として、区より支給された報奨金で「すみだっ子」を購入し、横川地区の会員に配布しその反響をみた。その様子を区のさくらテレビが1週間放映したことで、区民の関心はさらに高まった。また、読売新聞が下町ニュースとして取り上げてくれたことが一層PR効果を上げる結果となり、すみだまつりでの宣伝効果は抜群であった。子どもたちも「あーテレビに出たおばさんだ」と言いながら、すみだっ子人形に寄ってきて「すみだで集めたすみだっ子」と言いながら母親が買い求めた製品を楽しそうに持っていった姿を見て私たちは大変嬉しくなった。
 販売目標5万ロールをわずか2か月あまりで完売することができたことに対し、区民の協力に大変感謝した。


すみだやさしいまち宣言

 墨田区長に山崎昇氏が就任され、平成12年に「すみだやさしいまち宣言」をスタートさせた。
 「すみだやさしいまち宣言」の活動内容を紹介する小冊子のなかに、資源循環型への思いから生まれた「すみだっ子」が掲載されているのをみて、区長の強い支援の姿勢をみることができた。
 このことから、生活学校の活動も区民に理解され、「すみだっ子」も区内全域で利用されるようになり、この1年で販売実績30万ロールと安定した消費がされている。また、平成15年になってパルプの値上げから、すみだっ子と同じ東京23区共同開発の「みどりの夢23」も利用者が増えたと小売店が話すのを開いて、グリーンコンシューマー運動が定着してきたことを強く感じた。


すみだっ子ファミリーとして廃食油から洗濯用粉石けん誕生

 清掃事業が区に移管された平成12年4月から集団回収、分別回収のほかに使用後の食用油を回収する事業が始まった。回収された廃食油は区内の再生業者が直接VDF(軽油代替燃料)に再生して、区の庁用車の燃料として一部使用されている。しかし、回収への意識が高まらないのをみて、区民の日常生活に直接利用される洗濯用石けんにしたらどうかと話し合った。すでに市場にある粉石けんを利用している会員から次のような意見が出された。(1)合成洗剤と違って洗い上がりが柔らかく、仕上げ剤は不用(2)アトピー等の子どもの肌にもやさしい(3)洗濯機に直接入れると冬場は水が冷たく固まることがあり、風呂水等ぬるま湯がよいなど取り扱いが面倒等に結局、環境改善には一人ひとりが少しの努力と我慢が必要との結論に達し、生活学校として廃食油のリサイクルに取り組むことにした。


中小企業のまちだからできる区内循環型リサイクル


 すみだには戦前から多くの町工場が共存している。戦後の経済成長期には事業拡張が盛んで転出した企業もあるが、今でもいろいろな工場が地域経済を支えている。
 廃食油を下水に流すと下水管が動脈硬化現象を起こして、大雨が降るとオイルボールになって河川が汚される。勉強会でこの事実を目の当たりにした参加者は驚いた。消費生活展でも環境破壊につながる廃食油の回収が必要であると区民にPRした。その後廃食油の回収量が増え、この活動が評価され、都下水道局長賞をいただいた。
 廃食油を利用した粉石けんを発売するにあたって、「すみだっ子」推進協議会(生活学校・商工会議所・回収業者・廃食油再生業者・油脂工場)を結成した。すみだで集めた廃食油がリサイクルできるのはすみだしかないと思った。


マスコミの支援で広がるリサイクルの輸

 廃食油から作る粉石けん「すみだっ子ファミリー」は、区内循環型リサイクルとしては珍しく、マスコミが取り上げ全国的にニュースとして流れた。新聞だけでなくNHKテレビでの放映もあり、その反響には驚くばかりで、その対応に追われる日々が続いた。
 もっとも熱心な山梨県石和町ではリサイクル活動を福祉施設の事業として定着させたいと何度もR団連(回収業者)の事務所を訪れた。国民の誰もが環境問題には強い関心を持っている。つまり、その地域のリーダーシップと地域の人たちの協力体勢があってこそ、「できることから始めよう」の活動の輸が広がるのだと確信した。


石けんづくりは思いやりのリサイクル

 石和町では、R団連すみだの協力で、「いさわっ子」が誕生し、平成15年4月より福祉事業としての活動が始まった。
 私たちすみだで販売した1.8kg入りは、量が多いとの指摘もあり、コンパクトな箱入りを新たに発売することにした。その箱入れ作業を区の福祉作業所の仕事として委託した。これが定着すれば、リサイクルと福祉が同時に推進できると期待している。
 私たちが始めたリサイクル活動がマスコミの支援もあって、全国的にその活動の輸が着実に広がっていることを感じとった。
 本当に人にも環境にもやさしい運動をとおして「すみだっ子」「いさわっ子」の兄弟がたくさん誕生することを願って今日も活動を続けている。